3人の社長が語る「私が会社を継いだ理由」 後継者不足でも“継ぎたい人”はいる

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「今後10年の間に日本企業の約3割が後継者未定になる」――2017年の中小企業庁の調査により浮き彫りになった中小企業の後継者問題。このまま放っておくと、2025年頃までに約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると予測されています。

今回は後継者の道を選んだ、コエドブルワリーで知られる協同商事代表・朝霧重治さん、破格のオーダースーツが話題の佐田代表・佐田展隆さん、WEBメディア運営などを手掛けるノヴィータ代表・三好怜子さんにお話を伺いました。事業も経歴もバラバラの3人ですが、後継者としてのやりがいや苦労には共通点がありました。

私たちが「後継者」になったワケ

――まずは、みなさんの現在の事業内容についてお聞かせください。


佐田展隆さん(以下、佐田):本格的なオーダースーツを19,800円という破格の値段で仕立てるスーツ専門メーカーを経営しています。仙台と中国北京の郊外に自社工場があり、年間約13万着を製造し、全国の直営小売店で販売しています。私が4代目の社長ですね。

【プロフィール】
佐田展隆(さだ・のぶたか)/ 株式会社佐田代表取締役社長 

一橋大学経済学部卒業後、東レに入社。2003年佐田入社。2005年代表取締役社長。2008年退社後、2011年7月佐田に再入社。2012年社長に復帰。現在関東を中心に全国に直販店40店舗を展開。若者向けオーダースーツ店店舗数日本一、オーダースーツチェーン出店速度日本一を誇る。また、オフィシャルスーツサプライヤーとして千葉ロッテマリーンズ、東京ヤクルトスワローズ、大宮アルディージャ、柏レイソルなど数々のプロスポーツチームにスーツを提供している。


三好怜子さん(以下、三好):私どもの事業は、インターネットでお客様の課題を解決することです。たとえば、佐田さんと朝霧さんがお客様だと、オンラインショップの企画・作成・運用のお手伝いなどですね。また、WEBサイトの運用業務などを行う人材を紹介する人材サービス業も行っています。創業13年目で私は2代目、9年目に引き継ぎました。

【プロフィール】
三好怜子(みよし・れいこ)/ 株式会社ノヴィータ代表取締役社長

広島県出身。お茶の水女子大学文教育学部在学当時に100人の経営者に話を聞き、経営者という働き方に興味を持つ。2005年3月に大学卒業。2006年、ノヴィータ創業時の立ち上げメンバーとして参画し、WebディレクターとしてWeb制作の企画営業・進行/品質管理を担当。Web制作受託営業で常にトップ成績を収める。2010年に取締役に就任し、風通しが良く女性が働きやすい環境への整備を推進、業績拡大に大きく寄与した。 2015年3月に代表取締役社長に就任。


朝霧重治さん(以下、朝霧):埼玉県川越市という地域を拠点に仕事をしています。1970年代に義父と義母が創業した会社で、元々は有機農業を扱う会社でした。現在は有機農業を基盤にしながら、産直などほかのビジネスも手掛けています。そのうちのひとつがクラフトビール事業のCOEDOビールです。

【プロフィール】
朝霧重治(あさぎり・しげはる)/ 株式会社協同商事コエドブルワリー代表

1973年、埼玉県川越市生まれ。Beer Beautifulをコンセプトとする日本のクラフトビール「COEDO」のファウンダー・CEO。地元川越のサツマイモから製造した「紅赤(Beniaka)」をはじめ、日本の職人達によるものづくりやビール本来の豊かな味わいの魅力を「COEDO」を通じて、発信している。モンドセレクションはじめ数々の世界的な賞を受賞し、海外からの評価も高い。ビールは現在、アメリカや中国、シンガポールなどに輸出され、積極的に海外展開をしている。

――お三方が事業を引き継いだのはどういった経緯があったのでしょうか。

佐田:私は三兄弟の長男で、父親から指名されて後継者になりました。それまでは5年間会社員として働いていたのを呼び戻された形です。「兄弟のうち誰かを選ぶ」とは聞かされていましたし、選ばれたいとも思っていました。

ただ、ストレートに継いだわけではなく、経緯がちょっと複雑でして……。バブル崩壊後、営業赤字が数千万円あるような状態で連れ戻されました。そこで会社を立て直そうとまずは社員として尽力した結果、入社した翌年に営業利益1億円を出し、金融機関が父に「息子さんを社長にしたほうがいい」と進言したことをきっかけに、会社を継ぐことになりました。


