イニエスタが年俸32億円で神戸移籍!? 外国人スポーツ選手は日本に納税する?

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5月24日、日本のサッカー界に衝撃が走りました。J1リーグのヴィッセル神戸が、世界トップ選手として知られるスペイン代表のMFアンドレス・イニエスタ選手と正式契約を交わしたと発表したのです。大スターの電撃移籍に日本中が歓喜に沸く一方、推定32億5,000万円と報じられた破格年俸もファンやサポーターを驚かせました。

誰もが気になるのは、そのお金の行方です。とりわけ注目を浴びるのは使い道ですが、一方で税金事情はどうなっているのでしょうか。イニエスタ選手を含め、日本で活躍するプロスポーツ選手の所得税、住民税はどこの国に納められるのか、プロスポーツ選手専門のファイナンシャルプランナーで税理士の國井隆さんに詳しく解説してもらいました。

そもそもプロスポーツ選手は会社員? 個人事業主?


――そもそも、Jリーグ選手など日本のプロスポーツ選手は、会社員ですか? それとも個人事業主でしょうか?

國井税理士:プロスポーツ選手は、基本的には個人事業主ですが、競技によって多少異なります。

Jリーグの場合、日本サッカー協会が定める「日本サッカー協会選手契約書」にて、クラブと選手(個人)とが契約を交わすようになっています。日本の税法では、源泉所得税に関する所得税法施行令320条に「プロサッカー選手」という文言があり、個人事業主であることを明示しています。

また、日本のメジャースポーツである野球も、税法で「職業野球の選手」という文言があり、サッカーと同じく選手は個人事業主です。

一方、バスケットボール選手やバレーボール選手は、所得税の源泉所得税の条文等には含まれていません。これらの源泉所得税は、その条文で指摘されているもの“だけ”に適用される「限定列挙」と考えられるので、バスケットボールやバレーボールの選手は源泉徴収されません。

ただし、チームと個人で契約をしていれば、同じく個人事業主になります。

――日本で活動する外国人選手も同様ですか?

國井税理士:外国人選手も同じです。

イニエスタ、所得税の納税先はどこ?


――日本で活動するプロスポーツ選手は、日本に所得税を納めるのですか?

國井税理士:日本の居住者となった場合には、日本人と同様に、日本で確定申告をして所得税を納めることになります。

イニエスタ選手の場合、母国スペインの居住者となった場合には、日本は原則として非居住者として20.42%の源泉所得税を控除し、スペインで全世界所得を申告することになります。

――どういった条件によって、日本の居住者、スペインの居住者とみなされるのでしょうか?

國井税理士:日本の税法では、「生活の拠点はどこか」「継続して1年以上居住するかどうか」などを総合的に判断する必要があります。なので、外国人選手の状況を確認し、居住者かどうかを判断することになります。

外国人選手が日本に居住しているかどうかについて、税務的には「居住者概念」を使って整理しています。

日本の税法では、所得税法第2条において「居住者」とは、国内に「住所」を有し、または現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人としており、「居住者」以外の個人を「非居住者」としています。「住所」は、「個人の生活の本拠」であるとし、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。

また、所得税法施行令第14条において、その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合には、国内に住所があると推定されます。

以上を総合的に鑑みて、外国人選手の居住を判断します。

――スペインの税法はどうでしょうか?

國井税理士:スペインでは、スペイン国内に年間183日以上滞在している場合、または、事業活動、専門職活動あるいは経済利益の主要な基盤等がスペインにある場合には、スペインの居住者とみなされます。なお、配偶者と未成年の子供がスペインに居住していて、経済的に納税者に依存する場合は、スペインでの居住者と推定されるとしています。

近年、リオネル・メッシ選手やクリスティアーノ・ロナウド選手に対して、厳しい姿勢を見せているスペイン国税当局の居住者判定には、慎重に検討する必要があるでしょう。実は私も、外国人スポーツ選手の居住者判定をする際に、当該国まで住居を確認に行ったこともあります。

――どちらの国でも居住者とみなされる可能性は?

各国によって税法が違うので、日本でも居住者、スペインでも居住者のケースもあり、この場合には「双方居住者」といって、日本とスペインの租税条約で決めることとなっています。

日本とスペインとの租税条約について、2018年2月に新租税条約が実質合意していますが、現在各国での承認手続き中です。1974年に締結された、現行の租税条約の第4条には、「常用の住居を双方の締約国内に有する場合又はこれをいずれの締約国内にも有しない場合には、当該個人は、自己が国民である締約国の居住者とみなす」とあるので、最終的にこの条項で判断するケースもあります。

海外を転戦するF1レーサーやテニス選手は……

――住民税はどうですか?

國井税理士:住民税は、1月1日に日本に住所を有していた人に課税されますので、1月1日時点において日本の居住者であれば、日本の住所地で納税することになります。世界でプレーするプロスポーツ選手全員に言えますが、どこかの国で納税することになり、どこの国にも納税しないということはありません。

余談ですが、たまにタックスヘイブンを利用した外国人サッカー選手の脱税報道が聞かれますが、どこの国の居住者かという「タックスホーム」の判断を誤ると非居住者とした国からペナルティの可能性もありますので、慎重な対応が必要です。

また、タックスホームの判断が難しいスポーツとして、海外を転戦するF1やテニスなどがあります。F1レーサーはタックスヘイブンのモナコを居住者にしている人も多く、テニスは最終的に自分の国で申告する人が多いようです。

【取材協力】國井 隆(くにい たかし)
会計士・税理士・行政書士・公認システム監査人・ファイナンシャルプランナー/税理士法人オフィス921
1965年生まれ、東京都出身。筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻前期博士課程修了。1988年に早稲田大学卒業後、旅行会社勤務を経て、1991年に公認会計士2次試験合格。同年に青山監査法人/プライスウォーターハウス入所。1996年に公認会計士・税理士國井事務所設立及び株式会社オフィス921設立。

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