• 作成日 : 2025年10月6日

薬局M&Aとは?基礎知識から流れ・相場・成功のポイントまで徹底解説

「後継者がいない」「体力的に経営を続けるのが難しい」「赤字経営で将来が不安」こうした悩みを抱える薬局オーナーは少なくありません。

実際に地方の薬局では、同じように経営判断に迷いながらも、引退するならどうすれば良いのかと悩んでいる方が数多くいます。

そこで注目されているのが薬局M&Aです。M&Aにより、経営者自身は現金化や保証の解消、従業員は雇用の継続というメリットを得られる可能性があります。この記事では薬局M&Aの流れやメリット、赤字薬局でも売却できる理由をわかりやすく解説していきます。

薬局M&Aとは?

薬局M&Aとは、経営している薬局の経営権を第三者に譲渡・売却することを指します。具体的には、薬局の資産・負債・許認可・営業・従業員などを買い手に引き継いでもらいながら、薬局という事業を継続する方法です。

薬局M&Aには、単なる売却だけでなく、地域医療の継続や従業員の雇用維持という観点でも貢献できる強みがあります。

従業員が引き続き働ける体制を整えたり、薬局として医療機関との関係・患者との信頼を買い手が引き継いだりすることで、地域のかかりつけ薬局としての役割の継続が可能です。

M&Aの基本的な仕組み

株式譲渡と事業譲渡は、同じM&Aの手法であっても大きな違いがあります。

株式譲渡は法人そのものの株式を譲渡することで経営権を移転する方法であり、法人格はそのまま存続するため、買い手が新たに許認可を取得し直す必要はありません。

一方、事業譲渡は事業の一部または全部を切り出して譲渡する形となるため、買い手側で改めて許認可の取得が求められます。

両者は税務・法務・財務の面でも異なる影響が生じるため、譲渡の目的や状況に応じてどちらの手法を選ぶかを慎重に検討することが重要です。

薬局M&A特有のポイント

薬局M&Aにおいては、まず薬局開設許可や保険薬局指定といった各種許認可の引き継ぎが欠かせません。これらの手続きがスムーズに進むかどうかは、営業継続に直結する大きなポイントです。

企業評価を左右する要素としては、調剤報酬の水準や処方箋枚数が重視され、将来の収益性を見極める重要な指標とされます。

薬剤師の確保や従業員体制の維持が安定した運営を保証する基盤となり、買い手から見ても安心して事業を引き継げる魅力的な条件です。これら三点をしっかり整えておくことで、より高い評価や有利な条件での譲渡につながりやすくなるのです。

薬局M&Aの流れ

薬局M&Aは、大きく①仲介会社への相談②交渉・デューデリジェンス(DD)③契約・クロージングの3つのステップで進む場合が多いようです。

初期段階では専門家に相談し、条件整理や準備を進めることから始まります。その後は買い手候補との交渉や詳細調査を経て、最終契約と引き継ぎまでが流れです。

各段階には薬局特有の許認可や従業員体制の確認など注意すべきポイントがあり、流れを理解しておくことがM&A成功への第一歩となるでしょう。

① 仲介会社へ相談

薬局M&Aでは、まず仲介会社への相談が有効です。専門家と共に譲渡条件やスケジュールを設計することで、内部混乱やトラブルを防ぎながら準備できます。

仲介会社は財務整理から買い手候補選定、NDA後の情報開示や交渉・契約書作成、許認可手続き調整まで幅広く支援します。

結果として価格だけでなく従業員処遇や地域医療の継続性なども踏まえた最適な売却が可能です。専門ネットワークを通じて、自力では出会えない買い手にアプローチできる点も強みです。売却後の後悔を減らすためにも、早めの相談が推奨されます。

② 交渉フェーズ・DD

薬局M&Aにおける交渉フェーズでは、まず秘密保持契約(NDA)を締結し、安心して事業情報を開示できる環境を整えます。その後、買い手候補との条件交渉や経営陣によるトップ面談を経て、基本的な合意内容を示す意向表明書や基本合意書を締結するのです。

