- 作成日 : 2025年6月9日
チェンジオブコントロール条項とは?メリットや記載例を解説
企業の成長戦略として、M&A(合併・買収)は今や当たり前の選択肢となりました。しかし、M&Aによって会社の「顔」が変わることは、取引先との関係にも影響を与えかねません。「あの会社、買収されたらしいけど、うちとの契約はどうなるんだろう?」そんな不安を解消するために、契約書に盛り込まれることがあるのが「チェンジオブコントロール(Change of Control)条項」、略してCoC条項です。
この記事では、チェンジオブコントロール条項の基本から、具体的なメリット・デメリット、契約書での記載例、そして注意点までを解説します。
目次
チェンジオブコントロール条項とは?
チェンジオブコントロール条項を簡単に言うと、契約している会社の経営権(支配権)に大きな変化があった場合に、もう一方の会社が契約を見直したり、解除したりできる権利を定めたルールのことです。「支配権変更条項」と呼ばれることもあります。
長年付き合いのある信頼していた取引先が、ある日突然、ライバル会社に買収されたら…。「うちの機密情報は大丈夫かな?」「今後の取引条件、変わっちゃうんじゃ…」と不安になることもあるでしょう。
会社の経営権が変わるということは、経営トップの方針、事業の進め方、場合によっては会社の信用力までガラッと変わる可能性があるということです。そんな予期せぬ変化によって、自社が不利益を被るリスクを防ぐためのお守りのような役割を果たしてくれるのが、このチェンジオブコントロール条項です。ビジネスの安定性を守るための、大切なリスク管理ツールと言えるでしょう。
チェンジオブコントロール条項が適用されるケース
では、具体的にどんなときにチェンジオブコントロール条項が「発動」されるのでしょうか?ここでは、CoC条項が適用される代表的な場面を見ていきましょう。
一般的には、次のような状況が「チェンジオブコントロール(経営権の変動)」とみなされることが多いです。
ただし、何をもって「チェンジオブコントロール」とするかは、契約書ごとに細かく決められています。「株式の〇%以上が移動したら」「この役職の人が変わったら」など、具体的な条件は様々です。ですから、契約を結ぶときには、「どんな場合にこの条項が動き出すのか?」そのスイッチの条件を、お互いによく確認して、はっきりさせておくことがとても大切になります。
チェンジオブコントロール条項の種類
チェンジオブコントロール条項には、発動したときにどんな効果があるかによって、いくつか種類があります。ここでは、よく見られるタイプを3つご紹介します。
契約解除権
経営権が変わったことを理由に、相手方が「この契約は終わりにします」と一方的に解除できる権利です。これが一番よくあるタイプ。「新しい経営陣とは、ちょっとやっていけそうにないな…」と感じたときに、関係をリセットできる選択肢になります。
事前承認権
経営権が変わるような大きな動き(M&Aなど)をする前に、「うち(相手方)にちゃんと説明して、OKをもらってくださいね」と求める権利です。相手方は、変更の内容を聞いて、自社にどんな影響があるかを判断してから、承認するかどうかを決められます。もし承認が得られなければ、契約解除につながることもあります。
通知義務
経営権が変わったら、「その事実を速やかに知らせてください」と義務付けるものです。これによって、相手方は状況の変化をすぐに知ることができ、今後の対応を考える時間を持つことができます。契約解除などの強い権利は定めず、この通知義務だけを定めるケースもあります。
どのタイプの条項を選ぶかは、その契約がどれだけ重要か、お互いの関係性、どんなリスクを想定しているかなどを考えて決められます。
契約書における条項の記載例と注意点
実際に契約書にはどのように書かれているのでしょうか?ここでは、具体的な条項の例と、契約書を作る(またはチェックする)上での大切なポイントを解説します。
【記載例】(もし経営権が変わったら、契約を解除できる場合)
第〇条(チェンジオブコントロール)
1. 甲(または乙)は、相手方について次のいずれかに当てはまる事由が起きた場合、事前に知らせることなく、すぐにこの契約の全部または一部をやめることができます。
