• 作成日 : 2025年6月16日

居酒屋業界のM&A動向は?メリット・デメリットや事例を解説

最近、「居酒屋のM&A」という言葉を耳にする機会が増えたと感じませんか? 実は、飲食業界の中でも特に居酒屋業界では、M&A(企業の合併・買収)が活発に行われています。

この記事では、なぜ今、居酒屋のM&Aがこれほど注目されているのか、その背景から詳しく見ていきます。コロナ禍を経て変化した市場環境や、経営者が抱える悩み、そして新たな成長戦略としてM&Aがどのように活用されているのか、その理由を探っていきましょう。

居酒屋業界の現状

長引いたコロナ禍は、居酒屋業界に大きな影響を与えました。営業時間短縮や外出自粛ムードにより、客足が遠のき、多くの店舗が厳しい経営状況に直面しました。ようやく日常が戻りつつある現在、客足は回復傾向にありますが、一方で深刻な人手不足や、原材料費・光熱費の高騰といった新たな課題も浮上しています。

また、少子高齢化に伴う後継者不足も、特に個人経営の居酒屋にとっては大きな悩みとなっています。長年地域で愛されてきたお店でも、事業を引き継ぐ人がいなければ、廃業を選択せざるを得ないケースも少なくありません。

このような状況の中、経営の立て直しや事業の継続、さらなる成長を目指す手段として、M&Aが有効な選択肢の一つとして考えられるようになっているのです。

居酒屋業界のM&A動向

近年、居酒屋業界のM&A件数は増加傾向にあると言われています。特に、コロナ禍で経営基盤が揺らいだ企業を、体力のある大手企業や異業種企業が買収するケースが見られました。また、事業承継問題を解決するために、後継者のいない個人経営の店舗が、他の企業へ事業を譲渡するケースも増えています。

買い手としては、同業の大手企業が店舗網拡大やブランド力強化を目的とする場合や、食品メーカーや小売業など、飲食業とのシナジー(相乗効果)を期待する異業種企業が新規参入を目指す場合などがあります。一方、売り手としては、経営不振からの脱却、事業承継、創業者利益の確保などを目的とする場合が多いようです。

居酒屋業界でM&Aが行われる理由

では、なぜ居酒屋業界でM&Aが活発に行われているのでしょうか?主な理由を整理してみましょう。

  • 後継者不足の解決
    経営者が高齢化し、親族や従業員に後継者がいない場合、M&Aによって第三者に事業を引き継いでもらうことができます。これにより、従業員の雇用を守り、地域に根差したお店を存続させることが可能になります。
  • 経営資源の集中と事業再生
    不採算店舗やノンコア事業(本業以外の事業)を売却し、得た資金や経営資源を主力事業に集中させることで、経営の効率化や立て直しを図ることができます。
  • 事業規模の拡大・エリア展開
    買い手企業にとっては、M&Aによって短期間で店舗数や事業エリアを拡大できます。新規出店には時間もコストもかかりますが、既存の店舗を取得することで、スピーディーな成長戦略を実現できます。
  • 人材・ノウハウの獲得
    経験豊富なスタッフや独自の調理技術、運営ノウハウなどを、M&Aを通じて一括で獲得できる点も大きな魅力です。人手不足が深刻な業界において、即戦力となる人材を確保できるメリットは大きいでしょう。
  • 異業種からの参入
    飲食業界への新規参入を目指す企業にとって、既に運営されている居酒屋を買収することは、リスクを抑えつつ市場に参入するための有効な手段となります。

これらの理由から、売り手・買い手双方にとってメリットのあるM&Aが、居酒屋業界で積極的に行われているのです。

居酒屋業界のM&Aメリット

M&Aは、売り手企業と買い手企業の双方に様々なメリットをもたらします。ここでは、それぞれの立場から見た主なメリットを分かりやすく整理してみましょう。

立場メリット
売り手
  • 後継者問題を解決し、事業を存続できる
  • 従業員の雇用を守ることができる
  • 事業売却により、まとまった資金(創業者利益)を獲得できる
  • 個人保証や担保提供から解放される可能性がある
  • 大手企業の傘下に入ることで、経営基盤が安定する場合がある
買い手
  • 新規出店に比べて、低コストかつ短期間で事業を開始・拡大できる
  • 店舗、設備、従業員、ノウハウ、ブランドなどをまとめて獲得できる
  • 既存顧客を引き継ぐことができる
  • 人材採用・育成の手間やコストを削減できる
  • 未進出エリアへの展開や、新しい業態への進出が容易になる
  • 仕入れの共通化などにより、コスト削減やシナジー効果が期待できる

