- 作成日 : 2025年10月6日
警備業界におけるM&Aとは?メリットや注意点、成功させるポイントを解説
高齢化による人手不足や価格競争の激化など、警備業界はさまざまな課題を抱えています。
このような経営課題の解決策として、近年注目されているのがM&Aです。人材や顧客基盤を引き継ぎながら事業を拡大でき、後継者問題の解消や経営の安定化も目指せます。
本記事では、警備業界におけるM&Aの動向やメリット、成功のためのポイントをわかりやすく解説します。警備事業を伸ばすための方法を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
警備業界の課題
警備業界が抱える課題は、業界の持続的成長を阻む大きな要因です。ここでは、警備業界が抱える主な課題について解説します。
1. 人手不足の深刻化
警備業界の慢性的な人手不足には、他業界を大きく上回る有効求人倍率や若年層の採用難、高齢化の進行などが主な原因にあげられます。
とくに、1号警備や2号警備を担う中小企業では、長時間労働や給与水準の低さも重なって離職率が高い傾向です。さらに休日出勤の多さや体力面での負担も、人材の定着を難しくしている要因でしょう。
一方で、大手企業はAI・ロボット・5Gなどのテクノロジーを活用し、省人化と高齢者依存の脱却を進めています。人材難を抜け出すためには、処遇改善とデジタル化による効率化の両立が求められます。
2. 価格競争の激化
警備業界は、参入企業の増加によって価格競争が激化し続けています。とくに、地域密着型の中小企業は大手に比べてコスト競争力が弱く、案件確保が難しくなりつつあります。
実際に、大規模イベントや商業施設では需要が高まっても、低価格での受注が経営を圧迫し、赤字を招く企業も少なくありません。価格競争の激化が長期化すれば、労働環境の悪化や人材流出にも直結します。
利益を確保するためには、価格競争から脱却し、品質や専門性による差別化を進める必要があります。同時に、自社の強みを活かした付加価値の提供や、収益構造の見直しも重要です。
3. 後継者の不在
警備業界では経営者の高齢化が進み、事業承継の行き詰まりが大きな課題となっています。後継者の不在によって、廃業を選択せざるを得ないケースが少なくありません。
一方で、後継者のいない企業がM&Aを活用し、会社売却や事業譲渡という形で承継を行うケースも増えています。
会社売却では経営権ごと譲渡されるのに対して、事業譲渡は承継する範囲を絞れるため、柔軟な選択が可能です。
警備業界は今後も一定の需要が見込まれることから、事業譲渡を通じて成長分野に集中させる効果もあります。
このようにM&Aをうまく活用できれば、廃業リスクを避けながら、企業価値を守ることが可能です。
警備業界におけるM&Aの動向
警備業界の人手不足や後継者不在といった課題の解決策として、M&Aによる事業承継や規模拡大が注目されています。
ここでは、警備業界のM&Aにおける動向を2つの視点から解説します。
市場規模拡大を目的とした同業界間のM&A
警備業界では、市場規模拡大を目的とした同業者間のM&Aが増加しています。M&Aによって人材や設備を一括で引き継げるため、採用・教育・投資にかかるコストの大幅な削減が可能です。
たとえば、大手企業はM&Aを活用し、地域展開や事業の多角化を進めて競争力を高めています。新たな分野へ参入する手段にもなるため、中小企業にとっても持続的な成長が可能になるでしょう。
一方で、同業者間のM&Aは単なる売上拡大にとどまらず、事業基盤を強化する戦略として活用できます。
異業種からの新規参入
近年、警備業界には異業種からの新規参入が活発化しています。買い手や売り手のニーズが一致しやすく、M&Aを成立しやすいのが要因にあげられるでしょう。
具体的には、システム開発・不動産・訪問医療など、親和性の高い分野の企業がM&Aを通じて、警備業界に新規参入する事例が増えています。
また、M&Aで得た既存の人材やノウハウを活用することで、初期コストを抑えながら新規参入が可能です。たとえば、財務基盤の強い企業が加わることで、待遇改善や設備投資が進み、業界全体の質の底上げも目指せます。
機械警備や現金輸送といった、高付加価値分野への進出がしやすくなるため、会社全体の収益性を向上させる効果も期待できるでしょう。
警備会社をM&Aする買収企業のメリット
警備会社をM&Aで獲得すると、コストを抑えながら事業拡大が可能になります。さらにサービスの幅を広げ、収益基盤の安定化にもつなげられます。
警備会社をM&Aする買収企業のメリットは、次の2点です。
1. 即戦力の人材を確保できる
M&Aにより経験豊富な従業員を獲得できれば、新規採用や教育にかかるコストを大幅に軽減できます。
