- 作成日 : 2025年8月19日
M&Aの資金調達とは?方法ごとの特徴や注意点を解説
M&A(企業の合併・買収)を成功させるためには、戦略的な交渉やPMI(Post-Merger Integration:M&A後の統合プロセス)はもちろん重要ですが、それらを支える資金調達も極めて重要な要素です。適切な資金調達なくしてM&Aの実現は不可能であり、どの方法を選択するかによって、M&Aのスキームやその後の経営に大きな影響を与えます。
この記事では、M&Aにおける資金調達について、その主要な方法からそれぞれの特徴、さらには注意点までを詳しく解説します。
目次
M&Aにおける資金調達の基本と最新動向
M&A(企業の合併・買収)を成功させるには、適切な資金調達が欠かせません。買収資金はもちろん、M&A後の事業運営にも資金は必要となり、その計画がM&A全体の成否を左右することもあります。ここでは、M&Aにおける資金調達の基本的な考え方と、2025年現在の市場動向について解説します。
なぜM&Aで資金調達が不可欠なのか?
M&Aを実行する際、多くの場合、対象企業の買収価格は数億円から数百億円、あるいはそれ以上にのぼります。これほど大きな金額をすべて自己資金でまかなえる企業は限られています。
そのため、外部からの資金調達が一般的です。また、資金調達は単に買収代金を支払うためだけのものではありません。M&A後の事業統合(PMI)や、新たな成長戦略の実現に向けた設備投資、運転資金の確保といった目的もあり、企業の成長を加速させるための原動力となります。
買い手と売り手、双方に必要な資金とは
資金調達は買い手側の課題と捉えられがちですが、売り手側にも関係があります。買い手は、買収代金に加え、M&Aアドバイザーへの手数料やデューデリジェンス費用といった諸経費も考慮しなくてはなりません。
一方、売り手側は、M&Aによって得た資金を元に、引退後の生活資金とするのか、あるいは新規事業への投資に充てるのかといった、出口戦略を考える必要があります。M&A後も事業を継続する場合には、事業拡大のための運転資金や設備投資資金の調達を検討する場面も出てくるでしょう。
2025年におけるM&A資金調達のトレンド
2025年現在、金融市場の動向を反映し、M&Aの資金調達環境にも変化が見られます。世界的な金利の上昇傾向は、日本国内の金融機関の融資姿勢にも影響を与えています。
以前よりも審査基準が厳格化する可能性がある一方で、企業の成長戦略に合致したM&Aに対しては、依然として積極的な融資が見られます。また、事業承継を目的としたM&Aへの支援は国策としても推進されており、日本政策金融公庫などの政府系金融機関による融資制度も活用しやすい状況が続いています。
M&Aの資金調達方法
ここでは、M&Aで活用される主要な資金調達方法を3つの大きなカテゴリーに分けて解説します。
M&Aの資金調達方法 分類マップ
M&Aの資金調達方法は、大きく「デット・ファイナンス」「エクイティ・ファイナンス」、そして両者の特徴を併せ持つ「メザニン・ファイナンス」などに分類されます。
大分類 | 特徴 | 主な手法 |
---|---|---|
デット・ファイナンス | 負債による調達(返済義務あり) |
|
エクイティ・ファイナンス | 資本による調達(返済義務なし) | |
その他 | 上記の中間、特殊な手法 |
|
1. デット・ファイナンス(負債による資金調達)
デット・ファイナンスは、金融機関からの借入や社債の発行など、負債を増やすことで資金を調達する方法です。返済義務と利息の支払いが生じますが、経営権に直接影響を与えない点が大きな特徴です。
金融機関からの融資(間接金融)
銀行などの金融機関から直接資金を借り入れる方法で、最も一般的な手法です。企業の信用力や将来の収益性、担保などを基に審査が行われます。
- プロパーローン
銀行が直接リスクを負って行う融資です。 - シンジケートローン
複数の金融機関が協調して融資団(シンジケート団)を組成し、一つの契約書に基づいて大規模な資金を融資します。M&Aのような巨額の資金が必要な場合に適しています。 - 制度融資
日本政策金融公庫など、政府系金融機関や地方自治体が提供する融資制度です。事業承継を目的としたM&Aなどで活用でき、比較的低い金利で長期の借入が可能な場合があります。
社債発行(直接金融)
企業が投資家に対して「社債」という有価証券を発行し、直接資金を調達する方法です。金融機関を介さないため直接金融と呼ばれます。一般的に、上場企業や信用力の高い大企業が、長期かつ大規模な資金を調達する際に用います。
