• 作成日 : 2025年6月13日

リテイナーとは?M&Aにおけるリテイナー契約とリテイナーフィーについて解説

企業の成長戦略において重要なM&A(合併・買収)。そのプロセスにおいて頻繁に登場する「リテイナー」という言葉をご存知でしょうか?この記事では、M&Aにおけるリテイナー契約やリテイナーフィーについて、その意味や仕組み、メリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。

リテイナーとは?

リテイナー(retainer)とは、一般的に、弁護士やコンサルタントなどの専門家に対して、一定期間継続的に業務を依頼するために支払われる前払いの報酬、または予約金のような性質を持つ費用のことを指します。

これにより、依頼者は専門家の時間と専門知識を一定期間確保することができます。リテイナー契約を結ぶことで、依頼者は必要な時にいつでも専門家のサポートを受けることが可能になり、専門家側は安定した収入を確保できるというメリットがあります。

M&Aにおけるリテイナー契約

リテイナー契約はM&A業界に限らず、様々な分野で活用されています。専門的な知識や継続的なサポートが必要とされる業界では一般的な契約形態と言えるでしょう。

M&Aにおけるリテイナー契約は、企業がM&Aアドバイザリー会社や仲介会社に対して、M&Aの実現に向けた継続的な支援を依頼する際に締結されます。具体的には、譲渡(売却)または譲受(買収)を検討する企業が、アドバイザーに対して月額の顧問料を支払うことで、M&Aに関する様々な業務のサポートを受ける契約です。

リテイナー契約の内容

リテイナー契約の内容としては、まず、対象となる企業の現状分析と調査に基づいてM&Aの計画を立案することから始まります。次に、具体的な候補となる企業を調査し、探索する段階へと進みます。そして、候補先が見つかった場合には、実際に訪問し、面談や交渉を行うといった業務が含まれます。これらの業務は、M&Aが成立するまで数ヶ月から数年の期間を要することが一般的であり、その期間中、依頼者はアドバイザーの専門知識と経験を活用しながらM&Aを進めていくことになります。

リテイナーフィーとは?

また、リテイナー契約に基づいて、依頼者が専門家に対して定期的に支払う報酬のことをリテイナーフィー(retainer fee)といいます。M&Aにおいては、M&Aアドバイザリー会社や仲介会社に支払う月額報酬(定額顧問料)として理解されます。リテイナーフィーは、M&Aの案件紹介や交渉にかかる実務的な経費と、仲介業者に支払う手数料から構成されていると考えられます。

リテイナーフィーを支払うことで、依頼者はM&Aのプロセスにおいて、継続的にM&A候補のリストを受け取れることや、交渉が完了するまで手厚いサポートを受けることができます2。一方、M&A仲介業者にとっては、毎月固定で報酬が得られるため、安定した事業運営につながります。

リテイナーフィーの支払い方法

M&Aにおけるリテイナーフィーの支払い方法は、一般的に月額固定金額が採用されています。これは、M&Aのプロセスが長期にわたることが多いため、一定期間ごとに固定の報酬を支払う形式が適していると考えられます。ただし、仲介会社によっては、着手金の一部としてリテイナーフィーを設定しているケースや、「着手金+月額報酬」という料金体系を採用している場合もあります。時間単位での料金設定は、M&Aアドバイザリーにおいては一般的ではありません。

月額固定制であるため、M&Aの交渉期間が長引くほど、依頼者が支払うリテイナーフィーの総額は増加する仕組みとなっています。一方で、交渉がスムーズに完了すれば、比較的少額の支払いで済む可能性もあります。

リテイナーフィーの相場と料金体系

M&Aにおけるリテイナーフィーの相場は、案件の難易度や担当するアドバイザーの経験、M&A会社の規模などによって大きく変動するため、明確な基準はありません。一般的には、月額数十万円から数百万円程度が目安とされています。

料金体系としては、月額固定の他に、6ヶ月間や1年間といった最低契約期間が設定されている場合が多く、その場合は「月額報酬×契約期間」がリテイナーフィーの総額となります。ただし、近年では、リテイナーフィーを必要とせず、M&Aの成約時に発生する成功報酬のみを請求するM&A会社も増えています。また、リテイナーフィーと成功報酬に加えて、基本合意締結時などの中間段階で報酬が発生する料金体系を採用している会社もあります。

リテイナーフィーと成功報酬の違い

リテイナーフィーと成功報酬は、M&Aアドバイザーへの報酬体系における主要な要素ですが、その性質は大きく異なります。リテイナーフィーは、M&Aの成否にかかわらず、一定期間にわたって継続的な業務提供に対して支払われる定額の顧問報酬です。これに対して、成功報酬は、M&Aが実際に成立した(最終契約が締結された)場合にのみ、その対価として支払われる報酬です。

