スキャナ保存の対応事例と注意しておくべきポイント|本当に対応できている?電帳法対応の再点検④

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前回は紙面で受領した請求書の処理を取り上げ、その中で「スキャナ保存」について触れました。今回は実際のスキャナ保存の対応事例をご紹介します。

スキャナ保存の事例1

電子で入手した請求書等は電子で保存することが義務付けられるようになりますので、そちらに合わせて、紙面で入手した請求書も「スキャナ保存」を利用して電子で保存することにより、保存方法を一元化することができます。たとえば、請求書の支払プロセスもそれに合わせて電子化できるでしょう。

X社の場合

営業部門Aさんのお話
当社では、紙面で受領した請求書を、受領した営業部門のメンバーがPDFファイルに変換しています。そのうえで、電子で受領した請求書のPDFと同様に、自社で開発した電子支払承認プロセスに載せて処理を行うようにしています。

従来は支払承認プロセスが紙面ベースだったので、支払依頼書を文書作成ソフトで作成して印刷して上司のハンコをもらったり、それを経理部門に社内メールで回付したり、といろいろと大変でしたが、電子的なプロセスに変わってとても助かっています。

経理部門Bさんのお話
経理部門でも、他の部門から社内メールで回付されたた支払依頼書と請求書を処理するために出社したり、それらの書類を元に会計ソフトに手入力したり、その後書類をファイリングして保存したり、とかなり手間がかかっていました。

いまでは、支払承認プロセスが全面的に電子化され、在宅勤務でも対応できるようになりました。また、会計ソフトにも連携しているので承認後に自動的に登録されますし、請求書のPDFファイルは支払承認システムにそのまま保存されますので、ファイリングの手間もなくなりました。

スキャナ保存の事例2

同じように、スキャナ保存の仕組みを利用している小規模なY社の事例を見てみましょう。

Y社の場合

小規模なY社では、社長のCさんが経理業務も行っています。

Y社では、一般的なクラウド型の会計ソフトを使っています。電子で入手した請求書や領収書などのPDFファイルを会計ソフトに取り込むことにより、記載されている日付を自動的に認識したり、使用すべき勘定科目をAIが推測して提示したりする機能があります。

また、会計ソフトが「電子帳簿保存法対応」となっているため、取り込んだPDFファイルはそのまま会計ソフトに保存しています。社長業は時間を効率的に使う必要があるため、Cさんはこのような機能は非常に便利だと感じています。

一方で、紙面で入手した場合は、その情報を会計ソフトに手入力したうえで、紙面のまま保存していました。会計ソフトの登録内容を後で見直す際には紙面の書類を紐解かなければならず、また書類の整理や保管が大変で、この点は不満に思っていました。

ある日とあるWebページを見ていたところ、紙面で入手したレシートも「スキャナ保存」という仕組みを使用して会計ソフトに電子保存できることを知りました。しかも、取り込んだ後は元の紙面は廃棄して良いと書いてあります。

Cさんは早速、1年分の紙面の請求書やレシートをスキャナでPDFに変換し、会計ソフトに取り込みました。その後、紙面は廃棄しました。会計ソフト上の登録内容を見直す際にもPCの画面上ですぐに確認できるようになり、また紙面の整理保管の悩みからも解放され、とても満足しています。

スキャナ保存の要件で注意しておくポイント

このように、スキャナ保存は業務の効率化に役立ちます。ただし、留意が必要です。

スキャナ保存は電帳法によってその要件が定められています。スキャナ保存の制定当初の要件からはかなり緩和されているものの、重要な要件がいくつか定められています。

スキャナ保存は、もともと紙面が原本である情報を電子に変換して保存するというある意味特殊なプロセスを経ますので、そこでの不正や誤謬を防ぐためにやむを得ず設けられているものです。

1.タイムスタンプの要件

まず、スキャンして生成された電子ファイルに「タイムスタンプ」を付さなければならない、という要件があります。

この要件は過去に比べて緩和されており、たとえば例外として、他社が提供するシステムによって、タイムスタンプと同等のデータ保存の正確性が担保される場合にはタイムスタンプは不要※になります。

※参考 国税庁「電子帳簿保存法が改正されました丨~スキャナ保存(区分②)に関する改正事項~」

X社では自社開発の支払承認システムを使用していますので、この例外には該当せず、電子ファイルにタイムスタンプを付すことが必要になります。

2.期間の要件

次に、書類を受領した時からスキャナで電子化するまでの期間に関する要件があります。たとえば、「重要な書類」については、受領後2か月と7営業日以内に(タイムスタンプの付与を)行わなければならない、とされています。

Y社ではスキャナによるPDFファイルへの変換を「1年分」まとめて実施していますが、そのような方法はこちらの要件を満たさず、認められないことになります。会計ソフトが電子帳簿保存法に対応しているとしても、スキャナ保存についてはこのような運用面での留意が必要になってきます。

私見ですが、この期間に関する要件は小規模な会社にとってはかなり厳しく、経理の専任者がいるか、もしくは税理士などに記帳業務を業務委託しておりかつ毎月定期的に書類を渡せる体制になっている場合以外は採用するのは難しいのではないかと考えています。

スキャナ保存の要件は他にもありますので、今回取り上げた2つの要件を含めて、次回説明します。

さて、請求書の支払について自社でシステムを開発して利用されているところも多いと思いますが、スキャナ保存の要件を満たすのは困難なケースもあるかもしれません。

そのような場合にお勧めしたいのが、第三者が提供する「請求書受領サービス」です。電帳法の要件を満たし、かつ会計ソフトと連動するシステムもリリースされていますので、ご検討ください。

まとめ

電帳法の規定の一つである「スキャナ保存」を紹介しました。いままで紙面で保存していた情報を電子化することによるメリットはかなり大きいと考えられます。

一方で、「スキャナ保存」には厳格な要件が定められています。要件については、次回の稿で取り上げます。

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