「医師のかかりつけ」を目指す税理士法人テラスが、医療に特化した理由と開業医の現状と展望

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「医師のかかりつけ」を目指す税理士法人テラスが、医療に特化した理由と開業医の現状と展望

医療に特化した税理士法人として、約300社のクライアントを抱えるまでに成長したのが税理士法人テラスです。代表の笠浪真さんは大手会計事務所や法律事務所勤務、慶應義塾大学大学院医療マネジメント専攻修士号習得などの経験を活かして、「医院開業」「医療法人化」「医院経営」「相続・事業承継」までワンストップのサービスを提供しています。

ご自身が滋賀大学出身であり、近江商人の「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」という「三方良し」の心得を経営理念に掲げて、医師のさまざまなニーズに応えるプロフェッショナルなチーム作りを実現。オウンドメディア『開業医の教科書』、医療経営塾での指導など、多岐にわたる活動を展開しています。現在に至るまでの道のりから今後の展望、さらにはコロナ以降の医療現場の現状と課題まで、幅広く伺いました。

税理士法人テラス
代表 笠浪 真(かさなみ まこと) 様
開業医の教科書
著書:開業医の教科書
税理士・行政書士・MBA・慶應義塾大学大学院医療マネジメント専攻修士号。1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。滋賀大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務し、税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。現在、52名のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。

プロフェッショナルが持っている「人を安心させる力」

「顧客へのサービス提供」から「社会貢献を担う方への貢献」へ

――医療に特化するという経営方針を決めたきっかけを教えてください。

開業してしばらくは医療以外の業務も行っていました。

医療専門の税理士法人に舵を切るきっかけは息子の交通事故です。
息子が病院に運ばれた時の担当医は若い方で、無精髭をはやしていました。おそらくあまり寝ていない状態だったはずですが、一生懸命治療してくださる姿に胸を打たれました。おかげさまで大事にいたらず、息子は無事に退院することができ、人の命を救う医師という仕事の素晴らしさと尊さを改めて実感したんですね。

そのタイミングで開業医の方々とどのような関わり方をしているか振り返りました。
それまでも税務顧問として関わってきましたが、会計・決算・税務申告・節税などでの表面的な付き合いでしか見ていなかったのだと、反省しました。
臨床を数多く行い、時には過酷な現場を経験することで、医師の今があることがわかっていなかったのです。

若い医師の現場での仕事を見ることで、ドクターに対する私の認識が変わり、仕事に対する意識や意味づけも「お客さまへのサービスの提供」から「社会貢献を担っていらっしゃる方々への貢献」へと変化しました。

医療専門でやろうと決めたのはその時の体験がきっかけです。

その後も大きな体験がありました。
私には子どもが4人おりますが、妻が4人目を出産する時に難産(妊娠高血圧症候群)になり、市民病院に緊急入院したことがありました。妻の血圧は190ほどに上がり、胎児にはへその緒が巻き付き、母子ともに命が危ない状態で、私は無力感と不安感で呆然として足がすくんだままでした。
その時、担当してくださった若い女性の医師が「帝王切開すれば、すぐ楽になります。大丈夫ですから、安心してください」と言ってくださったのです。この時、妊娠29週での出産は不安でいっぱいでしたが本当に救われた気持ちになりましたね。過去の症例やご自身の経験を踏まえたプロフェッショナルのひと言には、私たち家族を安心させてくれる確かな力がありました。その後、NICUで2カ月間過ごし無事に退院しました。

このような経験から、私も税務のプロフェッショナルとして、医師の方々を安心させられる存在でありたいと思いました。開業されたばかりの医師が初めて税務調査に立ち会うのは不安なものです。「怖い」とおっしゃる方や不安で眠れないという方もいらっしゃいます。
そんな時に、「安心してください。大丈夫です。」と私たちがお伝えできるのは、プロフェッショナルとしての経験値があるから、そしてあの時の体験があったからです。

医師の経営パートナーであるために必要なこと

――通常の税理士法人と医療専門の税理士法人とで、業務内容や意識の違いはどのようなところにありますか?

税理士によっては医師が相手でも、通常のクライアントに対する時とやり方を変えずに仕事をされている人もいます。医療の知識がなくても、税務や税金の申告などの仕事をすることは可能でしょう。しかし私たちは医師を経営のパートナーとしてお付き合いしています。医療についてのある程度の知識がなければ、パートナーの関係は成立しません。

例えば、ご夫婦で開業医をやってらっしゃるケースがあります。ご主人は内科、奥様は皮膚科です。それぞれ売上構造も診療報酬体系も人件費の割合などのコスト構成も異なります。診療科によって特徴がまったく違うため、相違点を把握していなければ、的確なアドバイスをすることはできないでしょう。

私自身、もともとは医療専門を目指して税理士になったわけではありません。父親の会社倒産や家族の相続トラブルを目の当たりにし、事業再生に関わるトラブルを少しでも減らせないかという思いから税理士になった経緯があります。仕事をやる過程で関心が医療に向かい、税理士法人テラスに組織変更したタイミングで、慶應義塾大学大学院医療マネジメント専攻で医療政策や医療経営を2年間学びました。

