- 作成日 : 2025年10月6日
M&Aのクロージングとは?契約書に基づく流れと必要条件を徹底解説
M&Aの最終段階である「クロージング」は、最終契約書で合意した内容を実際に実行し、会社や事業を正式に引き渡すプロセスです。
ただ、契約書にサインしたからといって自動的に完了するわけではなく、株式の名義変更や代金の決済、役員登記の変更、印鑑や通帳の引き継ぎなど、数多くの手続きを確実にこなす必要があります。
準備不足や条件不履行があれば、取引がスムーズに進まないどころか中止となり得る点にも注意が必要です。
本記事では、契約書に基づくクロージングの流れや条件、注意すべきポイントを整理し、初めての方でも全体像をイメージできるようにわかりやすく解説します。
目次
M&Aのクロージングとは
M&Aのクロージングとは、最終契約で合意した内容を実際に履行し、会社や事業の引き渡しを完了させる最終段階を指します。
具体的な内容としては、株式譲渡による名義変更や売却代金の支払いが挙げられます。
加えて、株主名簿や役員登記の変更、会社の実印・通帳・契約書類などの重要資産の引き渡しも重要な取り組みで、多岐にわたる実務を進めるのがM&Aのクロージングです。
M&Aのクロージングを通じて売り手は会社を譲った状態となり、さらに買い手は新しいオーナーとして、法的にも実務的にも承認されます。
つまりクロージングを経て初めて、経営権が正式に移転する仕組みです。
ただし、事前に定められた条件が揃わなければクロージングは実行できません。
許認可の取得や取引先からの同意が整わない場合、スケジュールが延期されたり、場合によっては取引そのものが中止となる場合もあります。
そのためクロージングは、M&Aにおいて非常に重要かつ慎重に進めるべきプロセスと言えます。
M&Aにおけるクロージングの流れ5STEP
M&Aのクロージングは、契約書の締結から条件の確認、準備、実行といったプロセスを通じて成立します。
ここでは、M&Aのクロージングにおける一連の流れを、5つのステップに分けてわかりやすく解説します。
STEP1. 契約書の締結
M&Aのクロージングに先立ち、まずは最終契約を正式に締結します。
最終契約時に譲渡価格や引き渡し条件、スケジュールなどを明文化し、両者が同じ前提を認識しておきましょう。
売り手側は開示した情報の正確性を保証し、買い手側は必要な条件や保護条項を盛り込む責任を負います。
なお、契約書はクロージングまでの指針となるため、契約後の条件確認や準備の基礎と言えます。
記載漏れなどの不備があると実行段階でトラブルにつながるため、慎重に作成する意識が大切です。
STEP2. 契約条件の確認
契約書で定められたクロージング条件がすべて満たされているかを双方で確認する取り組みも重要です。
売り手は、株主総会決議での承認や主要取引先からの同意などを整え、証憑を用意します。
買い手はその内容をチェックし、契約条件が履行可能であるかを確認します。
もし条件が揃わなければ、クロージングは実行できません。
場合によってはスケジュールが延期されるだけでなく、取引自体が破談となる場合もあります。
条件確認は、契約を実行可能な内容にするための重要な段階です。
STEP3. クロージングの準備
条件が確認できたら、実際のクロージング日に備えて準備を進めます。
買い手は資金の調達や送金体制を整え、売り手は株券・通帳・印鑑といった重要資産を整理します。
さらに、登記変更のための必要書類も事前に整備しておきましょう。
クロージングの準備が不十分な場合、当日の手続きが滞りスムーズに実行できません。
クロージングは当事者や専門家が同席する大掛かりな場になるため、事前の準備次第で成否が左右されます。
細部まで確認を怠らず、確実に進める必要があります。
STEP4. クロージングの実行
いよいよクロージング当日には、対価の支払いと資産・経営権の引き渡しがおこなわれます。
実行段階では、株主名簿の書き換えや役員変更登記を通じて、会社の所有権や経営権の正式な移転に取り組みます。
ここでは、売り手と買い手が同席し、契約条件が正しく履行されているかを最終確認しながら進めるのが一般的です。
クロージングの実行時に問題が起これば取引は成立せず、準備や契約内容が無効になる恐れもあります。
そのため、クロージング実行はM&A全体の中でも最も緊張感を伴う場面と言えるでしょう。