続いて実施されるデューデリジェンス(DD)では、財務や法務、人事や在庫・既存契約など多方面にわたる詳細調査が行われます。この調査により、潜在的なリスクや価格調整につながる要因を明確化することが可能です。

薬局のM&Aは調剤報酬や薬剤師の雇用など特有の確認項目が多いため、買い手・売り手双方にとって交渉フェーズ・DDは非常に重要なプロセスといえます。

③ 契約・クロージング

交渉とDDを経て合意に至った後は、最終契約の締結とクロージングが行われます。買い手は合意内容に基づき対価を支払い、同時に薬局の許認可関連の名義変更や行政手続きを進めます。

経営権が正式に移転した後も、実務面でのスムーズな引き継ぎが不可欠です。そのためPMI(Post Merger Integration)が重要となり、処方箋の取り扱いや従業員体制、薬剤師の業務フローなどを丁寧に調整していきます。

契約から実務統合まで一貫して管理することで、薬局M&A後の安定経営につながります。

薬局M&Aの4つの視点からのメリット

薬局M&Aは、経営者だけでなく、従業員や地域の利用者にとってもプラスの効果をもたらします。

経営権の承継によって事業を継続できるほか、雇用や地域医療サービスが守られる点も大きな特徴です。ここからは、薬局M&Aの具体的なメリットについて見ていきましょう。

薬局M&Aの売り手側のメリット

後継者不在でもM&Aを活用することで薬局の事業を継続できます。これにより地域で培われた医療サービスが途絶えることなく、患者への安定的なサポートを維持できます。

売却によって得られる資金は老後資金だけでなく、新しい事業や投資にも活用可能です。薬局経営に縛られず柔軟なライフプランを描ける点が魅力です。

薬局経営には仕入れ管理や人材マネジメントなど多くの負担があります。M&Aによる譲渡でこうした日常的な経営負担やリスクから解放され、精神的・体力的な余裕を得られるのです。

新たな経営者に引き継ぐことで従業員の雇用を守り、地域の患者にも安定した医療サービスを提供し続けられます。

薬局M&Aの買い手側のメリット

複数の薬局を統合することで仕入れや運営コストを削減でき、規模の経済を活かして経営効率を高められます。これにより利益率の向上や競争力強化が可能です。

新規に薬局を開設する場合は許認可取得や人材確保などに時間がかかりますが、既存薬局を買収すれば短期間で新たな地域や顧客基盤に参入でき、早期収益化につなげられます。

買収によりすでに勤務している薬剤師やスタッフをそのまま確保でき、人材不足による運営リスクを大きく軽減できます。経験豊富なスタッフがいれば、新しい経営者でもスムーズに業務を引き継げるのです。

長年培われた業務運営のノウハウや医療機関・患者との信頼関係もそのまま継承できるため、経営リスクを抑え安定した運営が可能です。

薬局M&Aの利用者・従業員視点のメリット

後継者不在で閉局のリスクがある薬局でも、M&Aにより新しい経営者に引き継がれることで、患者は安心してかかりつけ薬局を利用し続けられます。M&Aは地域医療を守るうえで重要な役割を果たせるのです。

薬局の譲渡・売却によっても既存の従業員は雇用を維持でき、突然の失職や環境変化による不安が軽減されます。経営の継続性が担保されることで、従業員のモチベーション維持にもつながります。

新しい経営主体によっては業務体制や運営方法が改善され、従業員にとって働きやすい環境が整う場合もあるでしょう。買い手企業が持つノウハウやシステムが導入されれば、サービスの質向上が期待できます。

