• 作成日 : 2025年9月25日

セントラルキッチンがチェーン店の経営をどう変えるのか?

多くの飲食店チェーンが安定した成長を続ける背景には、「セントラルキッチン」の存在があります。セントラルキッチンは、多店舗展開における品質のばらつきや人材不足、コスト管理といった経営課題を解決する有効な手段です。うまく活用すれば、事業拡大の大きな力となります。

この記事では、セントラルキッチンの基本的な仕組みから、チェーン店が導入するメリット・デメリット、実際の企業事例、そして自社に合った導入形態の選び方まで、経営者の視点でわかりやすく解説します。

セントラルキッチンがチェーン店の成長を支える仕組み

セントラルキッチンは、複数の店舗で提供する料理の一次加工や調理を一括して行う集中調理施設です。その仕組みと、多くのチェーン店で導入される理由を解説します。

セントラルキッチンとは?その仕組みを解説

セントラルキッチンは、チェーン展開する飲食店の「心臓部」ともいえる工場です。各店舗で行っていた仕込みや調理の一部、あるいは大半をこの施設で集中的に行います。

具体的な流れは以下のとおりです。

  1. 本部が食材をまとめて仕入れ、セントラルキッチンに納入する。
  2. セントラルキッチンで、レシピに基づき食材のカット、下ごしらえ、調理、味付け、パッキングなどを行う。
  3. 加工された食材や半調理品を、各店舗へ定期的に配送する。
  4. 店舗では、届けられた食材を再加熱したり、簡単な最終調理をしたりするだけで、お客様に提供できる。

この仕組みにより、店舗ごとの作業負担を大幅に軽減し、経営全体の効率化を図ります。

なぜ多くのチェーン店で導入されているのか

チェーン店がセントラルキッチンを導入する最大の理由は、事業の「標準化」と「効率化」にあります。店舗数が増えるほど、すべての店で同じ品質の商品を、同じコストで、同じように提供し続けることは難しくなります。

セントラルキッチンは、この課題を解決するための仕組みです。味の均一化や原価管理の徹底、店舗オペレーションの簡素化を実現し、スピーディーな多店舗展開を可能にするため、多くの成長企業が戦略的に導入しています。

チェーン店がセントラルキッチンを導入するメリット

セントラルキッチンの導入は、チェーン店の経営にさまざまな好影響をもたらします。品質、コスト、人材、出店戦略の4つの側面から、主なメリットを見ていきましょう。

全店舗で味や品質を均一化できる

セントラルキッチンでは、熟練の調理人が管理された環境で一括調理を行うため、料理の味や品質を高いレベルで標準化できます。店舗では調理経験の浅いスタッフでも、マニュアルに沿った簡単な作業で済むため、担当者による味のばらつきが起こりにくくなります。これは、チェーン店全体のブランドイメージを守り、顧客の信頼を得るうえで大きな強みとなるでしょう。

食材の大量仕入れと人件費の抑制によるコスト削減

食材を一括で大量に仕入れることで、仕入れ単価を下げられるスケールメリットが生まれます。また、各店舗での仕込み作業が不要になるため、調理スタッフの人数を最適化でき、人件費の抑制につながります。さらに、セントラルキッチンで食材を一括管理することで、店舗ごとの在庫ロスや廃棄ロスを減らす効果も期待でき、原価率の改善に貢献します。

店舗オペレーションの簡素化と人材育成の効率化

店舗での調理工程がシンプルになることで、スタッフは接客など、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。調理マニュアルも簡素化できるため、新人スタッフの教育にかかる時間とコストを大幅に削減できます。これは、慢性的な人手不足に悩む飲食業界において、採用のハードルを下げ、早期の戦力化を可能にする点で有利に働きます。

新規出店のスピードアップ

店舗での調理設備を最小限に抑えられるため、小規模な物件でも出店しやすくなります。厨房面積を小さくできる分、客席数を増やして収益性を高めることも可能です。また、調理スタッフの確保や育成に時間がかからないため、物件さえ見つかればスピーディーに新店舗をオープンできます。セントラルキッチンの生産能力に余裕があれば、短期間での集中的な出店も可能になるでしょう。

チェーン店がセントラルキッチン導入で注意すべきデメリット

多くのメリットがある一方で、セントラルキッチンの導入にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。導入を検討する際は、これらの側面も冷静に評価しなくてはなりません。

高額な初期投資と設備維持コスト

セントラルキッチンを自社で建設する場合、土地の取得費用や建設費、大型の調理機器の購入費など、数千万円から数億円規模の莫大な初期投資が必要になります。稼働後も、設備のメンテナンス費用や水道光熱費、工場の家賃、人件費といった固定費が継続的に発生します。事業規模や店舗数に見合わない過大な投資は、経営を圧迫する要因になりかねません。

配送システム(物流)の構築と管理

セントラルキッチンで製造した食材を、鮮度や品質を保ったまま各店舗へ時間通りに配送するための物流網の構築が不可欠です。自社で配送トラックを保有・管理するのか、外部の運送業者に委託するのか、いずれにしても物流コストが発生します。とくに出店エリアが広範囲にわたる場合、配送コストは大きな負担となるでしょう。

