
2019年9月13日、『MF Expense expo 2019』が開催されました。
マネーフォワードが提供する経費精算システム「マネーフォワード クラウド経費」チームが主催するイベントで、前年に引き続き2回目となります。
今年のテーマは「Change Readiness 経理はニッポンの伸びしろだ」。経費精算や経理業務をテーマに、計13人の登壇者による9講演が行われ、最新のノウハウや事例、ツールが紹介されました。
vol.1でお届けするのは、バックオフィス業務のコンサルティングなど経営全般をサポートしてきたプロフェッショナル集団であるグローウィン・パートナーズの代表取締役CEO、佐野哲哉氏の講演です。「経理・財務部門が10年後に生き残るために必要なこと」をメインテーマに、経理の未来像について、的確な考察が展開されました。
採用コストの増大や報酬の高騰により若手経理人材の確保はますます困難に
ITソリューションによる業務の効率化・自動化が進む昨今。経理や財務の仕事における定型業務も、続々と開発されるAIやロボットなどのテクノロジーに置き換えられています。デジタルシフトに拍車がかかるなか、10年後の経理・財務部門はどのような姿に変わっているのでしょうか。佐野氏は、「現状維持は不可能。変革なき部門は生き残ることができない」と未来を見据えます。
佐野氏がまず言及したのは、厳しさを増す労働市場について。日本の労働力人口の減少に比例して、経理・財務人材の確保は一層難しくなると指摘します。
佐野氏:「簿記1級の受験人数は、2012年に約8.2万人でしたが、2018年は約5万人まで減少しました。また、会計士や税理士の受験者数も減少しています。現在の人口構成でこれだけ減っているということは、今後さらなる経理・財務人材の減少が考えられます。同時に、労働市場全体の人材不足により、経理のみならず、すべての職種において、採用コストの上昇が予想されます。その結果、経営者は間接部門ではなく、営業や技術など直接部門の採用に予算を集中投下することを優先するでしょう」
また、経理業務をマルチにこなせる人材は希少価値が高いため、転職時の年収も高騰化し、企業の採用はますます困難になると佐野氏は予測します。
佐野氏:「2008年のリーマンショック後、経理部門への新卒配属は減少しました。そのあおりを受けて、若くて有能な人材はかなり少ないです。私は、よく企業の経理部長から『30代前半の働き盛りで、単独で月次決算を締められて、有価証券報告書も理解できて、連結決算も担当できる若手はいないか』という相談を受けます。しかし、そんな“白馬の王子様”はいません。かつての大量合格時代に事業会社に流れていた公認会計士も、合格者数の減少により、大型化した大手監査法人が積極採用しているうえ、待遇改善などで退職しないよう施策を打っています。
さらに、事業会社の経理部門で実力とスキルを身につけた人材は、転職適齢期になると報酬アップを狙って流出していきます。その結果、補充人員の採用は進まず、経理・財務部門の高齢化に歯止めが利かない状態の企業が増えているのです」
そこで、まず優先すべきは定型業務のIT化。生産性向上は経理・財務部門の生き残りに欠かせないことから「最少人員での業務が可能な体制への移行は必須。自動化・省力化はもはや待ったなしの状態です」と佐野氏は提言します。
ITシステムの積極的な活用が生産性改革の鍵
生産性向上の必要性は理解できたとして、実際に経理部門が現場主導でどのような改革ができるのでしょうか。漠然としていて見えてこない人がほとんどかもしれません。佐野氏によると「経営者が経理・財務部門に求めるポイントは、過去・現在・将来、それぞれ異なります」とのこと。その変遷について、経営者が期待するキーワードをもとに次のように整理します。
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●過去:簿記のプロフェッショナルである『会計担当者』
(キーワード:会計、記録、保存、データ出力・加工、会計実務、業務・機能的独立)
●現在:未来を見据えて営業など直接部門と伴走する『ビジネスパートナー』
(キーワード:ビジネス視点、分析・予測、システム運用、ミドルマネジメントクラスには月次の予算実績分析スキル、事業部門との連携)
●将来:CFOとCIOのスキル・知識を兼ね備えた『戦略的参謀』
(キーワード:生産性改革、人材・部門の変革、先進的デジタル技術の理解、機動性・柔軟性のある運用体制構築、データ中心組織の構築)
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これらのポイントを踏まえて、近い将来に経理部門に求められるスキルについて、佐野氏は次のように補足します。
佐野氏:「これからの時代は、経理業務にAI技術をベースにしたシステムの導入が加速すると考えられます。例えば、すでに実現している仕訳の予測変換の高度化などがその一例です。しかし、AIは実績データをもとに予測することしかできないため、まずは人手をかけて膨大なデータをクレンジングする必要があります。また、経理部門で利用する各種システムは、オンプレミス型ERPからクラウドSaaSモデルへの移行が進行していますが、クラウドサービスは、システムインテグレーターによる個別の企業への最適化を前提としたものではありません。そのため、システムに合わせた業務フローに変更することや、複数のシステムとのAPI連携などを自社でカスタマイズすることも必要になってきます。このことから、会計や経理の知識に精通しているだけでなく、情報システムの効果的な利用方法を理解したうえで業務の効率化を思考できる『戦略的参謀』を担える経理人材が求められているといえるでしょう」
こうしたことから、定型業務の無理無駄をなくし、高付加価値業務の割合を増やす取り組みが急務。「たとえば経理部門と経営企画部門で重複している作業内容や、属人的なワークシートを整理するなど、来たるデジタルシフトに備えて業務フローを見直すところからはじめてほしい」と佐野氏はいいます。
佐野氏:「基幹システムから出力したCSVファイルをエクセルに貼り付けたり、請求書データを打ち込んだりするスピードが速いといったスキルは、いまやRPAやOCRが代替してくれます。だからこそ、どの業務がITやロボットに置き換えられるのかをいまから考えておくことで、経理システムのAIシフトが本格化したときに、『ここは人間がやらないといけない』という部分を見極められるようになるはずです」
経営者の最大の関心事は「経営戦略を遂行した結果が、一刻も早く、会計上どのように反映されているかを見たい」というもの。それに応えるべく、これからは経理・財務部門は経営者が見たい数値を、紙ではなく、例えば経営ダッシュボードで示せるような存在になければならないといいます。佐野氏は“データを駆使する経理部門だからこそ、ITリテラシーの高い人材の育成が必要だ”と明言します。
佐野氏:「経理・財務部門は、すでに経営に最も近い情報へアクセスできている人材です。『私は仕訳をやっていればいいんです』ではなく、これまでの常識を捨てて幅広い視野を持ち『IT×会計』の経営人材として生きていくことが必要になります。付加価値の高い経理人材こそが、10年後に生き残れるといえるでしょう」
まとめ
経理・財務部門は多岐にわたる業務を抱えているため、10年先のことまで考えられないというのが本音ではないでしょうか。しかし、人材の減少やデジタルシフトといった外部環境は常に変化しています。10年後も求められる経理人材で居続けるためには、従来型スタイルから脱却することが必要です。近い将来、バックオフィスの戦略参謀として活路を見出せるように、準備しておくことが求められているのかもしれません。
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