出張おにぎりサービスは税率10%? マネーフォワード経理メンバー3人が「軽減税率で押さえておくべきポイント」を話し合ってみた

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2019年10月1日から導入が予定されている消費増税。実際に導入された場合、ほとんどの取引が消費税率10%に引き上げられますが、なかには8%のままとなる取引もあります。このように一部の対象取引を8%に据え置く制度が「軽減税率」です。単一税率ではなくなるため、これまでとは異なる経理処理が必要になります。

そこで、今回マネーフォワードの経企・財経本部(現:財務経理本部)のメンバーが集まり、軽減税率の導入にあたって経理業務において必要な対応を巡りディスカッションを行いました。メンバーの会話を通して見えた「押さえておくべき軽減税率のポイント」は、ベンチャーやスタートアップの企業で経理業務に携わる皆さんの参考にしていただけるはずです。それでは、早速ディスカッションのハイライトをご紹介します。

軽減税率への対応、経理担当者が押さえておくべきポイントとは?

今回のディスカッションに参加したのは、経企・財経本部(現:財務経理本部)の明石剛さん(写真中央)と有村優花さん(写真右)、杉浦大貴さん(写真左)。

取材協力:
明石 剛(あかし ごう)
大学卒業後、都内の税理士法人にて6年間の勤務後、日系自動車部品メーカー経理部を経て2018年12月より株式会社マネーフォワードに入社、経企・財経本部(現:財経本部)に所属。
税理士法人時代には数十件のクライアントに対する記帳代行、帳簿チェック、決算書税務申告書作成、税務調査対応を行うほか、日常的な各種経理相談にも対応。2009年税理士官報合格。
杉浦 大貴(すぎうら まさたか)
2015年立教大学卒業後、一部上場独立系SIerの経理部にて3年間、CF、固定資産、開示等を担当。2018年7月マネーフォワード入社後、主にマネーフォワードクラウドシリーズの売上、グループ会社経理、RPA等のITを活用した業務改善を担当。
6月よりマネーフォワードクラウド会計の開発と財務経理本部のIT系の業務改善を兼務している。
有村 優花(ありむら ゆうか)
大学卒業後、都内の建設業系中小企業にて8年間の経理勤務を経て2018年9月より株式会社マネーフォワードに入社。前職では主に現金出納、買掛・支払、予実管理を担当した。マネーフォワードでは主に費用の計上と支払、グループ会社の経理業務を担当。
ももいろクローバーZが好きで推しは百田夏菜子。

まず、3名によって語られたのは、ベンチャーではよく開催されているイベント「ハッピーアワー」と「ピッチ」について。カジュアルな雰囲気で社内の親睦を深めるハッピーアワーや、自社サービスの売り込みを行うピッチイベントは、いずれも交流を目的にしていることから飲みものやケータリングを用意する機会が多くなります。
そこで使われた経費について、軽減税率を踏まえてどのように処理するべきかという話題から会話が広がっていきました。

【ポイント①】“出張サービス”か、“料理提供のみ”のケータリングか?

有村「軽減税率が適用されるのは食料品を買ったときですよね。会社で食べるものに関する費用であっても、10%が適用されるケースがあるのでしょうか?」 

明石「マネーフォワードでは、ハッピーアワーのときなどに会場にお店のスタッフさんが来ておにぎりを握ってくれるサービスを利用していますが、これは消費税率10%になりますね。一方で、通常の料理提供のみのケータリングの場合は8%になります。」

杉浦「料理にサービスがつくかつかないかで変わるということですよね?」

明石「そうですね。ケータリングで買ってきたものに関しては軽減税率の対象になりますが、おにぎりを握ったり料理人がその場で調理したりといった、サーブする人などのサービス料が含まれていると、消費税率10%になります。」

有村「ちなみに、1万円分のおにぎりの請求書を受け取った際に、単に買ってきたもの(税率8%)なのか、サービスを含むケータリング(税率10%)なのか判断できるものでしょうか?」

