<つぶれない会社の負けない経理戦略> 第2回「粗利50%以上」の意識を社内に浸透させる

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現場の社員は販管費や純利益を理解していますか?

私はフリーランスのテレワーカーとして、これまでさまざまな業種、さまざまな職種の方達と仕事をしてきました。その中で気づいたことが2つあります。一つは、多くの方は「売上-原価=粗利」までの認識については、ほぼあるということ、そしてもう一つは、そこから先のこと、つまり販管費や税引前当期純利益といったことまでになると、認識がない、興味がない、ということです。

これからの数年間は、「社員全員が、赤字につながる行動をしない」ということが会社として生き残る絶対条件であると私は思います。そのためには、「うちの会社はまだ資金や内部留保があるから大丈夫」という考えではなく、経理や経営陣だけでなく、「全社員」が、「実際に手元に残る利益」に対する理解や認識は、常にできるようにしておいたほうが良いと思います。

現状、なぜ多くの人が、会社の数字についての理解度が深くないのかという理由は、規模の大きな会社と小さな会社、それぞれの事情があるからだと思います。

大企業の財務諸表の数字は大きすぎてピンとこない

まず大きな組織の場合、たとえば上場企業などは、社内のみならず社外にさえ開示していますので、社員が財務諸表を見ようと思えばいつでも見られます。しかし大企業の現場の社員の方達に伺うと、ある方は「金額が大きすぎてピンとこない」と言っていました。またある方は、「1万円の備品さえ備品購入申請を提出しなければならないほどお金を使う権限がないのに、何千億円の売上とか何百億円の利益とか見させられても、自分に関係することのように思えないし、ピンとこない」と言っていました。「ピンとこないものには関心がない」ということです。大企業は従業員数も拠点数も多いですので、ルールもシステマティックにしなければいけないのは仕方がないことですが、社員数が増えることで怖いのは、経営側と社員側が互いに無気力、無関心になりやすいということです。「数字も開示しているのだから、社員は自発的に見てくれているだろう」と経営陣が思っていても、ほとんどの人は見ていない、ということが起きたり、「自分一人が節制したり声を上げても経営陣など気にかけてくれるはずもない」「自分一人が不正をしたって会社もつぶれないし、ばれないだろう」という、モラルの低下、秩序の乱れにより、さらに利益を押し下げてしまうということが起きやすくなります。

小規模の会社の数字は社員に開示されていない

他方、規模の小さな会社などは、経営者が、会社の数字を基本的に限られた幹部メンバー以外には見せたがらないという傾向があります。多くの経営者の方々がその理由として、「へたに見せて、間違った数字の見方をされると困る」ということをおっしゃられます。役員報酬や給与の勘定科目だけを見て、「役員報酬が高すぎる」「どうしてうちの部門はあの部門よりも給与が安いのか」などと計算されて、社内が混乱するのを避けたいということだと思います。確かにそういう社員を私も見たことがあるので一理あります。売上と、人件費の入っていない直接原価は全社員には開示をして、そこから先は見せない、という会社が多いのではないかと思います。だから多くの会社員は、「売上-人件費の入っていない直接原価」までは理解ができていて、そこから先は「よくわからない」ということが起こるのだと私は思います。ただしこれも、一部の社員の言動を気にして、いつまでもそういうことを言っていたら計数感覚のある優秀な社員というのは育ちません。別に1科目ずつ細かく勘定科目を見せなくても、「原材料費」「人件費」「一般経費」というように、会社独自で、会議資料用に勘定科目をある程度まとめて社員に提示してもいいのですから、できれば、売上だけでなく、会社全体にかかっている経費についても社員に認識してもらったほうが良いと思います。そうでないと、「売上-人件費の入っていない直接原価」がプラスでさえあればそれでいいんじゃないですか」という考えを持った人達が増えてしまうからです。

計数感覚を養うために「粗利50%以上」を意識する

この二つの事例を挙げただけでも、全社員に会社の数字を正しく認識してもらうには、さまざまな条件をクリアし、手間を掛けなければいけないことがおわかりになると思います。経営者や経理社員の方達から「理想はそうだけど、現実はなかなか…」という声もあるかもしれないと思った時に、ふと、発想の転換をすればいいのだなとひらめきました。