(1) 発行されている株式の半分を超える数が、他の人や会社に譲渡されたとき(ただし、甲(または乙)の親会社や子会社への譲渡は除きます)。
(2) 合併、会社分割、事業譲渡などによって、経営の実権を握る者が実質的に変わったと合理的に判断されるとき。
(3) その他、上の(1)や(2)と同程度の重大な事由で、本契約を継続する上での信頼関係が大きく損なわれたと合理的に判断されるとき。
2. 上の1項に基づいて契約をやめたとしても、それによって生じた損害の賠償を求める権利はなくなりません。
【ここが大事!注意点】
- 「チェンジオブコントロール」の具体的な中身をはっきりさせる: これが一番大事です。どんな出来事を「経営権の変更」とみなすのか、「株式の過半数の譲渡」「合併」のように、誰が見ても分かる客観的な基準で書きましょう。「実質的な変更」のような曖昧な言葉だけだと、後でもめる原因になります。
- 例外ルール(適用除外)も考える: グループ会社内での組織再編(例えば、親会社から子会社への株式譲渡)のようなケースでは、CoC条項を発動させたくないこともあるでしょう。そんなときは、「ただし、親会社や子会社への譲渡は除きます」のような例外ルールを入れておくことを検討しましょう。
- 発動したらどうなるかを明確に: CoCが起きたら、具体的にどんな権利が発生するのか(契約解除? 事前承認? 通知だけ?)をはっきり書くことが大切です。
- 「知らせる義務」も具体的に: CoCが起きた場合に知らせる義務を定めるなら、「いつまでに」「どんな方法で」知らせるのかを具体的に決めておくと、スムーズなやり取りにつながります。
- 損害賠償はどうなる?: CoC条項で契約が解除された場合に、損害賠償を請求できるのか、できないのかも書いておくと、より話が明確になります。
契約書を作るときや、相手から提示された契約書を読むときは、これらのポイントをしっかりチェックして、自社の状況に合った内容になっているかを確認しましょう。もし「これで大丈夫かな?」と不安になったら、迷わず弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
チェンジオブコントロール条項のメリット・デメリット
チェンジオブコントロール条項は、契約を結ぶ双方にとって、良い面もあれば、ちょっと困った面もあります。ここでは、それぞれの立場から見たメリットとデメリットを表で分かりやすく整理してみましょう。
立場 | メリット | デメリット |
---|---|---|
あなたの会社(経営権が変わる可能性のある側) | 特にありません。 | M&Aの邪魔になるかも: M&Aを進めるときに、いちいち取引先のOKをもらわないといけなかったり、「契約やめます」と言われるリスクがあったりします。 経営の自由度が下がる: 会社を成長させるためのM&Aや組織の変更が、この条項があることでやりにくくなる可能性があります。 |
取引先の会社(経営権変動の影響を受ける側) | リスクを避けられる: 取引先の経営が不安定になったり、信頼できない相手に変わったりするリスクから、自社を守れます。 関係を見直すチャンス: 「この新しい会社とは、ちょっと…」と思ったときに、契約関係を見直す(やめる)ことができます。 情報をつかみやすい: 事前に承認が必要であることや、通知が義務付けられていれば、取引先の変化を早めに知ることができます。 | 交渉が長引く: CoC条項の細かい条件について、なかなか話がまとまらず、契約を結ぶまでに時間がかかってしまうことがあります。 |
このように見ると、CoC条項は主に、相手の変化によるリスクから身を守りたい側のための保険のような役割が大きいことが分かります。逆に、経営権が変わる可能性のある会社にとっては、M&Aなどの大きな動きをする際の足かせになり得るわけです。
契約交渉では、お互いの立場や心配事をよく理解した上で、CoC条項の中身(どんな場合に発動するか、発動したらどうなるか、例外はあるかなど)をじっくり話し合って、納得できる着地点を見つけることが大切です。
チェンジオブコントロール条項が問題となる事例
チェンジオブコントロール条項は便利な半面、その解釈や使い方をめぐって、思わぬトラブルに発展してしまうこともあります。ここでは、どんなケースで問題が起きやすいのか、そして過去の事例から学べる教訓についてお話しします。
