• 作成日 : 2025年10月9日

不動産AM(アセットマネジメント)とは?仕事内容から事業の始め方まで徹底解説

不動産AM事業の開業を目指す方へ。「AM(アセットマネジメント)」を正しく理解していますか?本記事では、不動産におけるAMについて徹底解説しています。PM・BMとの違いから仕事内容、必要な法律や事業の始め方まで、不動産AMのプロになるための必須知識を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

目次

不動産におけるAMとはどのような仕事?

AM(アセットマネジメント)とは、不動産投資全体の「司令塔」です。

この司令塔の最大のミッションは、投資家・オーナーの代理人として、不動産の資産価値を最大化すること。そのために、現場の運営を担うPM(プロパティマネジメント)や建物の維持管理を行うBM(ビルマネジメント)といった実務部隊と連携し、以下の3つの重要な判断を下します。

  • 取得(Acquisition):どの物件に投資すべきか、的確な判断を下す
  • 運用(Operation):物件の価値をどう育てるか、戦略を立て指揮する
  • 売却(Disposition):いつ売却すれば利益が最大化されるか、出口を見極める

このようにAMは、日々の「管理」とは次元の違う、資産全体を俯瞰して「経営」の舵取りを行うプロフェッショナルなのです。

AM・PM・BMの役割にはどのような違いがある?

不動産AM事業は、AMがPM・BMといった外部パートナーと連携して進めるのが基本形です。もちろん、オーナー自身が管理を行う自主管理や、PM/BM機能を社内に持つ(内製化する)といった運営形態も存在します。

AM:投資の司令塔

AMは投資戦略の立案と実行をリードする「司令塔」ですが、その権限は委託契約によって明確に定められています。 AMは、その契約の範囲内で日々の運用判断やモニタリングを行いますが、法的な最終意思決定(例:投資法人の役員会での重要事項決議、匿名組合/GK-TK等の機関決定、投資家への分配方針の決定など)は、発行体・事業体(投資法人・SPC・TK組成体など)が負います。

PM:運営の実行部隊

PM(プロパティマネジメント)は、AMが描いた戦略を実務に落とし込み、日々の収益を生み出す「実行部隊」です。テナント募集(リーシング)から賃料回収、入居者対応まで、物件の運営実務を担います。PMの実行力が、物件の稼働率という形で事業の根幹を支えます。AMは、このPMの動きを管理・監督する立場にあります。

BM:建物の維持管理役

BM(ビルマネジメント)は、エレベーターの保守点検や清掃、警備、修繕工事など、建物の物理的なコンディションを維持・管理する「維持管理役」です。BMの仕事の質が、建物の安全性や快適性を保ち、長期的な資産価値を毀損から守ります。BMへの適切な指示と品質管理も、AMの重要な責務の一つです。

連携の鍵となるSLAとレポーティング

連携を円滑にするために有効な手段となるのが「SLA(サービスレベルアグリーメント)」です。これは法的に定められた必須要件ではありませんが、業務の品質を担保し、責任の所在を明確にするための実務上のベストプラクティスとして、多くのプロフェッショナルが導入しています。

レポーティングは、月次運営報告(リーシング状況、BMレポート、キャッシュフロー、リスク項目)、四半期・年次レビュー、CAPEX計画のアップデートなどを基本に、投資家要件に合わせて設計します。

AMの仕事は具体的にどのような流れで進む?

不動産AMの業務は、物件のライフサイクルに沿って進みます。各フェーズで的確な判断を下すことが、投資の成否を分けます。

1. 取得(アクイジション):物件の取得

AMの仕事は、投資に値する不動産を見つけ出すことがスタートです。仲介会社や金融機関から集めた情報をもとに物件を厳選し、将来の収益性を予測します。購入を決める前には、法務・技術・環境・税務のリスクを洗い出すデューデリジェンス(DD)を徹底的に行います。ここでの目利きとリスク分析が、投資全体の成否を左右するのです。

2. 運用(アセットプランニング):物件価値の向上

物件を取得した後は、その価値を最大限に高める運用フェーズです。AMは、リノベーションによる賃料増額や、管理コストの最適化といったバリューアップ戦略を立案し、PM・BMと連携して実行します。ただ保有するのではなく、能動的に資産を育て、収益性を向上させる手腕が問われます。

3. 売却(イグジット):投資利益の確定

不動産投資の利益には、日々の賃料収入(インカムゲイン)と売却益(キャピタルゲイン)があり、AMは利益を最大化するための出口戦略を担います。常に市場動向を分析して最適な売却タイミングを見極めるだけでなく、売却価値を高めるための修繕やテナント構成の最適化といった下準備も行い、的確な判断力で投資利益を確定させます。

AM事業を始めるにあたって必要な法律やライセンスの知識は?

不動産AM事業は、投資家の資産を預かるため、法律で厳しく規制されています。事業計画の第一歩として、どの法規制の元で、どのライセンスを取得して事業を行うかを決定することが極めて重要です。

なぜライセンス(許認可)が必要なのか?

