会社の経理は知っている、不正とモラル④~総務人事部編~【前田康二郎さん寄稿】

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経費の過剰使用や、架空請求による売上金の横領など、ほぼ100%、どの会社でも起こっていると言われる企業の「不正」。これら不正を食い止めるため、大小さまざまなケーススタディを踏まえながら、そのメカニズムや人間の心理に迫ろうという今回のシリーズ。フリーランスの経理部長として活躍する、前田康二郎さんに語っていただきます。

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CASE3:人事総務部の管轄で、社員から徴収・積立されていたお金の行方

「先輩、ちょっと聞いてもいいですか。給与明細に書いてある『新芽会500円』の天引きのことなんですけど」
3年ぶりに入社した新入社員のBから、先輩のAはランチを食べながら尋ねられた。
「新芽会ね。入社の時に人事から説明なかった?」
「聞きました。社内のイベントなどの補助に使うために、新芽会という組合を作って、皆から天引きしていると」
「まあそんなところだけど、何か疑問でもあるの?」
「うーん・・・別にいいんですけど、たとえばもしA先輩たちと有志でフットサルをやったり、キャンプに行ったりすることがあっても、自分は割り勘で自分の分はきちんと全額払うので、わざわざ会社がお金を集めるのってどうなのかなって。周りの友達の会社ではこういうことしていないみたいなので・・・」
「確かにそうだね。今は割り勘とかその都度集めることも多いしね。新芽会は、若手社員のためになるべく使おうという目的があって、私も勤続満1年のときに、5万円までだったら仕事に役立つものだったらなんでも買っていいと言ってもらえたんだよ」
「えっ、そうなんですか!」
「そう、Bさんの500円も、来年以降に入ってくる新入社員のために使われるためのお金だよ」
「そっかぁ、5万円も使えるんだ。じゃあ、結構お得かもしれないですね」
「調子いいなあ。でも、時代も変わってきているから、あとで社長に聞いてみるね」

「社長、ちょっといいですか」
「お疲れ様。どうしたの?」
「あの、新芽会のことなんですけど」
「ああ、今年は久しぶりに新入社員が入ったから新芽会から何に使うか考えないとね」
「ええ。それもそうですし、時代も大分変わっていますから、新芽会自体の在り方も考えないといけないかもしれないですよ。こうした天引きをしない会社も今は多いようですし」
「そっか。今時の会社はこんなことやらないんだろうなあ。ちょっと皆で検討してみようか。とりあえず今どれくらい残高があるか確認しないとね」
そう言うと、社長は内線をかけ、すぐ総務人事部長がやってきた。
「社長、何かお呼びでしょうか」
「うん。しばらく確認してなかったけれど、新芽会って今どうなっているかなって」
「・・・といいますと」
「とりあえず、通帳とか収支表を持ってきてくれる?
「あ、はい。あの、ちょっと整理させていただいて明日全部提出させて頂きたいのですが、それでも大丈夫でしょうか」
「別にいいよ。じゃあよろしくね」

翌日、総務人事部長から会社に電話があり、インフルエンザに罹患したということで、今週は自宅療養するということであった。

そして翌週の月曜日。暗い表情の総務人事部長が社長室にいた。
「おはよう、大丈夫? 顔色悪いよ」
「はい。社長、これを」
「ん? 退職届? え? どうして突然」
「すみません、辞めさせてください・・・」
「そんなことで、はいそうですか、と言えるわけがないじゃない。何があったの?」
「・・・あの、お金が・・・新芽会のお金が」
「新芽会がどうしたの?」
「ないんです」
「ないって、・・・通帳なくしたってこと?」
「通帳はあるんですけど・・・お金がないんです」
「ないって・・・まさか」

総務人事部長は、趣味で始めた株取引で失敗し、友人親戚やキャッシングからもお金を借りつくし、ついに自分が管理していた新芽会のお金にも手を出してしまったそうだ。最初は一時的に借りて、すぐ通帳に戻していたそうだが、そのうち返せなくなり、先週もインフルエンザと嘘をついて金策に走ったが、どうしようもなかったとのことであった。

「別通帳」で管理されているお金は要注意


実は会社というのは、経理部が直接管轄していないお金というものも存在しえます。古くは給与天引きをして、社内イベントの補助として使うためにプールするもの、また最近では福利厚生のためのコーヒーやお弁当代の一部補助として、たとえば600円相当の仕出し弁当であれば、300円だけ備え付けのボックスにお金を入れれば買うことができる、といったものまで、さまざまです。
そのお金の管理を誰がやるかというのは、法律上特に決められているわけではないので、ある会社は「お金に関することはそうしたものでも全て経理部で管理する」というケースもあれば「お金に関して全て経理部というのも経理社員達の負担になるので、福利厚生的な内容に関するお金は総務部でお金を管理してもらおう」ということもあるわけです。

通常、会社の現金や預金の残高などは毎月末や決算期末で実査(会計帳簿上の残高と、現金や通帳の実際の残高が一致しているか)を経理部や税理士、会計士などがチェックをしますが、たとえば今回の例のようなものの場合、その該当から外れてしまうことがあります。

テクニカルな話になりますが、組合費などは、一旦社員の給与から「預り金」などの処理で天引きをしてお金を預かり、その預り金の総額を今度は、会社の組合費用の「別通帳」に経理部が「資金移動」させます。会計上はその時に「預り金」の引き出し、という形で処理をしますので、会社としての預り金の残高はその時に0円になります。組合費用の別通帳に、そのお金が積み立てられるのです。そしてその通帳は経理部が管理する場合もありますが、そうでない場合もあるわけです。その費用をどう使うか、運用するのは実質的には総務部なので、総務部が管理してくれたほうが現実的という面もあり、総務部が管理をすることもあります。そして、この別通帳というのは、会社の帳簿に影響を及ぼさない通帳、関係のない通帳になりますので、この通帳残高の実査は、税理士、会計士は基本的に行う必要はないのです。つまり逆に言えば、そこで何か不正(お金の紛失など)があったとしても、税理士、会計士は責任を負うことができませんので、会社でそうならないようにルールを決めて管理していなければいけません。

