- 作成日 : 2025年10月6日
買収プレミアムとは?理由・計算方法・メリットデメリットを徹底解説
M&Aの場面で買収プレミアムという言葉を耳にすることがあります。企業が本来の株価より高い金額を支払う理由には、シナジー効果の期待や経営権の獲得などがありますが、過大な支払いは失敗のリスクにもつながります。
経営者・役員・M&A担当者・士業や金融機関関係者にとって、買収プレミアムの理解は不可欠です。本記事では、基本概念から発生理由・計算方法・メリット・デメリット、さらに平均的な相場感までを体系的に解説します。
目次
買収プレミアムとは?
買収プレミアムとは、企業を買収するときに、市場での株価や企業価値より上乗せして支払う金額を指します。たとえばTOB(株式公開買付け)では、市場での株価より高い価格が提示されることがあります。この上乗せ分が買収プレミアムです。
M&Aでは、単に株価だけでなく、買収後に見込まれる相乗効果や経営権の取得価値も加味して金額が決まります。市場価値を超えて支払う追加の代金と考えると理解しやすいでしょう。
買収プレミアムが発生する3つの理由
買収プレミアムが生まれるのは、買収によって事業の相乗効果が見込めるときです。経営権を手に入れる価値がある場合や、競争入札で希少性が高い場合にも発生します。このような理由で、株主に市場価格以上の金額が支払われます。
① シナジー効果が見込まれる
企業を統合することで、売上拡大やコスト削減に加え、無形資産の活用による競争力強化が期待されます。市場シェア拡大や新市場参入、ノウハウ共有や人材活用などもシナジーの一部として評価されます。
将来の利益や成長の可能性を総合的に考えると、買収側は市場価格以上の金額を支払うケースもあるのです。
② コントロール権を取得する
買収プレミアムが発生する理由の二つ目は、コントロール権を取得することです。経営権を握ることで、意思決定を自社に有利に進めやすくなります。配当や投資戦略などをまとめて管理できるため、経営の効率化やリスクの抑制にもつながります。
さらに、少数株主から経営支配権を手に入れることで、重要な方針決定に直接関われる点も大きなメリットです。
買収後には、経営方針の一貫性を確保したり、長期的な成長戦略を計画的に進められることもあります。この支配力や自由度が買収価格に上乗せされる理由です。
③ 競争入札・希少性が影響する
買収プレミアムが発生する三つ目の理由は、競争入札や希少性の影響です。複数の買収希望者が同じ企業を狙うと、価格が自然に上がることがあります。独自の技術や強い市場シェアを持つ企業は、希少性が高いため高値で取引されやすくなります。
また、特定の買収候補に需要が集中すると売り手側が有利になり、提示価格が市場価値を上回ることも少なくありません。買収を早く確定させたい側が追加の条件を提示することもあり、競争や希少性の要素が買収プレミアムを大きく押し上げる結果につながります。
買収プレミアムの計算方法
買収プレミアムは、買収価格が対象企業の市場価値や株価をどれだけ上回っているかで計算します。一般的には、上乗せ分を基準株価で割って百分率で表す方法が用いられ、誰でも比率としてわかりやすく確認できます。
算出式・プレミアム率
買収プレミアムを計算する方法の一つに、買収価格を公正価値で割り、1を引くやり方があります。具体的には「買収価格 ÷ 公正価値 − 1」で求められ、買収価格が公正価値に比べてどれだけ上乗せされているかを具体的に把握できるでしょう。
また、株価を基準にする場合は、買収価格から市場株価を引いた差額を用いてプレミアム率を計算する方法もあります。
どちらの方法も、買収価格が企業価値や市場価値に対してどのくらい高いかを明確に示す目安として活用され、M&Aの意思決定に役立つ情報となるはずです。
企業価値評価手法との関係
買収プレミアムは、企業価値の評価手法と深く関わっています。企業価値を算定する際には、DCF法や市場株価比較法、修正純資産法などが使われます。
求めた算定額に買収プレミアムを上乗せして、最終的な買収価格が決まるのです。評価手法によって算定額や企業の潜在的価値の評価が変わるため、適正なプレミアムの幅も変わるでしょう。
さらに、業種や市場環境によって評価の難易度やプレミアムの設定が異なる場合もあり、どの手法を選ぶかは買収価格を決めるうえでとくに重要です。
買収プレミアムを支払う2つのメリット
