• 作成日 : 2025年8月19日

M&Aコンサルタントとは?アドバイザリーとの違いや仕事内容について解説

企業の成長戦略や事業承継において、M&Aは今や有力な選択肢の一つです。しかし、そのプロセスは極めて複雑で、高度な専門知識がなければ成功に導くことは容易ではありません。

このような状況で頼りになるのがM&Aの専門家ですが、「コンサルタント」と「アドバイザー」の違いを正確に説明できるでしょうか。両者は似ているようで、その役割やクライアントへの関わり方には明確な違いがあります。適切なパートナーを選べなければ、期待した成果を得ることは難しいでしょう。

この記事では、M&Aコンサルタントとは具体的にどのような業務を担う専門家なのか、そしてアドバイザーとの本質的な違いはどこにあるのかを、基本から分かりやすく解説します。

M&Aコンサルタントとは?

企業の合併・買収を成功に導くM&Aコンサルタントは、高度な専門知識と豊富な経験を駆使する専門職です。企業の経営戦略に深く関与し、その未来を左右する重要な判断を支援します。ここでは、そのM&Aコンサルタントが持つ特有の性質と、専門性に見合う報酬水準について解説します。

M&Aコンサルタントの特徴

M&Aコンサルタントは、単なる仲介者とは一線を画すいくつかの特徴を持っています。第一に、M&Aを経営戦略の一部として捉える戦略的な視点が挙げられます。

短期的な取引の成立だけでなく、M&A後の事業の成長や企業価値の向上といった長期的な成果を見据えて助言します。また、財務・法務・税務・ビジネス実務といった広範な専門知識を統合し、複雑なプロジェクト全体を管理・遂行する高度な能力も、その大きな特徴です。

M&Aコンサルタントの平均年収

M&Aコンサルタントは、その高い専門性と責任の重さに応じて、国内でも最高水準の報酬を得られる職業の一つです。

年収は、固定給に加えて案件の成約に応じたインセンティブ(成功報酬)が加わる体系が一般的で、個人の実績が大きく反映されます。所属する企業や役職、経験年数で差はありますが、若手でも年収1,000万円を超えることは珍しくありません。

中堅のマネージャークラスになると1,500万円から3,000万円、さらに実績を重ねたシニアクラスでは数千万円から、場合によっては億単位の年収を得ることも可能です。

M&AコンサルタントとM&Aアドバイザーの違い

M&Aの支援者を指す言葉には複数の種類があり、それぞれの立ち位置や業務範囲が異なります。特に「M&Aコンサルタント」と「M&Aアドバイザー」は混同されがちですが、その立場には明確な違いがあります。自社の目的や状況に応じて、どちらの支援が必要かを見極めることが肝心です。

立場と関与範囲の違い

M&Aコンサルタントは、クライアント企業の経営戦略全体を俯瞰し、その目標達成の手段としてM&Aを位置づけます。そのため、M&Aの実行だけでなく、その後の統合(PMI、Post-Merger Integration)まで含めた長期的な視点でコンサルティングを提供することが一般的です。

一方、M&Aアドバイザー(FA:ファイナンシャル・アドバイザー)は、売り手か買い手のどちらか一方の専任代理人として、取引価格の最大化など、クライアントの利益を最大化することに特化して活動します。関与範囲は、主に取引の成立(クロージング)までとなります。

業務領域の比較

両者の業務領域を比較すると、その特徴がより鮮明になります。M&Aコンサルタントは、M&Aありきの提案ではなく、事業ポートフォリオの見直しや新規事業開発といった経営戦略の策定から関与します。

対してM&Aアドバイザーは、具体的なM&A案件の創出(オリジネーション)から、交渉、契約書類の作成支援といった、取引実行の局面に強みを持っています。どちらが良いというわけではなく、企業のニーズによって選択すべき専門家が異なります。

観点M&AコンサルタントM&Aアドバイザー(FA)
主な立場経営戦略のパートナー売り手または買い手の代理人
主目的経営課題の解決、企業価値の向上取引の成立、依頼者の利益最大化
関与期間戦略策定から統合後(PMI)まで案件化から取引成立まで
強み戦略立案、PMI交渉、価格算定、手続き実行