今回の例に挙げたこうした組合・互助会的なものは、近年起業したベンチャー企業などでは少ないかもしれませんが、老舗の会社などではこうした会費の徴収というのはまだあるようです。そして、このようなケースの特徴として、同じ人が長年にわたり、1人で管理している、ということが多いことが挙げられます。

経理で管轄すべき会社の現預金は、経理社員と税理士、会計士など、複数のプロの人間がダブルチェック、トリプルチェックをすることになっているので、誰か1人が処理を間違っていたり、不正をしていたりすると、多くの場合は月や年に一度の実査で発見することができます。ところが、こうした管轄外に置かれたお金を、経理部でない人がたった1人で長年管理していると、不正以前に、まず単純な処理のミスで金額が合わなくなった時に「聞く人もいないので、なんとなく適当に」帳尻を合わせてしまっているケースが散見されます。そして今回の例のように、お金に困った時に、そのお金につい手を出してしまう、という誘惑にかられる環境になってしまうこともあるわけです。

「長年同じ人に任せっぱなし」で高まる不正のリスク

こうしたことは会社の例だけにとどまりません。学校、サークル活動、ボランティア団体、町内会、趣味の集まりなど、「2人以上の組織でお金を管理する」状態になる場合は、長年同じ人に1人で任せたままにしていると、常にこうしたリスクが発生しているということです。

だからといって、その管理をしてくれている人に対し、いきなり「ちゃんとやってくれている?お金とってないよね?」と言うのも失礼な話です。なぜなら多くの場合、こうしたお金の管理というのは、皆面倒がってやりたがらない、詳しくないから誰かに任せたい、という経緯で、担当者が決まるからです。

お金の不正がよくあるのも、「皆が、関心がない」からなのです。関心のあることは、人はいつも気にしていますので、そうした人目があるところではなかなか不正というのは起きないのです。不正があるということは、お金の管理に興味がない、お金を管理してくれている人に感謝がない、ということも理由の1つになり得るのです。

実際に私もボランティア関連の団体で、(人手が足りないために、)1人で長年にわたりお金の管理をした経験がありますが、そうした時は、必ずその団体の最高責任者に、定期的に自分の作業した帳簿と金額を確認してダブルチェックをしてもらっていました。

このように、必ずダブルチェック体制を徹底し、たとえばその場で「いつも管理してくれてありがとう」という言葉を責任者から管理者にかけることができれば、管理しているほうもやりがいがありますし、このお金をきちんと管理しなければいけない、という気持ちにもなることでしょう。

不正を予防するための社内ルールを策定する

今回の事例で具体的なダブルチェック体制のルールを考えてみますと、お金を管理している総務人事担当者を、経理部がサポートで、月1回、年1回などダブルチェックの実査を行うことをルール付けする。また、お金を管理する担当者を、総務人事部内で1年ごとに持ち回り制にして同じ人が長年やらないようにする、などとルール付けすることで、不正のリスクを防ぐことができます。

また、最近の特徴として、通帳のコピーを自分で加工して偽装するケースも多くみられます。実査の場合、ダブルチェックする担当者は、自分で実際に通帳を金融機関へ記帳しに行くことをお勧めします。最近はWEB口座で通帳がない場合もありますが、そのような場合は、インターネットでログインしてもらい、その場で確認すればよいでしょう。お金はかかってしまいますが、残高証明書を金融機関から発行してもらう手続きをとるのが、一番安全な方法ではあります。

また、総務人事部の特徴として、寄付や協賛などの依頼が外部から来る機会があります。その際に、実際に寄付や協賛をしていないのに、相手先から受領書が来たかのように自分で受領書を偽装して精算申請をし、そのお金をまるごと着服してしまうケースもあります。寄付や協賛などは、総務人事担当者が仮払いや経費精算などを使い、直接払うこともあるからです。

こうしたケースがなぜ怖いかというと、一般的な支払の場合は、相手から「請求書」が来ますので、もしそれが払われていなかったら、少なくとも数カ月後には、外注先から、「数か月前に請求した金額が未入金なのですが、どうなっていますか」と会社に問い合わせが来ます。ところが、寄付や協賛といったものは、「寄付してくれると以前おっしゃっていましたが、まだ振込がないんですけど」とは、先方も問い合わせがしづらいですから、不正が発覚する時期が、かなり遅くなる場合があるのです。

こうしたことを防ぐためには、なるべく寄付や協賛といったものも、請求支払いと同様に、なるべく経理部から銀行振り込みなどで対応できないかといった交渉を先方としたり、協賛の場合は、協賛スポンサーとして実際に掲載されている証拠の画像なども一緒に提出してもらったりするなど、社内ルールを策定すると良いでしょう。

まさか、あの人が?━━不正が会社に与える影響

総務人事部は、社員が一度は関わる人たちであり、特に若手社員などは、面談や研修期間から総務人事部の社員に相談にのってもらったりする機会も多いので、そのような「お世話になった人」が不正をしていたと知った時に、そのショックはかなり大きく、そうした経験がある人は、人間不信になった、と言っておられた方もいました。

「良い人だから、信頼できる人だから、1人担当でもいいや」というのは間違った考え方です。どのような担当者であっても、必ずダブルチェック体制を作る。人手が足りなかったら、社長がそのダブルチェックの実査をすればいいのです。それが企業や組織、そして仲間から犯罪者を生まないコツです。

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※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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