「マッチョ29」植田知成が、マッチョな税理士に経費の疑問を聞く

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もうすぐ確定申告の時期がやってきます。
「やばい、何も準備してない」「何が経費にできて、何が経費にならないの?」そんな独立1年目の個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、個人事業主としてアイドルグループ マッチョ29 のメンバーとして活動する植田知成さんが、「2014年、アジア・オセアニアクラシックベンチプレス大会93kg級日本代表」などの経歴を持つ、税理士法人TAXGYM(現 税理士法人クオリティ・ワン)代表で税理士の渡邊勝也さんに経費の疑問をぶつけました。会計初心者の方必見です。ぜひご覧ください。

必要経費の線引きが曖昧でわからなかった

植田:今日はよろしくお願いいたします。今回は、僕が個人事業主になってから、経費のことで疑問に思ったことをお聞きしたいと思います。

 

渡邊:はい。よろしくお願いいたします。僕は月に大体15件くらい税務調査を受けています。これは国内でもトップクラスの件数でしょう。いろんな種類の税務調査に立ち会っているので、なんでも聞いてください。

 

植田:ありがとうございます。では、さっそく。僕は独立したとき、会計の勉強はほとんどしませんでした。会計士さんが書いた本を2〜3冊読んだだけで。だから、どこまでが必要経費になるのかというのがわからなかったんです。必要経費の線引きって曖昧で、本を読んでもわかりづらくて。

 

渡邊:例えば、「プロテイン代は経費になるのか」みたいな話ですよね。

 

植田:そうなんです。開業初年度は、嫁と二人で「これは経費にしたいよね。でも、経費になるのかな?」なんて試行錯誤してつくった書類を自分たちで税務署に提出しました。「これはあっていますか、これはどうですか」というのを何回も聞いて、訂正と確認を繰り返した感じですね。なので、今日はどこまでが経費になるのか、ということをお聞きしたいと思っています。

 

事業費は経費、家事費は経費でない

渡邊:なるほど。了解しました。そういった質問はよくあるので、任せてください。そもそも、必要経費にできるものとできないものがあります。必要経費にできるものは広告費などの事業費です。例えば、ジム専用のオフィスを借りていたら、その家賃も事業費に入ります。あとは、トレーニングで使うウェアなどもそうですよね。

一方で、家族旅行とか、子どものオムツ代とかは、家事費になります。これは必要経費にできません。じゃあ、みなさん何で判断を迷うのかというと、家事関連費だと思うんです。要は事業費と家事費が混ざっているものですね。例えば、車のガソリン代とか、洋服とか、仕事でもプライベートでも使うもの。

こうした家事関連費は個人の場合、原則必要経費にできません。ただ例外があって、納税者が立証した場合は、必要経費にできるんです。国によって違うのですが、通常この立証責任って税務署側にあるんですよ。ただ、日本の場合は国側が立証しないといけない。でも、この家事関連費だけは法律で「税務者が立証しろ」と定められているんです。

 

メモ書きで家事関連費は経費にできる

植田:そうだったのですね。知りませんでした。でも、どうやって立証すればいいんですか?

 

渡邊:僕がオススメしているのは、領収書の余白に「消耗品、〇〇のために使用」というメモ書きをしておく方法です。この作業をするだけで家事関連費を必要経費として立証したことになるんです。僕のこれまでの税務調査の経験からすると、この方法で家事関連費はほぼ必要経費として認められます

洋服やタクシー代なんかも家事関連費なので判断が難しいと思います。でも、領収書に「事業用で、○○に使った」と事実を書いておけば、立証したことになります。要は事業と関連したストーリー(事実)を領収書にかけばいいんです。

 

植田:減量期の食事代はどうなるのでしょうか?僕らはコンテストに出ることも仕事なので、準備にかかった費用は必要経費にしたいなと思うのですが。

 

渡邊:コンテストにかかった費用は事業との関連性が強いので、立証できると思います。ただ、その金額が高いとか低いとか、事業との結びつきが強いとか、弱いとかは、税務調査の場合は税務調査官の判断になるので、しっかりとストーリーをつくって立証していくしかない。

僕ら世代の税務調査官の年収ってだいたい600〜700万円。それを基準に高いか、安いか、みたいな判断を調査官はしているので、どんな基準で判断されているか知っておくとストーリーも描きやすくなると思います。

 

立証メモはスタンプで効率化せよ

植田:領収書にメモ書きは知らなかったです。

 

渡邊:ぜひ実践してください。ただし、全ての領収書をとっておくのではなく、領収書を受け取る際にいるかいらないかの判断をしてほしいと思います。財布が領収書でパンパンになってしまうので。

こまめに領収書を取り出す習慣をつけるためにも、財布は小さい方がいいです。大きな財布だと、どんどん領収書がたまっていきますから。10枚、20枚もためてしまうと、もうメモ書きする気が失せてしまいます。