M&Aコンサルタントに必要な資格

まず結論からお伝えすると、M&Aコンサルタントとして活動するために、法律で定められた必須の国家資格は存在しません。弁護士や公認会計士のように、その資格がなければ特定の業務を行えない「業務独占資格」ではないのです。

しかし、これは誰でも簡単に務まる仕事という意味ではありません。M&Aは財務、法務、税務、経営戦略といった極めて高度で広範な専門知識を要求されるため、資格がないからこそ、個人の能力や実績、そして専門性を客観的に証明するものが重視されます。そのため、多くの優秀なコンサルタントは、これからご紹介するような難関資格を保有しているのが実情です。

M&A業務で高く評価される専門資格

M&Aコンサルタントが保有していると、その専門性や信頼性が格段に高まる資格があります。それぞれの資格が、M&Aのどの局面で活かされるのかを解説します。

公認会計士

公認会計士は「会計・財務」の最高峰の専門家です。M&Aのプロセスにおいて、買収対象企業の財政状態や収益性を詳細に調査する「財務デューデリジェンス」や、企業の適正な価値を算出する「企業価値評価(バリュエーション)」は根幹となる業務です。

公認会計士の持つ財務諸表を深く読み解く能力は、これらの業務で直接的に活かされ、クライアントが適切な経営判断を下すための土台を築きます。

弁護士

弁護士は「法務」の専門家です。M&Aは、株式譲渡契約や合併契約といった多数の契約行為によって成り立っています。弁護士は、これらの契約書の作成やレビューを通じて、クライアントに法的なリスクがないかを確認します。また、企業の法務全般の問題点を洗い出す「法務デューデリジェンス」も担当し、M&Aの実行を法的な側面から堅固に支える欠かせない存在です。

税理士

税理士は「税務」の専門家です。M&Aは、用いる手法(スキーム)によって、売り手や買い手に課される税金が大きく異なります。

税理士は、組織再編税制などの複雑な税法知識を駆使し、クライアントにとって税負担が最も軽くなるような最適なスキームを設計します。M&Aの実行に伴う税務リスクを事前に把握する「税務デューデリジェンス」においても、その専門性を発揮します。

中小企業診断士

中小企業診断士は、国が唯一認める「経営コンサルティング」の専門家です。特に中堅・中小企業のM&Aにおいて、その真価を発揮します。

対象企業の事業内容を深く理解し、その企業の強みや弱み、将来性を分析して、M&Aがもたらすシナジー効果を具体的に描き出します。M&A成立後の円滑な統合(PMI)に向けた事業計画の策定など、経営者の視点に立った実践的な支援ができます。

M&Aに特化した民間資格

国家資格以外にも、M&Aの実務知識を証明するための民間資格がいくつか存在します。これらは、M&Aの知識を体系的に学びたい人や、自身の専門性を補強したい実務家にとって有用です。

代表的なものに、金融財政事情研究会が実施する「M&Aエキスパート認定制度」や、日本M&Aアドバイザー協会が認定する「M&Aスペシャリスト」などがあります。これらの資格は、M&Aの基本的な流れから実務上の留意点までを網羅しており、知識レベルの客観的な証明として活用されています。

M&Aコンサルタントの仕事内容

M&Aコンサルタントの業務は、非常に多岐にわたります。初期段階の相談から始まり、M&Aが完了し、両社が一体となって動き出すまで、長期にわたってクライアントを支え続けます。ここでは、M&Aの一連の流れに沿って、コンサルタントがどのような支援を提供するのかを解説します。

M&A戦略の策定

すべてのM&Aは、戦略の策定から始まります。コンサルタントはまず、クライアント企業が抱える経営上の課題や、将来のビジョンを深くヒアリングします。

その上で、市場環境や競合の動向を分析し、M&Aが本当に最適な選択肢なのかを検討します。そして、どのような業種や規模の企業を対象とすべきか、M&Aを通じて何を実現したいのか、という具体的な戦略を共に描き出します。