税務や会計がわかるのは当たり前なのですが、プラスアルファで医療のことがわかる付加価値は大きいと感じています。ただし弊社に私が10人いるわけではないので、役割を細分化して、その時々の状況合わせて、最適なチームを組むように心がけています。ここは開業とコンサルチーム、ここは税務と法務のチームといった具合に、いかに組み合わせて対応するかが重要です。

コロナ前よりも業績を伸ばす開業医が増加

――コロナ禍が医療の現場に与えた影響と開業医の現状について教えてください。

これまで「医療は不況知らず」と言われてきました。世の中が不況になっても、「医療は必要不可欠なものだから、患者さんが来なくなることはない」「国が価格を決めているので、医療機関がつぶれることはない」という前提で物事が進んでいたのです。しかし、コロナの感染リスクを回避するための受診控えによって患者さんが減った時期があり、閉院を選択した医師もいらっしゃいました。

しかし、流行開始から2年経った現時点では、受診控えが減少し、8割以上の開業医はコロナ前よりも業績が良くなっています。内科、小児科、耳鼻科など、マスク着用による風邪や花粉症の減少の影響で売上が完全には戻っていない診療科もありますが、多くの開業医ではほぼ回復しています。国が医療機関を守る方針を打ち出して補助金や融資による支援を行っているため、以前よりも資金繰りが良くなっているケースも少なくありません。

飲食店やアパレルの倒産により、人材が医療に流れているという状況もあります。駅前のエステが撤退して、好条件の物件が出てきたので、先を見越しての開業や医療事業の拡張といったケースも目につくようになりました。弊社では開業支援も行っていますが、現在がこれまででもっとも受注件数が増えているという状況です。

理念実現のための総合コンサルティングファーム

開業医のニーズに応える形での業務内容の拡張

――税理士法人テラスの特徴と強みはどんなことだと考えていますか?

弊社の最大の特徴は「医院開業」「医療法人化」「医院経営」「相続・事業承継」まで、ワンストップでのサービスを展開していることです。ただし、最初からこの形をイメージしていたわけではありません。もともとは税務の範囲での経営顧問という立ち位置でスタートしましたが、ドクターから「こんなことはできないか?」と相談されるたびに、「わかりました。やらせていただきます。」とお応えすることで業務の範囲が広がりました。

就業規則や賃金に関する相談が増えたことをきっかけに社会保険労務士法人を立ち上げました。その後も行政手続きや法律相談の相談が増えたことを受けて行政書士チーム、資産運用やリスクマネジメントの相談に対応するためにFP(ファイナンシャルプランナー)チーム、さらに相談内容に応じて開業支援チームや承継・相続のチームを作り業務範囲を広げていきました。

医院の開業から相続・承継するまでに起こりうる、診療医療以外のすべてに対応するのが私たちの仕事です。医師同士の夫婦で離婚するとなれば、どんな弁護士をおつなぎすればいいのかも含めてサポートし、ご子息が医学部に受験する場合には、他のドクターから医学部の情報を入手してサポートします。後継者問題をどうするのか、ご子息を後継者としてどう育成するのか、あらゆる悩みをお聞きして対応してきました。

医師のお手伝いをすることは恩返しでもありますが、同時に私自身としても「やってみたい」というチャレンジ精神を発揮できる場でもあり、やりがいを感じています。医師としてもあちこちに相談するよりも、1か所に相談することですべての問題に対応できたら、余分な手間や時間がかからず、診療に集中できるでしょう。対応できるサービスのメニューが増えることで、私たちが1件のドクターからいただく報酬の額も増えます。おかげさまで業績も年々、着実に伸びています。

私は滋賀大学経済学部の出身で、近江商人の「三方良し」という心得が体に染みこんでいます。「三方良し」とは「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」というものです。私たちやスタッフにもプラスになり、クライアントの医師の方々にもプラスになり、さらに社会貢献にもなる「三方良し」は自分たちにとって、大きな指針になっています。

社会貢献の仕事という視点での求人アピール

――ワンストップでのサービスを提供するためには、多様な専門知識を持った人材が多数必要だと思われます。チームを作る上で大変だったことを教えてください。

税理士法人からスタートしているので、今も税務スタッフが全体の6割を占めていますが、人材の確保は大変でした。大手で働きたいという税理士はたくさんいますが、医療専門の現場で働きたいという税理士は少ないからです。税理士をやろうという人の多くは、「大企業で連結納税制度や組織再編税制など難しい税務を担当したい」「幅広く税務をやって学びたい」という動機や目標を持っています。医療を専門とする私たちのところにはなかなか入社してくれません。入社したとしても、3年くらいで「次のステージに行きます」「大手に転職します」といったことが続きました。

そこで発想を変えることにしました。
税理士事務所で働く過程でやりがいを見失ってしまっている人もいるはずです。そういう人たちにターゲットを絞り、アピールすることにしたのです。「社会に役立つ仕事」を前面にアピールできるようホームページの見せ方を変え、求人のテーマも変えました。かつて自分も大手会計事務所でやりがいを見失った経験がありました。税理士でホスピタリティの高い方もたくさんいます。そういう人たちが私たちを選んでくれるようになったのです。

