- 作成日 : 2025年6月13日
IRR(内部収益率)とは?計算方法やNPVとの違いを解説
M&Aや新規事業への投資。企業の未来を左右する重要な意思決定ですよね。その際、「この投資、本当にリターンが見込めるのかな?」「複数の選択肢があるけど、どれが一番効率的なんだろう?」と悩むことはありませんか?そんなときに役立つ判断材料の一つが、今回ご紹介するIRR(内部収益率)です。
この記事では、IRRとは何か、その基本的な考え方から、具体的な計算方法、メリット・デメリット、そしてM&Aなどの実務でどのように活用できるのかを、分かりやすく解説していきます。
目次
IRR(内部収益率)とは?
IRR(内部収益率)とは、簡単に言うと、「投資したお金が、将来どれくらいの利回りで増えていくか」を示す指標です。もう少し詳しく説明すると、「投資によって将来得られるキャッシュ・フローの現在価値」と「初期投資額」がちょうど等しくなるような割引率(利回り)のことを指します。
言い換えると、IRRは「その投資プロジェクトの期待利回り」そのものを示す数値、とイメージすると分かりやすいかもしれません。このIRRが高ければ高いほど、収益性の高い投資案件であると評価できます。
IRRが重要な理由
では、なぜIRRが投資判断において重要なのでしょうか?それは、IRRが投資の「効率性」を測るものさしになるからです。
例えば、手元に1,000万円の資金があり、投資期間5年の案件Aと案件Bがあるとします。両方とも最終的に1,500万円のリターンが見込めるとしたら、どちらを選びますか?リターンの総額は同じですが、お金が増えていくスピード、つまり「効率」が異なる可能性があります。IRRを計算することで、どちらの案件がより効率的に資金を増やせるのかをパーセンテージで比較検討できるのです。これは、限られた経営資源をどの投資に向けるべきか判断する上で、非常に重要な情報となります。
NPVとの違い
IRRとよく似た場面で使われる指標に、NPV(正味現在価値Net Present Value)があります。どちらも投資判断に欠かせない指標ですが、それぞれ見ている側面が異なります。
IRR(内部収益率):投資の「効率性(利回り)」をパーセンテージ(%)で示します。
NPV(正味現在価値):投資によって将来生み出されるキャッシュ・フローの現在価値から、初期投資額を差し引いた「利益の絶対額」を金額(円)で示します。
NPVは「結局、この投資でいくら儲かるのか?」を金額で示してくれるのに対し、IRRは「その投資は年利何%で運用するのと同じか?」という効率性を示します。どちらか一方だけではなく、両方の指標を組み合わせて多角的に評価することが、より良い投資判断につながります。
指標 | 意味合い | 単位 | 特徴 |
---|---|---|---|
IRR | 投資の効率性(利回り) | % |
|
NPV | 投資が生み出すキャッシュ・フローの現在価値 | 円 |
|
IRRの計算方法
ここでは、IRRを実際にどのように計算するのかを見ていきましょう。計算式そのものは少し複雑ですが、Excelを使えば簡単に求めることができます。
IRRの計算式
IRRは、以下の数式を満たす割引率(r)として定義されます。
- C0 : 初期投資額(通常マイナスの値)
- C1, C2, …, Cn1 : 年後、2年後、…、n年後のキャッシュ・フロー
- r : 内部収益率(IRR)
- n : 投資期間
この数式は、「将来得られるキャッシュ・フローの現在価値の合計」から「初期投資額」を引いたもの、つまりNPVがゼロになる割引率rを求める、という意味です。
例えば、最初に100万円投資し(C0 = -100万円)、1年後に30万円、2年後に40万円、3年後に50万円のキャッシュ・フローが得られるプロジェクトを考えてみましょう。
この方程式を満たすrを求める必要があります。手計算で解くのは難易度が高いですが、考え方としてはこのようになります。
Excelでの計算方法
複雑な計算式に頭を悩ませる必要はありません。ExcelにはIRRを簡単に計算できる関数が用意されています。
=IRR(範囲, [推定値])
- 範囲:初期投資額と将来のキャッシュ・フローが含まれるセル範囲を指定します。(例:A1:A4)
注意点- 必ず最低1つの負の値(通常は初期投資額)と最低1つの正の値(キャッシュ・フロー)が含まれている必要があります。
- キャッシュ・フローの発生する順序が重要です。通常、時系列(0年目、1年目、2年目…)に沿ってセルを並べます。
- 推定値:IRRの計算結果の初期値として使用する数値です。省略可能で、通常は省略しても問題ありません。Excelは内部的に反復計算を行い、IRRを求めます。
Excelでの入力例
先の例で、セルA1に「-100」、A2に「30」、A3に「40」、A4に「50」と入力されている場合、空いているセルに
=IRR(A1:A4)
と入力してEnterキーを押せば、IRRが計算されます。(この例では約14.3%となります)
Excel以外にも、Google スプレッドシートにも同様の IRR 関数があります。また、高機能な財務計算機能を持つ電卓(金融電卓)や、専門的な財務分析ソフトウェアなどでもIRRを計算することが可能です。ご自身の業務環境に合わせて使いやすいツールを選びましょう。
IRRのメリット・デメリット
IRRは便利な指標ですが、万能ではありません。メリットとデメリットを理解した上で活用することが大切です。
メリット
- 直感的に理解しやすい:IRRは「利回り」をパーセンテージで示すため、投資の収益性を直感的に把握しやすいのが大きなメリットです。「この投資は年利10%くらいのリターンが見込めるんだな」というように、他の金融商品の利回りなどと比較しやすい点も魅力です。
- 投資効率の比較が容易:規模が異なる複数の投資案件があった場合でも、IRRを使えばそれぞれの「効率性」を同じ土俵で比較することができます。例えば、初期投資額が1億円の案件と1千万円の案件でも、IRRが高ければ効率の良い投資だと判断できます。