メニュー変更への対応が遅れる可能性

全店のメニューをセントラルキッチンで管理するため、季節限定メニューや新メニューを導入する際に、小回りが利きにくい側面があります。

新しいレシピの確立、生産ラインの調整、全店への配送テストなどが必要になり、店舗独自の判断で迅速にメニューを変更することが難しくなります。市場のトレンドや顧客のニーズに素早く対応したい場合には、足かせとなることも考えられます。

店舗スタッフの調理技術が育ちにくい

店舗での作業が簡素化されるため、スタッフが本格的な調理技術を習得する機会が少なくなります。これにより、料理人としてのキャリアアップを望む人材の確保が難しくなったり、スタッフの仕事に対するモチベーションが低下したりする懸念があります。

マニュアル化された作業だけでなく、スタッフがやりがいを感じられるような仕組み作りもあわせて考える必要があるでしょう。

セントラルキッチンを導入しているチェーン店の事例

多くの有名チェーン店がセントラルキッチンを活用して成功を収めています。ここでは、具体的な企業の事例を見ていきましょう。

ファミレス業界の代表例:サイゼリヤ

サイゼリヤは、セントラルキッチンを徹底的に活用している代表的な企業です。国内に複数の自社工場を持ち、野菜の加工からソースやドレッシングの製造、ミラノ風ドリアなどの主力商品の調理までを行っています。

これにより、高品質な料理を驚くほどの低価格で提供することを可能にしています。店舗での調理は加熱や盛り付けが中心で、熟練の料理人を必要としないオペレーションを確立しているのが特徴です。

出典:自社工場の取り組み|株式会社サイゼリヤ

ラーメン業界の代表例:一蘭

天然とんこつラーメン専門店の一蘭も、セントラルキッチンでスープやチャーシュー、秘伝のたれなどを一括生産しています。糸島(福岡県)にある製造工場「一蘭の森」で、専属の職人が味の根幹となる部分を徹底管理し、品質のぶれをなくしています。

これにより、世界中のどの店舗でも「一蘭の味」を再現できる体制を構築しています。ラーメンという職人技が求められやすい業態でも、セントラルキッチンの活用がブランドの維持と拡大に貢献している好例です。

出典:自然の中で作られるラーメン 一蘭の森 糸島|株式会社 一蘭

その他の業態での活用事例

ファミレスやラーメン店以外にも、カレー専門店の「カレーハウスCoCo壱番屋」がソースの製造を集中化していたり、餃子が主力の「餃子の王将」が一部の工場で食材加工を行っていたりと、さまざまな業態でセントラルキッチンが活用されています。それぞれの企業が、自社のビジネスモデルや商品特性に合わせて、セントラルキッチンの活用範囲を最適化していることがわかります。

自社に合ったセントラルキッチンの導入形態とは?

セントラルキッチンを導入するといっても、その形態は一つではありません。自社の規模や投資余力、将来のビジョンに応じて、最適な方法を選ぶことが成功の分かれ道です。

自社で工場を建設・運営する

最も本格的な形態が、自社専用のセントラルキッチンを建設・運営する方法です。自社のレシピや品質基準に完全に合わせた生産が可能で、製造ノウハウを社内に蓄積できるのが大きなメリットです。ただし、前述のとおり莫大な初期投資と運営コストがかかるため、数十店舗以上の規模があり、安定した収益が見込めるチェーン店向けの選択肢といえるでしょう。

OEM・委託製造サービスを利用する

食品製造会社に自社ブランド商品の製造を委託する「OEM(Original Equipment Manufacturer)」を活用する方法です。自社で工場を持つ必要がないため、初期投資を大幅に抑えられます。数店舗規模のチェーン店でも導入しやすく、セントラルキッチンのメリットを手軽に享受できます。ただし、製造を外部に頼るため、レシピの情報漏洩リスクや、委託先の都合による生産調整などに注意が必要です。

複数ブランドで共有するゴーストセントラルキッチン

近年注目されているのが、複数の飲食店ブランドが厨房設備を共有する「ゴーストセントラルキッチン(クラウドキッチン)」です。

とくにデリバリー専門ブランドなどを展開する場合に適しています。厨房設備や場所をレンタルする形態のため、低リスクで事業を開始できます。セントラルキッチンを自社で持つ前段階として、小規模にテスト導入したい場合にも有効な選択肢ではないでしょうか。

セントラルキッチンはチェーン店の成長戦略を支える

この記事では、チェーン店経営におけるセントラルキッチンの役割やメリット・デメリット、導入形態について解説しました。セントラルキッチンは、味の標準化、コスト削減、出店スピードの向上など、多店舗展開を進めるうえでの多くの課題を解決に導きます。一方で、多額の投資や物流網の構築といったハードルも存在します。

成功の鍵は、自社の業態や事業規模、将来の展望をふまえ、自社での工場建設、OEM委託、ゴーストキッチンの活用といった選択肢の中から、最適な形態を見極めることです。セントラルキッチンを戦略的に活用することが、チェーン店の持続的な成長を支える基盤となります。


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