会社に副収入バレたくない…税理士が危惧する「住民税通知書」のプライバシー問題

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会社に内緒でひっそり副業をしているあなた。大きく体調を崩して医療費がたくさんかかってしまったけれど、会社ではなに食わぬ顔をしていたあなた。

ある日、社長と2人きりになったエレベーターで「キミ、お金に困っているのかい?」「体調は大丈夫?」などとぼそっと呟かれたらどうでしょう……。

会社の誰にも知らせていないのに、なぜ社長が知っているのか。ちょっとしたホラーですよね。でもこれは現在の制度では本当に起こりうる怖い話だったりします。(執筆者:税理士 高橋創)

特別徴収は“昭和26年導入”の由緒正しき制度

5月になると、6月以降に給料から天引きされる個人住民税についての書類(特別徴収通知書)が地方公共団体から勤務先に送られます。住民税を給料から天引きする制度は「特別徴収」といい、所得税の源泉徴収と同様に個人の税金を会社が処理してくれるものです。

この制度、なんと昭和26年に導入され、昭和30年あたりからはほぼ変わることのない、由緒正しき伝統のある制度なのです。「天引きにするからサラリーマンの納税意識が低いんだ!」と憤る声もありますが、サラリーマンが楽をできるという意味ではとても良い制度だと根っからのなまけ者の私としては思っています。

しかし、この制度について一つ気になる点があります。

会社に知らせる必要のない個人情報が…

私が気になるのは、特別徴収通知書が会社に送られてしまうことです。この特別徴収通知書は確定申告書の簡易バージョンみたいなもの。つまり、所得の種類や医療費など、確定申告に必要な個人情報はだいたい記載されているのです。

本来なら会社に知らせる必要などないような情報である給料以外の収入の有無や、医療費がどれくらい掛かっているか、扶養親族の中に障害者がいるかどうかなどまでわかってしまいます。もちろん会社は経由するだけで最終的には本人の手に渡るのですが、その前に経営者や経理担当などの目に触れてしまう可能性は存分にあるわけです。

プライバシーにうるさい昨今ですから、地方公共団体によっては目隠しシールを貼るなどして本人以外は内容を見ることができないような手を打っています。しかし、そういった対策を取っている地方公共団体は半数くらいにとどまっています。

数年前に問題視されるも結局据え置き

実は数年前、この問題について総務省に相談が入り、ちょっと話題になったことがありました。その際には「何か制度が変わるのでは?」という機運が一瞬だけ生まれたのですが、結局据え置きのまま、現段階でも何かが進んだという話は聞きません。

地方公共団体で対策を打てない主な理由は次のようなところ。

(1)秘匿措置を行う予算がない
(2)特に法律で定められているわけではない

地方公共団体にも予算の問題はあるわけで、無い袖は振れないというのはよくわかります。「やらなければ法律違反ですよ!」とでも言われれば別なのでしょうが、そこも特にルールはないわけで、「ならばまあ現状維持で」となってしまうのもやむを得ないところ。

とはいえ、「法律がないから」「お金がないから」であきらめてしまうような簡単な問題ではないような気がしているんですよね。

税理士の私が考える解決策

そこで考えたのですが、「特別徴収税額通知を勤務先に送らなくて良いですよ」という意思表示をする書類を提出することで、自分自身が申告内容を選択できるようにするのはどうでしょうか。

というのも、まったく別の制度で参考にしたいものがあったのです。

個人住民税の計算方法は基本的には所得税と同じなのですが、上場株式の配当についての課税方法では所得税と個人住民税で違う方法を選択することが認められています。地方公共団体によっては「配当についての住民税はこういう方法にしたいです」という意思表示をすることで、申告内容を選択できるわけです。

特別徴収税額通知についても選択が可能になれば、勤務先に個人情報が漏れる恐れはなくなりますし、地方公共団体も印刷代などのコストは下がるはず。

もし特別徴収通知書を必要とすることがあれば市区町村の役所に取りに行けば良いわけですし、今後マイナンバー制度を利用して、そういった書類を簡単にとれるようになるかもしれません。

実はこの方法に税法の面からの問題がないわけではありません。ですがうまく工夫することで最低限の苦労で実現できなくもないように思います。そのあたりも含め、誕生から60年以上になるこの制度をマイナーチェンジしても良い頃なのではないでしょうか。

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