STEP5. ポストクロージング
ポストクロージングとは、M&Aのクロージング後におこなう追加の手続きや実務を指します。
契約を最終的に確定させるために、条件どおりに義務が履行されているかを確認しましょう。
代表的な内容には、クロージング日までの財務状況を反映した買収価格の調整や、契約上の誓約事項の実施が含まれます。
さらに、株主総会や取締役会での承認、役員変更の登記、会社の印鑑や通帳といった資産の引き継ぎも重要な作業です。
ポストクロージング完了後、形式面・実務面の双方においてM&Aが確定し、取引全体が正式に締結された状態になります。
M&Aにおけるクロージングの条件
M&Aのクロージングは、契約書へのサインによって自動的に完了するわけではなく、いくつかの条件を満たす必要があります。
クロージング日までに定められた前提条件がそろっていなければ取引自体が中止になるケースがあるため注意が必要です。
代表的な条件には、法的・取引上の承認や同意、会社内部の体制整備、そして経営状況や契約上の約束の維持が挙げられます。
ここからは、それぞれの内容を具体的に解説していきます。
法的・取引上の承認や同意
クロージングを進めるには、法律や取引上の承認が欠かせません。
たとえば、独占禁止法に基づく届出や官公庁からの許認可取得など、法令で定められた手続きをクリアする必要があります。
さらに、大口顧客や主要な仕入先といった取引先による「買収後も契約を続ける」といった同意が条件となるケースも見られます。
また、株主総会や取締役会での正式な承認がなければ、以降の手続きを進められないケースにも注意が必要です。
承認や同意の取得は売り手側が主体的に進め、買い手側は提出された証明書類を確認し、条件が満たされているかをしっかりチェックする意識が求められます。
会社内部の体制整備
クロージングを円滑に進めるうえでは、会社内部の体制が整っているかどうかも重要な条件です。
経営継続に不可欠な社長や主要幹部といったキーパーソンが辞めないよう、人材面での安定が求められます。
また、不要事業の切り離しや銀行からの担保・保証の解除など、売り手側で事前に整理しておくべき課題もあります。
さらに、役員交代や人事体制の調整、会社印や通帳といった重要資産の引き継ぎが完了しているかどうかも、クロージング条件に加えられる場合があるため注意が必要です。
売り手側は内部整理を確実に実行し、買い手側は体制が維持されているか、資産の引き継ぎが滞りなく進んでいるかどうかをしっかり確認する姿勢が欠かせません。
経営状況や契約上の約束の維持
クロージング条件の一つに、経営状況や契約上の約束がきちんと維持されているかどうかがあります。
クロージングにおける条件を確認する代表的な取り決めが「MAC条項」で、企業に重大な悪影響が生じた場合には契約を解除できると定める条項を指します。
具体的には、クロージングまでの間に業績が急落したり、重大な訴訟が発覚したりといった深刻な事態が起きていないかどうかといった条件が挙げられます。
記載された内容が正しいと約束するための表明保証が、クロージングの時点でも有効であるかどうかも確認しておきましょう。
また、契約で定められた誓約事項の遵守状況にも注意が必要です。
通常どおりの経営を続ける、新たな借入をおこなわない、配当を勝手に実施しない、といった内容が代表例です。
売り手側は経営と契約を徹底し、買い手は違反の有無を最終確認しなければ取引は成立しません。
M&Aのクロージングをスムーズに進めるポイント
クロージングは法律や契約に基づく複雑な手続きであり、準備不足や確認漏れがあるとスケジュール遅延や取引破談につながるリスクがあります。
そこで、実務の現場でも重視される3つのポイントを押さえておくと安心です。
余裕を持った準備、条件確認の徹底、そして専門家のサポートという観点から見ていきましょう。
余裕を持って準備する
M&Aのクロージングでは、最終契約書に基づく株式譲渡契約や登記関連の書類、主要取引先からの同意書など、非常に多くの準備が必要です。
必要書類などは形式的に揃えるだけではなく、正確さや不備のない管理も求められるため、一つひとつに相応の時間がかかります。
そのため、当事者が想定していたよりも準備が長引くケースは少なくありません。
もし準備不足のままタイトなスケジュールを組んでしまうと、必要な手続きが期限までに完了せず、クロージング自体が延期されたり、最悪の場合には取引そのものが破談に至るリスクがあります。
