「全員ソフトバンク関係者」。プレジデントオンライン編集長・星野貴彦に聞く「平成の三大経営者を選ぶなら…」

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星野貴彦

孫正義、柳井正、永守重信――数々の経営者を見つめてきた経済ジャーナリストは「平成を代表する経営者」に誰を選ぶのでしょうか。

本企画では経済メディア編集長3名にインタビューを実施。NewsPicks編集長の池田光史さん、プレジデントオンライン編集長の星野貴彦さん、BUSINESS INSIDER JAPAN編集長の浜田敬子さんに、「あなたが思う平成の三大経営者」を聞きました。

第2回は、プレジデントオンライン編集長の星野貴彦さん。星野さんが挙げた3人は「全員ソフトバンク関係者」という共通点がありました。

密接に関わり合う3人の経営者

【プロフィール】星野 貴彦(ほしの たかひこ)
プレジデント社 プレジデントオンライン編集長
1981年生まれ。2004年慶應義塾大学文学部卒業、日本放送協会(NHK)入社。記者として甲府放送局に勤務。06年プレジデント社へ。プレジデント編集部を経て、17年プレジデントオンライン副編集長。18年7月より現職。

星野貴彦さん:「平成の経営者を3人挙げてくれ」と言われて、私は孫正義さん、柳井正さん、藤田田さんの3人を思い浮かべました。ほかにも大きな功績を残した経営者はたくさんいますが、3人という条件だとこの組み合わせかな、と。

孫さんはソフトバンクの創業者ですが、その孫さんに多大な影響を与えたのが日本マクドナルドの社長だった藤田さんです。藤田さんは孫さんに請われて1999年から2001年までソフトバンクの社外取締役を務めています。そして藤田さんと入れ替わりでソフトバンクの社外取締役になったのが柳井さんです。

孫正義(ソフトバンクグループ)

【プロフィール】孫 正義(そん まさよし)
ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長
1957年生まれ。日本の実業家。1980年カリフォルニア大学卒業。日本帰国後、1981年に日本ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)を設立し、代表取締役社長に就任。1996年ヤフー株式会社設立。2004年にボーダフォン株式会社(現ソフトバンク株式会社)を買収し、代表執行役社長兼CEOに就任。2017年に現任であるソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長に就任した。

孫さんは、時代の先を読む力が卓越した経営者です。ソフトバンクの成長力は、孫さんの目利き力とイコールだと思います。

その目利き力は、ソフトバンクの社外取締役の変遷からも明らかです。経営者に限らず、弁護士や会計士、学識経験者など、日本を代表する実力者を社外取締役として招き入れています。今年6月からはAIの専門家である松尾豊・東大教授を新任取締役に選んでいます。

取締役会での議論も活発らしく、孫さんはその様子を「動物園」と表現しています。あれだけの人物をそろえて、どんな議論を戦わせているのか。一度、聞いてみたいですね。

今回の「3人」のひとりである柳井さんは、2001年に社外取締役になっています。2001年はユニクロがフリースブームに沸き、売上を倍増させた年です。ユニクロはその後、ブームの反動による業績低迷に苦しみます。柳井さんは当初、会長として第一線を退こうとしていましたが、方針を転換して社長に復帰。そこからのユニクロの大躍進はよく知られているとおりです。

フリースブームのとき、ユニクロの売上高はわずか1年で2289億円から4185億円へ一気に増えました。一方、今期の売上高は2兆3000億円の見込みです。孫さんはユニクロの爆発的な成長を見越していたとしか思えない。柳井さんに社外取締役を依頼したときから、現在のユニクロの姿を見ていたのではないかと思います。

柳井正(ファーストリテイリング)

【プロフィール】柳井 正(やない ただし)
ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長
1949年生まれ。日本の実業家。早稲田大学政治経済学部卒業後、ジャスコ(現イオンリテール)を経て、1972年に実父が経営する小郡商事に入社。1984年に同社社長に就任する。1984年にユニクロ第一号店を広島市に開店。1991年に社名をファーストリテイリングに変更。2005年に現任のファーストリテイリング代表取締役会長兼社長に就任した。

