ベンチャーキャピタルの資金調達は「メリットデメリットが表裏一体」

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ベンチャーキャピタルは、スタートアップにとって上場を夢から現実に変えるための心強いパートナーです。自らの事業を躍進させることを願うスタートアップや起業家の方々に、ベンチャーキャピタルの資金調達で起こる具体的なメリットとデメリットを解説します。(監修者:公認会計士 北川ワタル)

スタートアップに追い風!VCの最新投資傾向

ベンチャーキャピタルによる資金調達の魅力は、銀行など金融機関からの融資と異なり、返済義務が生じないことです。そして、上場を前提とした出資は、スタートアップの成長を加速させてくれます。

まず、ベンチャー企業が創業し、事業を軌道に乗せるまでの過程は次の4段階に区分できると考えられています。これを成長ステージと呼びます。

<成長ステージ>
・シードステージ
 研究、開発、会社設立などの段階
・アーリーステージ
 売上の安定していない会社設立初期
・エクスパンションステージ
 売上や組織の成長時期
・レーターステージ
 売上拡大や株式公開を控えた時期

ベンチャー企業の調査を手掛けるベンチャーエンタープライズセンターによると、2018年の国内投資総額は約900億円。その総額のうち64.2%にあたる約577億円が、ビジネスモデルを具体化し、プロトタイプの開発段階という「シード」「アーリー」ステージの企業に対して投資されています。この「シード」「アーリー」への投資増の傾向は、創業間もないスタートアップにとっても心強く感じるでしょう。

■2018年ステージ別投資実行(株式会社INCJを除く):金額(国内) 単位:億円

※一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンター投資動向調査より2018年四半期ごとの調査結果をまとめた表(筆者加工)

VCの資金調達はメリットとデメリットが表裏一体

ベンチャーキャピタルから資金調達を行うことで、上場に向けた短期間での成長が現実になります。

しかし、単純に資金を出資(投資)してくれるわけではありません。出資の前提は上場させること。そして、そのためには、上場できるようベンチャーキャピタルの経営方針に従わなくてはなりません。

「自らが立ち上げた事業の方針を貫くこと」を第一とする起業家であれば、妥協できない部分も必ず出てくることでしょう。起業家のあなたが、短期成長を望むか、自由な経営を望むかで、ベンチャーキャピタルによる資金調達のメリットとデメリットは大きく違ってきます。

VCの経営支援=VCの経営方針に従うこと

ベンチャーキャピタルが出資するものは資金だけではありません。彼らが保有する豊富な経営ノウハウも出資先企業に対して提供します。その方法は、ベンチャーキャピタルから役員が出向することによって、現場に近いポジションで「経営支援」を実施するケースがほとんどです。さらに、ベンチャーキャピタルが出資する別の企業との事業提携や協業も橋渡ししてくれる場合があります。

時代を反映した斬新な事業をスタートした起業家にとって、こうした豊富な経営ノウハウには学び従うべき部分も多く、他社との業務提携や協業は魅力溢れるサポートです。

しかし忘れてはならないのは、これらの「経営支援」は「短期間で事業を成長させ、上場するためのベンチャーキャピタルの手法」であり、「出資した資金を早期に回収することが目的」ということです。「経営支援」というよりも、ベンチャーキャピタルの「経営方針」に従うことになるのです。

上場準備にかかるコストと労力

すでに触れていますが、ベンチャーキャピタルの基本的なビジネス構造を再度確認しておきましょう。

ベンチャーキャピタルは、早期に事業を成長させ、企業価値を高め、株式市場での上場を実現させるために、成長性のあるスタートアップに対して資金と経営支援を提供します。

上場に際して、ベンチャーキャピタルが保有する株式を売却することで、出資した資金を回収する仕組みで成り立っています。上場後の株式売却により得られる金額が、出資した金額よりも上回っていることが前提。「上場益を得る」と言われる出資による利益の享受が基本的なスタイルなのです。