その後も営業利益は出せていましたが、金利の支払いがかさんでいるため借金は減らなくて。金融機関に「もうダメです」と言いに行ったら、「債権放棄という方法がある」と言われたんですね。その手続きを進めていたら、なんと父の粉飾決算が発覚して……。会社の私的再生をする代わりに、佐田家は自己破産をして、会社もファンドに渡し、私は再び会社員になりました。

それなのに、渡したファンドがその直後に解散することになってしまって。大口のお客さんが「潰れられたら困るから、うちが資金繰りの面倒を見る」と言ってくれたのですが、今度は東日本大震災が起こり、仙台の工場が被災。売上も3分の1くらい飛んでしまったんですね。

最終的には、誰も引き継ぎ手がいない状態になったところに、金融機関から連絡が入り舞い戻ったという流れです。なので、私は2度引き継いだということになりますね。

三好:池井戸作品のドラマみたいですね。

私は初代社長が創業して間もない頃から働いてきました。WEBサイト制作業務の傍ら、働きやすい会社になるよう環境整備も行っていて、その流れで29歳のときに志願して取締役になりました。先代は30代で後進に譲りたいとよく言っていたので、いずれは自分が社長になるのだろうと私も覚悟していたように思います。

朝霧:私は先ほども触れたように、もともと妻の実家の家業なんですね。私個人としては、学生時代からベンチャーや起業に関心があって、大学卒業後はメーカーで働いていましたが、いつかは海外で仕事をしたい、海外で起業したいなんて思っていたんです。

そんな中、幼なじみで長く交際していた妻の両親から、「今の仕事を辞めて、うちの事業をやらないか」と言われました。今でこそ「アグリビジネス」という言葉がありますが、家業は独自のサービスを提供しているベンチャースピリットがある事業だったんですね。まだ結婚前だったのですが、その申し出を受けました。

経営者になって感じたギャップ「自分よりも社員が…」


――後継者になったときのご自身の心情はどうでしたか。

朝霧:事業を引き継ぐ重さよりも、経営陣に近いところで仕事ができるぶん、「チャレンジできるな」「おもしろいな」という気持ちが大きかったですね。

佐田:私は昔から経営者として闘う父をかっこいいと思っていましたし、継ぎたいとも思っていました。「社会人5年で家業に入るのか、早いな」とは思いましたが。ただ、戻されたときの状況が状況でしたし、連帯保証人にされてしまっているから逃げ場もない。初めはさんざん親子喧嘩をしましたよ。

――後継者になってみて、イメージとのギャップはありましたか?

朝霧:経営者になって、はじめてBSやPL(*)といった数値をしっかりと見るわけですよね。リストラも視野に入れなければならないことだってあります。いつも前向きばかりではない、負の部分への役割についての責任を感じました。

三好:学生時代から経営者という仕事に興味がありました。先代はわかりやすいリーダータイプの人間でしたが、私はそのようなタイプではなかったことや、事前準備もなく引き継いだこともあり、私以上に社員が戸惑ったのではないかと思います。さらに、社長になって3カ月くらいで妊娠したんですよ。私は仕事を続けるつもりでしたが、社員は「え、どうするの?」と思った人が多かったと思います。

BSやPL(*)=BSは「Balance Sheet/貸借対照」、PLは「Profit and Loss Statement/損益計算書」の略。経営成績や財務状態を示す財務諸表の一部。

みんな辞表を持ってきた!会社を変える難しさ


――三好さんのお話にもありましたが、先代とのやり方の違いで、社員がギャップを感じることもあると思います。社員の方とのコミュニケーションはどうされていましたか。

三好:新しいことを始めるときに、なぜやるのかを説明して、50〜60%くらいは合意を取れてから進めるという方法を意識しましたね。それまではスピード重視で進めてしまっていたので。

あとは、先代は会長として今も代表権があり、私をお飾り社長だと思う人もいるので、私自身の考えや想いが社員に伝わるよう言葉にはこだわっています。

佐田:私は社歴の長いベテラン社員とのやり取りに苦労しましたね。昔のやり方に固執していて、なかなか変われないんですよ。「変われないんだったら辞表を持ってこい」と言ったら、みんな持ってきたこともありました(笑)。

結局、変わらない社員を変えることに腐心するのではなく、若手を引き上げたほうが会社が速やかに変わりました。だから辞表が出てきたら受け取りました。背水の陣だったからこそできたことです。

ただ、利益が出始めるとガラッと変わりますね。誰も何も言わなくなった。ここまで突破できたのは、父親の対応の影響もあったと思います。先代と現役社長とで反目し合うなんて話がよくありますが、あれは周囲が作り上げてしまうトラブルでもあるんです。それが、うちの場合は父が周囲の意見になびかず、「とにかく展隆に従え」と言ってくれていたそうなので、それがとても助かりました。

――人事面に加えて、営業や資金繰りにも苦労があったかと思います。どの点が大変だと感じましたか?

