• 作成日 : 2025年10月6日

M&A詐欺とは?主な手口や見極めるポイント、防止対策を解説

近年、事業継承の方法としてM&Aを選ぶ会社が増えている一方で、詐欺が発生しているのが実情です。手口も巧妙化してきており、不正行為に巻き込まれないためには、適切な知識と対策が欠かせません。

本記事では、M&A詐欺の基本や主な手口や見極めるポイント、具体的な防止対策を解説します。詐欺被害を未然に防ぐためにも、ぜひ参考にしてください。

M&A詐欺とは?

M&A詐欺とは、事業承継や成長のためのM&Aを装った、不正な取引の総称です。

詐欺被害が拡大している要因としては、中小企業の承継でM&Aが広がり、経験や情報不足の売り手が増えたことが背景にあります。

M&A詐欺の手口は、おおむね以下のような流れです。

  1. 甘い条件で期待をあおる
  2. 急がせて即断させる
  3. 内容を十分に確認させない

一方で被害内容の代表例には、以下のようなケースがあげられます。

  • 買収後に代金が支払われない
  • 途中で大幅な減額を迫られる
  • 会社口座の資金が持ち出される
  • 重要情報が外部に漏れる など

M&A詐欺の主な手口

M&Aの詐欺は、甘い条件で気持ちを動かし急がせて判断させ、肝心の中身を確かめさせないといった、三段階で進むのが主です。

たとえば、「相場より高く買える」「大手が指名している」などと甘い言葉で期待をもたせ、「48時間以内に返事をしないと無効になる」などと判断を急がせるケースがあります。

売り手の早く決めたい気持ちやほかに買い手が見つからないかもしれないといった、心理的圧力による、即断させるための手口です。

また、M&A詐欺は売り手だけに起こり得るものではありません。以下より、売り手と買い手それぞれの手口を解説します。

売り手側が狙われるケース

売り手が狙われる典型的なケースは、相場以上の高値や「指名で買いたい」という誘いで専任契約を急がせる手口です。

具体的には、契約後に「精査した結果、価値が下がった」と主張して大幅な値下げを求め、違約金や時間のロスを理由に承諾せざるを得ない状況へ追い込むことがあります。

また、引渡し日に少額だけ払い、残りを数ヶ月後に一括で支払うとする提案も危険です。引渡し後は回収が難しくなるため、後払いに合意する場合は第三者の預かり口座(エスクロー)や銀行・親会社の保証を必須としてください。

さらに「個人保証はあとで外す」という書面のない約束や、実体や資金があいまいな買い手で話を進めるケースにも注意が必要です。

書面のない約束は鵜呑みにせず、銀行の同意書を事前に受け取り、買い手の実在性や資金力を裏づける証拠を確認してから、次の工程に進みましょう。

これらの資料を提示しない相手とは交渉を中断し、第三者に相談するなどして、すぐに契約しないことが重要です。

買い手側が狙われるケース

買い手が狙われるケースは、売上の水増しや負債の隠し、偶発債務の伏せなどで実体を良く見せ、価格をつり上げる手口です。

資料は示すものの原本や裏付けを出さない、Q&Aの回答を引き延ばす、といった情報操作が行われることもあります。さらに、開示や手続きの名目で高額な追加費用を求める例もあります。

対策としては、元資料の確認や第三者による契約前の確認、回答記録の保存を徹底し、疑問が解消しなければ進めないことです。

M&A詐欺被害に遭いやすい3つの状況

M&Aの話は、次のような場面で判断がぶれやすくなります。
自分がこの状況に当てはまっていないか確認しましょう。

1.後継者問題で焦っているとき

経営者の高齢化や後継者不在が続くと、早く決めなければという心理が強まります。そこにつけ込み「今決めれば好条件である」「買い手が待っている」など、即決を迫ってくるのです。