どのような条件下の会社でも、現場の方達に、バランス良い計数感覚を持っていただく一番簡単な方法の一つとして、私は、「粗利50%以上を常に意識して仕事をしてください」という一言を提案すればいいのではないかなと思います。

厳密に言えば、業種によっては粗利率のベースもばらつきがあると思いますが、ここではあくまでも「計数感覚を養うマインドセット」として捉えて頂ければと思います。

たとえば、売上に対して粗利率が40%前後、販管費が30%前後、税引前当期純利益が数%~10%前後で、最後税金を引かれた金額が手元に残る、というような会社があるとします。その場合、現場の人達が経理の勘定科目を覚えたり、販管費の比率を覚えたりする、というのは、幹部クラスなら必要ですが、全社員がそこまで対応するのは現実的には難しい会社のほうが多いでしょう。そこで、「粗利50%以上を目指してください」「粗利50%を切ったら、まずいと思ってください」という形でアナウンスするというのが一番手間もかからず、わかりやすく、そして現実的でいいのではないかと思います。

なぜ50%がいいかというと、理由はいくつかありますが、まず言い換えがしやすいということです。たとえば経営陣が社員に対して、

「売値の半分でコストを納めるようにして!」
「かかった費用の2倍で売れる方法を考えて!」

というように、上司から部下に指示を出しやすいですし、指示を出されたほうも直感的に理解がしやすいからです。「ピンとこないものには無関心」ですので、「ピンとくる伝え方」をする必要があるということです。大事なのは「やっつけ」「流れ作業」で仕事をするのではなく、常に1回1回、「利益が出ているかな」と考えながら仕事をしてもらうことです。

そしてリアルな話でいえば、粗利率もこれまでは30%台の数字が出ていれば、これまではなんとか黒字を確保できたところも多かったでしょうが、このコロナ禍では、売上が急減している会社も多いと思いますので、今までの粗利ベースよりも粗利率を少し高くしていかないと、黒字がキープできなくなってくる会社も多いはずです。現実的には販管費を削るか、原価と販管費両方に含まれている人件費を削るか、どちらかの選択を迫られている会社も多いことでしょうが、まずは「意識」として、1%でも粗利を高いままキープする行動を全社員に求め続けるということが、今の状況ではとても大切なことだと思います。

「粗利50%」というと、実際はかなり高い粗利率ですが、なぜあえてそうするかというと、たとえば予算上の粗利率を40%と設定している場合、各社員が粗利40%の意識で行動すると、まず実績値の粗利率は予算よりも下がります。これは、現場から上がってくる予算が「全てうまくいって」という数字で作られていることが多いというのと、人間の「楽をしたがる」特性の両方の理由があると思います。どちらにしろ、「売上が想定していたより下がった」「費用が想定していたより増えた」という確率は、「運よく売上が上がった」「運よく原価が抑えられた」という確率より圧倒的に高いですから、各会社で設定している予算よりも、マインドセット的には「プラス10%以上」の粗利率を目標にする、という意識を持つくらいで、そうした「想定外の売上減、コスト増」を吸収でき、ちょうど現実の予算と帳尻があってくると私は思います。

今実際にテレワークをしている会社員の方もいらっしゃるでしょうが、もし額面40万円の給与をもらっている場合、フリーランスのテレワーカーとして独立をして将来やっていこうと考えると、生活水準を保つために同じ額面の給与をもらうためには最低いくらの売上が必要になるでしょうか。自分の給与を原価とみなして粗利50%に設定すると、最低でも月額80万円、年間960万円の売上を自分で営業をして仕事を得られれば、今と同じ安定的な暮らしができると思います。「余裕です」という人もいれば「そう考えると、今まで40万円って少ないと思っていたけど、案外恵まれているのかも」と感じる人もいることでしょう。身近な例えで数字を意識してみると、仕事においても計数感覚が育ちやすく、そして活かしやすくなると思います。

<つぶれない会社の負けない経理戦略>
第1回「売上が突然0円になったら」を想像する

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(クロスメディア・パブリッシング)



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