• 作成日 : 2025年8月19日

アパレル業界のM&A動向は?メリットや最新事例を紹介

アパレル業界は、市場の成熟化や消費者ニーズの多様化、EC化の加速など、大きな変革の時期を迎えています。

このような経営環境の中で、事業の存続と成長を追求する有効な経営戦略として、M&A(企業の合併・買収)への関心が高まっています。この記事では、アパレル業界のM&Aについて、最新の動向やメリット、事例や成功のポイントまでを解説します。

アパレル業界におけるM&Aの現状

激しく変化する市場環境は、アパレル企業の経営戦略に大きな影響を与えています。その中で、M&Aは事業課題を解決し、新たな成長機会を創出する手段として注目されています。ここでは、現在のアパレル業界におけるM&Aの動向と、今後の展望について見ていきましょう。

市場環境の変化とM&Aの活発化

国内のアパレル市場は、人口減少や消費者の価値観の変化により、厳しい状況が続いています。EC普及とファストファッション市場拡大が、価格競争環境を強めている可能性があり、多くの企業が収益確保に苦慮しています。また、後継者不足に悩む中小企業も少なくありません。こうした課題を背景に、事業承継や経営基盤の強化、EC・DX化の推進などを目的としたM&Aが活発に行われています。

2025年最新のアパレルM&A動向

2025年現在のアパレルM&Aは、いくつかの明確な潮流に集約されます。一つは「DX・EC強化型」のM&Aです。大手アパレルが、若者層に強いD2Cブランドや、高度なデジタルマーケティング技術を持つ企業を買収し、自社のEC事業や顧客データ活用能力を補強する動きが顕著です。また、異業種からの参入も活発化しており、IT企業や商社がライフスタイル事業の一環としてアパレルブランドを獲得する事例も見られます。サステナビリティへの対応も大きな動機となっています。

今後の市場予測とM&Aの展望

今後、アパレル業界のM&Aはさらにその戦略性を増していくと予測されます。特に、個々のブランド力だけでなく、複数のブランドを束ねて管理・支援する「プラットフォーム型」のM&Aが増加するでしょう。これは、管理部門の効率化や物流の最適化を図り、グループ全体で競争力を高める狙いがあります。また、サプライチェーンの上流(素材開発)や下流(リユース、リペア)に関連する企業とのM&Aを通じて、サーキュラーエコノミーに対応する動きも本格化すると考えられます。

アパレル業界におけるM&Aの4大トレンド

現在のアパレルM&Aは、単なる規模の拡大や後継者問題の解決にとどまりません。企業の弱みを補い、新たな強みを獲得するための、極めて戦略的な意味合いを帯びています。ここでは、先ほどお話しした内容を元に市場を象徴する4つのM&Aトレンドをより詳しく見ていきましょう。

① 加速するDX・OMO化を目的としたM&A

現代のアパレルビジネスにおいて、デジタル技術の活用は避けて通れません。特に、ECサイトと実店舗の垣根をなくし、顧客体験を向上させるOMO(Online Merges with Offline)戦略が競争力の源泉となっています。

しかし、自社単独で高度なデジタル人材の確保やシステム開発を行うのは困難です。そこで、ECサイト運営やデジタルマーケティングに強みを持つ企業、あるいは特定の顧客データを持つD2Cブランドなどを買収し、DX化を加速させるM&Aが活発です。これにより、買収側は迅速にデジタル対応能力を獲得できます。

② サステナビリティ・SDGsへの対応とM&A

環境配慮や社会貢献に対する消費者の意識の高まりは、アパレル企業の経営に直接的な影響を与えています。製品の生産背景や素材の透明性を求める声は年々強まっており、サステナビリティへの対応は企業の存続に関わる課題です。

この流れを受け、リサイクル素材の開発技術を持つ企業や、トレーサビリティ(生産履歴の追跡)システムを構築しているテクノロジー企業、あるいはリユース・リペア事業を展開する企業などがM&Aの対象として注目されています。こうした買収は、企業のブランドイメージ向上にも直結します。

③ D2Cブランドの獲得とファンコミュニティの価値

特定の価値観や世界観を軸に、SNSなどを通じて顧客と直接つながり、熱心なファンコミュニティを形成するD2C(Direct to Consumer)ブランドの存在感が増しています。

大手企業にとって、こうしたD2Cブランドを買収することは、単に売上を加えるだけでなく、新しい顧客層へのリーチ、SNS運用のノウハウ獲得、そして何よりも熱量の高い顧客基盤を手に入れることを意味します。旧来のマスマーケティングでは届かなかった層へアプローチする手段として、D2CブランドのM&Aは今後も続くと見られます。