慢性的な人材不足が続く警備業界では、即戦力の人材を確保できるのは大きなメリットです。すぐに現場に投入できる人材がそろうため、新規案件への対応スピードも向上できます。
さらに、人材育成にかかるコストや時間を省略すると、他業務へのリソース配分がしやすくなります。地方や夜間対応など、人材確保が難しい分野でも戦力強化を図れる点が魅力です。
即戦力の人材とともに警備設備も引き継げるケースが多く、運用の安定性を向上しやすいのもメリットでしょう。
2. 短期間で事業規模を拡大できる
M&Aによって売り手側の顧客や営業エリアを引き継ぐことで、短期間で事業規模の拡大が可能です。
自社単独では進出が難しい地域や市場に対しても、買収企業の既存拠点を活用しながらスムーズに参入できます。また、買収企業のノウハウや人材を活かすことで、新サービスや事業の開発にもつながります。
警備業と親和性をもつ異業種を買収できると、新分野へ事業展開できる可能性も高まり、スピード感を持った拡大戦略が実現しやすいでしょう。
安定した売上基盤をもつ企業を取り込めると、経営全体のリスクも分散できます。
警備会社をM&Aする売却企業のメリット
警備会社をM&Aで売却することで、廃業せずに会社を存続させられます。従業員の雇用や顧客との関係を守りつつ、売却益の獲得や企業価値の向上も期待できるでしょう。
ここからは、警備会社のM&Aによる売却企業のメリットを解説します。
1. 後継者問題の解消
警備業界では経営者の高齢化が進み、後継者不在による廃業リスクが深刻です。
親族や従業員に適任者がいない問題は、事業を第三者に承継できるM&Aによって廃業を避けられます。また、M&Aを行うことで、経営ノウハウや顧客基盤、従業員の雇用を維持したまま事業を継続できます。
株式取得資金の負担や事業経営の継続意欲のなさなど、後継者育成に伴う課題も回避できるでしょう。
廃業を回避できれば、長年築いた信頼やブランドを次世代につなげられます。顧客・取引先・従業員への影響も抑えられ、円滑な事業承継が実現しやすくなるでしょう。
2. 従業員の雇用継続
M&Aを通じて事業を譲渡することで、従業員の雇用や労働条件を維持できます。
実際に、長年会社を支えてきた従業員への感謝と責任を果たす手段として、M&Aを選ぶ経営者も多くいます。大手企業に売却できれば、待遇改善や福利厚生の向上にもつながるでしょう。
雇用の安定は、顧客や取引先からの信頼にも関わるので、企業全体の存続価値を高める効果も期待できます。
3. まとまった資金の確保
M&Aによって会社を売却すると、経営者はまとまった資金を確保でき、新規事業への投資や地域貢献活動といった次のステージに活用できます。親族承継よりも高い売却益を得やすく、会社成長の対価も正当に評価されやすくなります。
資金面の安定が得られれば、経営から退く際の心理的な不安も軽減されるでしょう。また、想定よりも高値で売却できる可能性もあるため、計画的な事前準備も欠かせません。
4. 経営基盤の安定化
M&Aで大手グループの傘下に入った場合、大企業の資金力や経営ノウハウを活用でき、経営基盤の安定化を図れます。ブランド力や信用力の向上により、新規顧客の獲得や営業展開の幅の拡大にもつながるでしょう。
また、大手のもつ販路や商流を共有でき、自社単独では難しかったエリアや市場への進出も可能になります。さらに、人材育成や業務システムなど、グループ全体の資源を活用し、運営効率の向上も目指せる効果も得られます。
警備会社をM&Aする際の注意点
警備会社のM&Aは成長戦略として有効な反面、注意点も存在します。
警備業界は労働集約型ビジネスであるため、従業員の待遇改善や人材定着を軽視すると離職が相次ぎ、経営を圧迫する恐れがあります。待遇改善が進まなければ人材不足が深刻化し、サービス品質低下や顧客離れにつながりかねません。
また、法規制や許認可は地域ごとに異なるため、関係法規や許認可の確認不足が発生すると、事業運営の停滞を招くリスクに直結します。
さらに、買収先のブランド力や顧客基盤が期待外れだった場合、収益低下の要因となる可能性もあります。
警備会社のM&Aを進める際には、法規制の調査やブランド価値の精査をあらかじめ行い、従業員への配慮も含めた統合プロセスを計画的に進めましょう。
警備業界でM&Aを行う流れ
警備会社のM&Aは、以下の流れで進行するのが一般的です。
- 明確な目的と戦略をとる
- 警備業界特有の許認可や地域性を考慮する
- 対象企業の選定・交渉を行う
- 契約を締結し、クロージングへ進める
警備業界でM&Aを進める際に、対象企業の選定基準が曖昧だと、自社との相性を見誤り、統合後に経営リスクを抱える可能性が高まります。警備業界特有の許認可や地域性を十分考慮することも重要です。
成長性や顧客基盤、設備状況などを総合的に評価し、売り手の事業内容や強みを整理したうえでマッチングを行いましょう。交渉では価格だけでなく、従業員の処遇や統合計画も重要です。