AM事業に許認可が必須なのは、投資家を保護するためです。国が定めたルール(財務基盤、人的要件、コンプライアンス体制など)をクリアした事業者のみが、投資家の資産を扱えます。

無免許営業には、根拠法に基づき重い罰則が科せられます。例えば、無登録での投資運用業など金融商品取引法に違反した場合は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(第百九十七条の二)、不動産特定共同事業法違反の場合は3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(第五十八条)、そして宅建業法違反(第七十九条)も同様に刑事罰の対象となります。

出典:金融商品取引法 | e-Gov 法令検索
出典:不動産特定共同事業法 | e-Gov 法令検索
出典:宅地建物取引業法 | e-Gov 法令検索

スキーム1. J-REIT(投資信託及び投資法人に関する法律)

J-REITは、複数の法律が重層的に関わるスキームです。投信法で投資法人の枠組みが定められ、その資産運用を受託するAM会社は、金融商品取引法に基づく「投資運用業」の登録が必須です。上場する場合は東証の上場規則・開示・ガバナンス要件が加わります。

スキーム2. 私募ファンド/GK-TK(金融商品取引法)

機関投資家や富裕層など、プロの投資家(主に機関投資家や富裕層だが、スキームによっては少人数の個人投資家も含まれる場合がある)から相対で資金を集めるスキームです。私募ファンドで必要となるライセンスは、業務の範囲によって異なります。

例えば、投資家から資金を集めて自ら募集を行う場合は「第二種金融商品取引業」、運用判断の全てを一任される場合は「投資運用業」、助言に留まる場合は「投資助言・代理業」の登録がそれぞれ必要となり、事業計画に応じた適切なライセンスを選択しなければなりません。

スキーム3. 不動産特定共同事業(不特法)

不特法は、複数の投資家が共同で不動産事業を行う際の枠組みを定める法律です。不動産クラウドファンディングのように「小口の資金を広く集める」仕組みはその一形態であり、法律の対象はそれだけに限定されるものではありません。特に2017年の法改正で創設された「小規模不動産特定共同事業」などは、より多様な事業モデルを可能にしています。

AMが使う経営指標と報酬の仕組みとは?

不動産AMは「数字」で語る仕事です。これらの経営指標を読めなければ、羅針盤を持たずに航海に出るようなものです。

投資判断で用いる主要指標

  • NOI(純営業収益):物件の基礎的な「稼ぐ力」を示す最重要指標。
  • IRR(内部収益率):時間価値を考慮した、投資の総合的なリターンを示す指標。
  • LTV(総資産有利子負債比率):借入への依存度。財務の健全性を示す指標。
  • DSCR(元利金返済余裕率):ローン返済の安全度を示す指標。金融機関が融資審査で重視します。

LTVは文脈により定義が異なるため注意が必要です。J-REITの財務指標として一般的に使われるのは「総資産LTV(有利子負債 ÷ 総資産)」ですが、金融機関が融資の際に用いるのは「鑑定LTV(借入金 ÷ 不動産鑑定評価額)」であることが多く、両者の定義と数値を区別して見る必要があります。

AMの報酬体系

AMの報酬は主に以下の3つです。

  1. 運用資産額に連動するAUMフィー(ベースフィー)
  2. 物件取得・売却時に発生するトランザクションフィー
  3. 運用成果に連動する成功報酬(パフォーマンスフィー)

投資家の利益とAMの利益を一致させる、成果連動型の報酬設計が信頼関係の鍵となります。

なぜ今、不動産AMにESGや省エネへの対応が求められるのか?

現代の不動産AMにとって、ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮は、避けては通れない重要な経営課題です。以下で詳しく解説します。

不動産AMにESGが求められる理由

投資家や金融機関が、投資判断の際に企業のESGへの取り組みを厳しく評価する時代になりました。環境性能の低い不動産は、将来的に価値が著しく下落する資産となるリスクを孕んでいます。

もはや慈善活動ではなく、省エネ性能の向上やサプライヤーを含めた人権への配慮といった取り組みは、不動産の長期的な価値を維持・向上させるための必須要件なのです。

ESGがもたらす具体的な金融・市場への影響

ESGへの取り組みは、具体的な経済的メリットにも繋がり始めています。近年では、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)やグリーンビルディング認証と連動した金利優遇が実例として増えているほか、環境認証を取得したオフィスビルでは賃料や稼働率にプラスの影響(プレミアム)が確認されるなど、明確なデータも蓄積されています。

建築物省エネ法改正への実務対応

2025年4月1日から、原則全ての新築建築物に省エネ基準への適合が義務付けられました。これは、新規開発だけでなく、既存物件の改修計画においても考慮すべき重要な法改正です。基準を満たすための仕様変更やコスト増を、あらかじめ事業計画に織り込んでおく必要があります。

ただし、10㎡以下の小規模な建築物など、政令で定める一部の建築物は適用除外となります。また、施行日以前に確認済証の交付を受けた場合などの経過措置も存在するため、個別の案件ごとに適用関係を正確に確認することが重要です。

出典:省エネ基準適合義務化|国土交通省

不動産AM事業を始めるには、具体的に何をすればいい?

