- 作成日 : 2025年9月9日
ドラッグストア業界のM&Aとは?メリットや事例を解説
ドラッグストア業界は、少子高齢化社会の進展と共に大きな変革期を迎えています。この変化に対応するため、業界では中小店舗の大手による傘下入りが増加しており、寡占化や効率化を目的としたM&Aの活発化が進行しています。
この記事では、ドラッグストア業界におけるM&Aの現状、背景、成功要因について詳しく解説し、業界関係者や投資家が知っておくべき重要なポイントを解説します。
目次
ドラッグストア業界のM&A動向
ドラッグストア業界における近年のM&A活動の状況と市場の変化について詳しく分析します。
業界再編の加速
2020年以降、大手チェーンを中心にM&Aが増加傾向にあるとされており、業界再編が進行中です。地域密着型企業同士の統合、異業種からの参入など、多様な形態のM&Aが同時並行で進行しています。
この再編の背景には、コロナ禍による消費行動の変化、デジタル化の必要性、人材不足の深刻化など、業界を取り巻く環境の急激な変化があります。特に、従来の店舗運営モデルだけでは競争力を維持することが困難になり、規模の経済効果やシナジー創出を目的としたM&Aが重要な成長戦略として位置づけられています。
市場集約度の変化
日本のドラッグストア市場は、長期間にわたって地域密着型の中小企業が多数存在する分散的な構造を維持してきました。しかし、近年のM&A活動により、上位企業の市場シェア集中が急速に進んでいます。
上位10社の市場シェアは2015年の約60%から2024年には約80%まで上昇し、業界の寡占化が明確に進展しています。この傾向は今後も継続すると予想され、最終的には上位5社程度による市場支配構造に収束する可能性が高いと考えられています。
地域別の統合状況
地域別に見ると、都市部では大手チェーンによる買収が中心となり、地方部では地域企業同士の統合が活発化しています。特に、人口減少が著しい地方においては、経営者の高齢化や後継者不在により単独継続が困難な企業が、統合またはM&Aで対応するケースが増えています。
一方、首都圏や関西圏などの大都市圏では、立地の良い店舗を有する企業に対する買収競争が激化しており、買収価格の上昇傾向が見られます。このような地域差を踏まえた戦略的なM&Aの実施が、成功の鍵となっています。
取引規模と頻度の推移
ドラッグストア業界のM&A取引は、件数・規模ともに拡大傾向にあります。
取引規模についても、数億円規模の小規模取引から数百億円規模の大型案件まで多様化が進んでいます。特に、調剤薬局機能を併設したドラッグストアや、複数県にまたがるチェーン展開企業の買収では、取引金額が大型化する傾向が顕著です。
ドラッグストア業界のM&A背景
業界でM&Aが活発化している根本的な要因と市場環境の変化について解説します。
少子高齢化の影響
日本の人口構造の変化は、ドラッグストア業界に複合的な影響を与えています。高齢化の進展により医薬品や健康関連商品の需要は増加している一方で、労働力不足や後継者不在の問題が深刻化しています。
特に地方の中小ドラッグストアでは、経営者の高齢化により事業承継が喫緊の課題となっており、親族内承継が困難な場合にM&Aが選択されるケースが急増しています。また、若年層の減少により新規採用が困難になり、人材確保のためのスケールメリット追求も重要な動機となっています。
競争環境の激化
ドラッグストア業界の競争環境は、参入企業の多様化により一層激しさを増しています。従来の専門チェーンに加えて、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ホームセンターなどが医薬品販売に参入し、顧客の奪い合いが激化しています。
さらに、インターネット通販の普及により、価格競争が全国規模で展開されるようになりました。この環境下で競争力を維持するためには、仕入れ規模の拡大によるコスト削減、物流効率化、システム投資などが不可欠となり、M&Aによる規模拡大が重要な戦略選択肢となっています。
規制緩和の影響
薬事法の改正や規制緩和により、ドラッグストア業界のビジネスモデルは大きく変化しています。一般用医薬品のネット販売解禁、登録販売者制度の導入、調剤薬局との連携促進などにより、新たな事業機会が創出されています。
これらの変化に対応するためには、専門人材の確保、システム投資、店舗改装などが必要となり、単独での対応が困難な企業にとってM&Aは有効な解決策となっています。また、調剤薬局事業への参入を目的とした買収も活発化しています。
デジタル化の必要性
消費者の購買行動のデジタル化に対応するため、ドラッグストア各社はオンライン販売、モバイルアプリ、電子決済システムなどへの投資を急いでいます。しかし、これらのデジタル投資には多額の費用と専門的な知識が必要となります。
