- 更新日 : 2025年6月13日
レーマン方式とは?M&A成功報酬の計算方法や種類を解説
M&A(企業の合併・買収)は、企業の成長戦略を実現するための重要な手段ですが、そのプロセスは複雑で専門的な知識を要します。多くの場合、M&Aの専門家である仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)に業務を依頼することになります。その際、避けて通れないのが「報酬」の問題です。
この記事では、M&Aの成功報酬として広く採用されている「レーマン方式」について、その計算方法や種類、メリット・注意点などを詳しく解説します。
目次
レーマン方式とは?
レーマン方式とは、M&Aの取引金額に応じて、あらかじめ定められた料率を掛けて成功報酬を算出する計算方法です。特徴的なのは、取引金額が大きくなるほど、適用される料率が段階的に低くなっていく「逓減(ていげん)料率」が採用されている点です。
この成果配分方式は、ドイツの経営学者レーマン博士の学説を応用して考案されたものとされています。 日本のM&A市場において、特に中小規模のディールで広く採用されている成功報酬のスタンダードと言えます。
M&Aにおける報酬体系
そもそもM&A仲介会社やFAに支払う報酬は、一般的に以下のような要素で構成されます。
- 相談料:正式な依頼前の相談にかかる費用(無料の場合も多いです)。
- 着手金:M&Aの業務に本格的に着手する際に支払う費用。M&Aが成立しなくても返金されないのが一般的です。
- 中間金:M&Aのプロセスが特定の段階(例:基本合意締結時)に進んだ際に支払う費用。
- 成功報酬:M&Aが最終的に成立した場合に支払う費用。
これらのうち、特に金額が大きくなりやすいのが「成功報酬」です。そして、この成功報酬の計算方法として、日本で広く用いられているのが「レーマン方式」なのです。他にも、時間に応じて費用が発生する「時間報酬方式(タイムチャージ)」や、あらかじめ決められた金額を支払う「固定報酬方式」などがありますが、M&Aにおいては、ディールの成功と報酬が連動する成功報酬型、特にレーマン方式が主流となっています。
レーマン方式が広く使われる理由
レーマン方式が多くのM&Aで採用される背景には、いくつかの理由があります。まず、M&Aが成功した場合にのみ報酬が発生するため、依頼主である企業にとっては、成果に基づいた合理的な報酬体系と受け止められやすい点です。また、仲介会社やFAにとっても、ディールを成功に導くインセンティブが働きやすいという側面があります。さらに、計算方法が標準化されているため、報酬額の目安を立てやすいことも理由の一つと言えるでしょう。
レーマン方式の報酬基準額
ここでは、レーマン方式の報酬の基準となる金額の種類や料率の仕組みを詳しく見ていきましょう。
レーマン方式で成功報酬を計算する際、まず重要になるのが「何をもって取引金額とするか」という点です。これを報酬基準額と呼びます。主に以下の4つの基準が使われます。どの基準を採用するかによって、最終的な報酬額が大きく変わる可能性があるため、契約前に必ず確認が必要です。
株価(譲渡対価)基準
これは、譲渡対象となる企業の株式の価値を基準とする考え方です。買い手が株主に支払う対価そのものが基準となるため、シンプルで分かりやすいのが特徴です。計算式としては、「株価 × 発行済株式数」となります。
企業価値基準
企業価値(EV)を基準とする方法です。これは、株式価値に純有利子負債(有利子負債から現預金を差し引いたもの)を加えた金額を基準とします。つまり、株主だけでなく、債権者(銀行など)への返済も含めた、企業全体の価値を評価する考え方です。買い手が実質的に負担する総額に近い金額となります。
オーナー受取額基準
これは、売り手企業のオーナー(株主)が最終的に手にする金額を基準とする考え方です。株式価値から、オーナー経営者への退職慰労金などを加味して計算されることがあります。売り手側のFAが採用するケースが見られます。
移動総資産基準
譲渡対象企業の総資産の額を基準とする考え方です。これは、会社の規模を示す指標の一つですが、負債の多寡が考慮されないため、他の基準と比べて報酬額が高くなる傾向があります。
【報酬基準額の比較】
基準の種類 | 計算のベース | 特徴 |
---|---|---|
株価(譲渡対価)基準 | 譲渡される株式の価値 | シンプルで分かりやすい。株主への対価が基準。 |
企業価値基準 | 株式価値 + 純有利子負債 | 買い手が実質的に負担する総額に近い。負債も考慮される。 |
オーナー受取額基準 | 株式価値 ± オーナー関連の調整額 | 売り手オーナーの手取り額に近い。売り手FAが採用することがある。 |
移動総資産基準 | 譲渡対象企業の総資産 | 会社の規模を示すが、負債が考慮されず、報酬額が高くなる傾向がある。 |
