- 作成日 : 2025年6月16日
株式の持ち合いとは?メリットや解消の理由、方法を解説
企業の安定経営や関係強化のために、長年にわたり活用されてきた「株式の持ち合い」。しかし近年、コーポレートガバナンスの観点から見直され、解消する動きも活発になっています。
この記事では、株式の持ち合いの基本的な意味から、他の用語との違い、メリット・デメリット、そして解消が進む背景や具体的な方法まで、わかりやすく解説していきます。ぜひ、貴社の戦略検討にお役立てください。
目次
株式の持ち合いとは?
株式の持ち合いとは、簡単に言うと、複数の会社がお互いに相手の会社の株式を保有し合うことを指します。通常は、取引関係の強化や経営の安定化などを目的として、長期間にわたって株式を保有し続けるケースが多いです。
例えば、A社がB社の株式を持ち、同時にB社もA社の株式を持つ、といった相互の関係が典型的な持ち合いです。これにより、お互いが「安定株主」となり、短期的な株価変動に左右されにくくなったり、敵対的な買収を防いだりする効果が期待されてきました。古くは、銀行と企業の間や、企業グループ内での結束を固めるためにも用いられてきた手法です。
株式の持ち合いと他用語の違い
株式の持ち合いと似たような場面で使われる言葉がありますが、意味合いは異なります。ここでは、「資本参加」「業務提携」「持株会社」との違いを整理し、それぞれの特徴を明確にします。
資本参加との違い
資本参加は、一方の企業が他方の企業の株式を取得して、資本面での関係を持つことを指します。株式の持ち合いがお互いに株式を保有する「相互」の関係であるのに対し、資本参加は基本的に「一方通行」の関係です。もちろん、結果的に相互に株式を持つこともありますが、必ずしも相互である必要はありません。資本参加の目的は、経営への関与、配当の受け取り、将来的なM&Aの布石など様々です。
業務提携との違い
業務提携は、企業同士が特定の業務分野で協力し合うことを指し、必ずしも資本関係を伴うものではありません。技術開発、販売、生産などで協力し、お互いの経営資源を活用して事業効率を高めることを目的とします。株式の持ち合いや資本参加は「資本」を通じた関係ですが、業務提携は「事業」を通じた協力関係が中心となります。ただし、業務提携を円滑に進めるために、株式の持ち合いや資本参加を行うケースもあります。
持株会社との違い
持株会社(ホールディングスカンパニー)は、他の会社の株式を保有し、その会社(事業会社)を支配・管理することを主たる事業とする会社のことです。持株会社自身が具体的な事業を行うのではなく、傘下の事業会社の経営戦略策定や管理に特化します。株式の持ち合いは複数の独立した企業間での相互保有ですが、持株会社は「親会社」として「子会社」の株式を保有する「親子」の関係が基本です。グループ全体の経営効率化や意思決定の迅速化などを目的として設立されます。
これらの違いを表にまとめると、以下のようになります。
用語 | 関係性 | 主な目的 | 資本関係の有無 |
---|---|---|---|
株式の持ち合い | 相互 | 経営安定化、関係強化、買収防衛 | 必須(相互保有) |
資本参加 | 一方向(基本) | 経営関与、配当、関係強化、M&A布石 | 必須(一方または相互) |
業務提携 | 協力(事業面) | 事業効率化、資源活用、シナジー創出 | 必須ではない(伴う場合あり) |
持株会社 | 親子(支配) | グループ経営効率化、意思決定迅速化、事業管理 | 必須(親が子を支配) |
株式の持ち合いの議決権の制限
株式を保有すると、通常は株主総会で議決権を行使できます。しかし、株式の持ち合いには、議決権に関する特別なルールが存在します。ここでは、その制限について解説します。
日本の会社法では、特定の条件を満たす株式の持ち合い関係にある会社間では、議決権が制限される場合があります。具体的には、会社法第308条第1項において、ある会社(A社)が他の会社(B社)の議決権の4分の1(25%)以上を保有している場合、そのB社はA社の株主総会で議決権を行使できないと定められています。
これは、「相互保有株式に係る議決権制限」と呼ばれます。なぜこのような制限があるかというと、もし制限がない場合、お互いの会社の経営に対して不当な影響力を及ぼしあうことや、実質的な支配関係がないにもかかわらず、株主総会での議決権だけが形式的に維持されてしまうことで、他の一般株主の権利が損なわれる可能性があるためです。経営の健全性や株主間の公平性を保つためのルールと言えるでしょう。
したがって、株式の持ち合いを行う際には、保有比率がこの議決権制限に抵触しないか注意が必要です。
株式の持ち合いのメリット
長年にわたり多くの企業で採用されてきた株式の持ち合いには、いくつかのメリットがあると考えられてきました。ここでは、主なメリットについて見ていきましょう。
経営の安定化
株式の持ち合いは、お互いが長期的に株式を保有し続ける「安定株主」となることを意味します。これにより、短期的な株価の変動に一喜一憂することなく、長期的な視点での経営判断がしやすくなります。また、持ち合い関係にある企業同士が互いの経営方針を尊重し合うことで、経営基盤の安定につながると考えられてきました。特に、敵対的な買収者に対する買収防衛策としても機能し、経営権の安定確保に寄与するとされてきました。
企業間関係の強化
株式という資本を通じた結びつきは、単なる取引関係を超えた強固なパートナーシップを築く一助となります。お互いが株主であるという意識は、継続的な取引や共同での事業展開などを円滑に進めるための信頼関係の基盤となり得ます。情報交換が密になったり、協力体制がスムーズになったりするなど、ビジネス上の連携を深める効果が期待できます。