条件が整えば契約を締結し、法務・労務・財務リスクに対応したうえでクロージングを進め、顧客契約や運営支援を円滑に移行させると、M&Aを完了させられます。
警備会社のM&Aを成功させるポイント
警備会社のM&Aを成功させるために、意識すべき考え方や具体的な行動を6つ紹介します。ポイントを押さえることで取引がスムーズに進み、期待する成果につなげられます。
1. 買収目的を明確にする
M&Aを成功させるには、事業拡大や人材確保、地域進出などの具体的な目的をあらかじめ整理し、目的に沿った相手先を探す必要があります。
警備業界には特有の契約や許認可が存在するため、業界に精通した専門家と連携して戦略を立てると効果的です。M&A後の統合や運営体制についても事前に想定しておくと、買収後の混乱を防げます。
M&Aの事前準備を徹底すると交渉を有利に進められるため、成功の可能性が高められるでしょう。
2. 専門家に依頼する
M&Aには法律や税務、業界特有の知見が必須となるため、コンサルタントといった専門家のサポートを受けることが重要です。M&Aを専門家に任せるメリットは、以下のとおりです。
- 会社の適正な評価や売却価格の相場感を把握できる
- 不要なトラブルや価値損失を防げる
- スキーム選定から交渉戦略の策定・契約書作成まで一貫したサポートを受けられる
さらに、警備業界に精通したM&A仲介会社を活用すると、許認可や人材引き継ぎなど特有の課題にも対応できます。
専門家に依頼する際は複数のアドバイザー候補を比較し、自社の規模や方針に合ったパートナーを見極めることが重要です。
関連記事:M&Aコンサルタントとは?アドバイザリーとの違いや仕事内容について解説
3. 成長性が見込める売り手か見極める
警備業界のM&Aでは、戦略に合った成長性が見込める売り手の選定が重要です。長期契約の顧客をもつ企業や、信頼性・人材力に優れた企業はシナジー効果を生み出しやすい特徴があります。
M&Aの効果を最大限に引き出すためにも、地域拠点の拡大や特定業務の強化など、自社が目指す方向に一致するターゲットを明確にしましょう。
効率的かつ的確な候補企業の抽出を行いたい場合は、M&A仲介会社やマッチングサービスを活用するという選択肢が効果的です。
取引後の統合を見据え、企業文化や経営方針の相性も事前に調査すると、見極めの精度を高められるでしょう。
4. 在籍している警備員のスキルを確認する
警備業界では、警備員歴や保有資格、現場での対応実績などをもとに、即戦力かどうかを事前に確認することが重要です。なぜなら、警備業は人材の質が事業価値に直結するため、在籍する警備員のスキルはM&A判断の重要な指標となるからです。
経験豊富な警備員が在籍していれば、買収後すぐに現場で活躍してもらえるため、人材不足解消にもつながります。
警備員指導教育責任者など、有資格者の在籍状況と継続雇用の見通しも企業の評価に含めると効果的です。加えて、未払い残業代や労働契約の不備といった労務リスクがないか、デューデリジェンスで慎重に確認するとより安心でしょう。
関連記事:買収監査(デューデリジェンス)とは?種類や費用、流れを解説
5. 条件をすり合わせる
M&A交渉では、トップ同士の面談を通じて、基本的な方向性と信頼関係を築くことが重要です。
売却価格や雇用継続、契約条件など多面的な調整が求められるため、事前に条件をすり合わせる必要があるのです。中でも価格交渉はとくに重要であるため、意向表明書を交わしたうえで実施する必要があります。
また、警備業界特有の要素として、従業員の待遇や指導体制の維持も交渉項目に含まれます。待遇や指導体制は企業評価に直結するため、統合後のオペレーション計画についても具体的に話し合い、スムーズな引き継ぎを目指しましょう。
交渉の公平性やリスク回避のためにも、M&Aコンサルタントといった有識者の意見を参考にするのが効果的です。
6. 交渉内容を契約書に明記する
M&Aを円滑に進めるには、交渉で合意した内容を契約書に正確に明記することが重要です。なぜなら、契約書が法的効力を持ち、トラブルを防ぐ役割が果たせるからです。
契約書には、売却価格や支払い条件に加え、従業員の雇用継続や統合計画、警備業界特有の許認可や契約引き継ぎの条件も盛り込む必要があります。
さらに、企業間の信頼関係を保つために、売り手が一定期間サポートを行うケースも一般的です。弁護士や専門家の助言を受けながら契約書を作成すると、契約上のリスクを最小限に抑える効果も得られます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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