大手企業やグループ会社が買い手の場合、福利厚生や給与体系の整備が進み、従業員の待遇向上につながることもあります。

薬局M&Aの4つの視点からのデメリット・リスク

薬局M&Aには注意が必要な側面もあります。条件交渉の難航や引き継ぎ時の混乱など、売り手・買い手・従業員・地域利用者それぞれにリスクが生じる可能性があるのです。

プラス面とあわせて理解しておくことが重要ですので、ここからはデメリットやリスクについて詳しく解説していきます。

薬局M&Aの売り手側のデメリット・リスク

薬局M&Aでは、長年大切にしてきた経営方針や理念が、買い手の意向によって変わることがあります。サービス内容や営業時間、取り扱い商品が変わると、従業員や地域の利用者にも影響が及び築いてきた雰囲気や信頼関係が損なわれる不安もあるでしょう。

売却契約には競業避止義務が盛り込まれることが多く、譲渡後に同業での再起業や薬局関連事業への参入が制限される場合があります。自由なキャリア形成や新規事業展開の選択肢が狭まることもあるため、契約内容は慎重に確認すべきです。

従業員の雇用条件や患者へのサービスが変化すると、売り手として心理的な責任を感じる場面も出てきます。こうした不安を軽減するためにも、契約内容を丁寧に確認することが欠かせません。

契約条件には価格以外にも支払方法や保証責任、業務引き継ぎや退職金など複雑な要素が含まれるため、専門家による精査が重要です。

薬局M&Aの買い手側のデメリット・リスク

買収対象の薬局は事前に財務や契約内容を確認していても、未払いの仕入れ債務や賠償責任など思わぬ簿外債務が後から判明することがあります。その場合、想定外の費用が発生し、経営計画に影響を及ぼすおそれがあります。

新しい経営体制に不満を持った従業員や顧客が離れるリスクも見逃せません。従業員が離職すれば運営体制が崩れ、顧客の信頼を失えば売上減少や地域での評判低下につながりかねません。

期待していた収益性や立地条件が想定と異なる場合には、投資回収に時間がかかり、経営戦略に支障をきたすこともあります。リスクを抑えるためには、買収前に財務や法務・人材・設備などを丁寧に調べるデューデリジェンスと、統合後の運営計画をしっかり練ることが欠かせません。

薬局M&Aの利用者・従業員視点のデメリット・リスク

買い手の経営方針が変わることで、従業員の仕事の進め方や職場の雰囲気に影響が出ることがあります。新しい体制や手順に慣れるまで時間がかかり、負担や不安を感じる人も少なくありません。

経営主体が変わると、給与体系や福利厚生に見直しが入ることがあります。従業員の生活や働き方に直接関わる部分だけに、不満やモチベーション低下、場合によっては離職につながるでしょう。

新しい経営者が効率化や拡大を重視する場合、これまで大切にされてきた地域に根ざしたサービスが薄れてしまうことがあります。長年築いてきたかかりつけ薬局としての信頼感が損なわれる恐れもあるため注意が必要です。

こうした不安を和らげるには、売り手と買い手の双方が丁寧な説明やサポート、業務の引き継ぎに配慮することが欠かせません。十分な配慮がなければ、従業員の離職や顧客離れといった問題につながる可能性があります。

薬局M&Aの価格相場|評価方法と変動要因を解説

薬局を譲渡・売却する際に最も気になるのが価格相場です。薬局M&Aでは、薬局の収益性や資産、人材体制などを総合的に評価して価格が決まります。

事前に評価方法や相場の変動要因を理解しておくことで、自分の薬局の適正価格を把握でき、交渉を有利に進めることが可能です。ここでは、企業価値評価の方法と価格を左右する主な要因を詳しく解説します。

企業価値評価の方法

薬局M&Aにおける価格は、売却対象となる薬局の企業価値評価によって算出されます。主な評価方法としては、まずDCF法(Discounted Cash Flow法)があり、将来の収益予測を基に現在価値を算出可能です。