対象企業の選定と交渉

策定したM&A戦略に基づき、候補となる企業のリストアップに移ります。幅広い情報網を駆使して可能性のある企業を洗い出し(ロングリスト)、そこからさらに条件に合う企業を絞り込んでいきます(ショートリスト)。

対象企業が定まると、コンサルタントは相手方企業への打診を開始します。秘密保持契約を締結した上で、トップ同士の面談を設定し、円滑な交渉の進行を支援します。

デューデリジェンスの実施支援

交渉がある程度進み、当事者間で大筋の合意が得られると、デューデリジェンス(買収監査)の段階へ移行します。

これは、買収対象企業の財務状況や法務上のリスク、事業の実態などを詳細に調査し、隠れた問題がないかを確認する作業です。コンサルタントは、公認会計士や弁護士といった各分野の専門家と連携し、デューデリジェンスが円滑かつ的確に行われるよう全体を統括します。

契約締結とクロージング

デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な買収価格や取引条件の交渉が行われます。コンサルタントは、クライアントが不利な条件をのむことがないよう、専門的な見地から助言を与え、交渉を有利に進めるためのサポートをします。

双方が合意に至れば、最終契約書(SPA)を締結し、株式の譲渡や対価の支払いといったクロージング(取引の完了)手続きを確実に実行します。

PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)

M&Aは契約を締結して終わりではありません。むしろ、そこからが新たな出発点です。PMIは、M&A成立後に経営方針、組織文化、人事制度、情報システムなどを統合し、期待されたシナジー効果を創出するための活動を指します。

コンサルタントは、統合計画の策定から実行までを支援し、M&Aの効果を最大化させるための道筋を示します。このPMIの巧拙が、M&Aの成否を分けるといっても過言ではありません。

M&Aコンサルタントの依頼費用

M&Aコンサルティングの費用は、案件の規模や難易度、依頼する会社によって大きく変動しますが、一般的には複数の料金体系を組み合わせた形になります。契約を結ぶ前に、費用の内訳や発生するタイミングを正確に把握しておくことが不可欠です。

相談料・着手金

正式に依頼する前の相談は無料としている会社も多いですが、本格的に案件化を進める段階で着手金が必要となる場合があります。

着手金は、M&Aの実現可能性の調査や初期的な資料作成の対価として支払われるもので、数十万円から数百万円が相場です。この費用は、最終的にM&Aが成立しなかった場合でも返金されないことが一般的です。

中間金(月額報酬)

M&Aの交渉過程で、基本合意契約を締結した時点などで中間金が発生することがあります。

これは成功報酬の一部を前払いする意味合いを持つ場合や、プロジェクト期間中の継続的なコンサルティングに対する月額報酬(リテイナーフィー)として設定される場合もあります。金額は案件の規模によって様々で、月額数十万円から数百万円に及ぶこともあります。

成功報酬

M&Aが最終的に成立した際に支払われる費用が成功報酬です。

これが報酬の大部分を占め、最も金額が大きくなります。計算方法として「レーマン方式」が広く採用されています。これは、取引金額(企業の譲渡価格など)に応じて、一定の料率を掛けて算出する方法です。取引金額が大きくなるほど料率は低くなるのが特徴です。

レーマン方式の一般的な料率テーブル

取引金額成功報酬料率
5億円以下の部分5%
5億円超~10億円以下の部分4%
10億円超~50億円以下の部分3%
50億円超~100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

M&Aコンサルティングの代表的な依頼先

M&Aコンサルティングを提供する事業者は、その成り立ちや得意分野によっていくつかの種類に大別されます。自社の状況やM&Aの目的に合わせて、最適なパートナーを見つけるための参考にしてください。

戦略コンサルティングファーム

外資系の戦略コンサルティングファームなどは、M&Aを全社的な経営戦略の一環として捉えることに長けています。

市場分析や事業ポートフォリオの見直しを通じて、最適なM&A戦略を策定し、特に買収後のPMIにおいて高い専門性を発揮します。比較的大規模で、グローバルに展開するような複雑な案件を得意とする傾向があります。

