東京都「ふるさと納税減収」 豊洲移転に五輪経費…財源は大丈夫?

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東京都は国からの地方交付税を受け取っていない唯一の都道府県であることから、財源についての心配はほかの道府県に比べて少ないといわれることがあります。

ところが昨今の情勢を鑑みると、東京都を取り巻く環境が激変しています。豊洲移転にオリンピック、それらに関連する費用として巨額の資金が動いていることがメディアでも大きく取り上げられています。(執筆者:税理士 伯母敏子)

豊洲に五輪…東京都で大事業が相次ぐ


2018年10月6日、築地市場は83年間続いた歴史に幕を下ろしました。豊洲市場が新たなスタートを切ったものの、移転に伴う周辺事情には様々な問題が潜んでおり、特に財政問題についてはその全貌が明らかにされていません。

都政改革本部の報告書によれば、豊洲への移転に関連した費用は、土壌汚染対策費用などを含め約6,000億円に上ったそうです。また、移転が延期したことによる業者への補償金の支払いのほか、豊洲市場の維持管理費の膨張により年間約100億円の赤字が生じる見通しです。この巨額な費用をどうやってまかなうのか、疑問に思う声があがるのは当然といえるでしょう。

また2020年のオリンピック開催を控えている東京都は、今まさに関連施設の建設ラッシュに見舞われています。オリンピック関連費用については、東京都、組織委員会、国、競技会場が存在する自治体との折半で負担をまかなうこととなっていますが、こちらも同様に財政問題を問題視する声が後を絶ちません。東京都が負担することになっている費用は、計1兆4,100億円とされています。

東京都は「ふるさと納税」減収


2018年度の東京都の予算案では、一般会計の財政規模は7兆460億円と国の財政規模(97兆7,128億円)のおよそ7%を占めており、東京都の財政はほかの道府県と比べて際立って大きなものとなっています。

東京都は一般会計とは別に、特定の事業を分けて経理するための特別会計(財政規模5兆4,389億円)と、独立採算制の公営企業の収支を経理するための公営企業会計(財政規模1兆9,591億円)が設けられています。

2018年3月31日時点の東京都の一般会計は、形式収支は2,709億円の黒字となっており、堅調に推移しているといえます。

一方、東京都全体の歳入のうち、ふるさと納税の金額は2018年度で645億円減少しました。また2018年度税制改正で地方消費税の清算基準の見直しが行われたことにより、1,000億円を地方に移すという事態が発生したことから東京都の歳入が減少しました。

さらに2019年度の税制改正案では、地方法人課税の新たな是正措置の動きもあり、これが実現すれば数億円規模の減収となることもささやかれています。

東京都の財源は大丈夫?


さて、気になる豊洲移転の財源ですが、実は、中央卸売市場会計は市場関係者が東京都に収めている使用料を主な収入源としています。つまり、築地市場から豊洲市場への移転に伴う費用については一般会計とは別に管理されており、都民の税金が直接充てられているわけではないのです。

また、中央卸売市場会計の赤字補填分は築地市場跡地を整備して得る予定の収益でまかなう計画が出されており、建前上は一般会計からの補填はないことになっています。

しかし、築地市場跡地の活用については「段階的整備」という方針が打ち出されたものの、その後は具体化していないようにも見受けられます。いわば、いつの時点で土地の有効活用ができる十分な価値に到達できるのか、ひいては収益化できるのかが不安視されており、事実上の計画は白紙状態だということです。

また、今後築地の開発費用が一般会計に移行するといった議論がされるという話題も浮上しているため、都民の税金の一部がその補填に充てられることが懸念されます。

五輪スポンサー収入に大きな期待も…


オリンピック関連費用については、東京オリンピック・パラリンピック開催準備基金を充てるといわれています。2017年度の東京都年次財務報告書によれば、税連動経費のうち1,531億円のほか、総務費の一部からも東京オリンピック・パラリンピック開催準備基金に積み立てを行っており、2017度末の当基金の残高は5,140億円です

また、オリンピック開催により生じる経済効果として、国の税収に4.7兆円、東京都の税収に7,000億円のプラスの効果を及ぼすといわれています。この効果が基金ではまかないきれないマイナス分の補填のみならず、オリンピック後の景気の動向に備えた資金となることが期待できます。組織委員会の予算ではTOPスポンサーを含めた国内スポンサー収入の合計額を3,660億円と見込んでおり、スポンサー収入には大きな期待が寄せられている一方、変動要素も十分含まれる収入源であることからリスクも含んでいるといえるでしょう。

建設中のオリンピック関連施設については、稼働後は多額の減価償却費が利益を圧迫すると同時に、オリンピック仕様からの改修なども発生することが予想され、老朽化に備えた修繕費の積み立てなども必要となってきます。それと同時に施設が将来にわたって継続した収益を得ることにより、税収をまかなっていくことも期待したいところです。

東京都の財政状態は予断を許さない状況?


過去を振り返ると、1964年の東京オリンピック後に、大きな不況の波がありました。今回のオリンピックでもその波を覚悟せざるを得ないといわれています。当初コンパクト開催として新たな設備投資を最小限に抑える計画があったものの、計画の見直しにより経費は徐々に膨らんでいます。

さらに、オリンピック開催前の2019年10月には消費税10%への増税が控えています。消費税増税による企業のダメージとオリンピック後の不景気の流れがダブルで訪れることも懸念されるのです。

ふるさと納税の減収の影響は少ないですが、財源の確保が不安定であるということと、多額の負債を抱えた状態で今後何年にもわたって対策が必要であることを踏まえると、東京都の財政状態は予断を許さない状況であるといえるでしょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年10月31日)のものです。

【参考】
平成29年度一般会計決算(見込み)について(財務局)
新市場Q&A なるほど納得!築地市場移転>費用とスケジュールは?(東京都中央卸売市場)
平成29年度 東京都年次財務報告書
組織委員会およびその他の経費(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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