- 作成日 : 2025年10月6日
土木M&Aとは?業界動向やメリット・成功のポイントまで解説
土木業界では人材不足や後継者不在により、事業継続が困難になる企業が増えています。「このままでは廃業せざるを得ない」と悩む経営者も少なくありません。そこで注目されるのが、会社を残しつつ価値を高める手段としてのM&A(企業の売却・譲渡)です。
本記事では、土木業界の現状やM&Aの動向、売り手・買い手双方のメリット・デメリットや相場感・成功のポイントまでをわかりやすく解説します。
目次
土木業界の現状と課題
土木業界では、熟練技能者の高齢化や若手人材不足が進み、生産性の低下や工期遅延のリスクが深刻化しています。
特に後継者不在の中小企業では、事業承継が困難となり、廃業や事業縮小のリスクも高まります。この課題は全国の中小土木会社で共通しており、企業の存続や従業員の雇用維持が重要なテーマです。
そのため計画的な事業承継の検討や人材育成、技術承継体制の整備を進め、多角的な取り組みで安定した経営体制を築くことが急務です。地域や公共工事への対応力強化も欠かせません。
土木業界のM&A動向
建設・土木業界全体でM&Aの活用が注目され、件数も増加傾向にあると報告されています。熟練技能者の高齢化や後継者不在による事業承継の課題が顕在化し、技術や経営ノウハウの承継ニーズが高まっているのが背景です。
地場ゼネコンやインフラ系企業による買収も活発で、売り手にとっては事業承継の問題解消や創業者利益の確保が可能となります。
買い手側は熟練技能者や公共工事の実績、許認可の引き継ぎによる効率的な事業拡大が期待され、地域や案件ごとに戦略的なM&Aが注目される状況です。
土木M&A|視点別のメリット(売り手・買い手)
売り手は後継者不在の解消や創業者利益を得られることが大きな利点です。買い手にとっても熟練技能者や公共工事の実績、各種許認可を引き継ぎ、効率的に事業基盤を広げられる点が魅力となります。
① 売り手側
土木業界のM&Aは、後継者不在や事業承継に悩む経営者にとって大きなメリットがあります。会社を存続させながら従業員や取引先を守れることが特に魅力で、経営者は安心して引退できます。
廃業では失われる技能やノウハウも、M&Aを通じて継続雇用により維持可能です。従業員の生活や技術の継承を守れる点は、経営者にとっても大きな安心材料となります。
会社の売却によって創業者利益を得られるため、長年築いた会社の価値を正当に評価してもらえます。老後資金や新たな挑戦の原資に充てられる点も、売り手にとって重要なメリットです。
② 買い手側
土木業界のM&Aは、買い手にとっても大きなメリットがあります。熟練技能者や会社の実績を引き継ぐことで、即戦力として現場で活躍できる体制を整えられます。
施工エリアや受注案件を効率的に拡大でき、地域に根付いた実績や顧客基盤も活用可能です。
加えて建設業許可や公共工事の実績も引き継ぐことができるため、新規取得の手間や時間を省き、事業運営を安定させつつ効率的な成長を実現できる点も大きなメリットです。
土木M&A|視点別のデメリット(売り手・買い手)
土木業界のM&Aでは売り手は評価のギャップや手間の負担、買い手は簿外債務や熟練人材の離職リスクなど、それぞれに注意すべき課題があります。円滑な取引には、事前の情報整理と統合に向けた準備が不可欠です。
① 売り手側
土木業界のM&Aでは、売り手にもいくつかのデメリットがあります。企業文化の違いや従業員の離職リスク、期待通りの評価が得られない可能性、さらに交渉や準備に多くの手間がかかる点は注意すべきポイントです。
評価が期待より低くなる場合、財務状況や工事実績の提示方法によって価値が左右されるため、正確な情報開示や事前準備が欠かせません。このギャップは売り手にとって大きなデメリットとなります。
また、M&Aの交渉や準備には時間と労力が必要です。財務・法務・許認可の整理や候補先との面談、条件調整など負担が大きく、現場運営と両立するのも課題となります。
② 買い手側
