新宿二丁目モトキを悩ませる「ゲイバーの経費」 筋トレ、ネイル、胃腸薬…何が認められる?

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世界有数のゲイタウン「新宿二丁目」。この街で2018年6月にゲイバー「ナインティーズ」を開いたモトキさんは、今年初めて確定申告をします。モトキさんは、なかなか収入が安定しない1年目は「経費が経営の支えになった」と言います。ゲイバーの経費事情を聞くべく、公認会計士の深堀宗敏さんがお店に突撃しました。

長野→沖縄→新宿二丁目に行きついた“半生”

【プロフィール(写真右)】 モトキ
新宿二丁目のバー「ナインティーズ」のママ
1984年長野県生まれ。現在34歳。2018年6月に「ナインティーズ」を開店。趣味は筋トレ。鍛えている部位は「BIG3」。最近行った旅行先はタイのプーケット。お店で働いてくれるかわいこちゃん募集中。
Twitter:@NINETIES90_s/instagram:motokingdom815

【プロフィール】 深堀 宗敏(ふかほり むねとし)
公認会計士・税理士/深堀宗敏税理士事務所
PwC税理士法人にて申告書作成業務、M&A、オーナー企業の事業承継対策等に関する会計・税務コンサルティング業務に従事。深堀宗敏税理士事務所を開業。現在、税務実務経験とシステム開発の経験を生かし、クラウドサービスについてのアドバイスを会社のみならず、会計事務所に対して多数行なっている。
Twitter:@FukahoriTax/note:@fukahori_tax

深堀宗敏(以下、深堀):現在は新宿二丁目のゲイバーでママをつとめるモトキさん。どんな半生を送ってきたんですか?

モトキ:半生かぁ……。もともと長野県で生まれ育ったんだよね。高校を卒業した3日後には沖縄県の石垣島に移って、リゾートホテルで半年働いたの。そのあと那覇に移住して、約3年間おみやげやさんで働いていました。

当時はすでに男性が好きだなって分かっていたんだけど、誰にもゲイだとは伝えてなかったの。これまで男として育ってきたわけだし、周りの人に気を遣わせたくないから。

でも、那覇で住んでいた安宿の同居人の男性に「僕はゲイなんだ」ってカミングアウトされたんだよね。そのときに「実は僕も男が好きなんだよね」って初めて他人にゲイだと打ち明けたの。

自分がゲイである明確な自覚を持ったのと、必要なときはそれを打ち明けてもいいんだって何かから解放されたのはそのときからかな。

深堀:沖縄で働いたあとに東京へ?

モトキ:沖縄で4年間働いたあと23歳で上京して、平日はコールセンターの派遣社員として働いてたの。そんなときに初めて飲みに行った二丁目のゲイバーのママに「ちょっとお店手伝ってよ」と声をかけてもらって、「僕でよければ」って週末だけ働き始めたんだよね。

それから1~2年は多忙な日々に心が折れかけていて、「長野に帰ろう」と思ったこともあったの。そんなときに、別のバーで働いていた“むらっちさん”という方がお客さんとして来て、「新しくお店を出そうと思っているから手伝ってほしい」と誘われて、26歳からそのお店で働くようになって。それをきっかけに本格的にゲイバーで働き始めたかな。

深堀:昼の仕事は辞めてしまったの?

モトキ:お昼はコンビニの店員とかジムのインストラクターを細々と続けていたんだよね。というのも、何かの書類に書いたり手続きしたりするときに、住所と職業の欄に“二丁目のもの”を書きたくなくて。なんか嫌じゃん。オカマとか思われたくなかったの。

深堀:その抵抗感は当時の時代背景があったから?

モトキ:人とコミュニケーションを取るときにセクシャリティって必要ないと思ってた。「僕がゲイだから」といって仲良くなるわけじゃないし、「彼はゲイだから仲良くしてあげてね」って言われるのも嫌だし。

誰かと仲良くなるのにセクシャリティって必要ないと思ってるから、もしものときのためにゲイバーとは別の“もう一つのわらじ”を履いておこうかなって思ってた。

初めての確定申告 ゲイバーは何を経費にできる?

深堀:それから自分のお店を出したきっかけは?

モトキ:むらっちのお店には8年間も勤めたんだよね。長く勤めている間に「やれることはもうやった」っていう燃え尽き症候群になったり、同じお店で10年目を迎えることに恐怖を感じたりして……。でも、次のステップに進むための貯金をしてなかったんだよね。

そんなときに「お店は出してあげるから自分でやってみないか」って今のとなりのお店から声をかけてもらって、2018年6月にオープンしました。

深堀:それで今年初めて確定申告をすることになったんですね。

モトキ:前のお店では税理士さんが全部やってくれていたし、昼の仕事も勤務先に源泉徴収されていたからね。

それにしてもお店の売上って本当に超変動するの(笑)。オープンしたてのときと自分の誕生月の8月はすごく売上が上がるんだけど、それ以外のときは「どした?」みたいな(笑)。そんなときに支えになるのが経費なんだよね。

深堀:どういうものを経費にしてます?

