インボイス制度開始後の課題と解決③

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インボイス制度開始後の課題として今回3回目の記事となります。

今回は、インボイス制度に対応した自社内の業務の非効率といった課題とは少し視点を変え、取引先との関係という課題について考えてみたいと思います。

なお、以下、本記事について、取引額は消費税込みの金額を前提として話を進めます。

取引先との関係における現状の自社対応

皆様の会社は、適格請求書発行事業者ではない仕入先や経費の支払先の会社等(本記事において、以下取引先とします)との取引について、どう対応して現在に至っていますでしょうか。

まず前提として、インボイス制度開始後は、取引先が適格請求書発行事業者ではなかった場合、それら取引先から受け取る請求書や領収書は適格請求書にはなりえないため、受け取った会社等はそれら費用の消費税額を原則として仕入税額控除することができなくなります。

ただし、インボイス制度施行当初は、経過措置が用意されており、制度開始後3年間は、請求された消費税の80%分は仕入税額控除とすることが認められるようになっています(さらに3年経過後は50%までとなり、段階的に控除額は少なくなります)。

多くの会社は、上記のような状況があると、インボイス制度開始前と同じ取引をしていたとしても、多少の損をすることになります(消費税の申告の際に消費税を多く納付することになります)。

そのため、費用を計上する会社側は同取引に対して、なんらかの対策を講じることが通常で、その対応方法はいくつかあると思います。

まず、容易に思いつくことが、取引先に適格請求書発行事業者に登録してもらうように交渉することです。

ただし、この交渉は当然に強制力をもつものではないですし、登録しないとしている会社に登録してもらうことは容易ではなく(登録すれば消費税を納付することになるため登録が必須ではない会社等にとっては税負担が増加するためです)、うまく交渉が進んでいない会社もあるのではないでしょうか。

または、登録の交渉は制度施行まで時間的猶予がなかったため、もしくは上記で紹介した経過措置があるため、とりあえず交渉をしなかったという会社や、自社の立場を考慮し交渉自体を諦めてしまっている会社も想定されます。

これら課題に対して、取引先との交渉材料を紹介したいと思います。

取引先との交渉におけるポイント

交渉のキーポイントとなる以下の3つを紹介します。

    1. 1. 適格請求書発行事業者として登録することによる会社(取引先)の信頼の増加

 

    1. 2. 新規営業といった他社との競争の際、未登録会社と比較した場合の優位性

 

    3. 納税負担増加の軽減制度がある(100%税負担が増加するものではない)

取引先が適格請求書発行事業者に登録をしないことの要因は、やはり登録するデメリットを感じていることが大きな一因と想定されます。

もしくは、自主的に登録をしていない取引先は、インボイスに対する適切な知識がないために登録していない可能性もあるかもしれません。

そのため、交渉においては、インボイス制度について詳細に認識されている皆様の会社が説明してあげることで取引先の適切な理解を促し、協力を仰ぐといった手法もあるのではないでしょうか。

取引先へのお伝えするポイントとして非常に簡単なものが1の信頼です。

商売は、人の気持ちも少なからず影響を受ける部分もあり、登録しているということが登録していない会社に比較して、信頼性の点で有利となることはよくあると思います。

また、継続取引においては、現状の取引価額をどうするかという議論になってしまいます。

取引先が新規営業を行い取引を増加させたいなどと考えている場合、新規営業にて競争関係がありその他の条件が同じ会社との競争においては、登録している会社とそうでない会社を比較するとやはり登録している会社の方が取引を獲得しやすくなるかもしれず、競争優位に働くかもしれません。

この点をお伝えし、登録に協力いただくということが2の内容です。簡単には、納税負担の増加はあるかもしれないが、事業拡大といったそれ以上の効果がある可能性とお話しすることです。

そして納税負担が増加するというマイナスのイメージからメリットもある、という意識や知識の転換を促し協力を仰ぐというのが1、2です。

次に、税負担の軽減策も法制度として用意されているという知識をお伝えすることで、取引先が適切な知識なく税負担の増加という点のみに着目し、登録に前向きではない意識の転換を促すというものが3です。

ここでいう税負担の軽減は、免税事業者が登録した場合に法制度として用意されている2割特例です。

簡単には、売上に係る消費税の2割だけを納付税額として計算できるというもので、なにも考慮せず納税する消費税額を計算した場合に比較して、大きく負担を減らすことができる可能性があるものです。

以上が、交渉の際の簡単な対応ポイントの紹介です。

インボイス制度は、多少複雑な要件や対応方法があるなど、すべての会社が適切な知識をもっているわけではありません。

単純にインボイス制度だから、として協力をお願いする、もしくは交渉する、というのではなく、皆様のような会社が少しご説明等してあげることで交渉がうまく進むこともあると思います。

ただし、交渉の方法には気を付けなければならない点もあります。

取引先と交渉する際の留意事項

取引先と交渉をする際、気を付けるべきは下請法違反とならないための注意です。本記事投稿時点においても、実際に下請法違反のような事案が新聞等でも紹介されており、他人事ではない点、お気を付けください。

具体的には、登録しないことを理由としてその取引先との取引の終了や、登録しないことによる本体価格への過度な税負担の転嫁(値引)、などです。前者はイメージしやすいですが、後者はいくつかのパターンがあります。

前述のように取引先は経過措置が認められているわけですから、税負担の転嫁として消費税10%全額を払わないことや、消費税10%全額相当を本体価格の値引きとすることなどは、過度なものとして下請法違反となるリスクがあります。

さらには、交渉によって適切な範囲内の税負担の協力(本体価格の値下げなど)を得られたとしても、その後取引先が適格請求書発行事業者に登録した場合に、税負担の協力を継続して強いることも下請法違反のリスクとなります。

交渉において、自社の利益だけを求めた対応は注意しましょう。

本記事は交渉のポイントについてメインに記載しましたが、必ず交渉しなければならないわけではなく、前述の経過措置をしっかり適用して対策をするという方針ももちろん想定されます。

ただし、無条件に経過措置が適用できるわけではなく、経過措置を適用するための要件があります。そのため、要件の内容を適切に理解し対応しなければ、経過措置が認められない可能性がある点、対応には注意が必要です。

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