どの基準を採用するかは、M&A仲介会社やFAの方針、あるいは当事者間の交渉によって決定されます。契約時には、どの基準で計算されるのかを明確にしておくことが非常に重要です。
レーマン方式の計算方法
レーマン方式の最大の特徴は、報酬基準額に対して段階的に異なる料率を適用する点です。一般的に、以下のような料率テーブルが用いられます。(これはあくまで標準的な例であり、仲介会社やFAによって異なる場合があります。)
【レーマン方式 料率テーブル(例)】
報酬基準額の区分 | 報酬料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
50億円超~100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
このように、報酬基準額全体に単一の料率を掛けるのではなく、金額の「区分」ごとに料率を適用し、それらを合計して最終的な成功報酬額を算出します。
レーマン方式の計算式
それでは、上記の料率テーブルを使って、具体的な計算例を見てみましょう。
【例:報酬基準額が30億円の場合】
- 5億円以下の部分:5億円 × 5% = 2,500万円
- 5億円超~10億円以下の部分:(10億円 – 5億円) × 4% = 5億円 × 4% = 2,000万円
- 10億円超~30億円以下の部分:(30億円 – 10億円) × 3% = 20億円 × 3% = 6,000万円
- 成功報酬額の合計:2,500万円 + 2,000万円 + 6,000万円 = 1億500万円
このように、報酬基準額を各区分に分解し、それぞれの料率を適用して合計することで、成功報酬額が計算されます。もし報酬基準額が7億円であれば、(5億円 × 5%) + ( (7億円 – 5億円) × 4%) = 2,500万円 + 800万円 = 3,300万円 となります。
レーマン方式のメリットと注意点
次に、レーマン方式を採用することの利点と注意点について解説します。
レーマン方式のメリット
レーマン方式が広く採用されているのには、依頼主とM&A専門家の双方にとってメリットがあるからです。
まず、依頼主にとっては、M&Aが成功しなければ原則として高額な成功報酬を支払う必要がないという点が挙げられます。これは、特にM&Aの成否が不確実な状況においては、リスクを抑える上で大きな安心材料となります。
次に、報酬体系が比較的明確であることもメリットです。料率テーブルが標準化されていることが多いため、取引金額の見込みがある程度立てば、報酬額の概算を把握しやすくなります。これにより、予算計画も立てやすくなるでしょう。
さらに、成功報酬型であるため、M&A仲介会社やFAのモチベーションを高める効果も期待できます。取引金額が大きいほど報酬も増える仕組みなので、より良い条件でのM&A成立に向けて、積極的に動いてもらいやすいと考えられます。
レーマン方式の注意点
メリットがある一方で、レーマン方式を採用する際にはいくつか注意すべき点もあります。この章では、契約前や交渉時に気をつけるべきポイントを解説します。
最低報酬額の設定
レーマン方式を採用している場合でも、「最低報酬額(ミニマムチャージ)」が設定されているケースがほとんどです。これは、M&Aの取引金額が比較的小さい場合でも、M&A仲介会社やFAが業務に見合った一定の報酬を確保するために設けられています。
例えば、「レーマン方式で計算した報酬額が1,000万円に満たない場合は、1,000万円を成功報酬とする」といった具合です。この最低報酬額は、仲介会社やFAによって数百万円から数千万円まで幅があります。特に比較的小規模なM&Aを検討している場合は、最低報酬額がいくらに設定されているかを必ず確認しましょう。契約によっては、想定していたよりも報酬負担が重くなる可能性があります。
報酬基準額の交渉
前述の通り、レーマン方式の計算の基礎となる「報酬基準額」にはいくつかの種類があります。株式価値基準なのか、企業価値基準なのか、あるいは移動総資産基準なのかによって、算出される報酬額は大きく変動します。
契約を締結する際には、どの基準を採用するのかを明確に定め、その定義についても双方で認識を合わせておくことが極めて重要です。もし可能であれば、自社にとって不利にならない基準を採用できるよう、交渉を試みることも検討しましょう。例えば、負債が多い企業であれば、株式価値基準の方が企業価値基準よりも報酬額を抑えられる可能性があります。
M&A仲介会社選びのポイント
レーマン方式の料率テーブルや最低報酬額は、仲介会社やFAによって異なります。複数の候補を比較検討する際には、単に料率の%だけを見るのではなく、以下の点を総合的に評価することが大切です。
- 報酬基準額の定義:何を基準に計算するのか?