- 割引率の設定が不要:NPVを計算するには、まず「割引率」を自分で設定する必要がありますが、IRRはその割引率自体を求める指標なので、事前に割引率を決める必要がありません。(ただし、算出したIRRを評価する際には、ハードルレートと呼ばれる基準値との比較が必要になります。)
デメリット
- 複数解または解なしの可能性:プロジェクト期間中に、キャッシュ・フローがプラスになったり、マイナスになったりするような非定型的なキャッシュ・フローパターン(例:初期投資→プラスCF→追加投資→プラスCF)の場合、IRRが複数存在したり、あるいはIRRが存在しないケースがあります。このような場合は、IRRだけでの判断は難しくなります。
- キャッシュ・フローの再投資に関する仮定:IRRの計算は、プロジェクト期間中に得られたキャッシュ・フローが、そのプロジェクト自身のIRRと同じ利回りで再投資される、という暗黙の仮定に基づいています。しかし、現実には得られたキャッシュ・フローをそれほど高い利回りで常に再投資できるとは限りません。この仮定が非現実的な場合、IRRが示す収益性を過大評価してしまう可能性があります。
- プロジェクト規模を考慮しない:IRRはあくまで「効率性」の指標であり、投資によって得られる利益の「絶対額」を示すものではありません。例えば、IRRが30%の100万円の投資と、IRRが20%の1億円の投資があった場合、効率性では前者が優れていますが、企業全体の利益貢献度で考えれば後者の方が大きい可能性があります。NPVと併用して判断することが重要です。
IRRの活用方法
IRRは、様々な投資判断の場面で活用されています。ここでは具体的な活用シーンを見ていきましょう。
不動産投資
不動産投資では、物件購入価格(初期投資)に対して、将来得られる家賃収入や売却益(キャッシュ・フロー)からIRRを計算し、投資の採算性を評価します。他の金融商品や、別の不動産物件との比較検討に用いられます。
株式投資
個別の株式投資で厳密なIRRを計算することは難しいですが、考え方としては応用できます。例えば、投資ファンドやプライベートエクイティなどは、投資先の企業価値向上を通じて将来の売却益(キャピタルゲイン)や配当収入を見込み、その投資全体のIRRを重要なパフォーマンス指標としています。
プロジェクト投資
企業が新しい設備を導入したり、新製品を開発したりする際の設備投資や研究開発投資の判断にもIRRが活用されます。複数のプロジェクト案がある場合に、IRRを比較して優先順位をつけたり、投資実行の可否を判断したりします。
M&A
M&A(企業の合併・買収)においてもIRRは重要な役割を果たします。買収対象企業の買収価格(初期投資)に対して、買収後に期待されるシナジー効果を含めたキャッシュ・フローを見積もり、IRRを算出します。このIRRが、自社の要求する収益率(ハードルレート)を上回るかどうかが、買収実行の判断基準の一つとなります。また、複数の買収候補がいる場合に、それぞれの案件のIRRを比較検討することもあります。
IRRを活用する上での注意点
IRRを効果的に使うためには、いくつか注意すべき点があります。
キャッシュ・フローの正確性
IRRの計算結果は、入力するキャッシュ・フロー予測の精度に大きく依存します。将来のキャッシュ・フロー予測には不確実性が伴うため、楽観的・悲観的ないくつかのシナリオを想定し、それぞれのケースでIRRがどのように変化するかを分析する(感度分析)ことが望ましいです。予測の前提条件を明確にし、その妥当性を慎重に検討する必要があります。
割引率の重要性
IRRはそれ自体が割引率ですが、算出したIRRを評価するためには、比較対象となるハードルレート(Hurdle Rate)が重要になります。ハードルレートとは、企業が投資を実行する際に最低限必要と考える収益率のことで、通常は企業の資本コスト(WACC加重平均資本コスト)などを参考に設定されます。
算出されたIRR > ハードルレート
であれば、その投資は要求されるリターンを上回っており、実行する価値があると判断できます。逆にIRRがハードルレートを下回る場合は、投資を見送るべき、という判断になります。
他の指標との併用
前述の通り、IRRにはデメリットも存在します。特に、プロジェクトの規模を考慮しない点や、非定型キャッシュ・フローの場合の問題点などがあるため、IRRだけで投資判断を行うのは危険です。
NPV(正味現在価値)は、投資が生み出す価値の絶対額を示すため、IRRと補完関係にあります。回収期間法(Payback Period)や収益性指数(PIProfitability Index)など、他の投資評価指標も併用し、多角的な視点から総合的に判断することが、より確かな意思決定につながります。
IRRを理解して投資判断に活かそう
この記事では、IRR(内部収益率)について、その意味、計算方法、メリット・デメリット、そしてM&Aなどでの活用方法と注意点を解説してきました。
IRRは、投資の「効率性」をパーセンテージで示してくれる、直感的で分かりやすい指標です。特に、複数の投資案件を比較検討する際や、M&Aのように大きな投資判断を行う場面で、その収益性を評価するための重要なツールとなります。Excelを使えば比較的簡単に計算できる点も実務的です。
ただし、IRRが万能ではないことも忘れてはいけません。キャッシュ・フロー予測の精度が結果を左右すること、特定の条件下ではうまく機能しない可能性があること、そして投資の規模を考慮しないことなどの限界も理解しておく必要があります。
M&Aや重要な投資プロジェクトに携わる皆様にとって、IRRは力強い味方になる可能性を秘めています。しかし、その力を最大限に引き出すためには、IRRの特性をよく理解し、NPVなどの他の指標と組み合わせて、慎重かつ総合的に判断することが不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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