佐田:資金繰りがものすごく大変でしたね。閑散期と最盛期との差が激しくて。ただ、頭を下げに行く役割を父親が担ってくれて、そのぶん、私は自分が得意な営業に力を割けました。最初は100%営業でしたね。

朝霧:資金繰りの話だと負債の話になると思うんですけど、負債には“前向きな負債”と“後ろ向きな負債”があると思っています。私が引き継いだときは、残念ながらマイナス局面でした。それが最近ようやく終わり、前向きな負債に変わってきました。

厳しかった頃は、クラフトビール業界が低迷していた時期とも重なっています。1990年代中盤に地ビールブームが起こり、クラフトビールに脚光が浴びましたが、ブームはすぐに終焉。1990年代後半からは市場は冷え込み、廃業するメーカーも多かったです。

それでもクラフトビール事業をやめなかったのは、先行する海外動向などを見ていると、国内でもクラフトビール市場は必ず確立すると踏んでいたからです。

ただ、「結果が出ていない」「もう役割を終えたな」と感じる事業をやめる決断をすることも後継者の重要な仕事ですね。

創業者は事業に思い入れがあり、客観的に整理することが難しいこともある。後継者として会社を継続させていくためには、会社の根幹を守りながら変化し続けなければなりません。変化と継続とを繰り返していくうちに、老舗と呼ばれるようになるのだと思います。そうして100年続く会社を作りたいなと今、思っていますね。

「継ぎたい人」はいる。うまくマッチングする場を

――後継者が見つからず廃業を余儀なくされる中小企業が多いなか、後継者不足を解決するために必要なことは何でしょうか。

佐田:ファミリービジネスとしてやっていく場合、息子には苦労させたくないからという理由で事業を譲らない経営者の方が多いと聞きます。ただ、継ぐ側が継ごうと思っているのであれば、継がせる立場の人間が「やめておけ」というのは大きな間違いだと思いますね。

サラリーマンになっても苦労はしますし、それこそうつ病になる人だっているわけですよ。後継者になることで負う苦労に対し、苦労しがいがあるかどうかを考えるのは、本人次第だと思っています。

三好:私も佐田さんの意見に同意です。継ぎたい人がいて、継がせたい人がいるのであれば、大いにやっていいと思う。

朝霧:やりたくない人に無理やり継がせるのはよくないと思いますが、やりたい人がいるのであればやらせればいいと思います。意思の力は最大の促進力になりますから。

かつての「エリートサラリーマン=成功」といった考え方は、このご時世ではそこまで支持されなくなっていると思います。一方、自分たちで会社を経営したいという若者の声はよく聞きます。彼らのような後継者候補になりうる人材と、後継者不足にあえぐ企業が、うまくマッチングできていないのも後継者不足の原因のひとつでしょう。

佐田:借金がある状態の会社を、社内の人間に継がせられないと思うのは当たり前なんですよね。だから、息子に継がせるか婿養子を取るか、上場するかといった話になってしまう。

でも、実際には社内に継げる人間はいると思うんです。なかには、できれば継ぎたいとひそかに思っている人もいるかもしれない。だから、引き継げるインフラを国が作ってくれたらと思います。

サラリーマンで後悔する人生を送るぐらいなら……

――最後に、後継者を目指す方や引き継ぐことに悩んでいる方に向けて、メッセージをお願いします。

朝霧:継いでいく部分はありますが、縛られる必要はないと思います。赤字が出ている事業を、判断した結果、やめるのも自由。私の会社も、食やビール、農業のことだけをやってくれとは思いません。祖業を母体にしつつ、新しいことをやると考えたら前向きになれて、仕事も楽しくなってくると思います。

三好:そうですね。むしろ時代によって変えていかないと生き残っていけない。私は根幹が変わらなければ、新しいことを積極的に取り入れていくべきだとも思っています。継続させていくことが大切なので、表面的なものはどんどん変えたり、肉付けしたりしていけばいい。100年後には業態が変わっているかもしれないけれど、それもありだと思います。責任を感じてポジティブにやれるなら、経営者はおもしろいと思います。

佐田:現代は、自己破産したって命を取られるわけじゃありません。自己破産をした結果、あらためて別事業をしてみたらなんとかなるというケースもあります。やってみようと思えるのであれば、やってみたほうがいい。やらないでサラリーマンとして働いて、そっちでうまくいかなかったとしたら、そのほうがすさまじく後悔する人生になってしまうと思います。

(文・サムライト)

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