インボイス制度対応書類の洗い出しと電帳法との関係

読了まで約 6

発行者側として、請求書以外に適格請求書要件を満たした対応をしなければならないものの検討は終っていますでしょうか。

インボイス制度対応として、請求書を適格請求書の要件を満たしたフォーマットにアップデートする、といったことはご認識の事だと思います。

では、請求書以外の書類についての対応は不要なのでしょうか。

答えは、請求書だけでは足りず請求書以外の書類についても適格請求書として求められる要件を検討しなければならない書類が複数ある、です。

今回、請求書以外の書類の種類やその種類の考え方などとそれら書類の制度対応の留意点概要とインボイス制度と電子帳簿保存法(以下、電帳法)との関係をご紹介したいと思います。

適格請求書の要件を満たす必要がある書類の種類

制度対応する書類の種類は、受け取った事業者が仕入税額控除をするためには何が必要か、ということを考えると導き出されます。一部の免除対象取引を除き、基本的に受け取った事業者が仕入税額控除をするためには、適格請求書もしくは適格請求書要件を備えた情報が必要になります。

そして、これまで仕入税額控除をする際の根拠証憑には受領した請求書以外もあったと思います。したがって、請求書だけではなく仕入税額控除をするためには適格請求書要件を“何らかの書類等で満たさなければならない”ということになります。

発行事業者に着目すると、販売に関して値引きをしてあげる際や返品精算する際に仕入先に連絡通知する場合の書類、仕入側であっても仕入割戻等を売上側に請求する場合の書類や仕入側から売上側に通常受領する請求書の代わりに連絡していた書類、そのほか都度請求書を発行することがない取引に係るもの、などがあります。

なお、一部の免除対象とは交付義務が免除される5項目が国税により公表されていますので別途ご確認ください(発行において交付義務が免除されるものであり、帳簿のみの保存で仕入税額控除の要件を満たす場合とは厳密には異なります)。

制度対応しなければならない書類の洗い出し方法

前項にて請求書以外にインボイス制度要件を検討しておかなければならない対象について一般的な例を紹介させていただきました。

では、具体的に皆さんの会社で対象書類をどのように洗い出すか、について一例を紹介させていただきます。

網羅的に対象を洗い出そうとする場合、まずは自社が取引先に発行している書類に何があるのかを洗い出してみるべきです。

発行している書類としましたが、洗い出しの際に発行していないが引き落としや振込で収益計上しているものがあれば合わせて抽出しておくことをおすすめします(後述でご説明します)。

その次に、洗い出した書類を受領した事業者がどのような用途として利用しているかを判断し、受領した事業者がその書類を仕入税額控除に利用しているか否かを考えます。

そこで仕入税額控除に利用している、もしくは利用していそうな根拠証憑になっているのであれば、その書類はインボイス制度対応しなければならない可能性があります。

また、洗い出し方法として商流や取引の種類が多くないのであれば、自社が収益を計上している取引において発行している書類から判断しても良いかもしれません。

値引きや返品などの対応

通常の取引に係る請求とは別に値引きを販売先に連絡している場合や返品自体は販売先が検収して連絡してくるものの返品の事実に応じた販売額のマイナス処理を販売側がしている場合には、それらに関連する書類において発行者側が適格返還請求書の要件を満たしてあげる必要があります。

適格返還請求書の基本的な要件としては、通常の適格請求書要件と同様ですが、通常の適格請求書と比べて異なる点もあります。要件のポイントと想定される点が、値引きや返品の対象となった基となる取引(課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容、と公表されています)を明記しなければならない、ということです。

従来、値引きや返品等の内容について取引者相互間で自明となっているものや暗黙の内容となって値引きや返品等に係る内容を直接の書類には明記していない場合は留意が必要となります。

請求書等を都度発行していない取引への対応

請求書など任意の書類を発行して取引先と請求内容に係る連絡をしている場合は、インボイス制度対応をしなければならないこととして認識し易いですが、請求書等を都度通知せずに決済している場合には、インボイス制度対応の取引として見落としてはなりません。

例えば、賃貸借契約に基づく毎月の賃料の精算やリース契約に係る毎月にリース料の受取などが該当する可能性があります。

これらの取引は、精算の都度、請求書等が発行されることはなく、当初の契約内容に基づいて定額を振り込む、引き落とす、といった取引が多く行われています。

このような場合についても適格請求書に求められる要件を何かしらかの方法で充足しなければなりません。簡単な対応方法は、当初取り交す契約書等に適格請求書に必要とされる要件を含めて締結しておくことです。

契約書で補完対応する場合は、制度施行直後においては、既存契約の取引は旧契約書をベースに取引を継続していることから、契約書を巻き直さずに対応しようとするのであれば適格請求書要件に必要な情報を別途取引先に通知するなどの対策も検討しなければなりません。

電子帳簿保存法との関係

インボイス制度が求める要件として見落としがちな制度要求事項の一つとして、“適格請求書発行事業者”に「交付した適格請求書の写し」の保存義務が法的に求められるようになったという点があります。

ここで「写し」とは交付した書類そのものを複写したものに限らず、適格請求書の記載内容が別途確認できる明細等でもかまいません。

従来、請求書を受け取った事業者がちゃんと保管しておけばいい、というような感覚があったかもしれませんが、発行事業者に保存義務が法的に明確に求められるようになった点に注意が必要です。

電帳法との関連性でいうと、控えの保存方法として、適格請求書の作成を自己が一貫して電子計算機を使用して作成したものについては、電帳法に基づき、電磁的記録による保存をもって適格請求書の控えとなる書類の保存に代えることができます。

よくある例で表現すると、請求書をシステムで作成している場合などに実際に作成された適格請求書自体の控えではなくシステム内で適格請求書作成元データを保存していればいい、というものです。もちろん、そのデータの保存に関しては電帳法要件を満たした方法が必要になります。

また、適格請求書をPDF等の電子取引として交付もしくは紙で交付し、その書類を保存する場合も電帳法に則った保存を検討しておくことも留意が必要です。

インボイス制度対応として適格請求書発行のフォーマットなどを検討する際に、是非発行者側の保管要件についもて合わせて検討することをおすすめします。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。