ごくごくリアルな経理担当者のお悩みにフォーカスする、前田康二郎さんの連載。第4回のテーマは、ずばり「不正」です。
不正に気づいてしまった経理担当者は、そのことでかえって難しい立場に立たされることがあります。この状況をどう切り抜けるか。前田さんならではの、「リアル」な回答をお届けします。
【連載一覧】
「わたし、このままでいいんでしょうか?」前田先生に聞く経理の現在地、そして将来のこと ~経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対する不安や悩みにお答えします~
「給料が上がりません」。~前田先生に聴く・経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対するお悩み相談Vol.2~
「スタッフが辞めてしまいます」。~前田先生に聴く・経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対するお悩み相談Vol.3~

『デキる上司がデキる部下を潰してしまう。はなぜ起こるのか?』クロスメディア・パブリッシング
前田康二郎 著
目次
今回の相談内容:社長が信頼している役員が、経費の不正をしているのを発見してしまいました。
社長が信頼している役員が、経費の不正をしているのを発見してしまいました。しかし私は一般社員なので、この会社での将来を考えると、上司や社長に報告すべきか悩んでいます。
見つけてしまって一番対処に困る不正は、目上の人で、かつ社長が信頼している人の不正
これは「経理あるある」ですね。あるあると言うと怒られてしまうでしょうか。
私の知り合いのコンサルタントは、取引先の社員から「常務と専務が二人して社長を裏切って経費の不正をしているのですが、社員は皆それを知っているのに、上部や専務からの報復が怖くて社長にそのことを誰も言えずに困っている」と相談されたことがあるそうです。
たとえば一般社員が不正をしていることが判明した場合、多くの会社は次のようなプロセスを経ることと思います。
- 現場から「不正をしている社員がいる」という情報が社長や経理などにもたらされる、あるいは一般社員から申請されたものの中から経理が不正を発見する。
- 社長や経理責任者などから該当社員の直属の上司に連絡をし、上司から該当社員に事実確認をしてもらう。
- 該当社員が事実を認めた場合、その処遇は直属の上司、経理、人事、社長や役員などが協議して決定する。
しかし、不正の該当者が一般社員でなく、役員や社長が信頼している人物だった場合は、状況が異なることもあります。なかにはこのようなケースに至ることもしばしばあります。
- 現場から「不正をしている社員がいる」という情報が社長や経理などにもたらされる、あるいは一般社員から申請されたものの中から経理が不正を発見する。
- 社長が該当役員に直接連絡をし、事実確認を行う。
- 該当役員が認めた場合でも、社長が厳重注意をする程度でそれ以上のお咎めはなし。もしくは役員が否定し、それを社長が受け入れてしまう。
- 不正をしていると指摘された役員が、通報した社員を探し出そうとしたり、経理担当者にハラスメント行為を行ったりするようになり、社長に訴えても改善されず、会社の対応に失望した通報者や経理責任者が退職。現場社員たちもその経緯に失望し、モラルのある社員は去り、職場は無法状態に。
これまで多くの会社で経理の採用面談の立ち合いの仕事もしてきました。そのなかで、事前に職務経歴書の資料を拝読して優秀だなと思える方がおり、なぜ今回転職を志望されたのかと質問をすると、「実は、役員の不正を指摘したら逆に立場が悪くなった」「実は、中途採用で入社をしたら不正処理をしていることにすぐ気がついて社長に進言したら、そのまま続けるようにと言われ、すぐ退職を決意した」というケースも1件や2件ではありませんでした。
「優秀な経理が明確な理由を周囲に伝えることなく会社を辞める」ケースというのは、親しい同僚にも言えない、それなりの理由があるわけです。その「それなりの理由」の一つが、こういった不正に関する案件です。
自分の身を守りつつ、不正をやめてもらう方法はあるのか
経理に限らず、多くの会社員の方たちも、不正を発見して社内通報制度を利用したら逆に立場が悪くなり会社に居づらくなった、というケースがあるように、理屈通りにいかない側面があります。だからといって、そのような不正の状態を放置できるような人であっては経理担当者としてふさわしくありません。それではどうしたらいいのでしょうか。
このような場合、私でしたら「自分の身を守りながら、今後の不正はさせない」という現実的な手段を選択します。
まずは、不正が起きる「環境」について考えてみましょう。
役員や管理職が一般社員よりも不正ができやすい環境にある理由、それは「自分で自分の最終決裁ができてしまう裁量範囲や金額範囲がある」ケースです。たとえば経費精算であれば、管理職や役員は、一定の金額以内であれば自分で申請して自分で承認する、というルールの会社も現にあります。
それはつまり「不正をするような人間でないはずだから役員や管理職の地位に抜擢している」という前提があるので業務負担も考慮してそうしているのですが、残念ながらそのようなケースで不正の案件が多く発生します。
つまり「ダブルチェック体制がない状態」ということです。支払請求書に関しても同様です。