中小企業にとっては、単独でのデジタル化投資は財務的な負担が大きく、M&Aによる統合により投資負担を分散し、効率的なデジタル化を実現する戦略が注目されています。
ドラッグストア業界のM&Aメリット・デメリット
M&Aがもたらす具体的な効果と注意すべきリスクについて詳しく分析します。
買い手企業のメリット
- 迅速な事業拡大とシェア向上
新規出店に比べ、既存の顧客基盤と店舗を一度に獲得できるため、投資効率が高い。 - コスト削減効果
仕入れ規模の拡大による交渉力向上で、仕入れ単価を削減できる。
物流センターの統合や配送ルートの最適化で、物流コストを削減できる。 - 専門人材の確保
経験豊富な薬剤師や登録販売者を一度に確保できる。
調剤併設型店舗の買収により、調剤事業への参入・拡大が実現し、収益を多様化・安定化できる。
売り手企業のメリット
- 事業承継問題の解決
後継者不在や経営者の高齢化といった課題に対し、企業価値を適正に評価され事業を売却できる。 - 経営資源の活用と雇用の安定
大手企業の傘下に入ることで、仕入れ条件の改善やシステム投資の支援などを受けられる。
従業員の雇用を継続でき、処遇の改善も期待できる。 - 経営者個人のメリット
株式売却により創業者利潤を確保できる。
経営責任や個人で負っていた債務保証から解放され、個人リスクを軽減できる。
買い手企業のデメリット・リスク
- 顧客離れ・ブランド価値の毀損
地域密着型の店舗の場合、買収後の運営方針の変更などにより、既存顧客が離反するリスクがある。 - 従業員の離職
企業文化の違いから、薬剤師などの専門職が離職し、店舗運営に支障をきたす可能性がある。 - 財務リスク
立地の将来性や競合、規制環境の変化など不確定要素が多く、適正な買収価格の算定が困難な場合がある。
売り手企業のデメリット・リスク
- 従業員の処遇・雇用への影響
買い手企業の経営方針により、従業員の待遇が悪化したり、店舗統廃合で雇用が失われたりする可能性がある。 - 地域コミュニティとの関係性の変化
経営方針の変更により、長年築いてきた地域住民との関係が希薄化するリスクがある。 - 希望価格で売却できない可能性
業績の低迷や立地の問題などにより、市場環境によっては期待する価格で売却できない場合がある。
ドラッグストア業界のM&Aを成功させるポイント
M&A取引を成功に導くための重要な要素と実践的な手法について解説します。
戦略的適合性の評価
M&A成功の最重要要素は、買い手と売り手の戦略的適合性です。単純な規模拡大ではなく、シナジー効果を創出できる組み合わせを見極めることが重要です。
地理的な補完性、商品構成の相互補完、顧客層の違いによる市場拡大効果、物流効率化の可能性などを総合的に評価する必要があります。また、企業文化や経営方針の親和性も、統合後の円滑な運営において重要な要素となります。
調剤薬局機能の有無、処方箋応需体制、在宅医療対応能力なども重要な評価ポイントです。高齢化社会の進展により、これらの機能は今後ますます重要性を増すと予想されるためです。
デューデリジェンスの重要性
ドラッグストア業界のM&Aでは、特に以下の項目について詳細なデューデリジェンス(詳細調査)が必要です。
財務面では、店舗別の収益性分析、在庫回転率、売掛金の回収状況、設備投資の必要性などを詳細に検証します。また、調剤事業を行っている場合には、調剤報酬の回収状況や返戻率についても確認が必要です。
法務面では、薬事法等の関連法規の遵守状況、各種許認可の取得状況、労働関連法規の遵守状況を詳細に調査します。特に、薬剤師や登録販売者の配置基準の遵守状況は重要なチェックポイントです。
事業面では、立地の将来性、競合状況、顧客動向、仕入先との関係などを総合的に評価します。また、IT システムの状況、物流体制、人材の質と定着率なども重要な調査項目となります。
統合プロセスの設計
買収完了後の統合プロセスは、M&A成功の鍵を握る重要な段階です。ドラッグストア業界では、顧客との直接的な接点が多いため、統合による混乱を最小限に抑える工夫が必要です。
段階的統合アプローチにより、まず管理部門の統合から開始し、徐々に店舗運営の統合を進める手法が効果的です。この過程で、従業員や顧客への丁寧なコミュニケーションを継続し、不安や懸念を解消することが重要です。
システム統合については、POS システム、在庫管理システム、会計システムなどの段階的な移行計画を策定し、業務への影響を最小限に抑える配慮が必要です。また、統合効果の測定指標を事前に設定し、進捗を定期的にモニタリングする体制を構築することも重要です。