株式の持ち合いのデメリット
一方で、近年、株式の持ち合いには様々なデメリットや問題点が指摘されるようになっています。ここでは、その主なものを解説します。
経営規律の緩み
安定株主がいるということは、裏を返せば、経営陣に対するチェック機能が弱まる可能性があるということです。持ち合い先の企業は、お互いの経営に口出しをしない「物言わぬ株主」になりがちです。その結果、経営陣に対する適度な緊張感が失われ、経営判断の甘さや非効率な経営を招くリスクがあります。株主全体への説明責任や、企業価値向上への意識が希薄になる可能性も指摘されています。
資本効率の低下
持ち合い株式は、本来であれば事業投資や株主還元などに活用できるはずの資本を、長期間にわたって固定化させてしまう側面があります。特に、業績や配当が低迷している持ち合い先の株式を保有し続けることは、自社の資本効率(ROE:自己資本利益率など)を低下させる要因となります。限られた経営資源を有効活用するという観点からは、非効率な状態と言えるでしょう。
コーポレートガバナンス上の問題
株式の持ち合いは、その関係性が不透明になりがちで、株主構成の実態が見えにくくなることがあります。また、持ち合い関係にある企業間での取引が、必ずしも経済合理性に基づいていないのではないか、といった疑念を招く可能性もあります。これは、企業経営の透明性や公正性を重視するコーポレートガバナンスの観点からは、問題視される傾向にあります。株主平等の原則にも反するのではないか、という指摘もあります。
株式の持ち合いが解消する理由
かつては多くのメリットがあると考えられてきた株式の持ち合いですが、近年は解消する動きが加速しています。その背景にある主な理由を見ていきましょう。
コーポレートガバナンス・コードの影響
日本において株式持ち合い解消の大きな流れを作ったのが、「コーポレートガバナンス・コード」の導入と改訂です。このコードでは、上場企業に対して、政策保有株式(持ち合い株式を含む)について、その保有目的や経済合理性を具体的に説明することや、保有に伴うリスク・リターンを検証し、取締役会で定期的に議論することを求めています。合理的な説明ができない持ち合い株式については、縮減(売却など)を検討するよう促しており、これが解消の大きな圧力となっています。
株主からの圧力(特に海外投資家)
グローバル化が進む中で、海外の機関投資家など、いわゆる「物言う株主」の発言力が増しています。彼らは、資本効率の改善や株主価値の最大化を厳しく求める傾向にあります。株式の持ち合いは、資本効率を低下させ、経営規律を緩ませる可能性があるため、株主から解消を求める声が強まっています。ROEなどの経営指標に対する意識の高まりも、持ち合い解消を後押ししています。
資本効率改善への意識の高まり
低金利環境の長期化やグローバル競争の激化などを背景に、日本企業の間でも資本効率を重視する経営へとシフトする動きが強まっています。持ち合い株式を売却して得た資金を、成長分野への投資、自社株買い、配当などに振り向けることで、企業価値向上を目指す企業が増えています。ROE向上は、投資家からの評価を高める上でも重要な課題となっています。
株式の持ち合いを解消する方法
では、実際に株式の持ち合いを解消する場合、どのような方法があるのでしょうか。主な方法をいくつかご紹介します。
市場での売却
最も一般的な方法の一つが、証券取引所を通じて株式を売却することです。ただし、一度に大量の株式を売却すると、株価に大きな影響を与え、市場の混乱を招く可能性があります。そのため、ブロックトレード(市場外での相対取引)や、複数回に分けて少しずつ売却するなど、市場への影響を抑える工夫が必要となる場合があります。持ち合い相手との関係性にも配慮しながら進めることが重要です。
自己株式取得(自社株買い)
持ち合い相手の企業に、自社の株式を買い取ってもらう方法です。相手企業が自己株式取得(自社株買い)を実施するタイミングに合わせて売却することで、市場への影響を抑えつつ、円満に持ち合いを解消できます。双方の合意が必要となりますが、友好的な解消方法の一つと言えます。
第三者への売却
持ち合い株式に関心を持つ他の投資家や企業(第三者)を見つけ、相対取引で売却する方法です。市場を通さないため、株価への直接的な影響は避けられますが、適切な買い手を見つける必要があります。
どの方法を選択するにしても、税務上の影響や法的な手続き、そして何よりも持ち合い相手との関係性に配慮しながら、慎重に進めることが求められます。
株式の持ち合いを理解して、正しく活用しよう
この記事では、「株式の持ち合い」について、その意味からメリット・デメリット、そして解消の動きとその方法まで幅広く解説しました。
株式の持ち合いは、かつて日本企業の間で広く見られた慣行であり、経営の安定化や企業間関係の強化といった目的で活用されてきました。しかし、コーポレートガバナンスへの意識の高まりや資本効率重視の流れの中で、そのデメリットが強く認識されるようになり、近年は解消・縮減が進んでいます。
自社や取引先が保有する持ち合い株式の状況を把握し、その意義や影響を正しく評価することが、今後の戦略を考える上でますます重要になっています。この記事が、株式の持ち合いに関する理解を深め、実務の一助となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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