こんなとき、もめやすい!問題ケース
- CoCの定義が曖昧である: 契約書で「経営権が変わったら」の具体的な中身が曖昧だと、「今回のケースはCoCに当てはまるの?」「いや、これは違うでしょ!」と意見が分かれてしまうことがあります。
- 例外ルールの解釈が違う: 「グループ会社の中での移動はCoCじゃないよ」という例外ルールがあっても、その範囲がはっきりしないと、「これは例外のはずなのに!」「いや、これは例外じゃない!」と食い違いが起きることがあります。
- 権利を使うタイミングや方法でもめる: CoCが起きたことを知ってから、「いつまでに」「どうやって」契約解除などの権利を使えばいいのかがはっきりしないと、「もう権利を使う期限は過ぎている」なんて言われてしまうかもしれません。
- 権利の使い方が「ズルい」と思われる: CoC条項の権利を使う目的が、本来のリスク回避ではなく、例えば「単に有利な条件を引き出すためだけ」のように不当だとみなされると、「それは権利の濫用だ!」として認められない可能性もあります。
過去の事例から学べること
過去の裁判などを見てみると、CoC条項が有効か、権利の使い方が適切かは、契約書の言葉遣いだけでなく、契約を結ぶまでの話し合いの経緯、お互いの信頼関係、権利を使ったときの具体的な状況などを、色々な角度から見て判断されることが多いようです。
トラブルを避けるためのヒント
- 契約書は具体的に: 何度も言いますが、CoCの定義、効果、例外ルール、通知の方法、権利を使える期間などを、できるだけ具体的に、はっきりと書くことが一番の予防策です。
- 話し合いの記録を残す: 契約を結ぶときに、CoC条項についてどんな話をしたのか、どんな意図でこの条項を入れたのか、メモなどを残しておくと、後で解釈が必要になったときに役立ちます。
- 早めのコミュニケーション: CoCに当てはまりそうな出来事が起きたら、隠さずに早めに相手に伝えて話し合うことが、無用な争いを避ける近道です。
- 困ったら専門家に相談!: 契約書の内容で迷ったり、権利を使うかどうか悩んだりしたら、すぐに弁護士などの専門家に相談しましょう。
CoC条項は頼りになるツールですが、使い方を間違えると大きな問題になりかねません。具体的な事例も参考にしながら、リスクを未然に防ぐ工夫をすることが大切です。
チェンジオブコントロール条項とM&A
チェンジオブコントロール条項は、会社の合併や買収、つまりM&Aの場面で、特に重要なチェックポイントになります。ここでは、M&AにおいてCoC条項がどんな役割を果たし、交渉でどんな点がポイントになるのかを解説します。
M&AでのCoC条項の重要性
M&Aを進める会社(買う側も、売る側も)にとって、CoC条項は見過ごせない大きな要素です。
- 買う側の会社にとって: 買おうとしている会社が結んでいる大切な契約(例えば、技術ライセンス契約、工場の賃貸契約、主要な取引先との契約など)にCoC条項が入っていると、買収した途端にそれらの契約が解除されたり、不利な条件に変更されたりするリスクがあります。これは、買収によって期待していた良い効果(シナジー)が得られなくなったり、最悪の場合、事業を続けること自体が難しくなったりする可能性を意味します。だからこそ、M&Aの前に行う買収監査(デューデリジェンス、DD)で、「相手の会社の契約書にCoC条項はないか?」「あるとしたら、どんな内容か?」を隅々までチェックする必要があるのです。
- 売る側の会社にとって: 自社の大切な契約にCoC条項があると、M&Aを進めるために、まず取引先の承諾をもらう必要が出てくることがあります。もし承諾がもらえなかったり、承諾の代わりに厳しい条件を出されたりすると、M&Aの手続きが複雑になったり、時間がかかったり、最悪の場合はM&Aの話自体がなくなってしまう可能性もあります。
交渉のポイント
M&Aに関連するCoC条項の交渉では、こんな点が大切になります。
- まずは徹底調査(DD): 何はともあれ、買おうとしている会社がどんな契約を持っていて、その中にCoC条項がどれくらい隠れているのかを正確に把握することから始まります。
- リスクの大きさを測る: もしCoC条項が発動したら、どれくらいの影響があるのか(例えば、あの契約がなくなったら事業は大丈夫か?)を評価して、対応すべき優先順位をつけます。