④ 事業承継問題とプラットフォーム型M&Aの台頭

多くの中小アパレル企業が直面する後継者不足は、依然として深刻な課題です。こうした企業の受け皿として、M&Aは有効な解決策であり続けます。

近年では、単にブランドを買収するだけでなく、買収したブランドに対し、大手企業が持つ生産、物流、販売、システムといった経営基盤(プラットフォーム)を提供し、ブランドの再生や成長を支援する「プラットフォーム型M&A」が主流になりつつあります。これにより、売り手側はブランドの存続、買い手側はポートフォリオの拡充という双方の利点が一致します。

アパレルM&Aのメリット【売却側・買収側】

M&Aは、企業の売却側と買収側の双方に大きなメリットをもたらす可能性があります。それぞれの立場から、アパレル業界のM&Aで得られる具体的な利点について解説します。自社の状況と照らし合わせながら、M&Aがどのような価値を生み出すかを確認しましょう。

【売却側】後継者問題の解決と事業承継

多くの中小アパレル企業にとって、後継者の不在は深刻な経営課題です。丹精込めて育て上げたブランドや事業も、後継者がいなければ廃業を選択せざるを得ません。M&Aは、こうした状況を打開する有力な選択肢となります。信頼できる第三者に事業を譲渡することで、ブランドを存続させ、従業員の雇用を守りながら、円滑な事業承継を実現できます。

【売却側】ブランドの存続と成長

自社単独での成長に限界を感じている場合、大手企業の傘下に入ることで、ブランドをさらに大きく飛躍させられる可能性があります。買収側が持つ豊富な経営資源(資金力、販売網、マーケティング能力など)を活用することで、これまで難しかった大規模な広告展開や海外進出、ECサイトへの大型投資などが可能になり、ブランドの価値を一層高めることにつながります。

【売却側】創業者利益の確保

企業のオーナー経営者は、M&Aによって株式を現金化し、創業者利益を確保できます。これにより、リタイア後の生活資金を確保したり、新たな事業を始めるための元手にしたりと、個人の資産形成に大きく貢献します。また、個人保証を解消できるケースも多く、経営者は長年の重圧から解放されるという精神的なメリットも得られます。

【買収側】事業規模の拡大とスケールメリット

買収側にとって、M&Aは事業規模を迅速に拡大させるための効果的な手段です。一からブランドを立ち上げ、店舗網を広げるには長い時間と多大なコストがかかります。しかし、既存の事業を買収すれば、短期間で売上や市場シェアを拡大できます。また、生産量や仕入れ量の増加によるコスト削減など、スケールメリットを享受できる点も大きな利点です。

【買収側】新規市場への参入とブランド獲得

自社がこれまでリーチできていなかった顧客層や価格帯、地域へ参入する際にも、M&Aは有効です。特定のターゲット層から強い支持を得ているブランドや、独自の販売チャネルを持つ企業を買収することで、新規市場へスムーズに参入できます。これにより、事業の多角化を図り、経営リスクを分散させる効果も期待できます。

【買収側】DX・サプライチェーンの強化

今日のアパレル業界では、ECサイトの運営能力や、効率的なサプライチェーンの構築が競争力の源泉となります。デジタルマーケティングに強みを持つ企業や、独自の生産管理システムを構築している企業を買収することで、自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)やサプライチェーン改革を加速させられます。これは、変化の速い市場に対応していく上で非常に効果的な戦略です。

アパレルM&Aを成功させるポイント

アパレル業界のM&Aを成功させるためには、戦略的なアプローチが欠かせません。目的を明確に描き、適切な手順を踏むことで、リスクを最小限に抑え、M&Aの効果を最大限に引き出すことができます。

M&Aの目的を明確にする

まず、「なぜM&Aを行うのか」という目的を明確にすることが全ての出発点となります。後継者問題の解決、事業の拡大、新規市場への参入など、目的によって最適な相手や手法は異なります。

目的が曖昧なまま進めてしまうと、交渉の軸がぶれたり、M&A成立後に期待した効果が得られなかったりする原因になります。自社の現状と将来像を見据え、M&Aによって何を達成したいのかを具体的に定義しましょう。

適切なタイミングの見極め

M&Aはタイミングも非常に大切です。自社の業績が好調な時期は、より良い条件で交渉を進めやすくなります。

逆に、業績が悪化してから慌てて売却しようとすると、買い手が見つかりにくくなったり、不利な条件をのまざるを得なくなったりする可能性が高まります。将来的な市場の変化や自社の経営状況を予測し、戦略的に最適なタイミングを検討することが望まれます。

専門家(M&A仲介会社など)の活用

M&Aには、法務、財務、税務といった高度な専門知識が不可欠です。また、交渉相手を探し、複雑な手続きを円滑に進めるには、豊富な経験とネットワークがものを言います。

アパレル業界に精通したM&A仲介会社やアドバイザーなどの専門家を活用することで、自社に最適な相手を見つけやすくなるだけでなく、交渉を有利に進め、潜在的なリスクを回避することにもつながります。