リスクを避けるには、最初から余裕を持ったスケジュールを組み、必要な書類や承認を前倒しで整える姿勢が重要です。
準備段階で十分な余白を確保しておけば、結果としてスムーズなクロージングの実行につながります。
条件の確認を徹底する
クロージング直前には、最終契約で合意した条件が本当に守られているかを改めて確認するプロセスが欠かせません。
契約書に記された条項は多岐にわたり、形式的にサインしただけでは安心できないため、一つひとつの条件を丁寧にチェックする姿勢が求められます。
たとえば、デューデリジェンス(事前調査)で指摘されたリスクが適切に解消されているか、契約で定められた誓約事項が確実に履行されているかは、重要な確認ポイントです。
さらに、クロージング日までの財務状況の変化を反映させる「価格調整条項」を盛り込んでおけば、想定外の業績悪化や資金繰りの変動によるトラブルを未然に防げます。
条件確認の徹底は、取引後に起こり得る不安や紛争リスクを大幅に減らし、買い手と売り手双方にとって納得感のあるM&Aを実現するための基本的な流れです。
専門家のサポートを受ける
クロージングの実務には、法務・会計・税務など幅広い専門知識が求められます。
売り手や買い手が自力で対応しようとすると、書類の不備や条件確認の漏れが発生しやすく、場合によっては取引そのものが無効と判断されるリスクすらあります。
M&Aのクロージングにおけるリスクを避けるためには、弁護士や会計士といった専門家に関与してもらう取り組みが有効です。
契約内容が妥当かどうか、法律上の要件を満たしているかを専門的な視点で確認してもらい、クロージングの確実性を高めましょう。
また、税務や会計の専門家にチェックを依頼すると、価格調整や資産引き継ぎに伴う処理も適切に進みます。
第三者の立場から見落としやすいリスクをチェックしてもらえば、一方に偏った条件を防ぎ、公正で透明性のある取引を実現できるのも重要なポイントです。
専門家への協力依頼はコストではなく、安心してクロージングを進めるための投資と言えます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
M&Aスケジュールの進め方|売り手が知っておくべき流れを徹底解説
事業を売却したいけれど「どれくらい時間がかかるのか」「どんな順番で進めればいいのか」と不安を抱える経営者の方は少なくありません。 M&Aはスケジュールを誤ると条件交渉や資金繰りに影響が出るため、事前の準備は欠かせない要素です。本記事…
詳しくみるM&Aで借入金はどうなる?企業価値への影響から資金調達方法まで解説
会社の買収や事業承継を検討する際、見落とされがちなのが借入金の存在です。返済が残る融資や役員からの貸付がある場合、M&A後の経営に直接影響を及ぼしかねません。 特に中小企業では、短期・長期の借入金や経営者の連帯保証や役員借入金が複雑…
詳しくみる海外M&Aとは?目的やメリット、事例を解説
海外M&A(クロスボーダーM&A)とは、企業が国境を越えて外国企業を買収・合併する戦略的取引です。日本企業にとって海外M&Aは、国内市場の成熟化に対応し、グローバル競争力を強化するための重要な成長戦略となっています。…
詳しくみるM&A調印式で何を行う?準備から当日の動きまでの6つのポイント
M&Aの調印式は契約成立の重要な節目であるものの、「どんな流れで進むのか」「当日は何を準備すべきか」がわからず、不安を抱える経営者も少なくありません。 調印式の基本的な流れやキーワードを押さえておけば、スムーズな対応が可能です。 本…
詳しくみるM&A詐欺とは?主な手口や見極めるポイント、防止対策を解説
近年、事業継承の方法としてM&Aを選ぶ会社が増えている一方で、詐欺が発生しているのが実情です。手口も巧妙化してきており、不正行為に巻き込まれないためには、適切な知識と対策が欠かせません。 本記事では、M&A詐欺の基本や主な手…
詳しくみる会社売却後の人生は?選択肢や影響、メリットを解説
会社を長年経営してきた経営者にとって、会社売却は人生の重要な転換点です。売却により経済的な自由を得られる一方で、経営者としてのアイデンティティを失うことへの不安や、従業員や取引先への影響など、複雑な感情を抱く方も多いでしょう。 会社売却は単…
詳しくみる