- 取引先と事前に話し合う: 影響が大きいと判断した契約については、M&Aを実行する前に、その取引先に連絡を取って、「今回のM&AではCoC条項を使わないでくださいね」とお願いする(権利放棄、ウェイバーと言います)か、「うちのケースは例外にしてください」と交渉します。/li>
関連するルールなど
M&AにおけるCoC条項の扱いについて、直接的に定めた法律は少ないですが、会社を守るための会社法のルールや、市場の独占を防ぐ独占禁止法のルールなどが関係してきます。経済産業省が出している「事業再編実務指針」なども参考になります。
M&Aを成功させるためには、CoC条項という隠れたリスクを早めに見つけて、うまく対応していくことが欠かせません。専門家のアドバイスも聞きながら、慎重に進めていくことが大切です。
チェンジオブコントロール条項の注意点
これまでのお話を振り返りながら、チェンジオブコントロール条項について、特に気をつけておきたいポイントを改めて整理します。
- 定義は具体的に: 「チェンジ オブ コントロール」とは具体的に何を指すのか?株の譲渡なら何%以上?どんな種類の組織再編が対象?など、誰が読んでも解釈がブレないように、具体的に書きましょう。
- 本当に必要か、内容は適切か考える: なんでもかんでもCoC条項を入れるのではなく、その契約の重要さや取引の内容に合わせて、「本当にこの条項は必要?」「入れるなら、どんな効果(解除?事前承認?通知?)が適切?」をよく考えましょう。
- 相手の言うことを鵜呑みにしない: 契約の相手から「CoC条項を入れてほしい」と言われたときに、内容をよく確認せずに「はい、分かりました」と安易にOKしないようにしましょう。特に、あなたの会社が将来M&Aをする可能性があるなら、CoC条項が足かせになるリスクをちゃんと理解しておく必要があります。
- M&Aの買収監査(DD)では絶対チェック: M&Aをするときは、買おうとしている会社の契約書にCoC条項がないか、デューデリジェンスで徹底的に確認することが必須です。見落としてしまうと、買収した後に「しまった」ということになりかねません。
- 権利を使うときは慎重に: CoC条項に基づいて契約を解除するなどの権利を使うときは、「本当にそれが必要か?」「やりすぎていないか?」を冷静に判断しましょう。場合によっては、「権利の使い方がひどい(権利濫用)」とみなされるリスクもあります。
- 困ったら専門家に相談: CoC条項を作る、チェックする、解釈する、権利を使う…など、少しでも迷ったり不安になったりしたら、必ず弁護士などの専門家に相談しましょう。プロの視点からのアドバイスが、思わぬリスクを避ける助けになります。
これらの注意点を頭の片隅に置いて、CoC条項とうまく付き合っていくことが、ビジネスを安定させ、スムーズなM&Aを実現するための鍵となります。
チェンジオブコントロール条項を理解し、適切に活用しよう
今回は、チェンジオブコントロール(CoC)条項について、基本的な意味から種類、メリット・デメリット、M&Aでの重要性、そして注意点まで、できるだけ分かりやすく解説してきました。
CoC条項は、会社の経営体制が変わるという大きな変化があったときに、契約関係をどうするかを事前に決めておく、とても重要なルールです。特に、取引先の変化によるリスクから自社を守りたい場合には、心強い味方になってくれます。その一方で、M&Aなどを考えている会社にとっては、自由な経営判断の妨げになる可能性も持っています。大切なのは、CoC条項の内容を正しく理解し、自社の状況や契約の重要度に合わせて、適切な内容を設定し、運用していくことです。
CoC条項は、ビジネスのリスク管理と戦略実行の両方に影響を与える、いわば「諸刃の剣」のような側面も持っています。複雑な部分もありますので、判断に迷う場合や、会社にとって重要な契約を結ぶ際には、ためらわずに弁護士などの専門家に相談し、的確なアドバイスをもらうようにしてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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