M&A専門の仲介・アドバイザリー会社

M&Aの仲介やアドバイザリー業務を専業とする会社です。大小さまざまな規模のM&A案件を数多く手がけており、豊富な実績と独自のネットワークを有しています。

特に中堅・中小企業のM&Aにおいては中心的な担い手となっており、実務的なノウハウが豊富です。迅速なマッチングや円滑なディール進行に強みがあります。

金融機関(銀行・証券会社)

メガバンクや地方銀行、証券会社などもM&A支援に力を入れています。普段から取引のある金融機関であれば、自社の事業内容や財務状況に対する理解が深く、話を進めやすいという利点があります。

また、豊富な顧客基盤を活用したマッチング力や、M&Aに必要な資金調達(ファイナンス)を同時に相談できる点も大きな強みです。

会計事務所・税理士法人

大手会計ファーム(BIG4)や中堅の税理士法人などもM&A支援を手がけています。もともとの専門である財務や税務の知見を活かしたデューデリジェンスや、企業価値評価(バリュエーション)において非常に高い専門性を持ちます。

近年では、その専門性を武器に、M&A戦略の立案からFA業務、PMI支援まで、幅広くサービスを提供する法人が増えています。

M&Aコンサルティング会社の選び方

M&Aという重大な経営判断を成功させるためには、信頼できるコンサルタントとの連携が不可欠です。数ある会社の中から自社にとって最良のパートナーを選ぶためには、いくつかの視点から慎重に比較検討することが求められます。

実績と専門性の確認

まず確認すべきは、自社の業界や事業規模に近いM&A案件の実績が豊富かどうかです。食品業界とIT業界ではビジネスモデルや評価の仕方が全く異なります。

特定の業界に対する深い知見や、類似案件を成功に導いた経験は、信頼性を測る上で重要な指標となります。過去の実績について、具体的な事例を交えて説明を求めるとよいでしょう。

担当者との相性

M&Aプロジェクトは数ヶ月から一年以上に及ぶことも珍しくありません。その間、担当コンサルタントとは会社の機密情報も含めて緊密なコミュニケーションを取ることになります。

自社の事業や文化を真摯に理解しようと努め、耳の痛いことであっても率直に意見を伝えてくれる誠実な人物かを見極めることが肝要です。複数の会社の担当者と面談し、信頼関係を築ける相手を選びましょう。

料金体系の透明性

前述の通り、M&Aコンサルティングの費用は高額になりがちです。そのため、どのような業務に対して、いつ、いくらの費用が発生するのか、契約前に詳細な説明を求めることが不可欠です。

「成功報酬のみ」と謳っていても、別途費用が発生するケースもあります。複数の会社から見積もりを取り、サービス内容と料金体系の透明性、そして総額の妥当性を比較検討してください。

支援範囲の広さ

自社がM&Aのどの段階で支援を求めているのかを明確にすることも大切です。戦略立案から相談したいのか、既に候補企業がいて交渉を支援してほしいのか、あるいは成立後のPMIで手厚いサポートを期待するのか。コンサルタント会社によって得意な領域は異なります。

自社のニーズと、相手方の支援範囲が合致しているかを確かめ、一貫したサポートが受けられる会社を選ぶことが望ましい結果につながります。

M&Aコンサルタントと協力して成功を目指す

M&Aは、企業の成長を加速させ、事業承継問題を解決するなど、未来を切り拓く強力な選択肢です。しかし、その道のりは複雑で、多くの専門的な判断を伴います。M&Aコンサルタントは、その険しい道のりを共に歩み、ゴールへと導いてくれる心強い伴走者といえるでしょう。

M&Aを検討する際は、まず自社が何を達成したいのかという目的を明確にすることが出発点となります。その上で、この記事で解説したような視点を持ち、複数のコンサルティング会社を比較検討することが不可欠です。実績、担当者との相性、料金の透明性、そして支援範囲を慎重に見極めることで、自社のM&Aを成功へと導く最良のパートナーを見つけ出すことができるでしょう。


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