モトキ:この壁の絵は、二丁目で活動している美大卒のドラァグクイーンの方に描いてもらったんだよね。このときはお支払いしたギャラを経費にした。(※ドラァグクイーン=派手な衣装や化粧で女装する男性)

深堀:もちろんそれは経費ですね。ポスターやチラシ、名刺も全部経費になります。

モトキ:気になるのはネイルかな。僕は女装をしないもんだからただのイカツいお兄ちゃんって思われがちなんだよね。だから、手元だけでも女らしくしているの。

ネイルは経費にしてないんだけど……僕が通っているネイルサロンはお客さんのお店だから、仕事に関係ないとは言い切れないかなって。

深堀:これは難しいね。プライベートでネイルをやっているならもちろん経費にならないし、仕事のためにやっているなら、そう合理的に説明できれば経費になります。

モトキさんはお仕事上やっている部分もあるから一部経費で落とせるかな。消耗品費として一部金額を仕訳して、経費扱いにはできますかね。

モトキ:そうなんだ。じゃあイカツいってよく言われるけど、金髪に染めるのは経費になる?

深堀:イカツいことをアピールしたいお店であれば経費になります。イカツい髪型が自分のパーソナリティであり、それをお店に生かしているのであれば。

モトキ:アッハッハッハ(笑)。全然アピールしたくないんだけど(笑)。

深堀:例えば、モトキさんをイラストにしてポスターや看板に活用していて、そのイラスト通りの髪型を保たなきゃいけないのであれば経費になります。

モトキ:前のお店のときは、誕生日にピカチュウとかミニオンズの絵を頭にデザインしてもらってたんだけど。髪をいろんな色に染めてからバリカンで形を作って、また色入れていく。4時間ぐらいかけてやってもらって、料金は2~3万円かかるの。

深堀:それは誕生日のイベントを盛り上げるための経費とみなされますね。

モトキ:あと、二丁目はコミュニティが密だからお店同士の付き合いも多いね。うちのお店は会員制だから、誰かの紹介や知り合いのお店からの紹介で新規のお客さんを増やしているの。お客さんを紹介してもらえるように他のお店に顔を出しているんだけど、これは経費にしている。

深堀:それも交際費として経費になりますね。

「ハルクになりたくて」 筋トレ代は経費になる?

深堀:お店に着いて気になったことは、薬がいっぱい置いてあること。太田胃散やハイチオールCもあるし、二日酔いに効くミラグレーンもありますね。これは従業員もみんな服用していいなら福利厚生費として経費になりますね。

モトキ:ミラグレーンはお客さんに買ってもらったものだけど、他2つは常備薬として経費にしてる。だって、つらいときはさ、もちろん従業員に使ってもらうじゃん?

深堀:ちなみに3種類の薬はどう飲み分けているんですか?

モトキ:太田胃散とハイチオールCはほとんど毎日飲んでる。太田胃散は、お酒飲んでるときにムカムカ胸やけしちゃうから毎日1回飲むのと、ハイチオールCはちょっと酔い始めたときに飲むと二日酔いが軽減される。あと……シミをなくしたくて……。

深堀:シミないじゃないですか!

モトキ:背中にすごいあるの(笑)。なんか新潟にアサリ狩りに行ったときに夢中になりすぎちゃって背中が真っ赤っかになっちゃって。そのままにしといたら残っちゃったんだよね。だから今はダルメシアン。

深堀:ミラグレーンは?

モトキ:こないだ土曜日のお昼からお客さんと飲んでるときに買ってもらった(笑)。その日、夕方6時から通っているジムの会員同士の飲み会があってさぁ。なんかマッチョに誘われるからぁ(笑)。

深堀:それって恋が生まれそう。もう少し聞かせて。

モトキ:僕がゲイってことバレてないと思う。これがそのときの飲み会の写真。

深堀:(写真を見て)完全にバレてるでしょ!

モトキ:絶対バレてない~(笑)。誰もその話題に触れてこないもん(笑)。普段ジムではまじめにトレーニングしてるから雑談しないんだけど、何年も通ってたら“ジムの主”みたいな人に飲み会に誘われるようになって……。マッチョとは接点を持ちたくて飲み会には参加してる(笑)。ほんとだったら夕方6時から行かなくてもいいんだけど、誘われてるし、マッチョと会いたいし。

深堀:どこを鍛えてるんですか?

モトキ:え、全体的に。胸と背中と脚の「BIG3」を中心に(笑)。週2回ぐらいパーソナルトレーニングに行って、余力があれば自分で細かいところ、腕とか脚とか鍛えてる。トレーナーもガチムチで常にパンプアップしてる感じ。ちなみに、ジムに通う費用は経費になるの?(笑)

深堀:これはねぇ……動機が不純だから(笑)

モトキ:アハハ(笑)! でもお店に立つ以上は、一定のスタイルを維持しなきゃいけないじゃん。

深堀:でも、モトキさんの場合は結果を残してからかな(笑)。

モトキ:どういうことよ、ひど~い。なんかちょっとムカつく(笑)。じゃあさ、例えば「ベンチプレス100キロ上げる人がやっているバー」って売り出すために、ベンチプレスを100キロ上げられるようになるまでトレーニングした費用は経費になるってこと?

深堀:それはブランディングのためだから経費になる可能性がありますね。

(モトキさんが上着を脱ぎだす)

深堀:うわ、腕でかい! すごい!

モトキ:私はもう全部大きく「ハルク」みたいな身体になるのが理想。昔は70キロぐらいだったんだけど、水商売始めてからは一気に100キロ行っちゃって。

深堀:そっかー。最後の質問だけど、最近気になってるマッチョはいるの?

モトキ:やっぱり僕はみんなのものだからさぁ。でもあなたかわいいよね(笑)。お店で働いてくれるかわいこちゃんも探してるから、ここで働いてくれてもいいんだよ(笑)。

(執筆:久住梨子)

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