メモが面倒な場合は、「福利厚生費」「交通費」「消耗品費」などのスタンプを用意しておきましょう。ネットでいろんな種類のものが売っています。価格も50円くらいなので、高くありません。このスタンプを領収書に押す作業を2週間に1回、10分から15分行えば、面倒な立証作業もすぐに終わります。

 

税務調査が入った場合、絶対に戦ってはいけない

渡邊:それでも仮に税務調査が入った場合は、絶対に戦ってはいけません。「書類は見せない!」という態度をとると、怪しまれて調査が長引いてしまいます。第一印象で「きちんとした人」という印象を与えて、調査官の信頼を得た方が得策です。

もし自分が税務調査官だったらどんな人に対して好印象を抱くかですよね。「この人はちゃんとしているな」という印象を与えて調査してもらうだけで、調査時間が圧倒的に短くなります。

個人に税務調査が入る確率は1%ですが、年収が増えていくと調査が入る確率もグンと上がります。基本的には調査が入ることを前提に、準備はしておいてください。

 

何を目的に法人化するか

植田:あと、どのタイミングで法人化したらいいのか聞きたいですね。

 

渡邊:これも節税対策でよく聞かれるんですけど、そもそも法人にする目的ってありますか?

 

植田:特にありませんね……。

 

渡邊:たしかに、法人化して利益1000万、2000万くらいだと細かい節税できることもあるんですけど、利益1億円くらいになると効果的に節税できる方法は少なくなってきます。
切り口を変えて質問しますね。
例えば、税金が30%だとすると、利益1000万円のAさんは、手取り700万円ですよね。一方で、利益2000万円のBさんは手取りが1400万円。どちらが多くの税金を納めているかというと、Bさんですよね。でも、手取りが多いのもBさん。Aさんと、Bさん、どっちになりたいですか?

 

AさんBさん
利益1000万円2000万円
税金△300万円△600万円
手残り700万円1400万円

 

植田:Bさんになりたいですけど、税金を600万も取られると思うとちょっと……。

 

渡邊:そこなんですよね。売上、税金、手取り、何にフォーカスするかは人それぞれ。どれが正解というわけではないのですが、僕だったら自分が経済的に豊かになりたいから、手取りにフォーカスします。でも、多くの人が税金にフォーカスするんですよね。Bさんになれる可能性があるのに、税金を多く払いたくないから、Aさんを目指す人が多いんです。

 

植田:税金が増えるから売上にブレーキをかけてしまう人が多いんですね。

 

渡邊:法人化の目的には色々あると思うんですけど、一番の目的は他の人と一緒に何かをやり遂げることですよね。組織じゃないとできないことがたくさんあるから。もし、突き抜けるならやっぱり仕組みをつくる必要があると思うんです。

 

大切なことは、やり方よりもあり方

渡邊:ここまで色々なテクニックをご紹介しましたが、節税って所詮は“やり方”なんですよね。でも、本当に大切なことは、なぜ事業をやるのかという“あり方”なんです。みんなどうやったらモテるかとか、どうやったら手元にお金が残るかっていうハウツーが好きですよね。

“やり方”の効率化はたしかに短期的にはいいんですけど、長期的に考えると重要ではない。つまり、短期的に筋肉をつけたい人がステロイドや怪しい薬に手を出すのと一緒なんです。ベンチプレスにしても、ボディビルにしても、“やり方”でチャンピオンになる人はすぐに消えていきますよね。

 

植田:たしかにそうかもしれません。

 

渡邊:ビジネスも同じだと思うんですよ。例えば、植田さんが崇高な理念を掲げて法人化したとします。そこに共感した人たちが集まれば、一人でやるより、シナジーが生まれて利益が大きくなる可能性がありますよね。そうなれば、税金にフォーカスすることもなくなるはずです。

 

植田:すごく勉強になりました。今日は本当にありがとうございました!

 

<プロフィール>

植田 知成(うえだ ちせい)
パーソナルトレーナー/CLOVER代表。
栄養学と生理学の知識を活かし、自らの経験をもとにダイエットサポートを行う。現在はマッチョアイドル『マッチョ29』のメンバーとしても活躍中。2013年、BBJチャレンジカップミドルクラス優勝。2015年、NPCJMensアスリートモデル部門優勝。ガンホーWBC、オートバックスなどのCMにも出演。マッチョ29唯一のイクメンマッチョ。

 

渡邊 勝也(わたなべ まさや)税理士 / 税務訴訟補佐人
税理士法人TAXGYM(現 税理士法人クオリティ・ワン)代表社員。
税務調査官よりも税務調査を行なっている肉体派税理士。税理士業界でも圧倒的な税務調査実績を持っている。また、経営コンサルティング会社の経験を活かしMQ会計をベースに日次決算を行う。2010年、関東ベンチプレス大会100kg級優勝、優秀選手賞。2014年、アジア・オセアニアクラシックベンチプレス大会93kg級日本代表。

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