リテイナーフィーは、M&Aの初期段階からアドバイザーに継続的なサポートを依頼するための費用であり、アドバイザーにとっては安定した収入源となります。一方、成功報酬は、M&Aの最終的な成功に対するインセンティブとして機能します。

M&Aにおけるリテイナー契約のメリット・デメリット

リテイナー契約には様々なメリット・デメリットがあります。ここでは、依頼者側、受託者側にわけてメリット・デメリットを解説します。

依頼者側のメリット

M&Aにおいてリテイナー契約を締結することには、依頼者側にとっていくつかのメリットがあります。まず、M&Aの全プロセスを通じて、アドバイザーから継続的かつ専門的なサポートを受けることができます。これにより、M&Aに関する知識や経験が不足している企業でも、安心してプロセスを進めることが可能になります。

また、リテイナー契約を結んでいる依頼者は、アドバイザーから優先的に対応してもらえることが多いという点もメリットです。必要な時にすぐに相談したり、問題を解決したりすることが可能になります。さらに、月額報酬を支払っているため、M&A候補先の選定や交渉に納得いくまで時間をかけてもらえる傾向があります。リテイナーフィーを設定しているM&A会社では、成功報酬の料率が低くなる可能性も指摘されています。専門性の高い人材が業務を行うため、効率良く成果を手にいれることができる点もメリットとして挙げられます。

依頼者側のデメリット

一方で、リテイナー契約には依頼者側にとってのデメリットも存在します。最も大きな点は、M&Aの成否に関わらず、一定期間にわたって費用が発生するため、M&Aが長期化した場合や、最終的に成約に至らなかった場合でも、高額な費用を支払うことになる可能性があることです。また、多くのリテイナー契約には最低契約期間が設定されているため、たとえM&Aの進捗が思わしくなくても、契約期間中は費用を支払い続けなければならない場合があります。

さらに、M&Aの成立までの期間が不確実なため、最終的にどの程度の費用がかかるか見通しを立てにくいというデメリットもあります。リテイナーフィーを支払い続けているという心理から、必ずしも自社にとって最適ではないM&Aであっても、実施に向けて強引に進めてしまう可能性(コンコルド効果)も指摘されています。そして、最も重要な点として、リテイナーフィーは一度支払うと、M&Aが成功しなかった場合でも返金されないことが一般的です。

受託者側のメリット

M&Aアドバイザリー会社や仲介会社といった受託者側にとって、リテイナー契約は安定した収入を確保できるという大きなメリットがあります。毎月一定の報酬が得られるため、事業計画を立てやすく、長期的な視点で顧客との関係を構築することができます。また、初期段階から一定の報酬を得られることで、M&Aの実現に向けて必要なリソースを積極的に投入しやすくなります。

受託者側のデメリット

一方で、受託者側にもデメリットは存在します。継続的な報酬を得ている分、依頼者からの期待も高く、M&Aの成功に向けて大きな責任を負うことになります。依頼者の期待に応えられない場合、契約の解除や評判の低下につながる可能性があります。また、リテイナー契約を結んでいるクライアントに対しては、継続的に情報提供やサポートを行う必要があり、一定の労力と時間を割くことが求められます。さらに、依頼者側が納得のいくM&A候補先が見つかるまで、あるいは交渉が妥結するまで、長期にわたってサポートを継続する必要がある場合もあります。

リテイナー契約を結ぶ際の注意点

リテイナー契約には、M&Aに関する専門的な内容を理解し、入念な下準備をしなければなりません。そのために必要な、リテイナー契約を結ぶ際の注意点について解説します。

契約内容の明確化

リテイナー契約を締結する際には、契約内容を隅々まで明確にすることが非常に重要です。具体的には、提供される業務の範囲(どこまでの業務をリテイナーフィーでカバーするのか)、契約期間、リテイナーフィーの金額とその支払いスケジュール、成功報酬の条件、契約解除の条件などを明確に定める必要があります。

特に、見積もり時と異なる範囲外の作業が発生した場合の追加費用や、いわゆる「スコープクリープ」と呼ばれる事態を防ぐために、業務範囲を詳細に定義しておくことが重要です。不明確な契約内容は、後々のトラブルの原因となりかねません。

相手方の実績や専門性の確認

契約を結ぶ前に、M&Aアドバイザリー会社や担当者の実績、専門性、得意とする業界や案件規模などを十分に確認することが不可欠です。過去のM&A成功事例や顧客からの評判などを参考に、自社のニーズに合ったアドバイザーを選ぶことが、M&A成功の鍵となります。実績の少ないアドバイザーの場合、リテイナーフィーや成功報酬が相場よりも高い傾向があるという指摘もあります。