次にマルチプル法では、EBITDA営業利益に業界で一般的な倍率をかけて評価します。純資産法は、薬局が保有する資産と負債を時価ベースで評価する方法です。これらの方法を組み合わせることで、薬局の適正価格を多角的に判断できます。

薬局M&Aの相場を変動させる要因

在宅医療に対応している薬局は、地域医療への貢献度や収益性の可能性が高く、相場評価が上がる要因です。

売上が減少している薬局や赤字経営の薬局は、将来的な収益性への懸念から評価が下がりやすく、経営状況が価格に直接影響します。

薬剤師やスタッフの人材が不足している場合には運営リスクが高まり、相場が低くなる傾向がありますが、安定した人材体制が整っている薬局は高評価につながります。

買い手は現在の売上だけでなく、今後の収益性や潜在的リスクを総合的に判断して価格を決定するため、日々の経営状況や運営体制の整備が相場に大きく影響を与えるのです。

薬局M&Aを成功させるための2つのポイント

薬局M&Aを成功に導くには、価格や条件を左右する要素を事前に押さえておくことが欠かせません。特に、交渉を有利に進めるための準備と、専門家や仲介会社の活用は大きな効果を発揮します。

ここでは、この2つのポイントを中心に、スムーズな売却と高値での譲渡につなげるための具体策を解説します。

交渉で有利に進めて高く売る

薬局M&Aを成功させるには、まず交渉力を高める準備が重要です。売却前に営業利益の改善や不要経費の見直しを行うことで、買い手からの評価を上げることができます。

許認可や在庫、人材体制の整備を行うことで、引き継ぎやすく安心できる薬局として印象付けられます。売却のタイミングや買い手候補の選定も価格に大きく影響し、複数候補との交渉や比較を行うことで、条件を有利に進め高値での譲渡を目指すことが可能です。

専門家・仲介会社を活用する

薬局M&Aでは、調剤報酬制度や薬事法規制に詳しい専門家の支援を受けることで、法務・財務・許認可関連のリスクを事前に回避できます。仲介会社を通じて適切な買い手候補のマッチングや条件交渉をサポートしてもらうことも可能です。

M&A後の統合プロセス(PMI)においても、従業員の引き継ぎや業務フローの整備などを支援してもらえるため、売り手として安心して譲渡を進められます。

専門家・仲介会社の活用は、スムーズなM&Aと売却後の安定経営に直結する重要なポイントです。

薬局M&Aを失敗しないための2つの注意点

薬局M&Aは、買い手・売り手双方にとって大きなメリットが期待できる取引ですが、注意点を理解していないとトラブルや失敗につながる可能性もあります。

特に薬局の場合は、他業種と比べて行政手続きや従業員対応といった独自の課題があり、慎重な準備が不可欠です。ここでは、薬局M&Aを円滑に進めるために押さえておきたい2つの注意点を解説します。

行政の承認が必要(薬局の場合は許認可の引き継ぎが必要)

薬局M&Aでは、事業譲渡の場合、新たに薬局開設許可や保険薬局指定の手続きが必要です。許認可の取得や変更には一定の期間と手間がかかるため、計画的なスケジュール設定が欠かせません。

行政からの指摘や条件変更によって譲渡スケジュールが遅延することもあるため、事前に必要書類を整え、関係機関との調整を行うことが重要です。

売却前に専門家の助言を受けることで、手続き上のトラブルを避け、スムーズな経営権移転を実現できます。

従業員の雇用や待遇を守る体制作りが必要

従業員の雇用や待遇は、薬局M&Aにおける重要なリスク要素です。

譲渡前に従業員への事前説明と合意形成を行うことで、不安や離職のリスクを低減できるでしょう。雇用条件や業務内容の大幅な変更は避けることが望ましく、引き継ぎ後も安心して働ける環境を維持することが大切です。

労務トラブルを回避するために、就業規則や契約書、給与・福利厚生制度の整備を行い買い手と協力して安定した職場体制を構築することが成功のポイントです。


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