都会にありながらも、静かで落ち着いた雰囲気の隠れ家コーヒースタンド。経理の専門家である杉浦が店長を務めるこの店は、いつの間にか悩みを抱えた経理担当者たちが集う場となっていた。
今日もまた、一人の経理課長Kさんが杉浦のもとを訪れる。
“おかしな数字”に悩む経理課長
「いらっしゃいませ。」
杉浦は優しい笑顔で出迎え、一杯のコーヒーを差し出した。
Kさんはゆっくりとコーヒーの余韻を楽しんでから、静かに話し始めた。
「私は経理部の課長なんですが、社員の育成に悩んでいるんです。なんというか、帳簿におかしな数字があっても気づかないんですよね。そのまま見過ごしてしまって大きな修正が必要になってしまったり…。」
「なるほど…。若手社員にはよくありますよね。」
杉浦は自身の経験を振り返って共感の意を示した。
「はい…どんなアドバイスをすればいいのか、はたまた、自分で帳簿の異変を見つけられるようになるためには、どんな仕組みを作ればいいのか…。」
「そういうことでしたら、良い物があります!少々お待ちくださいね。」
杉浦は何やらゴソゴソとキャビネットの中を探り、一冊の本を手に戻ってきた。
社員に伝えたい心構え:数字の「ストーリー」
「これこれ!ありましたよ。」
角の擦れたその本は、かなり読み込まれているようだった。
「何の本ですか?」
Kさんは興味津々といった様子で身を乗り出した。
「これは、僕が昔バイブルにしていた本なんです。」
杉浦は懐かしそうに目を細めた。
「帳簿をつけていると、全部が全部綺麗な数字になることはなく、絶対に変な数字が混ざるものです。それがミスなのか、不正なのか、それとも異常事態が発生しているのか…いずれにしても『何かおかしい』と見抜く力が必要です。この本には『数字を読むとはどういうことか』『どうやって数字を確認するべきなの』」ということが詳しく書かれています。」
「それは勉強になりそうですね!私も読んで、部下にも薦めてみます。」
杉浦はコーヒーを手にしながら、ゆっくりと語り始めた。
「Kさん、社員が数字の誤りに気づけるようにするためには、まずは数字と向き合う心構えが重要です。」
「心構えですか?」
Kさんが興味深そうに尋ねる。
「そうです。数字そのものよりも、その数字がどのようにして生まれたか、背後にあるストーリーを理解することが大切なんです。」
杉浦は穏やかに説明を続けた。
「たとえば、急に数字が伸びている場合、『そういえば、あの商品の売れ行きが好調だったな』とか、その背景をイメージした上で数字を見るんです。」
Kさんは真剣に聞き入っている。
「会社全体のストーリーを把握して、一連の物語として理解することが大切です。たとえば、うちのコーヒースタンドなら、『売上が上がる=出荷が増える』ということなので売上と荷造り運賃は連動していますし、原価と売上も連動します。数字はすべてつながっているんです。」
「数字の背後にあるストーリーを理解する…社員たちにもその視点を持たせたいわけですね。」
「その通りです。大きい会社であればあるほど、全体像のイメージがつきにくくはなりますが、ビジネスモデルを分解して理解すると良いでしょう。」
杉浦は立ち上がって、いつの間にか空になったKさんのカップにコーヒーのおかわりを注いだ。
AIを相棒に!経理業務の新しい可能性
「次は、『おかしな数字』を見抜くための仕組みですね。」
「みんな帳簿のチェックはしてくれているようなんですが…。」
Kさんはコーヒーを飲みながら溜め息をついた。
「帳簿のチェックにもポイントがあります。まずは“赤残”になってはいけない項目をチェックしましょう。」
Kさんはメモをとりながら頷いている。
「本来マイナスになってはいけない科目には売掛金や現預金がありますが、その原因としては、売上の計上漏れ・入力や計算ミス・勘定科目の間違い・過入金などが挙げられます。こうした原因を取り除くには、AIを活用した仕組み作りが効果的です!」
「AIですか!?うちの会社では取り入れていないですね…。どんな風に使うんですか?」
「たとえば台帳を作る際は、POSレジのデータと連動させるなど極力“人の手を介さない”仕組みを作ることが大切です。その設計を手伝ってくれるのがAIなんです。」
杉浦は自分のパソコンを開いて画面を見せながら説明する。
「今僕が使っている台帳も、ChatGPTにスクリプトを書いてもらいました!」
