マネーフォワード元CFOの金坂直哉に聞く、財務担当者が知るべき「資金調達の基本」

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会社の成長を支える資金調達。その資金調達を遂行する財務担当者は、どのような視点や考え方で業務に臨めばよいのでしょうか。

今回は、マネーフォワードの取締役執行役員で、2015年から2018年までCFO(現在はコーポレートディベロップメント室長)を務めた金坂直哉にインタビューを実施。

創業期より事業成長を財務から支え、2019年6月に米金融誌Institutional Investor社が公表した「The All-Japan Executive Team」で、「Best CFO3位(金融・ノンバンク・その他領域)」に選ばれた金坂に、財務担当者の役割や主な資金調達手段の基本について聞きました。

【プロフィール】金坂 直哉(かねさか なおや)
マネーフォワード 取締役執行役員 コーポレートディベロップメント担当 
東京大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス証券株式会社の東京オフィス、サンフランシスコオフィスにて約8年間勤務。テクノロジー・金融業界を中心にクロスボーダーM&Aや資金調達のアドバイザリー業務、ゴールドマン・サックスが運営する投資ファンドを通じた投資及び投資先企業の価値向上業務に携わる。2014年マネーフォワードに入社。2015年に執行役員CFO、2017年に取締役執行役員CFOに就任し、資金調達及びM&A、東証マザーズへの上場、金融機関との業務提携等を主導。2019年3月よりコーポレートディベロップメント担当取締役。

財務担当者のメインの役割は「資金調達」

――企業における財務の役割について教えてください。

会社の成長を支えるのが財務の役割です。まず事業戦略が第一にあって、それを支えるために財務戦略を立てていきます。事業戦略の裏付けとしての財務ですね。そしてその詳細な財務の役割は会社の規模によって全然違ってきます。

まず前提として、必要な資金調達を行うことが財務のメインの役割となります。投資家から資金調達を行うためには、投資家にビジネスが「投資に対するリターンがあるもの」であると示さなければいけませんし、銀行から融資(デット)を受ける場合には、銀行にビジネスが「融資が将来的に弁済されること」を示さなければいけません。そして、そのためには会社の状況を定量的・定性的に示し、どのように調達した資金を使っていくのかを説明できなければいけません。そのために、会計数値、事業KPIをしっかりと把握しておく必要があります。そして、それを事業戦略と紐づけてストーリーを作っていくことが求められます。

その上で資本をどのようにアロケーション(分配)していくのかを考え、実行することが必要です。

――経理と財務ではどのように役割が分担されるのでしょうか?

経理と財務は表裏一体です。経理数値なしに財務業務は成り立ちません。経理は会社の状況を知る基礎となるPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)を適切に表し、財務はそれに基づいて資金繰りを考えていくことが仕事です。

ベンチャー企業であっても、しっかりと会計データを整理してくれる経理は必要になります。資金調達は事業とキャッシュフローが黒字で、資金繰りに悩んでいなければ極論必要ないのです。急成長ベンチャーで資金を先に投下するような計画であれば、必然的に財務の重要性が上がってきます。

財務の役目は「複数の調達手段を持つこと」

――会社の成長のための資金調達にはどのような方法がありますか?

調達方法にはベンチャーキャピタルなどの投資家から出資を受けるエクイティや、金融機関から借入を行うデットなどがあります。教科書的に言うとエクイティの出資は返済の必要性がなく、株式を発行して調達するものなので、最後の手段とも言えるかもしれません。とは言え、急成長フェーズではエクイティによる調達は重要で、マネーフォワードでも15億円程度調達を行いました。

総じて言えることは会社として複数の資金調達の選択肢を持っていることが重要ということです。事業の状況や用途に合わせて、それにとって一番望ましい選択肢を取っていく。その選択肢を取れるということが財務の役目として欠かせない部分です。

一例として、マネーフォワードでは15億円の調達(エクイティ)の後、銀行から4億円の借入(デット)を行いました。まず事業に投資するために15億円のリスクマネー(回収できない危険性のある投資資金)を得た上で、さらに事業を加速させるための広告宣伝費として4億円を調達したのです。なぜ後からデットを行ったかというと、広告宣伝の投資回収については見通しを持っていた、つまり弁済できると示せたので銀行から調達を行いました。

――エクイティやデット以外の選択肢はあるのでしょうか?

ファクタリングも資金調達の一種と言えるでしょう。これは売掛債権をファクタリングを行う会社に売却することで、早期に資金化を行う手法のことです。

例えば建設業界は非常にお金の出入りが激しい業界です。仮に、あるゼネコンがマンションを建て始めるとしましょう。200億円のプロジェクトとして受注を受けた建設会社は、厳しい支払条件の案件では、最初に20億円、中間でさらに20億円、最後に160億円といった報酬の受け取り方をします。どうしてこうなるのかと言うと、そこには発注企業と受注企業に力関係があるからです。

しかしそうなると、受注企業は資金繰りが苦しくなります。受注してすぐに貰える金額は大きくないため、毎月の給与の支払いや資材購入などが発生すると、最後に160億円を受領するまでどうしても「持ち出し」が出てきてしまいます。

しかし、資金はビジネスにおいて血液なので、それが止まってしまうと同時にビジネスもできなくなってしまいます。そのために短期的なキャッシュフローの収支ギャップを埋める用途でファクタリングを利用するというのは非常に合理的な選択です。

――手元にキャッシュをつくることができれば事業成長も早くなりそうです。

最近は、より戦略的にファクタリングを利用しようという動きもあるようです。例えば、Airbnbなどのシェアサービスや、アフィリエイトASPなど、プラットフォームを提供している企業がユーザーの囲い込みで利用することも可能でしょう。

プラットフォーマーは需要と供給をマッチングさせることで収益を得るようなビジネスです。この業態では、スキルや場所などの提供者に対しての報酬の支払いが遅く設定されやすい傾向があります。しかし当然、スキルや場所の提供者としては早期に資金を得ることができた方がメリットが大きい。そこでプラットフォーマーが売掛債権をファクタリングすることで、提供者に対し早期支払いのための資金を確保し、より早く報酬を支払うことが可能になるのです。

これによりユーザー便益を高めることができ、よりプラットフォーマーとしての価値を高めていくことができます。

業界ごとに必要な財務スキルは違う

――調達の判断を行う財務としてのスキルはどのように学べるのでしょうか?

もちろん本などで勉強することは一定程度可能だと思いますが、最終的にはOJTで経験・学習していくことが重要かと思います。身を置く業界によって市場環境や、適切な手法も違うので、本から理論やノウハウを学ぶことも必要な一方で、自社の状況をしっかりと把握し、実践し、経験を積んでいくということが最も重要です。例えば資金調達の手法によって必要なスキルは変わってきます。

銀行からの調達ではハイリスクなビジネスに投資を行うというより、リスクが低いビジネスに対して低金利でデットを行うという特徴があります。一方でベンチャーキャピタルの役目はリスクマネーの供給にあります。そのため、いかにリスクを取ってビジネスを急激に成長をさせていくかというストーリーを描くことが必要になります。

財務の立場として大切なことは、複数の調達手段を考えて、知見とアクセスを持っておくことです。エクイティもデットもファクタリングもそれぞれに「pros/cons(長短)」があるので、自社に最適な手段を組み合わせることができるように常に考え続けましょう。

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