【後編】山田真哉さんに聞く、これからの経理担当者に求められる能力とおすすめ本3冊

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今後、経理部門の存在価値が変化していく中で、経理担当者はどのようなマインドを持って現場に立つべきなのでしょうか。前編に続き、公認会計士で、芸能文化会計財団の理事長を務める山田真哉さんにお話をうかがいました。

取材ご協力:
山田 真哉(やまだ しんや)
神戸市生まれ。公認会計士・税理士。大学卒業後、東進ハイスクール、中央青山監査法人(PwC)を経て、一般財団法人芸能文化会計財団の理事長に就任。
主な著書に、160万部のミリオンセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)、シリーズ100万部『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫他)。
現在、文化放送『浅野真澄×山田真哉の週刊マネーランド』等に出演中。行政改革推進会議・法務省・農林水産省の外部有識者等も務める。約50社の顧問として社長の参謀役になっている。

 

過去を未来につなげていくようなマインドを持てるか

私が会計事務所に入った当時は、それこそ領収書を紙に貼って整理するといった手作業が山ほどある時代でした。今はほとんどがデジタル化されていますが、今後の傾向としてもこうしたルーティンワークは減っていきます。
そうなったとき、従来どおりの経理の仕事だけを淡々とこなしているスタッフの価値は下がっていきます。会社側からは、1週間のうち2日間は経理業務、3日間は営業のサポートといった勤務形態が求められるようになるかもしれません。

もちろん、今も決算前になれば経理担当者は怒涛の日々を過ごしていると思います。他部門の社員は、「会計ソフトを使ってパパッと集計しているのでは?」と思っているかもしれませんが、現場は休み返上、徹夜続きという状況もめずらしくありません。
実際、連結決算を行う企業が増え、監査担当の会計士と経理担当者は以前よりも数字の精査に追われるようになっています。そこで、いかに未来に目を向けていけるかどうか。決算書を作って「お疲れさまでした」ではなく、なぜ、この決算になったのかを分析し、過去を未来につなげていくようなマインドを持てるかどうかが重要です。

時間がない、上司の理解が必要になる、他部署の協力が欠かせない、など、クリアしなければいけない課題も多いでしょう。それでもフィンテックを使い、省力化できるところはどんどん省略し、時間を作ること。そして、週に1時間でも、1日に10分でも、経理の視点で戦略系の思考を働かせていけば、その人は会社にとって目の離せない人材になっていくはずです。

経理担当者に必要なのは、情報収集力

未来に向けた分析を行う上で必要なものは、過去のデータです。そして、使えるデータを集める情報収集力が必要になってきます。
例えば、投資の世界では、東京ディズニーランドを運営しているオリエンタルランドの株価を予測するため、アナリストが東京ディズニーランドの駐車場の混雑率を定点観測しているとも聞きます。

個人で現場の定点観測を行うのは難しいかもしれませんが、幸いネット上には各種官公庁の統計データや各企業の公表するデータ類が公表されていて、誰でもアクセスすることができます。こうしたデータから自社に関連するものを定点観測し、過去の決算書と照らし合わせ、関連性を見いだすといった分析はデスクに座りながら行うことが可能です。

経理部門は元々、自社については他部署よりもはるかに多くの情報を持っています。営業部門、製造部門、人事部門、経営部門、部門に関係なく、重要な数字を知ることができます。
その優位性を生かしつつ、同業他社との交流会、勉強会などに出て、業界内に横のつながりを作れば、統計データには反映されないナマの声を集めた、より説得力のある分析を行うことができます。

というのも、人は誰しも身近な他人を気にする心理を持っているからです。例えば、私は芸能界専門の税務会計を担当しています。そこで一番聞かれるのは、「他のタレントさんどうしています?」という問いかけです。
「他のタレントさんは、これは経費に入れていませんよ。さすがに猫のエサ代は無理です」と。笑い話のようですが、横のつながり、同業他社の情報を持っているというだけで、信頼度はぐっと上がります。

こういったことを意識して、自分から時間を作り、行動して、自社、他社の情報を仕入れ、未来に向けた分析を行うこと。そして、それを発信し、他部署の人たちをつなげるようなポジションに立つことができれば、その人の大きな強みになります。
ぜひ、経理部門という全体を見渡せる部署にいるメリットを生かしてください。

山田真哉さんオススメの経理担当者なら読んでおきたい3冊

おすすめの本ということで、3冊をご紹介します。

1.「帳簿の世界史」ジェイコブ・ソール著 村井章子訳 文藝春秋刊

「帳簿の世界史」はここ10年で一番好きなおもしろい本です。
「権力とは財布を握っていることである」という帯のコピーも秀逸ですが、帳簿を切り口に歴史的事件と富、権力が分析されていきます。
経理部門の人は日頃、当たり前に帳簿と接していますが、そもそも帳簿とは何か。帳簿が生まれたことで何が起きたのか。例えば、「かの有名なフランス革命は、国家財政の帳簿が公開され、国民が怒り、起こった」といったことが書かれています。
経理部門で働く人たちは、自分たちが扱っているお金に関する数値データがいかに重要かを再認識できると1冊だと思います。

2.「バランスシートで読みとく世界経済史」ジェーン・グリーソン・ホワイト著 川添節子訳 日経BP社

「バランスシートで読みとく世界経済史」は、ベニスの商人たちが作り出した複式簿記によって資本主義が生まれたんじゃないか?と考察していく本です。
複式簿記は、資本と利益を区別して計算します。例えば、株式会社が配当額を決めるためには、資本と利益を区別する必要があります。ではどうやって計算すればいいのか。15世紀に生まれた複式簿記は、現代の株式会社に欠かせない機能を備えていたというお話です。
日頃の経理の仕事が、人類の歴史においてどういう位置づけなのか。壮大な視点ですが、こうした背景を知っているかいないかで、日々の仕事へのモチベーションって意外と変わってくるものです。

3.「稲盛和夫の実学 経営と会計」稲盛和夫著 日本経済新聞社刊

「稲盛和夫の実学 経営と会計」は、人間と会計の本です。
例えば、現金管理は必ず第三者がチェックできる仕組みになっています。それは、不正が行われていないかどうかを確かめるためです。ところが、稲盛さんは「社員から悪い人を出さないためにやるんだ」と解釈します。徹底的に「経理とは、人のため、社員のためにある」という視点で書かれています。
また、会計に関して素人だった稲盛和夫さんと財務部長のケンカのような対話も載っていて、読み物としてもおもしろい。会計の本の多くは、血が通ってない学術書的なイメージが強いので、その認識も変えてくれる1冊だと思います。

前編はこちら:【前編】山田真哉さんに聞く、“進化” する経理担当者になるための考え方

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