このように、M&Aはそれぞれの企業が抱える課題を解決し、新たな成長機会を生み出す可能性を秘めています。

居酒屋業界のM&Aデメリット

メリットが多い一方で、M&Aには注意すべき点、つまりデメリットも存在します。事前にリスクを理解しておくことが、M&Aを成功させるためには不可欠です。売り手・買い手それぞれの立場で考えられるデメリットを見ていきましょう。

立場デメリット
売り手
  • 希望する価格や条件で売却できるとは限らない
  • 買い手が見つからない可能性がある
  • 交渉過程で、経営情報などが外部に漏洩するリスクがある
  • 従業員や取引先から、売却に対する反発や不安が生じる可能性がある
  • M&A後、経営に関与できなくなる、または想定していた役割と異なる場合がある
買い手
  • 買収後に、帳簿には計上されていない債務(簿外債務)や問題が発覚するリスクがある
  • 期待していたほどの収益性やシナジー効果が得られない可能性がある
  • 従業員のモチベーション低下や、キーパーソンの離職リスクがある
  • 異なる企業文化を持つ組織同士の統合(PMI)がうまくいかない可能性がある
  • 買収にかかる費用(デューデリジェンス費用、M&A仲介会社や専門家への報酬など)が高額になる場合がある

これらのデメリットを最小限に抑えるためには、慎重な相手選び、十分な情報収集(デューデリジェンス)、そして丁寧なコミュニケーションが重要となります。

居酒屋のM&Aにおける価格相場

M&Aを検討する上で、最も気になる点の一つが「価格」ではないでしょうか。ここでは、居酒屋のM&Aにおける価格(譲渡価額)がどのように決まるのか、その考え方について解説します。

M&Aの価格は、個別の案件ごとに様々な要因を考慮して決定されるため、「この業態ならいくら」といった明確な相場が存在するわけではありません。しかし、一般的には以下の要素を組み合わせて評価されることが多いです。

  1. 時価純資産価額
    会社の資産(店舗、設備、現金など)から負債(借入金など)を差し引いたものです。これが基本的な評価の土台となります。
  2. 営業権(のれん代)
    お店のブランド力、顧客基盤、立地、収益性、従業員のスキルなど、帳簿には表れない無形の価値を評価したものです。一般的には、年間の営業利益の数年分(例えば2~5年分)を目安とすることがありますが、お店の状況によって大きく変動します。

つまり、M&A価格 ≒ 時価純資産価額 + 営業権 という考え方が一つの目安となります。

ただし、これはあくまで一般的な考え方であり、実際の価格は、お店の将来性、買い手のM&A戦略、交渉力などによって大きく左右されます。正確な企業価値を知るためには、M&Aの専門家(M&A仲介会社、公認会計士など)に相談し、詳細な企業価値評価(バリュエーション)を依頼することをおすすめします。

居酒屋業界のM&Aを成功させるポイント

居酒屋業界のM&Aを成功に導くためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、特に押さえておきたい点を解説します。

M&Aの目的を明確にする

なぜM&Aを行うのか、それによって何を実現したいのかを具体的に定めることが第一歩です。「後継者を見つけたい」「事業を拡大したい」「経営を立て直したい」など、目的が明確であれば、最適な相手探しや交渉方針も定まります。

早期からの準備と情報整理

M&Aは検討開始から成立まで、数ヶ月から1年以上かかることもあります。余裕を持ったスケジュールで準備を進めましょう。また、自社の強み・弱み、財務状況、店舗運営に関する情報などを正確に整理しておくことが、スムーズな交渉につながります。