デューデリジェンス(買収監査)の徹底

デューデリジェンスは、買収対象企業の価値やリスクを詳細に調査する手続きであり、M&Aの成否を左右する極めて大切な工程です。

財務や法務、事業内容などを多角的に調査し、事前に開示された情報に誤りがないか、隠れたリスクがないかなどを徹底的に洗い出します。アパレル業界では、ブランド価値の毀損リスクや在庫の評価、店舗の賃貸借契約などが特に注意すべき調査項目となります。

アパレルM&Aの企業価値評価(バリュエーション)

M&Aにおいて、譲渡価格の算定基礎となる企業価値評価(バリュエーション)は、交渉の根幹をなすものです。特にアパレル業界では、ブランド価値や在庫といった特有の要素をどう評価するかが論点となります。

評価方法の種類(DCF法、純資産法など)

企業価値を評価する方法は複数あり、通常はいくつかの手法を組み合わせて総合的に判断します。

  • インカムアプローチ(DCF法など): 会社が将来生み出すキャッシュ・フローに着目する方法。成長性が高い企業の評価に適しています。
  • マーケットアプローチ(類似会社比較法など): 上場している同業他社や、類似のM&A事例を参考に評価する方法。客観性が高いとされます。
  • コストアプローチ(純資産法など): 会社の純資産(資産から負債を引いた額)を基準に評価する方法。企業の清算価値に近い考え方です。

ブランド価値や在庫の評価方法

アパレル企業の場合、帳簿に現れない「ブランド価値」が企業価値に大きく影響します。ブランドの知名度、顧客ロイヤルティ、デザインの独自性などが評価の対象となり、これは将来の収益力を示す「のれん(営業権)」として譲渡価格に上乗せされることがあります。 一方、在庫は評価が難しい資産です。シーズン性やトレンドの動向によって価値が大きく変動するため、帳簿価額通りではなく、実態に合わせた時価評価が行われるのが一般的です。

アパレルM&Aの事例

M&Aの具体的なイメージを掴むために、実際に行われた事例を見てみましょう。

オンワードHDによる「WEGO(ウィゴー)」の完全子会社化

2024年8月、大手アパレル企業のオンワードホールディングス(以下、オンワードHD)は、若者向けアパレルブランド「WEGO」を運営する株式会社ウィゴーの株式を追加取得し、完全子会社化しました。オンワードHDは2023年にウィゴーと資本業務提携を行いましたが、今回の完全子会社化により、グループ内での連携を一層強化し、経営資源を集中投下する方針を明確にしました。

このM&Aの最大の目的は、オンワードHDにとって手薄であったZ世代を中心とする若年層顧客の獲得です。ウィゴーが持つ若者への強い影響力と、トレンドを迅速に商品化する企画力、SNSを活用したマーケティング手法は、長い歴史を持つオンワードHDにとって大きな魅力です。一方、ウィゴーはオンワードHDの持つ強固な生産基盤や資金力を活用することで、事業の安定化とさらなる成長を目指します。

ワールドによるナルミヤ・インターナショナルの買収

2022年、総合アパレル大手の株式会社ワールドは、「メゾピアノ」や「プティマイン」などの人気ブランドを持つ子供服大手の株式会社ナルミヤ・インターナショナルに対し、TOB(株式公開買付け)を実施して連結子会社化しました。ワールドはもともとナルミヤの筆頭株主でしたが、このTOBによって経営への関与を一層強めることになりました。

このM&Aの核心は、ワールドが推進する「プラットフォーム戦略」にあります。これは、ワールドが長年培ってきた生産、物流、販売、システム開発、人材育成といった事業基盤(プラットフォーム)を、グループ内外のブランドに提供し、その利用料や成果を収益源とするビジネスモデルです。ワールドは、ナルミヤの強力なブランド力と顧客基盤は維持しつつ、自社のプラットフォームを提供することでナルミヤの経営効率を高め、事業価値を向上させることを狙っています。これにより、ナルミヤの成長がワールドのプラットフォーム事業の収益拡大に直結する仕組みです。

アパレル業界での戦略的選択肢としてM&Aを検討しよう

アパレル業界は、消費者ニーズの多様化やグローバル化、サステナビリティへの対応など、多くの課題と機会が混在する変革期にあります。このような状況下で、M&Aは後継者問題の解決、事業の飛躍的な成長、経営基盤の強化などを実現するための極めて有効な経営戦略です。

売却を検討する側にとっては事業承継とブランドの永続を、買収を検討する側にとっては成長スピードの加速と事業領域の拡大を可能にします。M&Aを成功させるためには、その目的を明確にし、業界に精通した専門家とともに、適切なタイミングで戦略的に進めることが不可欠です。本記事の内容が、皆様の経営上のご判断において参考となれば幸いです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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