仮想通貨の「億り人」はたったの331人 億万長者たちが幻に消えた理由

読了まで約 4

「仮想通貨元年」という言葉を昨年からよく見かけるようになりました。実際のところいつが元年なのかと調べてみたのですが、2017年だったり2018年だったりとしっかり定まってはいない様子。私が気づいていなかっただけで、もしかしたら毎年言われていたのかもしれません。(執筆者:税理士 高橋創)

しかし、話題性や経済規模を考えると、仮想通貨元年は2017年だったように思います。
2017年に入ってから市場は約40倍の成長を遂げ、日本国内取引所での仮想通貨の取引高の合計は、2017年12月時点で約2000億円だと言われています。金額が大きすぎてちょっともうよくわからないですが、何はともあれ大変な成長を遂げたわけです。

「億り人」申告者はたったの331人


そこまでの成長を遂げ、その存在が一般的なものになると私たち税理士も無関係ではいられません。国税庁が2017年12月に課税方法を明らかにしたことから、確定申告時期に同業者と「仮想通貨のお客さんっていました? どうしてます?」という会話をよくしました。

感覚としては「よくわからないし、やりたくない」が6割、「とりあえずやるけど、できることならやりたくない」が3割、「新しいものだから税理士としてもチャンスなのではないか」が1割くらいな感じ。ちなみに私は3割に含まれる立ち位置。平均年齢が高く、比較的保守的な業界なのでまあやむなしですかね。
 
そんな2017年の確定申告の総括が5月に国税庁から公表され、「雑所得の収入が1億円超あったとした納税者のうち、仮想通貨の売買で収入を得ていた人が少なくとも331人に上る」と報道されました。

「そんなに多いの!?」と感じる方もいるかもしれませんが、個人的には「そんなものなの?」と思いました。私はもっといるような気がしますけどね、「億り人」。日経新聞も「業界関係者は『実際はもっと多いはず』と指摘している」と報じています。

意外にも「億り人」が少なかった3つの理由


「仮想通貨で儲かっちゃいました!」という話をよく聞くわりに、確定申告における「億り人」が少なく感じるのはなぜなのか――。歌舞伎町と六本木の夜の街で羽振りの良さそうなお兄さんたちから聞いた真偽が定かでない話を踏まえ、税理士の視点から、ふたを開けてみると意外にも「億り人」は少なかったと感じる理由について仮説を立ててみました。

仮説1:「儲かった!」とは言うけれど、実際はそんなに儲かっていない説

仮想通貨は現状「投資」になってしまっています。すでに投資している人からすると新たなプレイヤーが増える方が望ましいわけですから必要以上に羽振りが良いことを言う可能性はあります。意図してバブルを作っている感じですね。

仮説2:2017年段階ではあくまで「含み益」でしかなかった説

所得税は確定した利益に課税されます。国税庁が公表した課税に関しての情報でも「仮想通貨の売却」「仮想通貨での商品の購入」「仮想通貨と仮想通貨の交換」をターゲットとしており、仮想通貨を保有したままであればいくら値上がりをしたとしても課税はされません。しかし「含み益」があれば儲かったような気になってしまいますから、それを公言することによって「未実現の億り人」がたくさんいるイメージができてしまったのではないでしょうか。そして年明けの暴落によって「幻の億り人」になってしまった可能性もあります。

仮説3:儲かっていたけれど単に申告をしなかった説

お酒の席の話ですが、「申告をしなきゃいけないとは思うんだけど、取引をたくさんしすぎてもう全て計算できる気がしない」という方や「海外の取引所までは税務署の人は追っかけられないんでしょ?」という声は聞きました。前者に関しては「まあ頑張って!」、後者に関しては「そんなこともないんじゃないですかね」くらいしかお返事できませんでしたが、そういう方は多いのだと思います。

ですが、実際問題として、申告しなかったことがばれてしまう可能性もそこそこあるように思います。通帳を通した取引であれば裏を取ることは可能ですし、アプリを確認されたりしたときにはごまかしようがありません。

最も有力な説は……


3つの仮説を立ててみましたが、「億り人はもっといるのでは?」という疑念について、個人的には仮説2の「2017年段階ではあくまで『含み益』でしかなかった説」が一番あり得るように思っています。年末までは「まだ上がるだろう」というムードがありましたので、そこまでに利益を確定させていた方はそこまで多くなかったのではないでしょうか。

もし仮説3の「儲かっていたけれど単に申告をしなかった説」が最大の理由であれば、個人のリテラシーの問題ともに制度の問題でもあります。計算自体は「+-×÷」がわかっていればできるのですから、あと必要なのはわかりやすい資料。取引所の皆様方には、ぜひ証券会社のような「年間取引報告書」を作成していただきたいものです。

そして「国をまたげば税務署にバレないだろう」と多くの方が認識している点に関してはお役所の問題です。「これはごまかせないな……」と思うような制度設計があれば、「これってバレないですよね?」という質問をされて私たち税理士が回答に困ることもなくなると思いますので。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。