柳井さんが経営者として卓越していると感じる点は「言葉選び」です。たとえば自著のタイトルは『 一勝九敗』『成功は一日で捨て去れ』『現実を視よ』。書籍のタイトルは出版社がつけるものですが、柳井さんに関しては本人から出てきた言葉だな、という印象があります。

最近では、ゾゾの採寸スーツに対して、「おもちゃだ」とこき下ろしたと日本経済新聞に報じられ話題になりました。確かにそうした強い表現を使われることもありますが、それより私がハッとさせられるのは、そのときに柳井さんが使った「(ゾゾには)生産背景がない」という言葉です。

「生産背景」というのは、一般的な用語ではありません。柳井さんの独自のワーディングです。ユニクロはSPA(製造小売)として企画、生産、物流、販売のサプライチェーンを構築している一方、ゾゾはメーカーが作った服を売る小売業者にすぎない。そうした強い自負を感じます。生産には背景が必要なんです。その言葉選びには柳井さんの哲学を感じました。

ユニクロはベーシックなアイテムを作り続けていますよね。それはユニクロの服を「部品」として使ってほしい、という柳井さんの経営哲学に即したものです。だから部品の性能をどんどん高めて消費者に訴求していく。ユニクロの強みは低価格ではなく、効率的な生産背景から性能の高い服をつくる点です。だから他社にはまねができませんし、流行り廃りにも左右されづらい。

柳井さんは服を作っているわけで、ファッションを扱っているわけではないのだと思います。孫さんが時代の先を読む経営者だとすれば、柳井さんは時代に左右されない経営者。つまり孫さんは、自分と違うタイプの人も評価できるんですよね。

藤田田(日本マクドナルド)

【プロフィール】藤田 田(ふじた でん)
藤田商店、日本マクドナルド、日本トイザらス創業者
1926年生まれ。日本の実業家。1950年東京大学在学中に藤田商店を起業。1971年に日本マクドナルドを設立し、代表取締役社長に就任。1989年に日本トイザらスを設立し、翌年に同社副会長に就任。2002年に日本マクドナルドホールディングス会長兼CEOに就任し、翌年に退任した。2004年没。

日本マクドナルドの社長だった藤田田さんは、孫さんだけでなく、柳井さんとも深い関わりがあります。

孫さんは16歳のときに大ベストセラーとなった藤田さんの著書『ユダヤの商法』を読んで感動し、九州から藤田さんに会うためだけに上京しています。そこで「コンピュータを勉強しろ」と助言されたことが、ソフトバンクを創業したきっかけのひとつです。

一方、柳井さんはマクドナルド創業者のレイ・クロックに強い影響を受けたことを公言しています。レイ・クロック(1902-1984)は52歳でマクドナルドと出会い、同社を世界最大の外食チェーンに成長させた人物です。柳井さんはレイ・クロックの自伝『成功はゴミ箱の中に』の巻頭で、「これが僕の人生のバイブル」という文章を寄せています。日本にマクドナルドを持ってきた藤田さんにも当然影響を受け、孫さんと同じく『ユダヤの商法』を何度も読んだと語っています。

『ユダヤの商法』に書かれていることは痛烈です。最大のメッセージは「とにかく人生は金や」。金持ちになるためのノウハウをウィットに富んだ表現で書いていて、ちょうど今年4月に新装版が復刊されました。初版は1972年ですから、現在の基準からすればアウトな内容も含まれていますが、徹底的な現実主義者としての藤田さんの思想はまったく古びていません。

なお藤田さんは昭和から活躍する経営者ですが、日本マクドナルドが低価格路線を加速させ、売上高を急速に伸ばしたのは平成に入った1990年代半ばから。2001年にはジャスダックに上場しています。藤田さんの手腕により「デフレの勝ち組」になったわけで、平成を代表する経営者のひとりだと思います。