人材マネジメント
ドラッグストア事業では、薬剤師や登録販売者などの専門職の確保が事業継続の前提条件となります。M&A後の人材流出を防ぐため、処遇改善、キャリア開発機会の提供、職場環境の改善などの施策を実施する必要があります。
特に、地域密着型の企業では、長年にわたって地域に根ざした活動を行ってきた従業員が多いため、その価値を適切に評価し、新体制でも活躍できる環境を整備することが重要です。
管理職層については、統合後の組織における役割と責任を明確にし、モチベーション維持と能力発揮のための支援を行う必要があります。また、両社の優秀な人材を適材適所に配置し、組織全体の競争力向上を図ることも重要な課題です。
ドラッグストア業界のM&A事例
実際のM&A事例を通じて、業界再編の実態と成功要因を分析します。
大手による地域企業買収事例
ウエルシアホールディングスによる地域チェーンの買収は、ドラッグストア業界M&Aの代表的な成功事例です。同社は2020年以降、複数の地域密着型企業を買収し、全国展開を加速させています。
これらの買収では、既存の店舗ネットワークと地域での信頼関係を活かしつつ、ウエルシアの仕入れ力やシステム、ノウハウを導入することで、収益性の改善を実現しています。特に、調剤併設店舗の比率向上と、24時間営業店舗の展開により、競争優位性を強化しています。
買収後の統合プロセスでは、既存ブランドを一定期間維持した後、段階的にウエルシアブランドに統合する手法を採用し、顧客や従業員の混乱を最小限に抑えています。
地域企業同士の統合事例
中部地方を基盤とする中堅ドラッグストアチェーン同士の統合事例では、規模の経済効果と地域密着性の両立を実現しています。統合により、仕入れ力の向上、物流効率化、管理費の削減などの効果を得つつ、地域に根ざした店舗運営を継続しています。
この事例では、統合前から両社間で業務提携を進めており、企業文化の融合や業務プロセスの標準化を段階的に実施していました。そのため、正式な統合後も大きな混乱なく一体運営を実現できています。
また、調剤薬局との連携強化により、地域の医療機関との関係を深め、処方箋応需件数の増加と収益の安定化を図っています。
異業種からの参入事例
小売業他業種からのドラッグストア業界への参入も活発化しています。コンビニエンスストア大手による調剤薬局併設型ドラッグストアの買収事例では、既存のコンビニネットワークとの相乗効果を狙った戦略的買収が実施されています。
この事例では、ドラッグストア事業の専門性を維持しつつ、コンビニ事業で培った立地選定ノウハウや24時間運営のノウハウを活用し、新しいビジネスモデルの構築を進めています。
また、食品スーパー大手による地域ドラッグストアチェーンの買収では、ワンストップショッピングの実現と顧客利便性の向上を図る戦略が展開されています。
事業承継型M&A事例
家族経営の地域密着型ドラッグストアにおける事業承継型M&Aでは、経営者の高齢化と後継者不在の課題を解決する事例が増加しています。
ある事例では、創業50年の老舗ドラッグストアが地域の中堅チェーンに事業を譲渡し、創業者一族は経営から退きつつも、地域アドバイザーとして継続的に関与する形での承継が実現されています。
この事例では、従業員の雇用維持、既存顧客への継続的なサービス提供、地域コミュニティとの関係維持を重視した承継プロセスが実施され、関係者全体の満足度が高い結果となっています。
ドラッグストア業界のM&Aを成功させよう
ドラッグストア業界は、今後も人口構造の変化、医療制度改革、デジタル化の進展などの影響を受けながら、継続的な再編が予想されます。M&Aは、これらの環境変化に適応し、持続的な成長を実現するための重要な戦略手段として、その重要性をさらに増していくでしょう。
成功するM&Aのためには、短期的な規模拡大だけでなく、長期的な価値創造の視点が不可欠です。顧客ニーズの変化への対応、デジタル技術の活用、地域医療への貢献など、社会的価値の創造と企業価値の向上を両立する戦略的なM&Aが求められています。
また、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも、地域雇用の維持、高齢者支援、環境負荷軽減などの社会的責任を果たしながら、持続可能な事業成長を実現するM&A戦略の重要性が高まっています。業界全体として、これらの課題に対応した新たなビジネスモデルの構築と、それを支えるM&A戦略の進化が期待されています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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