適切な相手選び

自社の目的や文化に合った相手を見つけることが非常に重要です。価格だけでなく、従業員の雇用維持、事業の将来性なども考慮して、慎重に相手を選びましょう。M&A仲介会社などの専門家を活用するのも有効な手段です。

徹底したデューデリジェンス(買収監査)

買い手にとっては、相手企業の財務状況、法務リスク、事業内容などを詳細に調査するデューデリジェンスが不可欠です。隠れた問題点を見逃さないよう、専門家(弁護士、公認会計士など)の協力を得て、慎重に進めましょう。

従業員や取引先への配慮

M&Aは、従業員や取引先にとっても大きな変化です。不安を取り除き、スムーズな移行を実現するためには、適切なタイミングで丁寧な説明を行い、誠実に対応することが求められます。特に従業員のモチベーション維持は、M&A後の事業運営に大きく影響します。

M&A後の統合プロセス(PMI)を重視する

M&Aは契約締結がゴールではありません。むしろ、そこからがスタートです。異なる組織文化や業務プロセスをスムーズに統合していくPMI(Post Merger Integration)を計画的に実行することが、M&Aの効果を最大限に引き出す鍵となります。

専門家の活用

M&Aには、会計、税務、法務など、専門的な知識が不可欠です。M&A仲介会社、アドバイザリー会社、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家と連携し、適切なアドバイスを受けながら進めることが成功への近道です。

これらのポイントを意識し、計画的かつ慎重にM&Aを進めることが大切です。

居酒屋M&Aの成功事例

ここでは、実際にあった居酒屋業界のM&A事例をいくつかご紹介します。具体的な事例を知ることで、M&Aのイメージがより掴みやすくなるでしょう。

コロワイド(2020年〜)

買い手:株式会社コロワイド(「甘太郎」「NIJYU-MARU」などを展開)

売り手:株式会社大戸屋ホールディングス(「大戸屋ごはん処」を展開)

コロワイドが大戸屋ホールディングスに対して株式公開買付(TOB)を行い、経営権を取得しました。当初は経営陣の賛同を得られない「敵対的TOB」として注目されましたが、最終的にコロワイド傘下に入りました。大手外食企業同士の統合事例として、仕入れや物流の効率化、セントラルキッチンの相互活用といったシナジー効果が期待されています。

鳥貴族ホールディングス(2023年)

買い手:株式会社鳥貴族ホールディングス(「鳥貴族」を展開)

売り手:ダイキチシステム株式会社(「やきとり大吉」を展開)

「鳥貴族」を展開する鳥貴族ホールディングスが、同じく焼き鳥業態の「やきとり大吉」を運営するダイキチシステムを子会社化しました。これにより、鳥貴族グループは異なる価格帯・スタイルの焼き鳥ブランドを持つことになり、ブランドポートフォリオの拡充と、さらなる成長を目指しています。

これらの事例は、居酒屋業界におけるM&Aが、同業間の規模拡大だけでなく、異業種からの参入や事業の多角化、事業承継など、多様な目的で行われていることを示しています。

ただし、M&Aに関する情報は日々更新されており、企業の戦略も変化します。最新の情報については、各社のプレスリリースや信頼できるニュースソースをご確認いただくことをお勧めします。

特徴や事例を元に居酒屋業界でのM&Aを成功させよう

この記事では、居酒屋業界におけるM&Aの動向、メリット・デメリット、価格相場、成功のポイント、そして具体的な事例について解説してきました。

居酒屋業界を取り巻く環境が変化する中、M&Aは後継者問題の解決、事業の再生・拡大、新たな成長戦略の実現など、様々な課題に対する有効な選択肢となり得ます。

ただし、M&Aを成功させるためには、目的の明確化、慎重な相手選び、徹底したデューデリジェンス、そして従業員への配慮などが欠かせません。また、M&Aには専門的な知識が必要となる場面が多くありますので、信頼できる専門家(M&A仲介会社や士業など)に相談しながら進めることが、成功への確実な一歩となるでしょう。


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