価格の根拠や支払い条件、保証の扱いなどの説明が不足したまま進めてしまうと、のちに未払いや個人保証が外れないなどのトラブルリスクが高まります。

すこしでも違和感があれば、事業承継や引継ぎ支援センター、弁護士に早めに相談しましょう。

2.業績が悪化しているとき

業績が悪化しており、資金繰りが厳しいと、すぐ現金化できるという言葉に心が動きます。ここで注意したいのが、「引渡し後にまとめて支払う」「保証はあとで外す」といった不確実な条件です。

代金を後払いにすると未払い時の回収が難しくなり、保証の解除も金融機関の同意書がなければ実現されません。支払い方法と保証の扱いは、必ず契約前に書面で確定させましょう。

迷いがある場合は、公的窓口に相談するのが安全です。

3.甘い誘いを受けたとき

「相場より高く売れる」「大手が指名している」といった強い誘い文句は、判断を急がせる常套手段です。根拠のない高値提示で専任契約を結ばせ、後から大幅な減額を迫る流れも見られます。

最近は、業界団体が虚偽や誤解を招く営業を禁じる動きが強まっています。しかし、警戒が欠かせません。価格の根拠資料と検討の時間を求め、第三者の目で確認してから決めるようにしましょう。

詐欺業者か見極めるための4つのポイント

信用できる相手か見分けるには、以下の4つのポイントをおさえましょう。

  1. 仲介会社の実績・登録状況を確認する
  2. 契約内容・手数料の透明性を確保する
  3. 買い手の実在性・資金力を検証する
  4. 事実に基づいた営業活動か確認する

1.仲介会社の実績・登録状況を確認する

まずは仲介会社が、中小企業庁が設けた「M&A支援機関登録制度」に入っているかを確かめます。

M&A支援機関として登録されるには、所定の要件を満たす必要があり、審査を通過すると中小企業庁のデータベースに掲載され、国公認の登録機関として公表されます。国が十分な条件を満たすと認めた機関であれば、一定の信頼性は担保されているといえるでしょう。

ただし、それだけでは個別の対応品質まで保証されないため、成約実績や担当者の経験、同業支援の例を資料で確認しましょう。必ず複数社を比べて、説明の丁寧さも見たうえで選ぶのが望ましいです。

2.契約内容・手数料の透明性を確保する

仲介業者に依頼する前に、支援内容の範囲を具体的に確認するようにしましょう。

たとえば候補探しや相手との交渉、書類づくりや日程調整など、何をどこまでやってくれるのかを明確にしておかないと、業者との相違によりトラブルになりかねません。

また仲介会社に支払う費用も、主に以下の内訳と支払い時期を契約書に明記してもらいましょう。

  • 着手金:依頼時に支払うお金
  • 中間金:依頼途中で支払うお金
  • 成功報酬:成約したときに払うお金
  • 最低報酬:成功報酬なしの場合でも最低限払うお金