契約後のコミュニケーション方法

契約締結後のコミュニケーション方法についても、事前に明確にしておくことが望ましいです。定期的な進捗報告の頻度や方法、担当者との連絡手段、意思決定のプロセスなどを共有しておくことで、スムーズな連携が可能になります。

契約前に確認すべき事項

リテイナー契約を結ぶ前に、以下の事項を必ず確認しましょう。

  • リテイナーフィーに含まれる具体的なサービス内容
  • 最低契約期間の有無とその期間
  • 契約期間中の解約条件と違約金の有無
  • 成功報酬の算定基準と支払い時期
  • 潜在的な利益相反の可能性
  • 担当チームの構成と各メンバーの資格・経験
  • 進捗状況の報告頻度と方法
  • 意見の相違や契約内容の変更が生じた場合の対応プロセス
  • リテイナーフィー以外の費用(交通費、出張費など)の有無と扱い
  • 総費用(リテイナーフィーと成功報酬の合計)の概算

リテイナー契約が向いているケース・向いていないケース

リテイナー契約に興味がある、または結ぼうとしている方は、実際にこの契約に向いているのか、自身の状況をふまえて確認してみましょう。

向いているケース

M&Aにおけるリテイナー契約は、以下のようなケースに向いていると言えます。

  • 長期的なM&Aプロセスが見込まれる場合:複数の候補先を時間をかけて検討したい場合や、複雑な交渉が必要となるM&A案件など、長期にわたる継続的なサポートが必要な場合に適しています。
  • アドバイザーとの長期的な関係構築を重視する場合:一度きりの取引ではなく、今後も継続的にM&Aを検討する可能性がある場合や、アドバイザーとの信頼関係をじっくりと築きたい場合に有効です。
  • 高度な専門知識や経験が必要な場合:特定の業界や特殊なM&Aスキームに関する深い知識や経験を持つアドバイザーに、初期段階から継続的に関与してほしい場合に適しています。
  • M&A戦略の策定から実行まで一貫したサポートを希望する場合:初期段階からアドバイザーに深く関与してもらい、戦略立案から交渉、クロージングまで一貫したサポートを受けたい場合に有効です。
  • 十分な予算があり、質の高いサポートを重視する場合:リテイナーフィーは一般的に高額になる傾向がありますが、その分、手厚いサポートが期待できるため、費用よりも質の高さを重視する企業に適しています。

向いていないケース

一方、以下のようなケースでは、リテイナー契約は必ずしも最適とは言えません。

  • 単発のM&A案件を迅速に進めたい場合:特定の買収・売却案件が既に明確になっており、短期間での成約を目指す場合には、成功報酬型の契約の方が適している可能性があります。
  • M&Aにかかる費用をできるだけ抑えたい場合:リテイナーフィーは固定費となるため、M&Aが長期化すると費用がかさむ可能性があります。費用を重視する場合には、成功報酬のみの料金体系を採用しているアドバイザーを検討する方が良いでしょう。
  • 自社にM&Aに関する十分な知識や経験がある場合:アドバイザーのサポートを限定的にしか必要としない場合には、必要な時だけスポットで依頼する方がコスト効率が良い場合があります。
  • M&Aの具体的な計画がまだ定まっていない場合:具体的なM&Aの方向性や目標が定まっていない段階でリテイナー契約を結ぶと、期待した成果が得られない可能性があります。まずはアドバイザーに相談し、戦略を明確化してから契約形態を検討する方が賢明です。

リテイナーはM&Aを成功させるために重要な契約のひとつ

この記事では、M&Aにおけるリテイナー契約について解説してきました。リテイナー契約は、M&Aを成功に導くための重要な契約形態の一つであり、依頼者と受託者の双方にとってメリットとデメリットが存在します。

リテイナー契約を締結する際には、契約内容を明確にし、相手方の実績や専門性を十分に確認することが不可欠です。また、自社のM&Aの目的や状況に合わせて、リテイナー契約が本当に適しているのかどうかを慎重に検討する必要があります。

近年、M&A市場は活況を呈しており、M&Aアドバイザーの報酬体系も多様化しています。リテイナーフィーだけでなく、成功報酬型や中間報酬型など、様々な料金体系が存在するため、複数のアドバイザーを比較検討し、自社にとって最適な契約形態とアドバイザーを選ぶことが、M&Aの成功に向けた重要な一歩となるでしょう。


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