越境経理 ~経理から組織を変えていく~ 6.クリエイティブ部門に越境して月次の概念と経費の基準を伝える

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経理の当たり前は他部署の当たり前ではないこともある

経理のスキルを「越境して」各部門に伝えていくといっても、具体的に何をどうすればいいのかと思う方もいるかもしれません。

その人なりのやり方であれば、どのようなやり方でもいいと思いますが、「たとえば私だったらこう越境する」という一例を部署別にお伝えしていきたいと思います。

今回はクリエイター、デザイナーなどのクリエイティブ部門です。

「クリエイター」と「経理社員」というのは、仕事の習慣が一番遠い者同士のような気がします。私自身も会社員から独立して経理の仕事をしながら、並行して文章を書く仕事をしていますが、それぞれの仕事のアプローチの違いを改めて感じます。

経理の仕事は基本的に答えが一つしかないものが多いですが、文章をアウトプットする仕事はその答えが無限にあります。

経理は「今日はここからここまでやろう」と、仕事の区切りが明確にしやすく予定も立てやすいですが、文章は朝目が覚めたときにパッとアイデアがひらめくこともあれば、日中何時間真剣に考えても全くアイデアが浮かばないこともあります。

同じ「仕事」でも、働き方は全く違うのです。だからこそ経理の立場から見て「これくらい常識的なことだから事前に伝えなくてもわかっているだろう」ということでも、クリエイターの立場からすれば「それってそんなに大事なことだとは知りませんでした」ということもあるのだと思います。

経理にとって、大事なことは明確に事前に伝えておくことが後々大きなアクシデントにつながらない「予防」になります。そこでクリエイティブ部門で起こりやすい課題について考えてみたいと思います。

「年次」の概念はあっても、「月次」の概念はない人もいる

クリエイターの方達の中には、フリーランスとしてある程度実務経験をされた後に一般企業に入社した人や、小規模のクリエイティブ系の会社にいらっしゃった方が転職される場合もあります。

そのような方達は、経費精算や請求書の処理など基本的な経理作業は理解されていらっしゃいますが、1点気を付けていただきたいのは、「年次の概念があっても月次の概念がない」方が案外多いということです。その点を経理部門からお伝えしておく必要があります。

フリーランスの方は、基本的には日々使った領収書などを自分でストックしておいて、年に一度、ご自身で確定申告をするか、税理士に領収書の束を渡して確定申告の手続きをお願いしているので、領収書の重要性や、「1年に1回まとめて提出しなければいけない」という「年次」の概念に関しては認識されています。

しかし「月次」までは多くのフリーランスの方は意識しないことのほうが多いので、経理担当者から見て「〇〇さんは元フリーランスだし、お金のこともきちんと理解されているからフォローの必要はないだろう」と油断していると、月遅れで領収書や請求書が経理に届く、という可能性もあります。

クリエイターの方達は案件ベース、納期ベースの頭で動いている人が多いので、領収書の管理も、案件ごとに管理している人もいます。

そうすると、経理上は1日から31日までの月次の区切りで提出をお願いしたいのですが、現場の担当者は、A案件、B案件として領収書をストックしている人もいるので、「10月20日から11月15日まで」といったような月をまたいだ案件の場合、その領収書を、10月20日から10月31日までの分を10月の締めとして出すべきものをそうとは認識しておらず、11月にまとめて10月分の領収書も含めた経費精算が上がってくるということも起きることがあります。

部署を越境して現場の考え方や習慣を知れば、経理から月次決算の概念を伝えていないと、現場できちんと管理をしてくれていてもこのような齟齬が起こることもあるのだなとわかるのですが、そうでないと、単にルーズで出し忘れたのだろうと思ってしまいかねません。

現場からの出し忘れがあった場合は、「なぜそれが起こったのか」という理由を追っていくことも大切です。理由がわかれば、次回からは予防ができるからです。

このケースでしたら、たとえば「まだ稼働中の案件の領収書も、10月の日付でもらったものは、一旦11月5日までに経理に提出してください」と伝えれば、担当者も「わかりました」と理解して提出してくれると思います。

フリーランス同様、小規模な会社においても、月次決算をやらずに年次決算だけの会社も相当数ありますので、私の場合は「前職の会社は月次決算とかされている会社でしたか」と直接伺って、「何ですかそれ」と言われた場合は、月次の概念と経理ルールについてご説明しています。

仕事とプライベートの境界線があいまいな仕事は、経費と自腹の境界線も難しい

クリエイティブ部門の経費精算に関しては、意外な課題もあります。それは、「どこまでを経費として認めるか」という点です。

私が会社員時代に、入社したばかりのデザイン部門の社員が、食事と交通費以外全てではないかと思うほど、自分の1か月使った費用を全て経費精算として申請してきました。

雑誌、DVD、美術館の入場料、高級な文具一式など、他の部門の社員はもちろんのこと、デザイン部門の他の社員でもそこまで申請していないものを全て経費として申請してきました。

デザイン部の部長は承認して経理に回覧されているのですが、常識的にどうだろうと思い、念のため本人に確認したら「え、自分の創作のためですけど何が悪いんですか。部長も承認してますよね」と涼しい顔で答えました。

その後、経理部長が社長に確認をとったところ、やはりそれはおかしいということになり、承認してしまったデザイン部長を交え、経費精算が認められる範囲とその管理方法を細かく決めました。

後から聞いた話では、他の部門の部長からは「自分の部署は厳しく経費を管理しているのに、デザイン部はいろいろなものを経費で買って承認してしまうから、部下から『デザイン部はずるい』と言われていたので、きちんとルールを決めてもらってよかった」と言っていました。

一方で、デザイン部の部長は「確かに今回は自分も甘過ぎましたが、仕事の特性上、最新の資料や芸術を見るのも仕事の一環で大切なので、それを全て自腹でやりなさいと言われるとそれはそれで、つらいものがある」と言っていました。

それは確かにそうだなと思います。営業は交通費や会議費などが主で、経理は書籍以外ほとんど経費が必要なく仕事ができる職種ですから、職種によって経費の種類や発生の有無も千差万別だなと改めて思うのです。

経費というのは、会社が仕事上必要と認めれば認められるものですので、その分、承認する人の裁量の差が出ます。

特にクリエイティブ部門は、仕事とプライベートの境が非常に難しい仕事ですので、どこまでが経費でどこからは自腹なのかの線引きも難しくなる側面があります。

このようなことに関しても、経理の知見や経験を活かし、クリエイティブ部門も、そして他部門も納得する経費ルールの策定のサポートが越境をすることでできるのではないかと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。