ベンチャーキャピタルが、出資したスタートアップができるだけ早く上場することを望むのは、それにより投資した資金の早期回収が可能になるからです。

上場するには、事業を成長させることだけではなく、上場するための費用と準備が必要になります。ベンチャーキャピタルからの資金調達を行うと、この上場準備が早々に始まるのです。

上場に必要な費用

JASDAQ上場の場合、必要な費用は上場審査料が200万円、上場できた場合の新規上場料が600万円、合わせて800万円です。

上場に関わる費用としては、準備段階から大きなコストが求められます。具体的には、主幹事証券会社に支払う上場準備手数料、上場した場合に同社に支払う成功報酬、株式事務代行手数料、監査費用、コンサルティング費用などが必要で、2,000万円~4,000万円程度のコストがかかると言われています。

上場までの流れと必要な労力

上場準備を開始するにあたっては、社内でプロジェクトチームを編成するのが一般的です。しかし、幹事証券会社の選定や監査契約、株主構成の見直しなど、専門知識を有する社内の人材と決定権をもつ経営者が、多大な時間と労力を費やすことは言うまでもありません。

<上場準備の流れ>
■ステージ1(スタート年度)
●プロジェクトチーム立ち上げ
●幹事証券会社の選定
●監査契約の締結
●株主構成の見直し
・従業員持株会制度
・経営者持株比率

■ステージ2(スタート次年度)
●経営管理体制の整備
・組織体制の検証と見直し
・社内諸規定の作成
・予算統制
・内部監査

■ステージ3(上場前年度)
●上場申請書類の作成
●経営管理体制の運用状況再確認

■ファイナルステージ(上場前年度末)
●上場申請の実施
●定款の変更
●公募・売り出し

成長が見込めなくなると「早期資金回収」リスクも

ベンチャーキャピタルから資金を調達し、上場準備をスタートした場合でも、市場の急変や競合の出現など、事業の成長性が見込めなくなる事態が起こると、早期に資金回収されるケースもあります。

資金回収の方法は様々ですが、関連事業を展開する企業とのM&Aによる出資額の回収などが早期回収の一例です。単独企業として、事業を展開する市場での成長性や優位性が失われる可能性が強くなれば、早期回収の動きが起こりやすくなります。

返済義務がない出資でありますが、ベンチャーキャピタル資金調達はスタートアップへの投資というビジネスです。早期回収という事態に至ることも忘れてはならないでしょう。

VC資金調達のメリットとデメリットまとめ

最後に、ベンチャーキャピタル資金調達のメリットとデメリットを簡単にまとめました。

<メリット>
1.無担保で資金調達が可能
2.成長に直結する経営支援を受けられる
3.事業の短期成長・上場が見込める

<デメリット>
1.ベンチャーキャピタルの経営方針に従う必要がある
2.上場準備の負担が大きい
3.事業の成長性が危ぶまれれば早期回収が起こる

ベンチャーキャピタルは、無担保で億単位の資金を調達することができます。豊富なノウハウとネットワークを活かした経営支援を受けることで、数年で上場という成功を手に入れることもできるでしょう。

しかし、ベンチャーキャピタルを受けることにより、起業時に設定した方針とは、異なった道を歩き出す可能性もあります。短期間での上場準備は、経営者として事業展開に費やす時間が損なわれることも。そして万が一、市場の急変や想定外の競合が出現した場合、あなたの手から事業が離れてしまうかもしれません。

ベンチャーキャピタルによる資金調達を検討する際には、起業家としての自分自身の「志」と相談することが重要であると言えるでしょう。

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※掲載している情報は記事更新時点のものです。

監修:北川 ワタル(公認会計士 / 税理士)

2001年、公認会計士第二次試験に合格後、大手監査法人、中堅監査法人にて金融商品取引法監査、会社法監査に従事。2012年、株式会社ダーチャコンセプトを設立し独立。「税金のしくみと手続きがわかる事典」、「中小企業経営者のための法人税と決算書のしくみと手続き」(三修社)など監修実績多数。



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