「これはすごいですね…!」
「ChatGPTと会話しながら設計してもらったんですが、この会話をエクスポートできるようになったので、後々不具合が起きてもその会話内でまた質問すれば、誰でも解決できちゃいますよ。」
身を乗り出して聞いているKさんに、杉浦はまた別の画面を見せた。
「アップデートしたので、ChatGPTでカスタマーサポートや分析の仕組みも作れるようになったんです。お客様からの問い合わせにも、こんなふうに返信してくれるんですよ。」
「そんなことまで…!?これを使うと業務効率が一気に上がりそうですね。」
「そうなんです。もうひとつ、ミスを防ぐ方法で『ダミー勘定』を紹介したいと思っていたんですが、せっかくなのでChatGPTに聞いてみましょう。」
「出ましたね。特にこの1番と3番はまさに僕が伝えようとしていたことです!こうやって注意点も教えてくれますよ。ダミー勘定もぜひ使ってみてくださいね。」
「はい!それにしても、ChatGPTって本当に色々なことができるんですねぇ。」
感心して見入っているKさん。
「そのとおりです!僕はいつもChatGPTを使い倒していて、スクリプトや関数の質問をしたりワークフローの相談をしたり、メールの返信なんかも考えてもらいます。かなり優秀な相棒なのに、これだけの業務に対応する人を雇うよりも遥かに低コストですよね。」
「確かに、これはAIを活用しない手はないですね!うちの会社でも提案してみたいと思います!」
関連記事:Chat GPT活用の活用ポイントをテーマにした記事はこちら「コーヒー片手に豆知識〜vol.2〜: ミスを防ぐには?AIの力を借りてみよう!」
開かれた新たな扉
数ヶ月後、Kさんは部下を連れて再び杉浦のコーヒースタンドを訪れた。店内に入るや否や、Kさんは満足げな表情で話し始めた。
「あの後、杉浦さんのアドバイスをもとに、上にChatGPTの導入を提案してみたんです。そしたらなんと、うちの会社でもAIが使えることになりました!」
「それは素晴らしいニュースですね。社員の皆さんはどうですか?」
Kさんの隣にいた部下が、はにかみながら口を開いた。
「ChatGPTで設計した台帳を使うようになって、かなりミスが減ってきました!それに、数字の背後にあるストーリーを見るようにしたら、経理の仕事が前よりも楽しく感じられるようになりました。」
Kさんが感謝の気持ちを込めて言葉を続ける。
「杉浦さんのおかげで、私たちの経理部にも新しい風が吹き始めた気がします。本当にありがとうございました!」
「AIは、こうしている間にもどんどん進化していきます。僕も変化に適応し続け、経理の業務、そしてビジネスを楽しく探求していきたいと思っています。」
杉浦はそう言いながら、丁寧に淹れたコーヒーを2人に運んだ。
「今日のコーヒーは『エルサルバドル ドン・ハイメ 』です。
エルサルバドル産で、梅、チェリー、ベリーのコンポートのような甘さと香りをお楽しみいただけますよ。」
「本当だ、複雑な甘さがあって実に風味豊かですねぇ。」
「生産者さんが精製プロセスにさまざまな工夫を凝らして創り出した味なんです。まさに、進化したコーヒーと言ってもいいでしょう。」
「“作り手が味を引き出していく”って、なんだかAIを使いこなすのに似てますね。僕ももっと頑張ろうと思います!」
若い部下が、Kさんと杉浦に向かって満面の笑みで宣言した。
今日も一杯のコーヒーに背中を押された客が、新たな扉を開けるのを静かに見届ける杉浦であった。
■杉浦大貴(スギウラマサタカ)のプロフィール
立教大学在学中、下町のカフェを中心としたコミュニティで過ごし、コーヒーの持つ多彩な魅力を知る。
卒業後は一部上場企業経理部を経て、マネーフォワードに入社。
2019年8月から京都に移住し、プロダクトマネージャーとしてクラウド会計Plusの立ち上げより関わる。
会計PlusはIPO市場を中心にPMFを達成。0→1、1→10のプロダクト成長フェーズを経験する。
大学時代よりコーヒーが好きであり続けたことからKOHIIに興味を持ち、2022年9月よりプロダクトマネージャーを担当。
2023年7月から会計とプロダクトマネジメントの知見を活かして、合同会社KurasuのCFOとしてジョインする。
※掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。