平成最後の有馬記念は、池添謙一騎手が乗ったブラストワンピースが優勝し、有終の美を飾りました。ブラストワンピースは1着賞金3億円を獲得しましたが、このお金は誰の手にわたるのでしょうか。競馬にまつわる金銭事情を見てみましょう。(執筆者:公認会計士・税理士 國井隆)
賞金の配分が一番多いのは馬主
まず、3億円という賞金ですが、進上金といわれる調教師さんなどの20%のコスト(調教師10%、騎手5%、厩務員5%)を除いた80%が馬主にいくといわれています。馬を保有して競走馬にするのはかなりのコストがかかるからと言われていますね。
個人馬主は誰でもなれるわけではありません。JRA(日本中央競馬会)のホームページには、登録要件として「継続的に得られる見込みの所得金額が過去2カ年1,700万円以上あること(給与所得であれば1,920万円の年収が必要)」や、「継続的に保有する資産額が7,500万円以上あること」など厳しい条件があるようです。個人で競走馬を持つにはハードルが高いので、組合や一口馬主などという制度もあります。
馬主 :80%
調教師:10%
騎手 :5%
厩務員:5%
◆継続的に得られる見込みの所得金額が過去2カ年1,700万円以上あること
(給与所得であれば1,920万円の年収が必要)
◆継続的に保有する資産額が7,500万円以上あること など
馬主が競馬を「事業」にするのは夢のまた夢
個人馬主にとっては、競走馬の保有にかかる所得が「事業所得」になるかは重要な事項ですよね。というのも、G1制覇の夢を見ながら赤字を相殺するのは大変で、事業所得でない場合は「雑所得」として確定申告することになり、他の所得とは損益通算できないのです(雑所得内では損益通算できます)。
個人馬主の方が、他の所得と通算ができる事業所得とするには条件があり、所得税基本通達27-7で細かく規定されています。
(1)その年において、競馬法第14条の規定による登録を受けている競走馬でその年における登録期間が6月以上であるものを5頭以上保有している場合
(2)次のイ及びロの事実のいずれにも該当する場合
イ その年以前3年以内の各年において、登録馬を2頭以上保有していること
ロ その年の前年以前3年以内の各年のうちに、競走馬の保有に係る所得の金額が黒字の金額である年が1年以上あること
このような保有頭数による判定だけでなく、2003年には国税庁が「その年以前3年間の各年において競馬賞金等の収入があり、その3年間のうち、年間5回以上(2歳馬については年間3回以上)出走している競走馬を保有する年が1年以上ある場合」には、事業所得に該当すると説明しています。競馬法という法律もあり、中央競馬は農林水産省が所管の公営ギャンブルだけに細かく規定されていますね。
ちなみに、JRAによれば、1頭の平均年間収入は約723万円とのこと。馬の購入費用は平均1,000万円程度で、最高3億円近い馬もあるようです。その上、維持費が1頭につき月60~70万円程度といわれていますので、ビジネス的にはなかなか厳しい世界ですね。個人馬主として1頭持つだけでも大変なのに、競馬を事業とするのは夢のまた夢のようです。
平均年間収入:約723万円
購入費用 :約1,000万円
月間維持費 :60~70万円
馬も減価償却する!
競走馬も減価償却するのですが、法定の償却年数は4年とされています。ただ、生まれてすぐから償却するのではなく、償却開始時期は通常事業のように「事業の用に供する年齢」からとされていて、競争馬登録が開始されるのが2歳ですので、通常はここから減価償却がスタートします。ただし、近年JRAは早期特例登録制度を設け、最短で1歳9カ月から償却することも可能になっています。馬の中でも、繁殖用や種付け用の馬の耐用年数は6年なので、競走馬の輝いている期間は短いことがわかりますね。
ちなみに、競走馬として引退し種付け馬とした場合には、転用されたものとして、残存使用可能期間に応ずる償却率により計算します。この場合、その残存使用可能期間が明らかでないときは、馬については10年から転用のときまでの満年齢を控除した年数をその残存使用可能期間とするものされています。
簡単に言うと、競走馬として4年、種付け馬として6年の最大合計10年を、税務上は償却年数として考えているのです。走る姿が美しいサラブレッドに減価償却のお話、少し微妙な感じするのは私だけではないでしょう。
競走用:4年
繁殖用:6年
種付用:6年
◆転用されたものとして、残存使用可能期間に応ずる償却率により計算する
◆残存使用可能期間が明らかでないときは、10年から転用のときまでの満年齢を控除した年数をその残存使用可能期間とする
結局、はずれ馬券は経費になるのか
有馬記念だけは馬券を購入するという人もいるでしょうし、毎週馬券を購入する人もいるでしょう。馬券にかかわる税金でしばしば話題になるのが「当たり馬券に課税するなら、はずれ馬券を必要経費として認めてほしい」という主張ですね。馬券的中の払戻金が雑所得とみなされるとはずれ馬券は必要経費になり、一時所得とみなされると必要経費になりません。はずれ馬券の経費性をめぐり、裁判で争われていたのも記憶に新しいところです。
裁判では判断が分かれたところもあったのですが、国税庁は2018年7月に「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」を公表し、具体的には次の全てが当てはまる場合などに払戻金が雑所得(つまりはずれ馬券は必要経費)と考えられると説明しています。
◆馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して、定めた独自の条件設定と計算式に基づき、または予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めたパターンに従って馬券を購入している
◆偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げている
◆これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが、客観的に明らかである
※馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して区分されます
年間購入額が少なくとも数億円から十数億円位レベルのかなり高いハードルですので、一般の競馬ファンの方は、はずれ馬券は必要経費にならないので、安心してはずれ馬券はごみ箱に捨ててもOKですね。
【参考】
■国税不服審判所の「公表裁決事例」(賞金の内訳)
■国税庁の「生物の償却」
■国税庁の「耐用年数(構築物/生物)」
■国税庁の「競走馬の保有に係る所得の税務上の取扱いについて」
■国税庁の「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」
國井隆会計士の記事一覧
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