買収プレミアムを支払うメリットには、まずM&Aの成立を早められることがあります。もう一つは、交渉で優位に立つことで、相手企業との条件の調整をスムーズに進めやすくなり合意までの手続きを円滑に進められます。
① 成立を加速させる
買収プレミアムを支払うと、M&Aの成立を早めやすくなります。売り手にとって魅力的な価格を提示できるため、契約成立までの時間を短縮しやすくなるのです。他の候補より条件を有利に示せれば、合意形成も早まり交渉の長期化リスクを抑えられます。
プレミアムを提示することで、売り手側の信頼を得やすくなり関係性を良好に保ちながら交渉を進められる点も大きなメリットです。競争が激しい案件では、こうした効果が交渉を有利にする重要なポイントです。
② 交渉優位性が高まる
買収プレミアムを支払うと、交渉で有利に立ちやすくなります。複数の買い手が競合する場面でも、条件を工夫すれば交渉を優位に進められるでしょう。希少な案件や価値の高い企業も、確実に獲得できる可能性が高くなります。
売り手の信頼を得やすくなるため、協議をスムーズに進められる点も大きなメリットです。プレミアムを提示することで長期的な関係構築や将来の協業に向けた信頼も得やすく、交渉後のフォローも円滑に進められるでしょう。
プレミアムの提示は価格を上乗せするだけでなく、交渉全体を有利に運ぶ重要な手段です。
買収プレミアムを支払う2つのデメリット
買収プレミアムを支払うと、いくつかのデメリットがあります。まず、会計上のリスクが高くなる点です。さらに、支払額が増えることで経済的な負担も大きくなり、投資の回収や会社の財務に影響が出る可能性もあります。
① 会計上のリスクが高まる
支払ったプレミアムはのれんとして計上されますが、統合効果が出なければ減損処理が必要となり、株主や投資家からの信頼低下につながります。
買収価格を決める際には、会計上の影響や減損リスクも含めて慎重に判断することが非常に重要です。
② 経済的リスクが増大する
買収プレミアムを支払うと、経済的なリスクが高くなる点に注意が必要です。過大なプレミアムは投資回収を困難にし、収益改善が進まなければ事業失敗のリスクを高めます。
株主からの批判や経営責任の追及を招き、財務体質や将来の投資余力を損なう恐れもあります。買収価格を決める際には、収益見通しや事業計画をよく確認し、支払うプレミアムが妥当かどうか慎重に判断することが大切です。
買収プレミアムの平均水準と相場観
買収プレミアムの平均水準は案件や業種によって違います。上場企業のTOBでは30~40%程度を目安とするケースが見られます。相場の感覚を知っておくことで、妥当なプレミアムをより正確な設定が可能です。
上場TOBの平均プレミアム
日本市場のTOBでは30〜40%程度が目安とされ、とくに40%前後に集中しています。買収価格を検討する際の参考水準です。
業種や企業規模によって差が出る場合もあります。個別の案件では過去事例だけで判断せず、財務状況や成長性も考慮して適切なプレミアムを決めることが重要です。こうした市場の動向を理解しておくと、交渉や戦略立案にも役立つはずです。
相場の業種・市況による差
買収プレミアムの水準は、業種や市況によって変動すると一般に言われています。成長産業やブランド力のある企業は高めに設定される傾向がある一方で、景気後退期や成熟産業では低めに抑えられることもあるようです。
市場全体の状況や競争環境によっても水準は変わり、同じ業種でも案件ごとに差が出ることがあります。加えて、企業の財務状況や将来の成長性、買収候補の希少性もプレミアムの設定に影響します。
買収価格を決めるときには、業種の特徴や市況や競合の状況を踏まえて適正なプレミアムを見極めることが大切です。
適切な設定のための2つのポイント
買収プレミアムを適切に決めるには、まずデューデリジェンス(DD)で前提条件をしっかり確認することが大切です。そのうえで、シナジー効果が実際に期待どおりに得られるかどうかを検証しておく必要があります。
① デューデリジェンスでの前提検証を実施する
買収プレミアムを適切に決めるには、まずデューデリジェンスで前提条件をしっかり確認することが大切です。財務や法務、事業の内容を精査することで、買収価格が妥当かどうかを裏付けられます。
加えて、将来のキャッシュフローが実際に実現できるかも確認しておく必要があります。DDが不十分だと過大なプレミアムを支払ったり、統合後に事業がうまくいかず失敗するリスクが高まるため、事前の慎重な確認が欠かせません。
