- 作成日 : 2025年10月9日
管理業務主任者とは?仕事内容から設置の役割、資格取得についてまで徹底解説
マンションでの快適な暮らしを支える専門家、「管理業務主任者」という国家資格をご存知でしょうか。不動産管理会社に欠かせない存在で、安定した需要が見込めることから注目されています。
本記事では「管理業務主任者とは?」という基本から、混合されがちなマンション管理士や宅建士との違い、法律で定められた独占業務や設置義務、具体的な仕事内容を丁寧に解説します。さらに、資格を取得する個人と、資格者を配置する企業の双方のメリットも紹介します。
目次
管理業務主任者とは?
管理業務主任者とは、マンション管理に関する幅広い専門知識を有していることを証明する国家資格です。この資格制度は、2000年12月8日に公布され、2001年8月1日に施行された「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下、マンション管理適正化法)に基づき創設されました。
マンション管理会社が、管理組合と「管理受託契約」を結ぶ際には、契約内容を管理組合に説明し、適切な管理業務を提供する必要があります。管理業務主任者は、この契約時の重要事項説明や管理事務報告など、法律で定められた独占的な役割を担い、マンション管理業務の適正化と透明性を確保する上で欠かせない存在です。
また、この資格を取得することで、施行規則第64条に定められた科目(法務〔民法・区分所有法・マンション管理適正化法など〕、会計、維持・修繕〔建築・設備を含む〕等)を対象とした国家試験に合格したことの証明となります。不動産管理業界で働くうえで、法務・建築・会計を網羅する専門知識を持つ証として高い信頼性を備えた資格といえます。
※法令上の用語は「管理受託契約」ですが、国土交通省が定める標準的な契約書の名称は「マンション標準管理委託契約書」です。本記事では、法令の説明箇所では「管理受託契約」に用語を統一しています。
出典:マンションの管理の適正化の推進に関する法律|e-Gov 法令検索
管理業務主任者とマンション管理士、宅建士の違いは?
管理業務主任者は、同じマンション管理の専門家である「マンション管理士」や、不動産取引の専門家である「宅地建物取引士(宅建士)」としばしば比較されます。それぞれの役割と立ち位置の違いを明確に理解することが重要です。
マンション管理士との違い
管理業務主任者とマンション管理士は「マンション管理」という共通分野の専門家ですが、その立場が異なります。
項目 | 管理業務主任者 | マンション管理士 |
---|---|---|
主な立場 | 管理会社の従業員(プレイヤー) | 管理組合のコンサルタント(アドバイザー) |
主な役割 | 管理受託契約の締結・更新、管理事務報告など(マンション管理適正化法に基づく業務) | 管理組合への助言、指導、援助(契約や報告業務は行わない) |
独占業務 | あり(重要事項説明、重要事項説明書・契約書への記名、管理事務の報告) | なし(名称独占資格。法定独占業務は持たない) |
設置義務 | あり(管理会社は事務所ごとに管理組合30につき1名以上の専任配置) | なし |
資格の性質 | 業務遂行のための必置資格 | 名称を用いて業務ができる名称独占資格 |
宅建士との違い
宅建士は「不動産取引」の専門家です。その役割を端的に示すと以下のようになります。
- 管理業務主任者:マンションの「管理」が専門。
- 宅地建物取引士(宅建士):不動産の「取引」が専門。
宅建士は、不動産の売買契約や賃貸借契約の際に重要事項の説明などを行い、取引のスムーズさと安全性を確保します。そのため、設置義務についても、管理業務主任者の基準(管理組合数に応じた人数)とは異なり、宅地建物取引業法に基づき、事務所ごとに「従業者5人に1人以上」の専任者を置くことが定められています(第31条の3)。
管理業務主任者の具体的な仕事内容は?