M&Aでは、簿外債務や契約上のリスクを引き継ぐ可能性があります。また、統合過程で従業員が離職するリスクも一般に注意点として挙げられるでしょう。特に熟練技能者の退職は影響が大きいため、事前の確認と対策が欠かせません。
特に熟練技能者の退職は現場運営や技術力に影響するため、雇用条件や社内文化のすり合わせが必要です。
土木M&Aの価格相場
土木M&Aの価格相場は案件によって幅があります。特に、これまでの施工実績や公共事業での受注歴は、企業の信頼性を測る要素として評価に影響することがあるのです。安定した受注が期待できる企業は買い手から見て魅力的とされる傾向があります。
経営者がM&A後も一定期間関与する場合、取引先や従業員に安心感を与え、交渉をスムーズに進める要因となることもあります。こうした要素が組み合わさることで、最終的な条件が調整されるケースが少なくありません。
土木M&Aを成功させる3つのポイント
土木M&Aを円滑に進めるためには、売却前の準備から買い手との方針共有、そして統合後の組織体制づくりまでを一貫して計画することが重要です。
① 売却前の財務・法務を整理する
M&Aを成功させるためには、まず財務や法務の整理が欠かせません。決算書の適正化や債務の棚卸しを行えば、買い手からの評価を高めやすくなります。さらに、建設業許可や経営事項審査(経審)の情報を整理して提示できる状態にしておくことも、信頼性を示す重要な要素です。
こうした許認可や審査情報が整備されていないと、交渉で不利に働く場合もあります。社内コンプライアンス体制を点検し、不備を解消しておくことは、安心感を与える一般的な準備として推奨されます。
これらを丁寧に進めることで、交渉全体がスムーズに運びやすくなるでしょう。
② ビジョン・方針を共有する
土木M&Aでは、売り手と買い手が同じ方向性を持つことが取引成功の鍵となります。譲渡理由を明確にすることで、買い手に誠実さや透明性を示すことが可能です。
経営方針や雇用条件のすり合わせを行えば、従業員や取引先の不安を軽減できるでしょう。人材不足が課題となる土木業界において、雇用条件の整合は大きな意味を持ちます。
相手企業を選ぶ際には、自社のビジョンや方針と一致しているかを確認することが望ましいとされます。これらを丁寧に進めることで、信頼関係が築かれ、取引後の不協和も減らせるでしょう。
③ PMI(統合)へ備える
契約が成立しても、M&Aはそこで終わりではなく、PMIが大きな成果を左右します。統合後の組織体制や方針を明確にし、双方の共通認識を早い段階で持つことが重要です。
現場と管理部門の間で調整フローを整えておけば、業務移行期の混乱を抑える効果が期待できます。また、業務手順やツールを標準化する取り組みも、一般的にPMIの成功要因として挙げられます。
準備を進めることで、従業員の不安や離職リスクを軽減し、統合効果を最大化できるでしょう。M&Aの本当の成果は、統合が軌道に乗るかどうかで決まると言っても過言ではありません。
土木業界特有の注意点
土木業界のM&Aでは、建設業特有の法規制や許認可、人材要件に関する確認が欠かせません。これらを見落とすと取引後に事業が滞る可能性があるため、事前準備と承継手続きの正確さが重要です。
① 建設業許可の承継要件
建設業許可は、M&Aのスキームによって扱いが大きく変わります。たとえば事業譲渡では新たに許可を取り直す必要がありますが、株式譲渡であればそのまま、合併であれば事前認可を受けることで、既存の許可を活かせます。
ただし維持できると安心してはいけません。経営業務管理責任者や専任技術者が登録されていなければ、更新手続きが止まってしまいます。現場では人も条件も揃っているかを早めに確認しないと、工事受注の計画そのものが遅れる原因になりかねません。
② 経営事項審査の対応
公共工事に関わる会社にとって、経営事項審査の評点は信用そのものです。M&A後も直近のスコアが引き継がれるため、買収前の数字がそのまま新体制に影響します。工事成績や技術者の配置は、数字以上に取引先の評価を左右するポイントです。
統合直後に評点が下がれば、入札の機会が一気に減ってしまうことも考えられます。だからこそ、統合後の計画には工事実績をどう安定させるかという視点を組み込む必要があるのです。
