越境経理 ~経理から組織を変えていく~ 2. 簿記の知識を有しない人には、BS項目を中心に経理の重要性を伝える

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できる経理はキャッシュを呼び込める

先日、あるコンサルタントの先生と仕事をご一緒することがありました。その先生は金融機関のご出身で、その後会計士に転じ、最終的にコンサルタントとして独立されたのですが、依頼されたクライアントの資金調達をパッパッと手際よくされていました。その軽やかな動きを拝見していて、「ああそうか、なるほど」と思いました。

何になるほどと思ったかというと、組織に経理部門が必要な理由です。

これまで私は「組織において経理はとても大事です」と、自分でも飽きがきてしまうほど繰り返しお伝えしてきたつもりでしたが、経理の方達には伝わっても経営者の方達には心底には伝わっていないような気がしていました。

その理由の一つには、「経理って売上を持たない部署でしょう。だから営業や制作などの売上に直結する部署に優先してお金を投資したいから、お金に余裕が出てきてからなら経理に投資をしてもいいけど…」という考えがあるからだと思っています。

確かにその通りです。経理というのは、その組織で取引が発生して初めて仕事も発生する仕事です。

売上や出費がたくさんあれば、それだけ経理も忙しくなりますが、売上も出費もない会社であれば経理もやることがなく時間を潰すことに苦労することすらあります。そのため、起業したばかりの会社は、確約された安定的な受注もまだ少ないでしょうから、正社員として経理を雇うことはまず少ないでしょう。

そのため、仕方のない面もあると思いながら経理の重要性をお伝えしていたのですが、そのコンサルタントの先生の仕事ぶりを拝見していて、ふとこう思ったのです。

「もし、このコンサルタントの先生が年収1000万円で経理担当の役員や社員として入社をして、手際よく1億円単位の資金調達を数件でも実行できたら、確かにそれは売上ではないし、返済しなければいけないものもあるかもしれないけれど、巨額な先行投資の必要な業種でない限りは、数年は潰れないくらいのキャッシュが手に入り、経営者も社員も安心して経営や仕事に取り組むことができるようになるなと思ったのです。

黒字も大事だが、資金繰りも大事

私はこれまで「黒字」や「利益」といったワードにこだわっていて、売上ではないキャッシュの「入り」に関しては慎重な考え方でした。

資金調達というのは、車やロボットのような精密機械など、最初から多額の資金がないと製品そのものを作る準備すらできないものに関しては、それを自己資金で貯めると何年かかるかわかりませんので、その場合は金融機関からの融資や投資家からの出資が必要になるとは思いますが、それ以外のものに関しては、まずはスモールスタート、身の丈の範囲で小さくスタートし、それが順調にいきはじめたら、残った利益の中から設備などに再投資をして、さらに売上や利益を伸ばして拡充をしていく、というのが理想だと考えていましたし、それは基本的には変わりません。

ただし、今回のようなコロナ禍で、「あと1年なんとかしのげれば経営を継続できたのに」という状況で会社をたたんだり、「せっかく今がチャンスなのに、設備投資するキャッシュがない」とチャンスを逸したりしてしまう会社などを自分の周りでも見てきました。

特にこれまで借入をしたことがなく、コツコツと自己資金だけで経営をしてきた会社ほど、逆に金融機関からの借入実績がないため、融資の申込の手続きや審査に手間取ったケースも多かったことと思います。

私のクライアント先の一つに、創業以来ずっと黒字経営をしている会社があるのですが、その会社は自己資金でも経営ができるところを、万が一のことを考えて、借りる必要のないお金を定期的に借りて借入実績を作り、今回のようないざという時のため、また、急にビジネスチャンスが巡ってきて、ある程度の金額の先出しが必要なときにすぐ借入ができるように備えているそうです。

そのお陰で、これまでさまざま自然災害や不景気などの外的な危機的要因も問題なく乗り越え、今回のコロナ禍でも、新規ビジネスを始めていますし、黒字も維持できています。

会社の重要事項として、「経営を黒字化」することがまず一つ挙げられますが、それと同じくらい「会社を継続させていく」ということも重要です。

赤字でもキャッシュがあれば会社は潰れませんし、逆に黒字でもキャッシュがなければ会社は潰れます。

経理の「当たり前」を見直したうえで「越境」し、経理の重要性を伝える

私は経理の重要性をセミナーなどでお伝えする際に、これまで経理社員の方達が対象のことが多かったので、「キャッシュが重要なのは当たり前のことだし、聞きに来られている方達も皆さんそれはおわかりのことだから」という前提で、それ以外の点についてよく触れていました。

たとえばPL(損益計算書)が、経営者や社員の行動習慣とどう連動しているのか、そこを常に注視していくのが処理以外の経理の仕事の一つだということをよくお伝えしています。

PLの結果がおのずとBS(貸借対照表)にもリンクしていくので、PLがよければキャッシュ残高をはじめとするBSの数値もよくなることは、簿記を理解されている方でしたら直感的におわかりいただけると思っているからです。

ですが、簿記の知識を有しない経理以外の方達(簿記の知識を有している経営者の方でしたら、前述の伝え方でも経理の重要性をご理解いただけると思いますが)に、経理の重要性を伝えるには、シンプルに「キャッシュがないと会社は困る。しかし良い経理が居ればそれを心配する必要はない。なぜなら優秀な経理はその人の年俸の10倍も100倍も資金を調達できる可能性があるから。だから経理は組織において重要なのです。売上は持たない部署ですが」と伝えたほうが、伝わりやすいのだろうと思います。

経理社員は経理の重要性をもちろん理解していますが、「越境」して、経理の重要性を簿記の知識を有しない人達に向けて伝えるには、その人達にとって身近で直感的にわかりやすい事例やたとえ話などを挙げて伝えると、理解の浸透が早くなります。

<なぜキャッシュが重要なのか>
・キャッシュがないと会社は潰れる
・キャッシュがないと給料が払えない
・キャッシュがないといい人材も採用できない
・キャッシュがないとPCや椅子など就業環境さえ整えられない…

まだまだたくさんあると思いますが、事例を数多く挙げたうえで、「このようなことにならないために資金を管理し、そして時には調達までできるのが経理部門の役割です」とお伝えすることで、「経理は今のようなコロナ禍では特に重要なんだな」「経理はコスト部門なだけだと思っていたけどそうじゃないんだ」と、経理に対する見方をしてくださることと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。