
9月7日、「経理から始める働き方改革」をテーマに開催された「MF Expense expo 2018」。法人企業の管理・経理部門、経営層などを対象に、自社のバックオフィス業務の効率化に有益な講演やサービスにまつわる多様なセッションが実施されました。
こちらは、昨今注目を集めている「電子帳簿保存法」に関する講演です。壇上に上がったのは、グローウィン・パートナーズ株式会社で電子帳簿保存法のコンサルティングサービスを手がける長谷川朋弥氏と、電子帳簿保存法の運用における国内屈指のスペシャリスト・袖山喜久造税理士。袖山氏からは電子帳簿保存法の最新状況と今後どうなるかという大局観が、そして長谷川氏からは実際に電子帳簿保存法に対応する業務フローを作成する際の要点が紹介され、電子帳簿保存法への対応を検討する企業さまには必見のセッションとなりました。
電子化のハードルが大幅に下がった
経理業務の大幅な効率化が見込める「電子帳簿保存法」への対応。とはいえ、その仕組みをイマイチ理解しきれていないという方も多いでしょう。そこでまずは袖山氏から「そもそも電子帳簿保存法とは?」という話が展開されました。
袖山氏 「電子帳簿保存法には2つの性格があります。まず1つが国税関係帳簿書類の電子保存化です。国税関係帳簿書類には、経費の領収書なども含まれます。本来であれば国税関係帳簿書類は紙による保存が原則ですが、一定の要件に基づいて事前に所轄の税務署の承認を受ければ、データで保存することが認められています。
もう1つは電子取引に係るデータの保存です。たとえばEDI取引、ネット取引、取引先とのメールなど電子取引に関わるデータは、もともと税法での保存義務はありませんが、実は電子帳簿保存法ではデータの保存が義務付けられています。これをしていないと青色申告や連結申告の承認が取り消されるという事態にもなりうるので、非常に重要になってきます。ただ、こちらに関しては保存するために税務署の承認を受ける必要はありません」。
続いて袖山氏は、税務関係帳票をデータ保存する際の要件を紹介。仕訳帳や売上帳といった国税関係帳簿、さらには決算関係書類や取引関係書類であっても、それぞれに決められた要件を満たせばデータで保存できることが紹介されました。続いて、スキャナ保存に関するお話に。
袖山氏 「領収書を含む国税関係書類のスキャナ保存に関しては、平成27年度と28年度に大きな規制緩和が起こり、電子化のハードルが大幅に下がりました。これにより実質、マネーフォワード クラウド経費など法的要件を満たしたシステムで運用さえすれば、必要要件が満たされるような形になりました。もちろん税務署から承認を受ける必要はありますが。
ただし領収書や請求書、あるいは契約書のように特に重要とされる書類に関しては、“適正事務処理要件”を満たしたうえで入力することが求められています。適正事務処理要件とは、2人以上の人間が関わること、定期検査を行うこと、そして何か不備が見つかった場合に改善できる体制であることの3つです」。
電子申告は数年後に義務化されるだろう
続いて袖山氏からは、税務行政が今どこへ向かおうとしているのかという話が展開されました。
袖山氏 「税務当局の状況も、昔とはだいぶ変わってきています。実は法人への実地調査率、要は実際に会社へ税務調査に入った割合は、平成7年度は7.8%であったのに対し、平成29年度は3.2%でした。低くなっている理由としては、国税庁の職員の定員がどんどん減っていることや、国税通則法の改正で税務調査の際の事務手続きが大きく増えたこと、そして複雑・困難な事案が増えていることによる調査日数の増加などが挙げられます。
そこでいま国税当局は、これまでは実地調査を行うことで申告の是正を図ってきたところを、今後はコンプライアンスの向上により、調査しなくてもいいような会社を多くしようという運営に切り替えています。そうしたコンプライアンス確保のために多様な取り組みをしていて、コンプライアンスが良好とみなされた法人に関しては、調査期間や調査頻度を緩和するということも行っています。今は大企業中心ですが、今後は中小企業に対してもコンプライアンス向上を取り組んでいき、税務調査をしなくてもいいような会社をどんどん増やしていこうというのが、国税庁がいま考えていることです」。