これまでの知識をもとに、実際に不動産AM事業を立ち上げるための具体的なステップを解説します。

ステップ1. 事業領域(アセットタイプ)を定める

まず取り組むべきは、どの不動産種別(アセットタイプ)を自社の主戦場にするか、その事業領域を明確に定めることです。オフィス、住居(レジデンス)、商業施設、物流施設、ホテルなど、それぞれ市場特性や求められる専門知識は全く異なります。自身の経験や人脈が最も活かせる領域に絞り込むことで、競合に対する優位性を築き、投資家への説得力も増します。まずは「この分野なら誰にも負けない」という一点突破の旗を立てることが、事業成功の第一歩です。

ステップ2. 事業スキームとライセンスを決める

次に、誰から、どのような形で資金を集めるのかという事業スキームを固め、それに必要となる許認可(ライセンス)を確定させます。例えば、プロの投資家を対象とする私募ファンド(金融商品取引法)か、広く一般から集める不動産クラウドファンディング(不動産特定共同事業法)かによって、取得すべきライセンス、必要な資本金や人的要件、設立までの期間は大きく異なります。自社の戦略と規模に合った適切な「器」を選ぶことが、スムーズな事業開始に不可欠です。

ステップ3. コンプライアンス体制を固める

投資家の資産を預かるAM事業において、盤石なコンプライアンス(法令遵守)体制の構築は、事業の生命線です。利益相反を防止するための社内規程、情報管理ルール、決裁権限などを明確に定め、文書化する必要があります。これらは金融庁や国土交通省による検査の対象にもなるため、初期段階から弁護士などの専門家の助言を仰ぎながら整備を進めるべきです。堅固なコンプライアンス体制は、事業を守る「盾」であり、投資家からの信頼を得るための「名刺」となります。

ステップ4. 外部パートナー網を築く

AM事業は、自社単独では成り立ちません。日々の運営を担うPM会社やBM会社、リーシングに強い仲介会社、不動産鑑定士、弁護士、税理士といった、各分野のプロフェッショナルとの強力な連携体制が不可欠です。パートナー選定の際は、価格だけでなく、実績、レポートの品質、レスポンスの速さなどを総合的に評価します。信頼できるパートナーは、事業を共に成長させる「仲間」です。開業準備段階から積極的に関係構築に動きましょう。

ステップ5. 最初の案件(パイプライン)を創る

事業の体制が整ったら、一日も早く最初の投資案件を確保するための営業活動を開始します。金融機関や仲介会社など、これまで築いてきた人的ネットワークに定期的にアプローチし、自社の強みを活かせる案件情報を収集します。AM事業において、実績(トラックレコード)は何よりの信用です。最初の成功実績こそが、事業の成長を加速させる最大のエンジンとなります。

AMに関するよくある質問(FAQ)

Q. 宅建士はAMに必須?

A. AM業務自体に必須ではありませんが、AM会社が自ら売買仲介等を行う場合は宅建業免許が必要となり、専任の宅建士が必須です。AM担当者個人のスキルとしても、保有していることが強く推奨されます。

Q. AM事業に必要なスキルや経験は?

A. 不動産の実務知識に加え、金融(ファイナンス)、法律、会計・税務、建築といった幅広い専門知識が求められます。多くの場合、不動産仲介、PM、金融機関などでの実務経験が事業の成功に繋がります。

Q. 少額でもAM事業は始められる?

A. はい。近年、制度運用や監督指針の整備により、コンプライアンスや会計・バックオフィス等を外部の専門業者に委託しながら立ち上げる実務ハードルは下がっています。その結果、少人数・比較的低コストでの参入余地は拡がりました。

ただし、登録種別ごとの最低体制(常勤役職員・内部管理・資本等)は依然必要で、投資判断などの中核業務は外部委託できません。委託できる業務でも最終責任は自社に残るため、委託先の選定・監督、再委託の管理、内部規程の整備は必須です。

AMの知識が不動産ビジネスの信頼を築く

本記事で解説した通り、不動産AMは単なる管理業務ではなく、不動産経営そのものを司る、専門性の高い事業です。

不動産開業を目指す皆様は、まずAM・PM・BMの役割分担や法的枠組みといった専門知識を正しく身につけることが求められます。そして、その知識を「的確な投資判断」や「透明性の高い情報開示」といった具体的な行動に移すことで、投資家からの信頼を獲得し、事業を着実に成長させることができます。

AMという事業への深い理解と真摯な取り組みが、競合との明確な差別化を生み、お客様に選ばれ続ける不動産ビジネスの礎を築くのです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事