電子保存義務に対応するためのポイント|施行まであと【9ヶ月】電帳法対応の最終チェック③

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前回は電子保存義務の概要と宥恕期間や緩和措置の内容を見てきました。今回は、電子保存義務の具体的な対象を解説していきます。

電子保存義務とは?

すこしおさらいです。電子帳簿保存法(以下、電帳法)で定められている内容は、(1)帳簿や決算書類の電子保存、(2)電子取引情報の電子保存、(3)紙面の証憑書類のスキャナ保存、の3種類であることは既にご説明しました。

そのうち、(1)と(3)は、電子保存することができる、という任意の規定であることは変わりありません。電子保存が義務付けられるのは、(2)電子取引情報です。

令和4年(2022年)の電帳法の改正により、(2)の電子取引情報の電子保存が令和6年(2024年)から義務づけられることになりました。

社会からの要請により様々な宥恕規定や緩和措置が採られましたが、令和6年1月1日から電子保存が義務付けられること自体は変わっていません。

適用開始まで1年を切りましたので、要件を正確に理解して今のうちから準備しておくことが大切です。

電子取引情報の電子保存とは?

まず、大元の電子帳簿保存法でどのように定められているか、見てみましょう。電子保存義務は、電帳法の第7条で次のように定められています。

(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

 

キーワードを拾ってみます。

    (1)所得税及び法人税
    (2)保存義務者
    (3)電子取引
    (4)取引情報
    (5)電磁的記録

(1)所得税及び法人税
ここでは所得税が含まれていることがポイントです。法人税のみであれば、法人税の対象である法人のみが関係することになるのですが、所得税も含まれていますので、個人事業主をはじめとする所得税の納税者まで対象になります。範囲がかなり広いといえるでしょう。

(2)保存義務者
電帳法で次のように定義されています。「国税に関する法律の規定により国税関係帳簿書類の保存をしなければならないこととされている者をいう。」

ここで国税関係帳簿書類とは、国税関係帳簿または国税関係書類を意味していますが、電子保存義務の関係では帳簿は関係ないため、国税関係書類になります。

国税関係書類とは、国税に関する法律の規定により保存をしなければならないこととされている書類です。取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書や相手方に交付したこれらの書類の写しを意味します。

(3)電子取引
電帳法で次のように定義されています。「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」 電磁的方式の定義は(5)にあります。

(4)取引情報
こちらは次のように定義されています。「取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。」

(5)電磁的記録
こちらの定義は次のとおりです。「電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式)で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。」

まとめると、次のようになります。

所得税または法人税における国税関係書類の保存義務者は、取引に関して受領し、または交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他の書類に通常記載される情報の授受を電磁的方式で行った場合は、財務省令で定めるところによって、当該情報を電磁的方式で作られる記録によって保存しなければならない。

電子取引の具体例

電子取引の具体例は、国税庁が公表しているQ&A(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】の問2)に挙げられています。

具体的には、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)、インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引等をいいます。

(1)EDI(Electronic Data Interchange;電子データ交換)取引
企業間における取引に関する文書を専用回線や通信回線を通じてやり取りをする仕組みをいいます。

紙面ではなく電子でやり取りすることにより情報交換が迅速になり、また情報が標準化され業務を効率化できることから多くの企業で導入が進んでいます。これらは電子取引に該当することになります。

(2)インターネット等による取引
インターネット通販サイトなどで商品や備品を販売、購入する取引が該当します。

相当程度一般的になっていますので、法人、個人事業者ともに該当する取引はほぼ存在しているのではないでしょうか。

(3)電子メールにより取引情報を授受する取引
取引先と電子メールで注文書や見積書、請求書、領収書といった取引情報をやり取りする場合が該当します。

メールにPDFを貼付する場合はもちろん、メール内のテキストに情報を記載する場合も含まれます。こちらも一般的な方式になっていると考えられます。

(4)インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引
電子請求書や電子領収書をインターネット上のサイトで発行、受領できるクラウドサービス(請求書受領サービス)などを使用した場合が該当します。

これらの取引がある場合には、電子保存義務の開始に備えて、何らかの対策を講じておく必要があります。

自社内で保存するか、もしくは何らかのサービスを利用することになりますが、自社内で保存するためには電帳法の要件を正しく理解し、それに合わせた方法を準備する必要があります。

上記の(4)では請求書受領サービスが例として挙げられています。このようなサービスには、電帳法の要件に合致したかたちで取引情報の保管を行ってくれるところもありますので、そのようなサービスを利用するのも一つの方法と考えられます。

まとめ

ここでは、電子帳簿保存法の条文にさかのぼって、電子保存義務の内容と具体的な対象を見てきました。

次回は、電子保存義務の要件について解説します。

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