藤田さんのユーモアについて私がいつも思い出すのが、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが2011年に書いたエッセーです。野地さんから「尊敬する経営者はだれですか」と聞かれた藤田さんは「松下幸之助」と答え、続けてこう言いました。

「僕自身は人生の問題の99%は金で解決できると、つねづね公言している。しかし、残りの1%は絶対に金では解決できない。その1%とは信用とか精神とか形にはならないものだ。金は大切だが、無形の精神や形而上のもの、たとえば、宗教や哲学のようなものを大切にしなくてはならない」
引用元:GQ Essay「藤田田が最も尊敬する経営者━━作家、野地秩嘉の一行のことば(2011.05.23)」

そして松下幸之助の「水道哲学」の偉大さを語ったそうです。ただ、この話にはオチがあります。藤田さんはしみじみと「松下さんは面白い人なんだよ」とつぶやき、野地さんが「どういうところが面白いのですか」と聞くと、藤田さんはこんな話をしたといいます。

藤田さんが「失礼します」と松下幸之助の部屋から出ようとしたら、つかつかと近くにやってきて、「藤田くん、君には特別の秘密を教えてやる」と耳打ちした。

「いいか、藤田くん、経営者として会社を大きくしたいのなら、これからいうことを守れ。ひとつ、政治家には近寄るな。金を取られるだけだ。ひとつ、業界団体に入るのはいいが、絶対に役職に就くな。業界の集まりなど何の役にも立たん。役職に就いて、儲けたやつの話を聞いたことがない。そして……」

そう言った後、松下幸之助は「ニヤリ」と笑った。

「いいか。偉い経営者が話したことは信用するな」
引用元:GQ Essay「松下幸之助が偉大な理由━━作家、野地秩嘉の一行のことば(2011.06.06)」

稀代の経営者である藤田田を、軽々と手玉に取る松下幸之助。どちらもすごい人物だと思います。

「事業売却がゴール」の経営者に興味を持てない

令和の時代に私が注目しているのは、「簡単に株を売らない経営者」です。平成から続くトレンドとして、日本のベンチャー市場では「事業売却」がひとつのゴールになっていると感じます。大企業に事業を売却し、それを周囲が「おめでとう」と褒めそやす。私にはとても違和感があるんです。

事業を売却してしまったら、経営者としては終わりです。手元に株式が残るケースなら、取締役などとして事業に関わることもできるでしょう。一方で、現金しか受け取らないケースであれば、その事業との関わりは最終的には切れてしまいます。売却先の大企業で、事業を継続していた人も、数年で退社するケースが目立ちます。その後は「投資家」という人が多いですよね。

起業の目的が「お金儲け」や「投資家になりたい」であれば、事業売却で現金を手に入れることは理想的なゴールでしょう。しかし、私はそういう起業家には興味が持てません。

資金調達で部分的に株式を譲渡するケースも、長期的には同じだと思います。資金調達市場はコーポレートベンチャーキャピタルが増えて、小さなバブルになっています。特にIT関連は資金調達が容易なため、「経営のスピードを上げる」として、投資家の資本参加を気軽に受け入れてしまう。そうすると簡単にキャッシュが手に入りますから、キャッシュフローを増やすことより、ビジョン語りや話題作りを優先するようになります。その後は悲惨です。お客さんに向き合わなくなった企業は脆いものです。

商売をまっとうに成長させるのは大変です。しかしそうやってお客さんを増やしてきた企業は非常に強い。株を売って資本を入れれば、企業は見かけ上どんどん大きくなります。それが経営手法のひとつであることは理解しますが、私はあまり興味が持てないのです。歯を食いしばって、強い商売をこしらえようとしている人に、注目していきたいと思います。

(取材:久住梨子、挿絵:國村友貴子)

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Bizpedia編集部

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