袖山氏 「さらにもうひとつ、今年の税制改正の目玉になっているのが、電子申告の義務化です。2020年の4月より、原則として資本金1億円以上の内国法人は電子申告が義務化されます。そして電子申告の義務化は国税局の喫緊の最重要課題ともいわれ、数年以内には全法人に義務付けられるでしょう。
なぜ国税局が電子申告を義務化するかというと、それにより書類をチェックする作業の多くが機械化され、そこの人員を大きく減らせるからです。そのぶん、複雑困難事案や富裕層、国際的租税回避スキームといったいわゆる“ハイリスク分野”の調査・徴収に人的資源を投入できるわけです」。
最後にあらためて、電子帳簿保存法の目的として「内部統制の強化」「業務の効率化・適正化」「紙の原本を保存する負担の軽減」「経費精算データの分析」などが挙げられ、袖山氏の講演は締められました。
「誰の負担を減らすか」が肝心
続いてはグローウィン・パートナーズ株式会社の長谷川氏が壇上に上がり、電子帳簿保存法に対応した経費精算業務のフローを実際に作る際の要点を紹介しました。長谷川氏がこれまでコンサルティングを担当した事案の中には、経費精算の電子化により大幅な業務改善がなされた事例もあったと言います。
長谷川氏 「フローを作成する際は、主に以下の3つを定めます。
- 誰がどのように領収書を電子化するか
- 領収書の原本はどう集めるか
- 定期検査はどう行うか
なぜここを決めるかというと、改ざんなどの不正が行われないようにするためです。先ほどコンプライアンスのお話も出ましたが、やはりスキャナ保存要件に関しても、ここが非常に重要になります。
そしてフローを作成する際に大切となるのが“会社の誰を楽にするのか”という視点です。たとえば営業社員など申請者の経費精算の負担を減らしたいのか、それとも経理や総務などバックオフィス側の作業を楽にしたいのか、あるいは会社全体をバランスよく効率化させたいのか、などです。これが定まると、自ずとどのような形にすればいいかが見えてきます」。
長谷川氏 「中でもみなさんが特に迷われやすいのが、領収書の入力期限を3日以内にするか37日以内にするかだと思います。その際にキモとなるのが、“申請者に浸透させられるかどうか”です。われわれが担当する事案でも、営業の人が領収書をスマートフォンで撮影して入力する際に自署を忘れたり、丸まって読めなかったり、他の物が写り込んでいたりと、導入から半年経っても半数近くの営業社員が正しく撮影できないというケースも目にしています。だから3日以内にするのであれば、きちんと申請者がこういったところを守ってくれそうであることが重要になります。
きちんと浸透させるのが難しそうであれば、37日以内を選ぶことになります。その場合、申請者以外の誰かが領収書原本を確認する、または申請者以外の誰かが領収書を電子化するという人的リソースが必要になりますが、そのぶん申請者の負担は大きく減らせるでしょう。また申請者には原則3日以内に入力してもらい、間に合わなかったものだけ37日以内に移行するという併用方式も可能です」。
最後に長谷川氏からは、グローウィン・パートナーズ株式会社が手がける電子帳簿保存法関連のサービスが紹介され、そのなかから、個々の会社状況に応じて経費精算の電子化のメリットや実現性、おすすめの入力方式などを診断する「診断サービス」について説明が行われました。
「プロの経営参謀」としてクライアントを成長(Growth)と成功(win)に導くために、①上場企業のクライアントを中心に設立以来400件以上のM&Aサポート実績を誇るフィナンシャル・アドバイザリー事業、②「会計ナレッジ」・「経理プロセスノウハウ」・「経営分析力」に「ITソリューション」を掛け合わせた業務プロセスコンサルティングを提供するAccounting Tech® Solution事業、③ベンチャーキャピタル事業の3つの事業を展開している。
まとめ
ここ数年で、帳簿書類や領収書の電子化はグッとハードルが下がっていること。そして電子化することで業務の効率化が図られ、何より健全な会社体質となること。さらには国税当局も企業のコンプライアンス向上を重要な課題としていて、コンプライアンスを確保した企業は優遇される方向にあること等々、このさき電子帳簿保存法をどう活かしていけばいいかのヒントが多く出た45分間となりました。
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