コロナ禍で企業がもっとも影響を受けた業務のひとつに、経理業務があるのではないでしょうか。紙で行っていた経費清算処理などの電子化が急務となった会社も多いと思います。しかしお察しの通り、そのような業務改革で一時的に担当者の負担が増えてしまうことも。一部の業務負担を減らす手立てとして昔から利用されてきたBPOが、いま再び注目を集めています。経理業務のBPOにどんな可能性があるのか、『経理部門の働き方改革のススメ』(税務研究会出版局)、『BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる』(共著)など多数の著書をもつ、公認会計士・税理士の中尾篤史先生に教えてもらいます。
目次
そもそもBPOとは何の略なのか?
BPOという用語を聞いて、何の略であると思われるでしょうか。
BPOという略称で、新聞などでよく出てくるのは、放送倫理・番組向上機構の方が多いように思えます。こちらのBPOは、Broadcasting Ethics & Program Improvement Organizationの略です。
ただ、これからお話をするBPOは、英語のBusiness Process Outsourcing、ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称の方です。アウトソーシングというのは、自社のノンコア事業を他社に外部委託をして、自身はコア事業に専念する経営手法です。
1990年代にアメリカ企業を復活させた経営手法の一つに「コア・コンピタンス経営」という手法があります。コア・コンピタンス経営というのは、
- 他社に真似できないような核(コア)となる能力
- 他社との競争上優位となる源泉
を極めて競争力を維持していく経営手法です。つまりは、強みを伸ばして市場を席巻することが特徴です。逆に言えば他社でもできる部分に経営資源を投入することは、競争優位に寄与しないと考えています。
コア・コンピタンス経営はアウトソーシングと密接な関係にあります。繰り返しになりますが、アウトソーシングを導入する企業の多くが重要視していることは、導入によって経営資源をコア業務に集中させることです。コア業務を極めていくことで他社との競争に打ち勝つことに注力し、ノンコア業務は他社にアウトソーシングすることで、その分で空いた人材等の経営資源をコア業務に投入するのです。
アウトソーシングが業務全般を外部に委託する広い範囲でとらえているのに対して、BPOは、企業のビジネスプロセスの一部を外部に委託するというように狭義のアウトソーシングととらえられているケースが多いです。
BPOサービスは「IT系」と「非IT系」に区分される
BPOサービスにはどのようなものがあるのを考える場合に、IT系のBPOサービスと非IT系のBPOサービスに区分して考えることができます。IT系のBPOサービスというと、情報システム部門が行うシステムの運用業務を外部に委託するサービスが挙げられます。具体的には、データセンターを活用したり、クラウドサービスを活用してシステムの運用を外部に委託するといった方法がIT系のBPOサービスの典型的なケースです。
これに対して、非IT系のBPOサービスには、システム運用以外のビジネスプロセス全般のサービスが含まれることになります。比較的歴史のあるBPOサービスの一つとしては、コールセンター業務があります。コールセンター業務は、最近では「コンタクトセンター業務」と言われることが多く、その内訳も顧客からの問い合わせに対応するインバウンド業務と、顧客を獲得するために営業の電話をかけるアウトバウンド業務に区分することができます。それ以外にも、非IT系のBPOサービスは、人事業務、経理業務、営業代行など多岐にわたっています。
ただし、最近はIT系のBPOサービスと非IT系のBPOサービスをミックスして提供されるケースも増えていて、垣根がなくなってきています。具体的には、IT系であるクラウドのサービスを提供しながら非IT系の経理処理のサービスを提供する、といったサービスがそれにあたります。
非IT系のBPOサービスはどこまで広がっているのか
経理業務のBPOサービスは非IT系のBPOサービスに属しますが、まずは非IT系のBPOサービス全体をもう少し細かく見てみると、主に次のようなサービスがあります。