明石「請求書の記載内容によっては判断が難しいときもあるかもしれませんね。ただ、結局8%なのか10%なのかは、業者さんが請求書に記載するものですので、業者さんがしっかり記載してくれるかどうかによりけりかと思います。たとえば、ちゃんと請求書の内訳に『おにぎり100個(出張サービス付)』みたいに記載してもらえるといいですね。『だから10%なんだ』と書類から察することができれば、こちらも正確に処理できるかと思います。」

ハッピーアワーやピッチイベントにおいて人事部がどのような業者に依頼をするかは、経理担当者は把握が難しいもの。とはいえ、軽減税率の導入にあたり、正確性を期することは不可欠。そのためにも、内訳を具体的に記載してもらうよう周知する試みも有効かもしれません。また、イベントに欠かせない「飲みもの」についても注意が必要です。

【ポイント②】ソフトドリンクのみか、アルコール飲料も含むか?

有村「軽減税率が導入されてからはアルコールが10%、ソフトドリンクやアルコールフリーのドリンクは8%になりますが、たとえばコンビニでお酒やソフトドリンクを一緒に買った場合は、別々に領収書をもらった方がいいのでしょうか?」

明石「領収書だと総額だけ表記されるので、レシートの方が本当は良いような気がしますね。レシートですと軽減税率適用商品に目印がついたり10%と8%で区分して金額集計されているので、把握しやすくはなります。領収書の発行だったとしても、ちゃんと明細をつけてもらうといいかもしれませんね」

杉浦「ということは、軽減税率の適用が始まったら、レシートで統一した方がいいということですかね?」

明石「実際、購入の詳細を確認するのはレシートの方がいいですよね。スーパーのような小売業であれば、お店の名称や購入日、購入したものなどの消費税法上の記載内容を満たしているのであれば、そもそもレシートだけでも大丈夫です」

【ポイント③】定期購読 or 個別購入か、紙媒体 or Web媒体か

他に軽減税率の適用までに把握しておくべきこととして、「新聞」「雑誌」の取り扱い方が議題にのぼりました。マネーフォワードでは定期購読だけではなく、個別で書店等から購入するケースもあります。この場合の精算はどうなるのでしょうか。

杉浦「食料品のほかにも、新聞を購入するときも軽減税率が適用されるようですね。この場合、何か注意すべき点はありますか?」

明石「新聞は紙で買っているケースのみ軽減税率に注意しなくてはいけません。新聞については、売店やコンビニなどで買えば10%、定期購読だと8%。ただし、電子版は対象ではないので定期購読でも10%になります。定期購読は請求書の中身をしっかり確認する必要がありそうですね。要注意です」

有村「ただ、紙か電子版かは請求書には記載されていないですし、請求書払いもクレジット決済も両方ありますよね」

杉浦「新聞の定期購読料金をクレジットカードで引き落としている場合、紙版なのか電子版なのかを区別しないと税率が混在してしまいますよね?」

明石「そうですね。電子版は軽減税率の対象ではないので、ちゃんと請求書を発行してもらう必要がありそうです。8%か10%なのかを確認しなくてはいけません。これまでであればクレジットカードの引き落とし履歴をチェックしたら特にそれ以外のチェックはしなかったところ、請求書を見てきちんと内容を把握することが必要になるでしょう。特に「カード連携」から仕訳を登録する場合、これまでは消費税が対象の取引か、海外の取引などで対象外なのかを中心に判断をしていましたが、今後は適用税率も判断して登録をしなければなりませんね」

有村「新聞に限らず全体に言えることですよね。クレジットカードでAmazonの来客用の水を買うと8%になるので、カード明細や請求書を見ないといけませんよね」

明石「そうですね。あとは補足ですが、定期購読の新聞でも『一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行していること』が8%の条件になります。なので、一口に「新聞の定期購読」と言っても週一回しか発行されないようなものは10%になりますね。また、広報がメディアに売り込みをして記事が掲載された場合、クリッピングのために新聞を立て替え払いで購入するケースがありますね。その場合は「定期購読」ではないので税率は10%になります」