社会貢献の仕事、なおかつプロフェッショナルな仕事ということを打ち出して、「三方良し」の理念に共感してくれる人のみを採用していきました。やりがいを感じてもらえたならば、採用してからでも育成はできます。

チームのメンバーには専門的な知識とともに広い視野を見に付けてほしいと考えています。本人が手を上げれば、部署異動も活発に行っています。ベースとなる柱を持ちつつ、他の業務の知識もある程度持ってもらうことが理想です。

医療コンサルティング会社は他にもありますが、税務・法務・労務といった国家資格をベースとした専門知識を持った集団が総合医療コンサルティングファームとして、みんなの力を持ち寄り、医療機関をサポートするやり方は多分、他にはないでしょう。そこが自分たちの強みだと考えています。

大切なのはプロフェッショナルとしての毅然とした姿勢

――ここまで医療に特化してやってきて、大変だったことを教えていただけますか?

医師は他の仕事とは違うところがあります。
祖父母も親兄弟も医師という環境の中で育ってきた方が少なくありません。医療業界以外での経験が少ない方もいらっしゃいます。医療のプロフェッショナルではあるけれど、お金や人の管理はわからないという方もいらっしゃいます。大切なのは敬意を持って接することです。

通常の税理士事務所では、相手が経営者でこちらが「先生」と呼ばれるケースが多いのですが、医療の仕事では向こうが「先生」でこちらは「業者」となります。その立ち位置を踏まえることと、命を救う仕事への敬意を持つことが必要です。ただし税務・労務・法務に関しては私たちがスペシャリストなので、「できないものはできません」と毅然とお伝えすることが必要になる場面もあります。信頼関係を築くことができていたならば、みなさん、わかってくださいます。

これまでで特に大変だったのは、医師との関わり方ではなくて、ビジネス優先で医療に参入してきた人たちへの対処の仕方でした。利益最優先の要求に対して、苦しい思いをした経験もあります。
対応方法としては、依頼のあった段階で「三方良し」の経営理念に合わない場合はお断りするしかありません。医師のライフステージに寄り添ってサポートする、医師が医療に集中できる環境を提供して貢献するという目的からはずれないように、ということは常に心がけています。

コロナ以降の運営のポイントはオンラインとデジタル化

――コロナ禍以降、運営のあり方はどのように変化してきたと思われますか?また今後目指すところも教えていただけますか?

コロナによって本当に必要なものだけが選ばれる時代になったと感じています。惰性や馴れ合いで選んでいたものは、淘汰されるでしょう。

開業医もそうですが、税理士も選ばれる時代になってきました。
コロナによって、医師からの相談内容も変化してきいます。より多岐にわたるようになってきたのです。税務だけでなく、「ヒト・モノ・カネ・情報」へとシフトしています。税金の相談がメインだったところから、資金繰りや補助金、助成金の受け取り方や人のマネジメント、移転や分院展開、医療機器導入の相談などが増えており、私たちも学ぶことを怠らないようにしています。

そして重要なのは、入手した最新情報はメンバー間で共有を行うこと、更に外部に情報発信をしていくことです。書籍の出版やホームページでの情報の発信、医療の経営塾も行っています。情報発信していかなければ、選ばれない時代が来ていると考えています。

税務顧問のあり方も大きく変わってきました。
かつては頻繁に医院に顔を出し、膝をつき合わせて医師と会話するのが基本でしたが、現在は私の場合では7、8割はオンラインになりました。相談する側もオンラインであれば、税務・労務・法務・FPを同時に相談できるので、便利になっています。社労士には15分だけ入ってもらう、パートナーの弁護士には10分だけ入ってもらうといったことも可能になりました。

オンラインを活用することで、訪問しなくても済むので、全国各地の開業医で困っている方からの相談に応じることもできるようになりました。特に地方の開業医の承継は大きな問題となっています。承継は医師だけでなく、ご家族、スタッフ、患者、ひいては地域にも影響を及ぼすものです。私自身、父親の会社の倒産や相続でのトラブルを経験しているので、私たちのサービスが普及して、間に入ることによって、承継でお困りの方のお役に立てたらという気持ちもあります。

これからはオンラインの重要性がさらに増していくでしょう。弊社は事務的なことはまだ紙ベースでやっていますが、いかにデジタル化を進めていけるかが、勝負だと感じています。AI化が進むと、税務申告や会計などの作業だけをやっている税理士はいずれは不要になると予測されます。弊社でも運営のスタイルを変えたことで、作業を削減することができました。これからはどれだけインプットしていけるか、そしてどれだけ医師のニーズに対応していけるかが求められています。

テラスという法人名にはフランス語で「盛り土」という意味があります。つまり盛り上がった場所を意味する言葉です。カフェにもテラス席がありますが、カフェテラスのような人が集まってきて交流できる空間や組織を作りたい、少し盛り上がったステージを作りたいという気持ちを込めて付けました。もう1つ、テラスに「未来を照らす」という意味を込めています。私たちがお客さまの未来を照らし、将来へと導かせていただくことが、自分たちの仕事の役割だと考えています。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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