さらに、途中解約の取り決め(かかる費用、返金の有無、作成済み資料の扱い)も書面で決めておくと安心です。

3.買い手の実在性・資金力を検証する

仲介会社が示す買い手の情報について、以下3点を必ず確認するようにしましょう。

  • 実在の有無
  • 資金力
  • 最終決定者

実在の有無は、登記簿や会社のホームページで社名・住所・代表者を確認したり、担当者がいる場合には名刺と在籍情報が一致するのかを確認します。

資金力は、残高証明・銀行の融資内諾書・出資の確約書などから、金額や入金時期を提出してもらい、内容をチェックしましょう。

さらに仲介業者が示す買い手情報は、自分たちだけで確認するのではなく、第三者(公的窓口・弁護士・会計士)にも確認してもらうと安心です。

4.事実に基づいた営業活動か確認する

M&A仲介協会では、虚偽や誇大な勧誘を禁じており、公的ガイドラインも広告表現と重要事項の説明を求めています。

とくに以下の点を提示しない仲介業者はガイドラインに違反している可能性があります。

  • 根拠資料を示さない高値提示
  • 当日の専任契約を迫る要求
  • 弁護士・会計士など第三者相談を嫌がる態度

このような場面では、価格の根拠を口頭ではなく紙で提出してもらい、即答せずに期間を置いてから回答しましょう。

必要なら第三者に意見をもらい、落ち着いて書面と証拠で判断することが大切です。

M&A詐欺被害を防ぐための対策

M&A詐欺被害を防ぐためには、以下の点について対策するようにしましょう。

対策具体的なアクション
二重チェック体制をつくる
  • 最初から弁護士・会計士に相談できる体制を整える
  • 重要条件は複数人で承認し、必ず冷却期間を置く
  • セカンドオピニオンも活用する
登録・実績・費用の見える化で仲介業者を選ぶ
  • M&A支援機関の登録有無を確認する
  • 担当者の経験と同業の成約例を資料で受け取る
  • 費用の内訳と支払う時期を契約に明記させる
買い手の実在・資金・権限を証拠で確認する
  • 登記、会社情報、担当者の身分を照合する
  • 残高証明や融資の内諾で資金を確認する
  • 最終決定者と承認の段取りも特定する
  • 出ない場合は中断する
価格と条件は「根拠+担保」で固める
  • 価格の計算方法と比較先を文書でもらう
  • 後払いを求められたら、エスクロー(第三者預かり)や銀行、親会社の保証をつける
リスク確認と質疑応答を続ける
  • 財務、税務、契約、許認可を最低限チェックする
  • 質問と回答を記録し、疑問が残れば条件を見直す
余裕のあるスケジュールを組む
  • 「仮合意→確認→最終合意→支払い前の最終チェック」の関所を置く
  • 変更点は都度、書面で更新する
行き詰まったら公的窓口→専門家の順で相談する
  • 事業承継・引継ぎ支援センターやよろず支援拠点で状況を整理し、弁護士につなぐ
  • 証拠は事前にそろえる

国のガイドラインは、費用の内訳や支援範囲を契約書への明記、誇大な勧誘を避けること、第三者の確認を入れることを促しています。

そして後払いに合意する場合には、担保(エスクローや保証)の提示がなければ合意しない姿勢をもつことが大切です。

また承認権限や承認日程を早い段階で書面化すれば、「土壇場で止まる」「後出しで条件が変わる」といったことを減らせます。

万が一M&A詐欺被害に遭ったときの対応2つ

詐欺の被害にあったかもしれないと感じたら、すぐに以下のような行動をとりましょう。

  • 弁護士や専門家に相談する
  • 国の相談窓口を活用する

1.弁護士や専門家に相談する

詐欺にあった場合にもっとも有効な手段が、弁護士や専門家に相談することです。

どこにどうやって相談したらいいかわからないという場合には、中小企業向けの弁護士相談窓口を予約して、案件にあう弁護士を紹介してもらいましょう。相談費用が不安であれば、無料相談ができる法テラスに連絡し、適切な相談先の案内も受けられます。

相談前には、以下の内容をまとめておくと、話がスムーズに進みます。

  • 時系列メモ(いつ、誰と、何を)
  • 証拠(契約書、見積書請求書、メールなど)
  • 相手の主張

弁護士は、状況を整理したうえで、今とるべき手順を一緒に決めてくれます。たとえば支払いを一時的に止める段取り、相手に支払いを担保させる方法、内容証明での正式な通知といった選択肢を具体的に検討してくれるでしょう。

またM&Aや事業承継の経験がある弁護士なら、話が早く、現実的な落としどころも提案してくれるので安心です。

2.国の相談窓口を活用する

公的窓口は、「最初の相談の入口」として活用できます。

たとえば中小企業の注意喚起ページで典型例を確認し、該当するようであれば事業承継・引継ぎ支援センターへ相談しましょう。同支援センターは全国に拠点があり、状況整理と適切な専門家への橋渡しをしてくれます。

また経営全般の悩みが関連しているケースでは、無料で継続的に相談できる、よろず支援拠点中小機構も有効です。

ただし犯罪の疑いが濃い場合には、警察相談専用電話「#9110」へ連絡をして、状況を説明しましょう。緊急性が低くても、担当部署につないで話を聞いてもらえるため、被害の拡大を防げます。

なお相談時には、証拠となる資料を持参し、希望する対応(支払い停止、契約解除、返金請求など)をまとめていくと、話が進みやすくなるでしょう。


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