管理業務主任者は、マンション管理会社に所属し、マンション管理の最前線で管理組合の運営を支援する役割を担います。
日常業務の中心となるのは、管理組合と住民をつなぎ、マンション全体の管理を円滑に進めるための「フロント業務」です。これは管理会社の窓口担当として、管理組合の理事会や総会に出席し、契約・会計・修繕計画など幅広い分野をサポートする業務を指します。
管理業務主任者は、法律で定められた独占業務を行うと同時に、管理会社が提供する管理サービス全般に関与します。以下は主な業務内容です。
管理組合の運営サポート
マンションの所有者で構成される「管理組合」が円滑に機能するようにサポートします。
- 総会・理事会の企画・運営補助:年間の事業計画や予算案の作成支援、議事録作成、会議資料の準備、司会進行補助などを行います。法律(区分所有法)や管理規約に基づいた適切な意思決定をサポートします。
- 会計業務の監督・確認:管理費や修繕積立金の出納、収支報告書の作成など、組合財産の適正な管理をサポートします。実務は管理会社の経理担当が行いますが、管理業務主任者は報告内容を確認し、重要事項説明や管理事務報告に責任を負います。
建物の維持・管理
マンションという資産価値を維持・向上させるための業務です。
- 維持・修繕計画の企画・実施:長期修繕計画に基づき、共用部分(廊下、エレベーター、外壁など)の点検や修繕工事の計画を立案し、専門業者を手配します。計画内容は理事会や総会での承認を得て実施されます。
- 日常的な建物管理:清掃、設備点検、警備などの委託先業者と連携し、日々の住環境を維持します。管理業務主任者自身が現場作業を行うわけではありませんが、管理会社の窓口として進捗確認や品質チェックを行います。
住民対応
住民からの様々な問い合わせやトラブルに対応するのも大切な仕事です。
- クレーム対応:「騒音がうるさい」「共用部分の電気が切れている」といった住民からの相談やクレームに対応し、内容を整理し、適切な解決策を検討し、必要に応じて理事会や専門業者に連絡します。
- 各種連絡・調整:修繕工事のスケジュール告知や、イベントのお知らせなどを住民に伝えます。理事会決定事項を正確に周知し、管理組合運営の透明性を保ちます。
管理業務主任者の独占業務とは?
管理業務主任者には、法律で定められた4つの独占業務があります。以下の4つの業務は、管理業務主任者でなければ行うことができません。
これらは「マンション管理適正化法」に定められた、事業の根幹を成す極めて重要な業務です。
- 管理受託契約に関する重要事項の説明(法第72条):管理会社が管理組合と管理受託契約を締結する前に、契約の重要事項(業務範囲、期間、報酬等)を、管理業務主任者が説明します。
- 管理受託契約に関する重要事項説明書への記名(法第72条):上記の説明に用いる重要事項説明書を管理会社が交付するにあたり、説明を行った管理業務主任者が記名します。これにより、誰が説明責任者であるかを明確にします。
- 管理受託契約書への記名(法第73条):契約が成立した際に作成される「管理受託契約書」に、管理業務主任者として記名します。これにより、契約内容を専門家が確認したことを証明します。
- 管理事務の報告(法第77条):契約後、管理会社が管理組合へ行う管理事務報告(会計収支、管理状況など)を管理業務主任者が実施します。事業の透明性を確保し、管理組合との信頼関係を維持するために不可欠な業務です。
これらの業務は、マンション管理の根幹に関わる非常に重要な役割です。
※2021年9月1日の法改正により、書面への押印は不要となり、現在は記名のみが義務付けられています。
管理業務主任者の設置義務とは?
マンション管理適正化法第56条および同法施行規則第61条に基づき、マンション管理業者はその事務所ごとに「管理組合の数30につき1名以上(端数切上げ)」の専任の管理業務主任者を設置することが義務付けられています。なお、資格要件の「成年者」とは、2022年4月1日の民法改正以降、18歳以上を指します。
例えば、90の管理組合と契約している支店では、最低でも3名の専任管理業務主任者が必要です。この法律上の義務があるため、不動産管理会社は常に一定数の資格保有者を確保する必要があります。
管理業務主任者を設置する経営上のメリットとは?