2. エクイティ・ファイナンス(資本による資金調達)
エクイティ・ファイナンスは、新たに株式を発行し、それを投資家に引き受けてもらうことで資金を調達する方法です。調達した資金は自己資本となるため返済義務がありませんが、発行する株式数によっては議決権比率が大幅に低下し、経営権経営権に影響を及ぼす可能性があります。
第三者割当増資
特定の第三者(取引先、提携企業、投資ファンドなど)に新株を引き受けてもらう方法です。M&Aにおいては、買収先の株主や事業提携先を引受先とすることで、資金調達と同時に業務提携や資本提携を強化できるため、最も活用される手法の一つです。
公募増資
広く一般の投資家を対象に新株の購入を募る方法です。上場企業が市場から大規模な資金を調達する際に用いられます。
株主割当増資
既存の株主に対して、その持株数に応じて新株を引き受ける権利を与えて資金を調達する方法です。既存株主の持株比率を維持しやすいメリットがあります。
3. その他の手法
上記の基本的な手法を組み合わせたり、応用したりした特殊な資金調達方法もM&Aでは活用されます。
LBO(レバレッジド・バイアウト)ファイナンス
LBOは「てこ(レバレッジ)」の原理を応用した手法です。買収対象となる企業の資産や将来生み出すキャッシュ・フローを担保にして、金融機関から多額の資金を調達します。これにより、買い手は少ない自己資金で自社の規模を上回るような大きな企業を買収することが可能になります。主に投資ファンドが用いる手法ですが、事業会社による活用も増えています。
メザニン・ファイナンス
デット(負債)とエクイティ(資本)の中間的な性質を持つ資金調達方法です。「メザニン」とは建物の「中二階」を意味し、返済の優先順位が通常の融資(シニアローン)より低く、株式(エクイティ)より高いのが特徴です。シニアローンだけでは資金が不足し、かつエクイティでの希薄化は避けたい場合に有効です。劣後ローンや優先株といった形態があり、通常の融資より金利は高くなりますが、柔軟な資金調達を実現します。
各資金調達方法のメリット・デメリット比較
M&Aの資金調達方法は一長一短であり、自社の状況やM&Aの目的に合わせて最適なものを選ぶことが求められます。ここでは、主要な資金調達方法の利点と注意点を比較し、選択の際の判断材料を提示します。
資金調達方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
LBOファイナンス |
|
|
金融機関融資(間接金融) |
|
|
社債発行(直接金融) |
|
|
エクイティ・ファイナンス |
|
|
メザニン・ファイナンス |
|
|
M&Aの資金調達を成功させるための手順
M&Aの資金調達は、場当たり的に進めるのではなく、戦略的かつ計画的に実行することが成功の確率を高めます。明確な目的設定から始まり、専門家を交えた交渉まで、一連の流れを理解しておくことが大切です。
M&A戦略と必要資金の明確化
まず、なぜM&Aを行うのか、その目的を明確にします。市場シェアの拡大、新規事業への参入、技術力の獲得など、目的によって最適な対象企業は異なります。
目的が定まったら、買収対象候補をリストアップし、企業価値を算定します。それにより、買収に要するおおよその資金が見えてきます。この金額に、デューデリジェンス費用やアドバイザーへの報酬といった諸経費を加えたものが、全体の必要資金額となります。
資金調達計画(ファイナンシャルモデル)の策定
必要資金額が固まったら、次に具体的な資金調達計画を策定します。自己資金でいくらまかない、外部からいくら調達するのかを決めます。そして、LBO、融資、エクイティといった選択肢の中から、自社の状況に最も適した組み合わせを検討します。
この際、M&A後の統合計画に基づいた詳細な事業計画書と、将来の収益やキャッシュ・フローを予測したファイナンシャルモデルを作成することが、金融機関や投資家からの信頼を得る上で不可欠です。
金融機関や投資家との交渉
策定した計画書やモデルをもとに、金融機関や投資家との交渉を開始します。複数の候補と並行して交渉を進め、最も有利な条件を引き出すことを目指します。
交渉では、M&Aの意義や将来性、返済計画の妥当性を論理的に説明する能力が問われます。相手が何を懸念しているのかを正確に把握し、安心させるだけの材料を提示できるかが、交渉の成否を分けます。M&Aアドバイザーなどの専門家の支援を得ながら進めるのが一般的です。
