- 作成日 : 2025年12月10日
「クラフトビールは儲からない」は本当か?年収、初期投資、原価率から失敗しない秘訣まで解説
「クラフトビールは儲からない」という声を聞くことがありますが、それは必ずしも真実ではありません。確かに、大手ビールメーカーに比べて高い初期投資や原価率といった課題は存在し、安易な参入は失敗につながりやすいですが、明確な戦略と品質へのこだわりがあれば、十分に収益を上げることが可能です。
この記事ではクラフトビールビジネスがなぜ「儲からない」と言われがちなのか、その背景にある原価構造や初期投資、そして廃業リスクを避け、成功するためのポイントまで、分かりやすく解説します。
目次
なぜ「クラフトビールは儲からない」と言われるのか?
主に、高い初期投資、低い生産効率による原価高、激しい競争、そして品質管理の難しさといった、ビジネス構造上の課題があるためです。
クラフトビールは、その多様性や品質の高さから多くのファンを魅了していますが、ビジネスとして成り立たせるにはいくつかのハードルが存在します。
高い初期投資と設備維持費
ビール醸造には、醸造タンク、発酵タンク、冷却設備、瓶詰・樽詰設備など、専門的で高価な設備投資が不可欠です。小規模なブルワリー(醸造所)であっても、数百万円から数千万円単位の初期投資が必要となることが一般的です。加えて、設備のメンテナンス費用や、衛生管理のためのコストも継続的に発生します。
低い生産効率と高い原価率
大手ビールメーカーが大規模な設備で効率的に大量生産するのに対し、クラフトブルワリーは小規模な設備で、多様なスタイルのビールを少量ずつ生産することが多いです。これにより、一本当たり、一杯あたりの生産コスト(原価)が高くなる傾向にあります。こだわりのホップや麦芽を使えば、さらに原材料費は上昇します。
激化する競争と販路確保の難しさ
近年、クラフトビール市場への参入者は増え続けており、競争は激化しています。自社のビールを置いてもらえる飲食店や小売店を見つけること、そしてその中で消費者に選ばれ続けることは容易ではありません。独自のブランド力やストーリー性が求められます。
品質管理と賞味期限の問題
クラフトビール、特に無濾過や非加熱処理のものは、品質が変化しやすく、賞味期限も比較的短い場合があります。醸造から販売、消費までの各段階で徹底した品質管理(温度管理など)が求められ、それを怠るとブランドイメージの低下に直結します。
クラフトビールの原価率はどれくらいか?
販売価格に左右されるので一概にはいえませんが、一般的に30%〜40%程度、場合によってはそれ以上になることも珍しくありません。これは、大手ビールメーカーの原価率(20%前後ともいわれる)と比較すると、かなり高い水準です。
クラフトビールの原価計算の目安
ビールの原価は、主に以下の要素で構成されます。
これらの合計を販売価格で割ったものが原価率となります。例えば、1杯800円で提供するビールの原価が320円であれば、原価率は40%となります。利益を確保するためには、原価計算を正確に行い、適切な販売価格を設定することが不可欠です。
大手ビールとの原価構造の違い
大手メーカーは、原材料の大量仕入れによるコストダウン、大規模設備による生産効率の最大化、効率的な物流網などにより、原価を低く抑えることができます。クラフトブルワリーは、品質や個性を追求する代わりに、このコスト面での不利を受け入れざるを得ない構造にあります。
クラフトビール醸造所の初期投資はどれくらい必要か?
最低でも数百万円、一般的には1,000万円〜数千万円規模の初期投資が必要となることが多いです。併設する飲食店の規模や、醸造設備の大きさによって大きく変動します。
小規模ブルワリー(ブルーパブ)の場合
ブルーパブ(醸造設備を併設した飲食店)を開業する場合、飲食店の開業資金(物件取得費、内装工事費、厨房設備など)に加えて、醸造設備の費用がかかります。中古設備を活用したり、DIYを取り入れたりすることでコストを抑える工夫も可能ですが、それでも相応の資金が必要となります。
「300万円でつくるブルワリー起業」は現実的か?
書籍などで「300万円」といった低資金での開業が紹介されることもありますが、これは極めて小規模な設備(例えば中古の小型タンク数本)で、かつ物件取得費や運転資金などを考慮しない、限定的なケースと考えられます。多くの場合、安定した生産量と品質を確保するためには、より多くの初期投資が必要となる可能性が高いです。
クラフトビール醸造家の年収はどれくらいか?
経営者や従業員としての立場、事業規模、成功度合いによって大きく異なりますが、一般的な会社員と同等か、それ以下のケースも少なくありません。
クラフトビールへの情熱を持って起業しても、すぐに十分な利益が得られるとは限りません。特に開業初期は、設備投資の返済や運転資金の確保に追われ、経営者自身の報酬を十分に確保できないこともあります。副業として始めたり、他の仕事と兼業したりするケースも見られます。もちろん、ブランドが成功し、事業が軌道に乗れば、高い年収を得ることも可能です。
クラフトビールブームは終わったのか?
ブームというよりも、市場が成熟期に入り、本物だけが生き残る「淘汰の時代」が始まったと考えるのが適切でしょう。消費者の選択眼は厳しくなり、品質や独自性のないブルワリーは廃業に追い込まれる可能性が高まっています。
確かに、一時期のような爆発的な新規参入の勢いは落ち着きを見せています。しかし、クラフトビール自体の人気がなくなったわけではありません。消費者はより多様で高品質なビールを求めており、地域に根差したブルワリーや、特定のスタイルに特化したブルワリーなど、個性と実力のあるブランドは今後も成長していくと考えられます。
クラフトビールビジネスで失敗しないためのポイントは?
明確なコンセプト、高品質なビール、効率的な経営、そしてファン作りが、激しい競争の中で生き残り、成功するための鍵となります。
① 明確なコンセプトとターゲット設定
「どんなビールを」「誰に届けたいのか」というコンセプトを明確にし、ブランドストーリーを構築します。ターゲット顧客に響くネーミングやラベルデザインも重要です。
② 品質への徹底的なこだわり
何よりもまず、美味しいビールを安定して造ることが基本です。醸造技術の向上はもちろん、原材料の選定から製造工程、出荷後の品質管理まで、一切の妥協を許さない姿勢が求められます。
③ 効率的な醸造プロセスとコスト管理
小規模であっても、無駄のない醸造計画、在庫管理、衛生管理を徹底し、生産効率を高め、コストを削減する努力が必要です。正確な原価計算に基づいた、適正な価格設定も重要です。
④ 多様な販路の確保
ブルーパブでの直接販売だけでなく、地域の飲食店や小売店への卸売、オンラインストア(ECサイト)での販売、イベント出店など、複数の販路を確保することで、売上の安定化とブランド認知度の向上を図ります。
⑤ ファンコミュニティの形成
SNSでの情報発信、醸造所見学ツアー、限定ビールの提供などを通じて、顧客とのつながりを深め、熱心なファン(リピーター)を育てることが、長期的な成功につながります。
クラフトビールビジネスへの挑戦
本記事では、「クラフトビールは儲からない」と言われる背景と、その中で成功するためのポイントについて解説しました。
クラフトビールビジネスは、初期投資の大きさや原価率の高さなど、確かに容易な道ではありません。しかし、他にはない独自の美味しいビールを造り、それを熱心なファンに届けたいという強い情熱と、しっかりとした経営戦略があれば、十分に「儲かる」ビジネスへと成長させることが可能です。安易なブームへの期待ではなく、品質と経営の両輪で、じっくりとブランドを育てていく覚悟が求められるといえるでしょう。
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