関係者間で情報を共有し、認識を一致させておくことも統合を成功させるうえで非常に重要なポイントです。
② シナジー効果の実現可能性を検証する
買収プレミアムを適切に決めるには、統合後に期待されるシナジー効果が本当に実現できるかを確認することが大切です。収益改善やコスト削減の効果を数字で示し、現実的に達成できるかを裏付けます。
実現可能性の低い効果を前提にすると、将来的にのれん減損などのリスクが高まり、投資家や株主の信頼を損なうこともあります。そのため、根拠を明確にして関係者に説明することが欠かせません。
シナジーの効果は短期だけでなく中長期でも評価し統合計画や事業戦略に反映させ、具体的な数値目標も設定して進捗を管理することが重要です。
スキーム別の違い
M&Aのスキームによって、買収の方法やプレミアムの扱いは変わります。TOBは株式を公開買付けする方法で、株式交換や合併とは手続きや会計処理が異なります。
そのため、企業の戦略や目的に応じ最適なスキームを選ぶことが大切です。
TOB
TOBでは、対象企業の株式を市場価格より一定程度上乗せして提示することが一般的です。この上乗せ分が買収プレミアムで、TOBでは比較的わかりやすく算出できます。
プレミアムを提示することで、株主に売却の動機を与え、応諾を得やすくなります。適正なプレミアムを設定することが、買収を成功させるうえで非常に大切です。
プレミアムの水準は業種や市場状況、対象企業の希少性によって変わるため事前に慎重な分析や評価を行う必要があります。こうした準備が整えば、買収後の統合もスムーズに進めやすくなります。
株式交換・合併との違い
株式交換や合併では、買収価格は交換比率や合併比率で決まります。そのため、TOBのように買収プレミアムが直接示されることはありませんが、比率の設定には実質的にプレミアムが含まれることがあります。
合併スキームでは、企業価値をもとに株式比率を算出し、公平な条件になるよう調整されるでしょう。この仕組みにより、買収後の統合や経営権の移行もスムーズに進められます。
また、株式交換や合併では現金を使わないケースも多く、資金負担を抑えつつ経営統合を進めやすいです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
社長交代とは?手続きの流れ、成功のポイントまで解説
企業のトップである社長の交代は、組織にとって大きな転換期です。この記事では、社長交代の基本的な定義から、その理由、手続きの流れ、そして成功させるための重要なポイントまでを解説します。 社長交代とは? 社長交代とは、企業の経営トップである社長…
詳しくみる自社株TOBとは?自社株買いとの違いやディスカウントについて解説
「最近ニュースで『自社株TOB』ってよく聞くけど、一体どういうものなんだろう?」 「もし自分の会社が自社株TOBを実施したら、持っている株はどうなるのかな?」 「自社株買いとは何が違うの?」M&Aや資本政策に関わる中で、このような疑…
詳しくみる詐害行為とは?該当するケースや取消請求までわかりやすく解説
M&Aの取引において、「詐害行為」という言葉を聞いたことはありますか?この記事では、詐害行為とは何か、具体的な事例や取消方法、そして未然に防ぐための対策まで、わかりやすく解説します。 詐害行為とは? 詐害行為とは、債務者が債権者に損…
詳しくみる私的再生とは?メリットや手続き、法的再生との違いを解説
企業が経営困難に陥った際、事業継続のための選択肢として「私的再生」があります。法的手続きを経ずに債権者と直接交渉することで、迅速かつ柔軟な事業再建を目指す手法として注目されています。 この記事では、私的再生の基本概念から具体的な手続き、メリ…
詳しくみるM&Aにおけるのれんとは?会計基準や税務処理を解説
M&Aにおける「のれん」は、買収価格と被買収企業の純資産額との差額として発生する重要な会計項目です。この記事では、のれんの基本概念から会計処理、税務処理まで、M&A関係者が知っておくべき知識を解説します。 のれんとは? M&…
詳しくみるネームアップとは?ネームクリアとの違いやM&Aにおける定義を解説
ビジネスの世界において、「ネームアップ」という用語は様々な業界で使用されており、ネームクリアと同様の意味として位置づけられています。 この記事では、ネームアップの基本概念から実務での活用方法まで、包括的に解説します。 ネームアップとは? ネ…
詳しくみる