③ 経管・専技要件の確認
建設業許可を維持するには、経営業務管理責任者や専任技術者の存在が欠かせません。M&Aの話が進んでも、彼らが辞めてしまえば要件を満たせなくなる恐れがあります。実際に承継直後にベテラン技術者が退職し、許可更新に慌てるケースもあります。
こうしたトラブルを防ぐには、対象会社の人材をあらかじめ洗い出し、誰が要件を担えるのかを明確にしておくことが現実的です。さらに、登録書類や認定証明の引き継ぎが抜け落ちないよう、事務レベルでの確認も同時に進めるべきでしょう。
④ 安全・労務管理の留意点
建設現場では安全第一が当たり前ですが、M&Aで組織が一つになると、その基準を揃える作業が必要になります。元請・下請に対する安全配慮義務は法律で定められており、対応のばらつきはすぐに問題化します。
労基法や建設業法のルールを統一することで、現場の混乱を防げるでしょう。雇用契約や労務管理の方法も整理しておくと、従業員の安心感につながります。
結果的に同じ会社になったのにルールが違うという不満を抑え、統合後の働きやすさを高める効果が期待できます。
土木M&Aの進め方と流れ
土木M&Aは、目的の明確化から候補先選定・交渉・契約・統合までの流れで進められます。各段階で専門家の支援を受けながら、案件ごとに適した手順で進めることが重要です。
① M&Aの基本ステップ
土木M&Aは目的設定・準備に始まり候補先探索、交渉や基本合意を踏みデューデリジェンスを経て契約締結に至り、その後はPMIという流れで進みます。
初期段階では方針決定や資料準備を行い、次に候補先との面談や基本合意を経て、最終的に契約と統合を行います。各段階でアドバイザーや専門家が関与し、リスク管理や手続きの円滑化を支援することが重要です。
② スケジュールの目安
M&Aの期間は数か月から1年以上と幅があります。小規模案件は比較的短期間で完了しますが、大規模案件では長期化する傾向です。
許認可手続きや公共工事契約・未完工案件・重機リース・資格者の確保などが加わると、さらに期間が延びる場合があります。案件ごとに柔軟なスケジュール管理が必要です。
土木M&Aにおける専門家の関与ポイント
土木M&Aでは、建設業許可や経営事項審査の承継対応、公共工事契約や入札資格の引き継ぎなど多岐にわたる分野で専門家の支援が不可欠となります。
加えて未完工案件や瑕疵担保責任の整理、人材・資格者の承継、重機やリース契約の扱いも重要な課題です。専門家が関与することで法的・財務的リスクを抑えつつ、統合や事業運営を円滑に進められ、M&A後の事業継続性の確保にもつながります。
よくある失敗と注意点
土木M&Aでは、譲渡先の選定ミスや企業文化の違い、許認可や経審の確認不足により統合がスムーズに進まないことがあります。
事前準備や引き継ぎ資料、労務管理の整備を徹底することが、失敗を防ぐための重要なポイントです。
① 相手先を誤って選定する
M&Aでは、譲渡先の目的や経営方針、企業文化が自社と合致していない場合など統合がうまく進まず失敗につながることがあります。
また、財務状況が不透明だと予期せぬ問題が起こることもあり、候補先を慎重に選び事前に情報を確認して統合準備を進めることが重要です。
② 許可や経審の要件を失念する
建設業許可の承継忘れや経営事項審査の再取得漏れ、経管・専任技術者資格の未確認は、M&A後の事業運営に深刻な影響を及ぼすリスクです。
特殊経審まで行政庁が求めているのかも確認が必要で、法的手続きや承継要件を正確に把握しておくことが、トラブル回避に欠かせません。
③ 引き継ぎ内容が曖昧で混乱を招く
統合準備が不十分だと、業務停滞や労務・安全管理体制の不一致が生じ、従業員や取引先に混乱を招く恐れがあります。
引き継ぎ資料や業務フローを整理し、役割や手順を明確にしておくことで、業務の安定と円滑なM&A後の運営を実現することが可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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