キックバックなどの不正が起こるのも、たとえば100万円以上の支払請求書は社長決裁、50万円以上100万円未満の支払請求書は役員決裁、50万円未満の支払請求書は管理職決裁、という職務権限規程のある会社では、役員の立場で不正を行う人は50万円から100万円未満の金額の範囲内の支払請求書を利用して自分で発注申請し自分で決裁をしてキックバック行為を行い、管理職は50万円未満の金額の請求書を利用して同様にキックバックを行います。
個人の不正でいきなり1000万円以上といった支払請求書でキックバックをたくらむ人はいません。なぜならそれだけ大きな金額であれば、多くの社員が関わっている案件ですから、承認決裁も社内の部署をいくつもまたいで数人の承認が必要になることもあるでしょうし、会社によっては取締役会の決裁を経るケースもあります。
不正というのは「人の目につきにくいところから始まる」のが基本ですので、「自分で申請して自分で決裁し、あとは経理が処理して終わり」という環境が、最も不正行為の誘惑にかられる環境なのです。
告発の代わりに「新たなルールの提案」で、自分の身を守りつつ、未来の不正を撲滅する
では実際にどのように「自分の身を守りながら、不正をやめてもらう」かというと、告発の代わりに「物理的に今後不正を起こさせない新たなルールを社長に提案し、決裁してもらう」ことです。そうすれば経理の皆さんがわざわざ「〇〇さんが不正をしています」と言う必要もなく、今後の不正を止めることができます。言い換えれば、「不正ができない環境を作る」ということです。
具体的には、たとえば「ダブルチェック体制が漏れている箇所にダブルチェックのルールを設定する」という提案です。管理職が自分で申請し、自分でそれまで承認していたものを役員決裁にする。役員が自分で申請し自分で決裁できていたものを社長決裁にしてもらうという形にすることなどです。
ではどのように社長に提案し、納得していただくかといえば、一つはニュースになった他社の不正事例を数社分集めて、それとワンセットで提案することです。ニュースで取り上げられる多くの不正は「一人担当者」で「皆からの信頼が絶大だった」人が行っています。
たとえば私でしたら、「一般論として、社長が最も信頼している人のなかで、かつダブルチェック体制になっていないところから不正は生まれやすい、という傾向が高いようです。今後、当社が成長するにつれて、いろいろな方が外部からも新たに来られると思いますので、ここで一度ルールを明確に作ったらいかがでしょうか。
もし不正が発覚して世間に知れ渡ったら、今の時代はSNSですぐ拡散されてしまいますので」と、社長にご提案すると思います。
そして、私が経理管理職もしくは経理担当役員の立場でしたら、社長に提案として「ダブルチェック体制によって、コスト管理もより強固になると思いますので、騙されたと思って1年だけとりあえずやっていただけませんか。それで実際に数字の統計を取らせてください」とご提案すると思います。そうすれば、実際に不正ができなくなる分、コストが減り、利益が改善され、社長も納得されるはずです。そして不正も防ぐことができます。もし皆さんが一般経理社員の立場でしたら、経理部長や経理担当役員にその旨ご提案するのも良いと思います。
また、別のアプローチとしては、総務人事の担当者と連携してWEB上で管理できるスケジュール表を導入し、そこに必ず訪問先や接待案件などを書き込むようにしてもらうことです。
不正をする人は透明化されたところが苦手ですので、全員がお互いにスケジュールを見られる環境を作っておくことだけでも、架空の接待申請や出張申請をしにくくなります。こうした提案をすると「会社の機密事項に関わることを自分はしているから、他の社員に予定を知られたくない」「自分の個人的な人脈も使って営業したり接待したりしているからそれを皆に知られたくない」、だから登録したくない、という人が出てきます。
その場合は、出張申請や接待申請、経費申請などの承認ルートに連なっている承認予定者の人たちだけに、フルオープンにする形でもいいと思います。そして総務や経理は、「各種申請で気になるものがあれば、勤怠簿や領収書の日付とスケジュール表を見て、それが事実としてあるか確認をする場合もあります」というようにアナウンスするのも一つです。
そうすることで「そこまで見られているのだったら、嘘の出張申請や経費申請はこの会社ではできないな」と思っていただくことができます。
経理は「不正を予防する部署」
経理は「不正を発見・告発する部署」だと思われがちですが、本質的には「不正を予防する部署」ということだと思います。
実際はどれだけそのように努力をしても、不正をする人はそれらをかいくぐってしてくるわけですから不正が絶対に0になるとは限りません。しかし、「予防」という視点に立って、さまざまな施策を行えば、不正の誘惑にかられがちな人が犯罪行為に走ることは防げます。
私たちは過去には戻れませんが、未来はいくらでも自分たちで変えようがあります。その発想で、過去の不正は社長に最終判断していただき、未来の不正を防ぐということを経理は中心に活動していただくことで、現場や社長からも「頼りになるモラルのある経理社員」として認識、信頼していただけることと思います。
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