【ポイントまとめ!】部署ごとに、軽減税率が絡む経費項目を把握しよう

こうした注意点を踏まえて、部署ごとに軽減税率の適用判断に注意が必要そうな項目は次のように整理されそうだ、という結論になりました。

・広報、社長室=新聞の購入(定期購読、クリッピング用の購入)

・総務=Amazonでの購入(普通のモノの購入は10%だが、来客用に水などを買う場合は8%になる)

・人事=ハッピーアワー、採用イベントなどのケータリングやドリンクの購入

このように、社内の各部署でどのような購入物に軽減税率が適用されるか、予め想定しておくと2019年10月以降の負担が減りそうです。

軽減税率のあとには「インボイス制度」が待っている

ディスカッションの中盤には、今回の税制改正に関連して、テーマは軽減税率の先にある税金計算のベースになる証票制度「インボイス制度」に移っていきました。

インボイス制度とは

軽減税率の目的は「増税による生活の圧迫を緩和すること」ですが、支出項目を正しく選別するため2023年からインボイス制度(正式名称:適格請求書等保存方式)が導入されます。

仕入税額控除の要件に適格請求書等の保存を定めたインボイス制度。売手である課税事業者は相手方から求めに応じてインボイスの発行が義務付けられており、また発行したインボイスの副本の保存が義務付けられています。一方で買手である課税事業者も、税額控除の適用を受けるために売手から受領したインボイスの保存が必要になります。

インボイス制度の導入に向けて、経理が準備すべきこと

明石「今年の10月からの軽減税率の導入も大切ですが、経理の運用に当たってはそのあとに訪れる”インボイス制度”についても意識しながら対応したいですね」

杉浦「インボイス制度ですか…今回は軽減税率がテーマだと聞いていたので、正直そこまで予習できていませんでした。この制度が導入されるとどのような影響があるのでしょうか?」

明石「原則、請求書に書かれた消費税額を控除対象となる金額として認識することになります。もともと税込金額全体に8/108(増税前の税率なら)で『払った』消費税額を計算していたのですが、それだとレシートの金額合計とズレが生じていました。軽減税率が導入された段階では必要ないですが、インボイス制度の導入を考えると、早いうちから請求書をきちんと確認する習慣をつけておくと、いざ制度が導入されたときに対応がしやすくなると思います」

たとえば、これまでは最低限クレジットカードの引き落としの金額だけ分かっていれば税額の計算ができたのですが(別途、請求書等の確認もします)、インボイス制度では本体価格と消費税を別に分ける必要があります。

明石「軽減税率導入の段階であれば、従来のルールに則り計算しますが、インボイス制度を見据えると請求書を見ながら適用される税率と税込合計額のほか、もし記載があれば税率毎の消費税額がいくらなのか見つけられるようにしておきたいですね」

なお、請求書に売手の「登録番号」が記載されていないと、買い手は税額控除を受けることができないというルールもあり、経理としては登録番号の記載の有無を確認する必要があります。さらに、この登録番号は今まで消費税が免除されていたような事業者(小規模な個人商店や副業でフリーランス的な仕事をしている方)は持っていないので、今後そうした事業者に対する支払いは、たとえ消費税相当額を含めて支払ったとしても控除の対象に出来る金額に制限があります。インボイス制度の運用スタートに際しては、登録番号の確認業務が発生することも見越していたほうがよさそうです。

今回のディスカッションでは、軽減税率の運用がはじまる前に知っておいた方がいい知識、加えてその先のインボイス制度を見越した準備などが浮き彫りになりました。ぜひ皆さんも、これらのマネーフォワードの経企・財経本部(現:財務経理本部)メンバーの会話をヒントに10月を迎えてください。

次の記事へ続く:軽減税率よりも要注意!MF経理担当者のディスカッションで気づいた「経過措置」のアレコレ

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