街の喧騒から一歩離れた、静かな路地裏にあるコーヒースタンド。ここでは、経理の悩みを抱えた人々が、店長であり経理のプロである杉浦に相談を持ちかける。今日もその評判を聞きつけた2人の経理担当者が、解決策を求めて訪れた。
このままでいいの?若手がぶつかるキャリアの葛藤
訪れたのは、新人のAさんと経理3年目のBさん。
やや緊張している2人を杉浦が温かい笑顔で迎える。
「いらっしゃいませ。本日のおすすめはハウスブレンドの『春こち』です、お持ちしてよろしいですか?」
「お願いします。」とBさん。
2人の緊張した面持ちは、コーヒーの香りと杉浦の笑顔でいくらか和らいだように見える。
コーヒーを手にしたAさんが勇気を出して口を開いた。
「実は…僕はまだ入社したばかりなんですが、“できる経理社員”になりたくて。日々どんな心構えでいればいいか、教えてほしいんです。」
Bさんも続けて、自身の悩みを打ち明ける。
「私はもう3年目になるのですが、キャリアに悩んでいて…。今の会社でこのまま仕訳をし続けるだけでいいのかなと…転職も視野に入れています。」
杉浦は2人の話にうなずき、ゆっくりと話し始めた。
ロジックが鍵?!日々の心構えと上司への質問術
「最初に僕が大切にしていた基本の心構えをお話させてください。きっとおふたりに役立つはずです。」
「まずは、経理の基礎となる簿記のルールをしっかり頭に入れることが大切です。これは、単に教科書を暗記するのではなく、何よりも自分の頭で常に考えるということです。たとえば、日常生活の中で『これはどんな仕訳になっているのか』と考えてみるんです。僕はよく、電車に乗っているときや何かのサービスを受けているときにも、すべての仕訳を考えてみて家に帰ってから正解を調べる、ということをしていました。」
「それはすごいですね!」
Aさんはメモを取りながら真剣に聞き入っている。
「経理は単なる計算ではなく、論理です。帳簿がどういうロジックで成り立っているかを理解することが重要なんです。どんなビジネスモデルに基づいているのか、ロジックを理解できれば、迷わず仕訳を切れるようになりますよ。」
「迷わず仕訳できるようになりたいです!僕はいつも分からなくて上司に聞いてばかりなので…。」
Aさんは恥ずかしそうに呟いた。
「実は、上司への聞き方にもポイントがあるんですよ。分からないことがあったら、そのまま上司に聞くのではなく、まずは自分で仕訳を切ってみることが大切です。まずは自分で判断するようにしてみましょう。」
「確かに、自分で判断する癖をつけることは大切ですよね。」
Bさんもうなずきながら聞いている。
「Bさんくらいの年次になったら、新しいビジネスが立ち上がったときには積極的に手を挙げるのがオススメです。新しいビジネスが起きると、次の締日までに仕訳の切り方を決定するプロジェクトのような動きがあったりします。ここを経験しておくと、会社が変わっても通用するはずですよ。」
「自分で仕訳のルールを作っていくんですね。」
「その通り。会社のマニュアル通りに仕訳や科目を覚えるだけでは、会社が変わったら通用しなくなってしまいます。どうしてその仕訳になっているのかをロジックで理解することが大切なんです。」
「やってみます!」
Bさんは決意の表情で宣言した。
大切なのは、数字の背後にあるストーリー
「もうひとつ大事なことがあって…予測と分析の話をしましょう。」
杉浦は空になった2人のカップにコーヒーを注ぎながら話を続けた。
「キャッシュフローを理解すると、予測を立てられるようになります。たとえば、キャッシュが少なくなるタイミングや、いつまでに資金調達が必要かを予測できれば、会社の経営に直接役立てられます。繁忙期なんかの売上予測ができれば、それに基づいて予算作成もできますよね。」
「なるほど。そういうのは上司が決めるものだと思ってました…。自分で考えることが大切ですね。」
「そうです、ぜひ予測してみてください。もし予測していた数字と違うな、と思ったら、どこかにミスが隠れているかもしれません。予測することでミスも発見しやすくなりますよ。」
2人がメモするのを待って、杉浦は続ける。
「日頃から予測していれば、経営陣からの質問にも、銀行からの質問にも、すぐその場で答えられるようになります。自社の数字だけでなく、マーケットの動向も踏まえて話せると“できる経理社員”になれますよ。」
「でも、そんなに深く考えられるかな…。」
Bさんが不安そうに呟いた。
「大丈夫、まずは『なぜ?』を深掘りすることから始めてみましょう。たとえば、経費精算ひとつにしても、何か気になるポイントがあれば、なぜそのような数字になっているのか背景を分析してみるんです。あくまで一例ですが、部署によって交際費に極端な差があるとします。会議費は部長承認が不要で、交際費になると部長承認が必要というのはよくあるルールなのですが、そこから考えてみると、『交際費が少なくて会議費が多い部署は、もしかしたら部長が話しにくい人なのかも?』という分析ができたりします。」
