- 作成日 : 2025年9月9日
企業価値・株式価値・事業価値とは?違いと計算方法を解説
M&Aや投資判断において、企業価値、株式価値、事業価値という3つの概念を正しく理解することは極めて重要です。これらの価値は密接に関連していますが、それぞれ異なる意味を持ち、算出方法も違います。この記事では、これらの価値概念の違いと具体的な計算方法について、分かりやすく解説します。
目次
企業価値とは?
企業価値(Enterprise Value:EV)とは、企業全体の経済的価値を表す指標です。
企業価値は、本来、株主・債権者(債務者)・少数株主などの投資家含む出資者に帰属する価値とされ、本業に対する金銭的請求権の総額と理解されます。つまり、その企業を丸ごと買収する際に必要となる理論上の金額と考えることができます。
理論上(完全市場前提)では資本構成に左右されませんが、現実では負債コストや税制・倒産リスクがWACCに影響し、企業価値にも資本構成の影響が現れる場合が多いといえます。同じ事業を営む企業であっても、借入金が多い企業と少ない企業では株式価値は異なりますが、企業価値は同じになります。これにより、資本構成の違いを排除した純粋な事業の価値比較が可能になります。
また、企業価値は事業価値と非事業価値の合計として表現されることもあります。事業価値は本業から生み出される価値、非事業価値は余剰現金や投資有価証券など、本業以外の資産から生み出される価値です。
株式価値とは?
株式価値(Equity Value)とは、株主に帰属する企業の価値を指します。
株式価値は、企業の時価総額と同義で使われることが多く、発行済株式数に株価を乗じて算出されます。これは株主の持分価値を表しており、企業が清算された場合に株主が受け取ることができる理論上の金額です。
株式価値の重要な特徴は、企業の資本構成に大きく影響される点です。借入金が多い企業ほど、同じ企業価値であっても株式価値は小さくなります。これは、借入金の返済義務が株主への分配に優先するためです。
上場企業の場合、株式価値は市場で日々変動する株価によって決定されます。一方、非上場企業の場合は、様々な評価手法を用いて株式価値を算定する必要があります。
事業価値とは?
事業価値(Operating Value)とは、企業の本業から生み出される価値を表します。
事業価値は、企業が継続的に行っている事業活動から将来にわたって創出されるキャッシュ・フローの現在価値として算定されます。製造業であれば製品の製造・販売、サービス業であればサービスの提供といった、企業の中核となる事業活動から生まれる価値です。
事業価値の算定では、余剰現金や投資有価証券、遊休不動産など、本業以外の資産は除外して考えます。これにより、純粋に事業活動から生み出される価値を把握することができます。
事業価値は企業の競争力や将来性を評価する上で重要な指標となります。特にM&Aにおいては、買収対象企業の本業の価値を正確に把握するために、事業価値の算定が不可欠です。
企業価値、株式価値、事業価値の違いと関係
これら3つの価値概念は以下の関係式で表すことができます。
株式価値 = 企業価値 – 純有利子負債
より詳細に表現すると: 株式価値 = 事業価値 + 非事業価値 – 純有利子負債
この関係式から分かるように、企業価値は最も包括的な価値概念であり、事業価値と非事業価値を合計したものです。一方、株式価値は企業価値から純有利子負債を差し引いた、株主に帰属する部分の価値となります。
価値概念 | 対象範囲 | 特徴 |
---|---|---|
企業価値 | 企業全体 | 理論上は資本構成に影響されないが、実際は資本構成の影響を受ける |
事業価値 | 本業のみ | 事業活動から生まれる価値 |
株式価値 | 株主持分 | 資本構成に大きく影響される |
これらの違いを理解することで、企業の真の価値を多角的に評価することが可能になります。例えば、借入金の多い企業の株式価値が低くても、事業価値や企業価値が高ければ、優良な投資対象となる可能性があります。
企業価値、株式価値、事業価値の計算方法
株式価値の計算方法
【上場企業の場合】
【非上場企業の場合】
DCF法(Discounted Cash Flow法)、類似会社比較法、純資産法などの評価手法を用いて算定します。
企業価値の計算方法
【基本的な計算式】
より正確には: 企業価値 = 株式価値 + 純有利子負債 + 非支配株主持分 – 現金及び現金同等物
【DCF法による算定】
企業価値は、将来のフリー・キャッシュ・フローを加重平均資本コスト(WACC)で割り引いて算定することも可能です。
事業価値の計算方法
【DCF法による算定】
【事業価値から企業価値への変換】
計算例
- 株式価値:1,000億円
- 有利子負債:300億円
- 余剰現金:100億円
- 投資有価証券(非事業用資産):50億円
- 企業価値 = 1,000 + 300 – 100 = 1,200億円
- 事業価値 = 1,200 – 50 = 1,150億円
企業価値、株式価値、事業価値を理解し投資に活用しよう
企業価値、株式価値、事業価値を正しく理解し活用することで、より適切な投資判断やM&A意思決定が可能になります。
これらの価値概念は、それぞれ異なる視点から企業を評価するツールです。株式価値は株主の視点、企業価値は企業全体を買収する視点、事業価値は本業の競争力を評価する視点を提供します。
M&Aにおいては、買収価格の妥当性を判断するために、これら3つの価値を総合的に分析することが重要です。また、企業の財務戦略や資本政策を検討する際にも、これらの価値概念の理解は不可欠といえるでしょう。
適切な価値評価を行うためには、使用する評価手法の特徴と限界を理解し、複数の手法を組み合わせて総合的に判断することが求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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