デューデリジェンスと契約締結
資金の出し手から基本合意を得られたら、最終契約に向けてデューデリジェンス(買収監査)を実施します。対象企業の財務、法務、事業内容などを詳細に調査し、潜在的なリスクを洗い出す作業です。
デューデリジェンスの結果、大きな問題がなければ、最終的な融資契約や投資契約を締結し、資金が実行されます。この段階で問題が発覚した場合、条件交渉をやり直したり、最悪の場合は破談になったりすることもあります。
M&A後の資金需要と調達
M&Aは売り手にとってもゴールではなく、新たなスタートです。会社を売却して得た資金の活用法や、一部事業を残す場合の運転資金など、M&A後を見据えた資金計画が求められます。
M&A後の事業成長に必要な運転資金
会社全体ではなく、一部の事業のみを売却した場合、手元に残った事業をさらに成長させていくための資金が必要になることがあります。
M&Aによって経営資源を集中させ、残存事業の拡大を目指すのであれば、新たな設備投資や人材採用のための資金調達を検討することになるでしょう。この場合も、買い手と同様に金融機関からの融資などが選択肢となります。事業計画の説得力が高ければ、M&Aによる変革を評価され、資金調達がしやすくなる可能性もあります。
創業者利益の活用と資産管理
会社の全株式を売却し、経営から引退する創業者やオーナー経営者は、多額の売却益(創業者利益)を手にします。この資金は、個人の資産として管理・運用していくことになります。
リタイア後の生活設計、資産承継、あるいはエンジェル投資家として新たなスタートアップを支援するなど、その活用方法はさまざまです。税負担も考慮しながら、長期的な視点で最適な資産ポートフォリオを組むために、プライベートバンカーや税理士といった専門家への相談が有効です。
M&Aの資金調達における注意点と失敗回避策
M&Aの資金調達には、事業成長の機会がある一方で、計画を誤ると深刻な事態を招くリスクも潜んでいます。ここでは、よくある失敗例を学び、それを回避するための対策について解説します。
過大な借入による財務悪化リスク
M&Aを急ぐあまり、返済能力を超えた過大な借入をしてしまうケースがあります。
LBOファイナンスなどで高いレバレッジをかけると、M&A後の景気変動や事業環境の悪化によってキャッシュ・フローが想定を下回った場合、利息の支払いが経営を圧迫し、最悪の場合は債務不履行に陥る危険性があります。これを避けるには、保守的なシナリオも想定した綿密な返済シミュレーションを行い、無理のない借入額に抑えることが肝心です。
資金調達のタイミングを逃さない
M&Aの交渉は時間との戦いでもあります。良い買収案件が見つかっても、資金調達に手間取っている間に、他の買い手に先を越されてしまうことがあります。
金融機関の審査には一定の期間を要するため、M&Aを検討し始めた早い段階から、取引のある金融機関に相談しておくなど、事前の準備が大切です。日頃から良好な関係を築いておくことで、いざという時にスムーズな対応が期待できます。
専門家(M&Aアドバイザー)との連携
M&Aの資金調達は、高度な専門知識と交渉力が求められる複雑な作業です。特に、LBOファイナンスやメザニン・ファイナンスといった手法を活用する場合、自社だけで対応するのは困難なことが多いでしょう。
M&Aアドバイザーやフィナンシャルアドバイザーは、豊富な経験と金融機関とのネットワークを持っています。専門家と連携することで、最適な資金調達スキームの構築から、有利な条件での交渉まで、成功の可能性を大きく高めることができます。
自社に最適な資金調達でM&Aを成功へ
M&Aにおける資金調達は、単なる資金集めではありません。企業の未来を左右する重要な経営戦略の一環です。LBOファイナンス、間接金融・直接金融、各種エクイティ・ファイナンスなど、多様な選択肢の中から、M&Aの目的、自社の財務状況、そして対象企業の特性を総合的に勘案し、最適な方法を組み合わせることが求められます。
現在の金融環境も踏まえ、慎重な計画と大胆な決断の両方を持って臨むことが、M&Aを成功に導きます。必要に応じてM&Aアドバイザーなどの専門家の知見も活用し、自社の成長を最大化する資金調達を実現してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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