「確かに…ありそうな話ですね。」
「こうやって深掘りしてみるとおもしろいですよね!分析することで数字の背後にあるストーリーが見えてくれば、経理業務はもっと楽しくなります。帳簿をただの数字として見るのではなく、背後にあるストーリーを読み取ることが大事なんです。」
「ストーリーがわかれば、ミスも見分けやすくなります。たとえば、前年比200%という数値があった場合、ただの数字としてしか見ていないと、それが仕訳ミスなのか純粋な事業の伸びなのか区別がつきません。でもストーリーを理解していれば、素早くミスに気づくことができるので、結果的に業務の効率も上がります。」
価値を高める!キャリアアップへの新たな視点
「数字ではなく、ストーリー…。そうやって考えれば、今の業務で私がやれることはまだまだあるのかもしれません。」
Bさんは少し考えてからそう言った。
「そうですね…仕訳を切るだけなら誰でもできるので、ただの経理からどこに進むのかを考えてみるといいでしょう。たとえば税務方面を詳しく勉強してみるのもいいし、経営の方に寄ってみるのもアリです。僕の場合は、どうやって事業を伸ばしていくかという方向で突き詰めていきました。」
「たとえば経理業務の中で、ミスを減らす仕組みを考えたとしたら、それは業務改善やコストカットの提案ができるという一つのスキルです。ワークフローを作成したのなら、それはバックオフィスの仕組み作りができるというスキルなんです。そうやって自分の価値を高めていけば、給料を上げやすくなるし転職するときのアピールポイントにだってなりますよ。仕訳を切るだけが経理じゃありませんからね。」
「その通りですね!私は仕訳だけに集中しすぎてマンネリを感じていたんだと思います。」
Bさんの表情は晴れやかだった。
「僕も最初は、過去の数字を振り返るだけの経理がつまらないと思っていました。でも、過去と現在を理解していないと、未来のことは考えられないんです。今はCFOという立場ですが、“仮説を立ててやってみること”が大切なCFOは、“根拠を持って決めること”が大切な経理とは正反対のように思えます。でも、両方やってみると楽しいですね。」
「杉浦さんはCFOとしてどんなことを大切にしていますか?」
Bさんが興味深そうに尋ねる。
「『事業の解像度を高めること』をとにかく大切にしています。必ずすべての現場に足を運んで、コーヒー器具も全部自分で使ってみます。一つひとつが数字をつくるストーリーになっていますからね。」
杉浦は力を込めて続けた。
「経理は本当におもしろい世界です!まだ足を踏み入れたばかりのおふたりに、今日このお話ができて良かったです。どんどん自分の価値を高めていって、ぜひビジネスを動かしていく存在になってくださいね。」
「はい、経理という仕事に新たな魅力を感じることができました!」
若い2人は、これからのキャリアに対する新たな可能性に胸を踊らせながら、コーヒースタンドを後にしたのだった。
新しい季節のはじまりに
2人が頼んだ「本日のおすすめ」はこちらのコーヒー。
「ハウスブレンド 春こち2024」
それぞれ異なった花やかさを持つルワンダ、エチオピア、エルサルバドルの3種をバランス良くブレンド。
花やかな香りとデコポンや煮詰めたベリーのフルーツ感、紅茶のように上品な味わい、そして焦がしキャラメルのような甘みと余韻を楽しめます。
暖かな春の陽気と、芽吹く植物たちをイメージした「春こち」を、朝の一杯にいかがでしょうか。
メニューボードを眺めていた杉浦は、ふと思いついてチョークを手に取った。
\ 新たな一歩を踏み出すあなたを、優しく後押ししてくれます /
先ほど訪れた客を思い、そっと書き足したのだった。
■杉浦大貴(スギウラマサタカ)のプロフィール
立教大学在学中、下町のカフェを中心としたコミュニティで過ごし、コーヒーの持つ多彩な魅力を知る。
卒業後は一部上場企業経理部を経て、マネーフォワードに入社。
2019年8月から京都に移住し、プロダクトマネージャーとしてクラウド会計Plusの立ち上げより関わる。
会計PlusはIPO市場を中心にPMFを達成。0→1、1→10のプロダクト成長フェーズを経験する。
大学時代よりコーヒーが好きであり続けたことからKOHIIに興味を持ち、2022年9月よりプロダクトマネージャーを担当。
2023年7月から会計とプロダクトマネジメントの知見を活かして、合同会社KurasuのCFOとしてジョインする。
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