・コンタクトセンター業務:先ほど説明しましたが、インバウンドとアウトバウンドに分けられますが、アウトバウンドはテレアポ業務という言い方の方が馴染みのある方が多いかもしれません。
・福利厚生代行業務:自社で保養所等を保有するのではなくて、BPOベンダーが保有する保養所等を共同利用することをはじめ、様々な福利厚生のプランを企業に提供するサービスです。
・採用代行業務:募集から人選、面談、採用後の教育まで採用に関するプロセスの一部を提供するサービスです。もちろん面談だけはBPOせずに、面談以外をBPOするといったように企業のニーズに合わせてサービスの組み合わせを変えることは可能です。
・営業代行業務:企業の営業を代行するサービスですが、案件の契約まで完了させるサービスもあれば、制約前の案件ファインディングまでといったように範囲は発注企業のニーズに合わせて様々です。
・給与計算・社会保険業務:給与計算や年末調整、社会保険の金額算定や助成金等の諸手続きを代行するサービスで、社会保険労務士と提携して給与計算と社会保険業務を一気通貫して提供しているケースが多いです。
・経理業務:後ほど詳細記載しますが、伝票入力から決算まで幅広く経理業務の代行がサービスとして提供されています。
BPOサービスの市場規模と今後のニーズはあるか
日本国内のBPOサービスは、労働者人口の減少に対応するように、サービスの範囲が拡充されてきています。市場規模は現状どれくらいで、これからどこまで伸びていくのでしょうか。
矢野経済研究所の調べによるとIT系、非IT系のBPOともに市場は拡大しており、2018年度の非IT系のBPOサービスの市場規模は、前年対比1.9%増の1兆7348億70百万円とのことでした。今後も労働力不足の影響等を受けて、市場の拡大が見込まれているというのが同研究所の市場予測です。
また、昨今は少子化による労働力不足に加えて、働き方改革の推進を行うために、大企業を中心に労働時間の圧縮を進めており、その一環でBPOを検討するケースが増えてきています。このような労働環境が継続する限り、市場規模の一定の拡大は見込まれると言えるでしょう。
経理業務のBPO業務では、どこまで実施がされているのか
では、経理業務のBPOサービスでは、どのような業務が実施されているのでしょうか。
伝票入力:経理業務の基本である伝票入力は、単純業務として企業が外部委託する際の候補になる一つです。ただ、最近は、手入力をするという手続きをなくすようにシステムを活用しているケースが増えているので、単純入力作業は減っていく傾向かと思われます。
支払代行:取引先に支払う情報の作成業務です。具体的には、インターネットバンキングに取り込むためのデータの作成を行って、実際の送金自体は発注側が行うケースが多いです。送金までBPOサービスベンダーが行ってしまうと牽制が利かなくなる可能性があるので送金データの作成までという業務の仕切にしているのが背景です。
請求書作成業務:販売データをもとに請求書を作成して発行する業務です。ただ、発行する業務関しては、電子化の流れで発送自体がなくなってきていますので、その部分は減少していくことも予想されます。
入金消込:販売先からの入金情報をもとに売掛金の消込を行って、債権管理をする業務です。膨大な量の入金がある会社の場合、消込作業だけで月末から月初にかけて業務に忙殺されることになるので、業務の平準化を目的に消込業務を依頼する企業もあります。また、必要に応じて滞留先への督促業務を行うこともあります。
決算業務:上場企業の場合、四半期決算含めて決算スケジュールがタイトになっているケースが多いです。連結決算を行っている企業群の場合は、子会社に十分な経理要員がいないこともあります。連結決算の開示をタイムリーに行うためには、子会社の決算自体は決算月の翌月10日前後に締める必要がある場合が多く、決算の早期化に対応するために、決算業務をBPOすることがあります。また、制度の改正等で決算業務に一定の専門知識が求められることもあり、そのような知識の供給をBPOサービスベンダーに求めてBPOするケースもあります。
おわりに
企業の成長のための仕組みであるBPOは、経理の業務においても着実に浸透してきています。これまでBPOと聞いても「自分たちの業務にはあまり関係がないだろう」と思いがちだった部門においても、今後どのように活用したら自社のコア事業が飛躍するのか考えてみてはいかがでしょうか。
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