管理業務主任者を社内に配置することは、法律上の義務を果たすだけでなく、事業成長に繋がる多くの重要な役割を担います。法令遵守の先にある、具体的な経営上のメリットは以下の通りです。
顧客からの信頼性向上
国家資格を持つ管理業務主任者が、重要事項説明や管理事務報告といった法定業務を適正に実施することで、管理組合や区分所有者(住民)からの信頼性が格段に高まります。「専門家が法令を遵守し、透明性をもって対応してくれる会社」という評価は、競合他社との差別化につながり、長期的な契約継続にも寄与します。
事業機会の拡大
管理業務主任者の設置は、マンション管理業へ新規参入するための必須要件です。不動産仲介業や賃貸管理業を行っている事業者が、ストック型ビジネスであるマンション管理業へ事業を拡大し、経営の安定化を図るための第一歩となります。なお、マンション管理業を新規に開始するには、管理業務主任者を配置したうえで国土交通大臣への登録(マンション管理業登録)が必須です。
リスク管理とトラブル予防
専門知識を持つ管理業務主任者が、法律に基づいた適正な契約手続きや事務管理を行うことで、管理組合との間で起こりうる認識の齟齬や契約上のトラブルを未然に防ぎます。これは、長期的な訴訟リスクや信用の失墜を防ぐ上で極めて重要です。
法令遵守(コンプライアンス)の徹底
管理業務主任者の設置は、法56条・施行規則61条に基づく法定義務です。違反した場合、行政庁(国土交通大臣)から指示処分(法第81条)、業務停止命令(法第82条)、登録取消処分(法第83条)といった厳しい行政処分の対象となります。資格者を適正に配置することは、事業の根幹を守るコンプライアンスそのものです。
管理業務主任者になるには?
管理業務主任者になるには、年に一度実施される国家試験に合格する必要があります。ここでは、試験の概要と、資格を取得することで得られるキャリア上のメリットを解説します。
試験の概要と合格率
従業員に資格取得を奨励したり、自身のキャリアアップを目指したりする上で、試験の難易度や概要を把握しておくことは重要です。
- 受験資格:年齢、学歴、国籍、実務経験などの制限はなく、誰でも受験可能です。
- 試験日:おおむね12月の第1日曜日に実施されますが、年度ごとの公式発表で必ず確認してください。
- 試験形式:四肢択一のマークシート方式、50問(試験時間2時間)
- 主な試験科目:
- 管理事務の委託契約に関すること
- 管理組合の会計及び出納に関すること
- 建物の維持・修繕の企画実施に関すること
- マンション管理適正化法、民法、区分所有法など関連法令
- 合格率と難易度:直近数年の合格率は概ね20%前後です。合格基準点は年度により変動しますが(33点~38点程度)、目安として7割前後の正答が求められます。
資格取得のメリット
難易度に対して、資格を取得することで得られるキャリア上のメリットは非常に大きいものがあります。
- 不動産業界への就職・転職に強い:不動産管理会社には法律上の設置義務があるため、資格保有者の需要は常に安定しています。未経験者でも専門知識をアピールできるため、就職・転職活動を有利に進めることが可能です。
- 安定したキャリア形成:マンションが存在する限り管理業務は発生するため、景気の変動を受けにくい安定した業界で専門職としてキャリアを築くことができます。現場担当者から管理職へのステップアップも目指せます。
- 他の不動産資格との相乗効果:宅建士やマンション管理士といった関連資格を併せて取得することで、対応できる業務の幅が広がり、自身の市場価値をさらに高められます。例えば、「+宅建士」なら管理と取引の両面から、「+マンション管理士」なら管理会社と管理組合、双方の視点から質の高いサービスを提供できる専門家として評価されます。
- 独立開業の道も:管理業務主任者としての経験を活かして独立・開業することも可能です。ただし、事業内容によって必要な手続きが異なります。
- 「マンション管理業」として開業する場合: 管理組合から管理事務を受託するには、資格とは別に、事業者として国土交通大臣の登録(マンション管理業登録)が必須です。この登録を受けることで、正式に事業を開始できます。
- 「コンサルタント」として独立する場合: 管理業登録をせず、管理組合への助言や研修といったコンサルティング業務に特化して独立することも可能です。
管理業務主任者が事業とキャリアを成長させる
本記事では、管理業務主任者の役割から法的な義務までを解説し、その内容が事業者にとっての経営上の重要性と、資格取得を目指す方にとってのキャリアアップのメリットにどう繋がるのかを示しました。
管理業務主任者は、マンション管理の専門家として、企業の成長と個人のキャリア、その両方を支える重要な国家資格です。本記事が、皆さまの次の一歩を踏み出す際の参考になれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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