- 料率テーブル:各区分の料率は妥当か?
- 最低報酬額:いくらに設定されているか?
- その他の費用:着手金や中間金の有無、金額は?
- サービス内容:報酬に見合った質の高いサービスを提供してくれるか?
- 実績と専門性:自社の業界や規模のM&A実績が豊富か?
報酬体系の透明性が高く、丁寧な説明をしてくれる会社を選ぶことが、後のトラブルを防ぐ上で重要になります。
その他の報酬体系
M&Aの報酬体系はレーマン方式だけではありません。この章では、その他の代表的な報酬体系について簡単に触れておきます。
時間報酬方式(タイムチャージ)
弁護士やコンサルタントのように、専門家が稼働した時間に基づいて報酬を計算する方式です。1時間あたりの単価(タイムチャージレート)があらかじめ決められており、作業時間に応じて費用が発生します。
固定報酬方式
M&Aの成否や取引金額に関わらず、あらかじめ決められた一定額の報酬を支払う方式です。プロジェクトの開始前や特定のフェーズごとに支払われることがあります。
成功報酬方式(レーマン方式以外)
レーマン方式も成功報酬の一種ですが、それ以外にも、取引金額に関わらず一定額の成功報酬を設定するケースや、特定の目標達成度に応じて報酬額を変動させるような、よりカスタマイズされた成功報酬体系を採用する場合もあります。
【報酬体系の比較】
報酬体系 | 報酬の決まり方 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
レーマン方式 | 取引金額に応じた逓減料率(成功報酬) | 成果連動型、報酬の目安がつきやすい | 最低報酬額、基準額の確認が必要 |
時間報酬方式 | 稼働時間 × 時間単価 | 作業内容が明確 | 長期化で高額化、M&A不成立でも費用発生 |
固定報酬方式 | あらかじめ決められた一定額 | 予算管理がしやすい | M&A不成立でも費用発生、仲介会社にインセンティブが働きにくい |
その他成功報酬 | 定額成功報酬、目標達成度連動など | 柔軟な設計が可能 | 交渉や契約内容の明確化がより重要 |
どの報酬体系が最適かは、M&Aの規模や内容、依頼する業務範囲、そして依頼主のリスク許容度などによって異なります。
レーマン方式を理解し、適切な成功報酬を計算しよう
この記事では、M&Aの成功報酬体系として広く用いられている「レーマン方式」について、その仕組みや計算方法、メリット・注意点を中心に解説しました。
レーマン方式は、成果連動型で報酬の目安がつきやすいというメリットがある一方で、報酬基準額の種類や最低報酬額の設定など、契約前にしっかりと確認・理解しておくべき重要なポイントがいくつかあります。
この記事が、M&Aにおける報酬体系、特にレーマン方式への理解を深め、貴社のM&A戦略の一助となれば幸いです。不明な点や疑問点があれば、遠慮なくM&Aの専門家に相談するようにしてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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