インボイス制度における立替払いの処理についての理解

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インボイス制度において、通常の請求書の発行だけ対応しておけばいい、と思っていらっしゃる方も少なくないと思います。

意外に見落としがちな事項として、立替払いをした場合があります。

また、立替払いの制度対応をする場合、従来の実務対応が関係して、通常の請求書発行や受領の際に気を付ける点以上に頭を悩まれる事業者が少なくない、というのが私個人のイメージでもあります。

そこで、今回の立替払いにかかるインボイス制度対応を紹介いたします。本投稿が少しでも皆様の参考になれば幸いです。

立替払い取引の整理

まず、インボイス制度において定められている内容よりも前に、立替払いとなる一般例を理解していただきたいと思います。

立替払いの取引がなされる場合、登場者(事業者)が通常の請求書発行よりも多くなります。一般的な立替取引の例として下記の図を参照ください。

当該例では、課税資産の譲渡等はA社とC社間でなされる整理とします。そして、取引代金の精算について、A社がC社に対して負う債務の支払いをB社が立替払いをし、その後A社がB社に立替払いしてもらった金額を精算をする、という形式にしています。

請求と代金精算の流れはまず、C社がB社に請求を行います(上図の矢印①)。

その請求を受け、B社がC社に代金を支払います(これが立替払いとなり、上図の矢印②)。

次にB社からA社に立て替えた分の請求がなされ(上図の矢印③)、その請求に応じてA社がB社に立て替えてもらった代金を精算する、という流れの例です。

上図の例のうち、①と③で請求がなされています。今回、ここがインボイス制度対応の範囲として留意しなければならない対象となります。

冒頭で複雑となると申し上げたのが、実際に課税資産の譲渡等はA社とC社間でなされているものであり、A社が仕入税額控除を行うためにはB社との取引情報ではなくC社との取引情報が必要になります。

そのため、A社はB社からC社の情報(いわゆる適格請求書要件)を受領しなければならないのです。

また、一般的にC社との取引内容をA社が把握していない場合も少なくなく、B社の立場から言うと、A社にC社の情報をお知らせしなければならない(お知らせしないとA社が仕入税額控除ができなくなり困ってしまう可能性がある)というものです。

立替払いをした場合のインボイス制度要件

次に、インボイス制度において立替払いをしている場合の処理についてどのように定められているかを紹介します。

引き続き前項の図をベースに、A社及びC社はいずれも適格請求書発行事業者とします(B社は適格請求書発行事業者以外でも発行事業者でも影響はありません)。

①の請求はC社からB社に適格請求書の交付として請求されます。ここは簡単です。

次にB社がA社に請求する③の請求について、インボイス制度が以下の原則と容認の方法を定めています。

原則の内容はわかりやすいと思います。A社はC社から受領した適格請求書のコピーを受領できれば、課税資産の譲渡等の取引の相手先の情報がわかります。

一方、容認の方法はB社がC社から受領した適格請求書のコピーを渡さない代わりに、C社からの適格請求書に記載されている要件情報を記載した別途の精算書をB社が作成しA社に交付する、というものです。

B社が立替払いしている先がC社一者のみであればコピーを渡すことは容易かもしれません。

しかし、実務上ではC社のような事業者が複数いることも多く、B社が受領した複数の適格請求書のコピーすべてをA社に交付することは煩雑となることや、従来の実務においてそのような対応をしていないことが多いことに配慮したものと想定されます。

さらに上記の定めのなかにおいて、立替払いしている取引の内容が、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる課税仕入れに該当することが確認できた場合には、A社は一定の事項を記載した帳簿を保存することにより仕入税額控除を行うことができる、とされています。

つまり、A社はC社からの適格請求書のコピーやB社からの立替金精算書の受領(保存)が不要になる、というものです。

実務上、インボイス制度対応を検討する立替払いの範囲

前項までの内容をみて、皆様の会社で当てはまる取引が思い当たったでしょうか。どのような取引がインボイス制度対応の範囲に含まれるのか、知っていただきたいと思います。

一般的で多いものが、課税資産の譲渡等をするにあたって発生する経費の実費精算等ではないかと思います。

契約によりB社がA社にサービス等を行う際、B社の従業員の交通費や出張旅費、その他経費をB社が一旦立替え、その後A社に請求して精算する場合が該当します。

その他、B社がA社に代わってC社のような複数の外部取引先の管理や清算をサービスとして委託されている場合に、上記のような交通費などの経費以外の立替経費が該当するものと思います。

実務対応について

複雑な立替を行っていないのであれば、単純にインボイス制度にある原則対応もしくは容認の対応をすることで対応できるものと思います。

実務対応するうえで難しい点は、立替精算をする際のB社の対応方針をA社が指定したり管理できない点だと思います。

請求書等の発行をシステム化している会社が多いなかで、B社がA社が困らないようにシステム対応しているのか、システム対応できていない場合に別途の対応をしてもらえるのか、確認が必要です。

A社側の事業者はB社の対応方針について問い合わせをしてみることも対応としてよいかもしれません。

実務上、B社からA社にC社から受領した請求書のコピーを渡すことはあまり多くなく、立替金精算書として対応する(容認の方法)ことが多いと思います。

その場合、通常の精算書の内容に、B社が立て替えた経費“毎”の適格請求書記載要件の情報を網羅したフォーマットとすることが必要になります。このフォーマットの確認などをおすすめします。

さらに、インボイス制度要件の項において記載した、立替経費の内容が一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合についても、実務上留意が必要です。

一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合のうち、「従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等」の範囲や「3万円未満の公共交通機関による旅客の運送」の処理方法が会社で異なる場合もあります。

A社の方針とB社の方針が異なっていると、A社が欲しい情報をB社からもらえない可能性もあります。また、立替経費の内容をどのように処理しているのか、という会計処理によっても影響がでます。

例えばB社では立替処理ではなく、C社に対する仕入とA社への清算を仕入れのマイナスもしくは売上として処理していることもよく聞きます。B社では立替処理として認識していないとすると、A社として受領できる証憑が変わってきてしまうかもしれません。

B社側の事業者の皆様はA社が困らない対応をされることが望まれ、A社側の事業者の皆様はA社に問い合わせをしてみるなどの事前の対応が必要になるかもしれません。

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